地球ってどこが特別?――遠い星から地球を知る「固体惑星科学」

「宇宙の研究者ってこんなもんか」

 

――先生は高校生のころ、どんな風に過ごされていましたか?

 

高校生の時は本当にどうしようもない劣等生でした。最低偏差値が14とか……。

 

――えっ!?

 

周りの友達も30くらいだろうと思っていたので、統計的に偏差値50が真ん中と知った時はびっくりしました(笑)。宇宙のことは、なんとなく子どものころに面白いなって思っていて、色々な本を読んだり新聞記事を切り抜いたりしていました。でも中学生になると色気がでたりするじゃないですか。

 

そのころは科学とかオタクみたいに勉強するよりは、ちょっと大人の真似をしている方がカッコいいと思っていたんです。そうしたら、気づけば偏差値が30しかなくて、宇宙の研究なんてとんでもないし、自分の人生すらどうしようもなくなっていた。

 

親に大事に育てられて、将来は色々なことしてみたいと思い描いていたのに、途中でちょっと道を外れるともはや社会は受け入れてくれなくて。「お前なんかいらねえよ」って言われているようで、絶望の底に叩き落とされた気がしました。

 

でも高校3年のころに突然、「やっぱり自分の人生、何かしたい」って強烈に思ったのです。そういえば昔は宇宙に興味もっていたなあ、と思い出して近所の本屋に行ったんですね。そこで宇宙の本を開いてみたら、著者がみんな東大だったから、なんか分からないけど東大に行かないといけないのかなって。でも行きつけの麻雀屋で話したら、みんなに涙流して笑われましたよ(笑)。

 

でも自分なりに必死で勉強して、最初は一年浪人しても偏差値50になっただけだったのですが、バブルの時代であまり世の中もうるさいこと言わなかったのでもう一年浪人させてもらって、それで東大に入ったんです。その経験から思うと、高校生に世の中にこういう仕事があるって伝えるのは本当に大事だと思うんですね。

 

それに、高校生には人生を変えられる可能性がいくらでもあると思うのです。物理的に不可能なことなんかは別ですが、夢をもってそれに向かって頑張れば叶うと思うんです。ところが高校生くらいだと視野が狭いし、みんな同じようなものを見ているわけで、友達と話をしても何をしたらよいかわからない。

 

高校生のころの僕も、宇宙のことを知りたくて本屋に行ったら、天文とか星座の本とか「火星に人面岩が!」みたいなトンデモ話の本ばかりで、本当の科学はどういう世界なのか全く分からなかった。宇宙に関する興味深い話、真に人生をかけるべき仕事は実はいろんな種類のものがあって、だからこそ視野を広げるのは本当に大事だと思うのです。

 

 

――視野を広げる前に進路の選択を迫られて、「まだ自分のやりたいこと見つかってないのに……」という人も少なくないと思います。

 

進路の選択が早いか遅いかは別にして今の風潮として、全く主体的ではなくて自分で考えないで済んでしまうところは残念ですね。周りに言われるがまま、特に疑問も抱かずに標準的なところに落ち着こうとするのは勿体ない。就職が良いらしいから工学部に来たけど、就職か進学か自分では決められないなんて人も見受けられます。それで親のいう通り進学しても、今度は就職先は学科の専門に関連するところしかなくて幅が狭いと愕然としたり。

 

そうではなくて、社会は何を求めていて自分は何がしたいのか、自分の心の中から決めて、その方向に進めると良いと思います。物事の本質を見て自分の頭で考える。これは受験勉強では誰も教えてくれなくて、日常生活から学ぶことです。

 

それとやはり若いうちは多少の苦労をした方が得だと思います。自分の選んだ道なら失敗しても納得いくというか。誰かに言われた通りにして、失敗したら「あいつを信用したのに……」って恨むなんて、そんな人生寂しいですよね。

 

TeNQ(テンキュー)』を立ち上げたのも、ガラス張りの研究室でみんなに自分たちの恥ずかしい姿を見せるのが目的なんです。僕なんか全身ユニクロずくめの短パン・Tシャツで、だらしない格好でコーヒー飲みながらちくちくWeb見ている。「なんだ、宇宙の研究者ってこんなもんか」、「これなら俺でもできる」、そんな気持ちが若者に些細な勇気を与えるんじゃないかと思いました。僕の高校生のころの経験を踏まえて、やりたいことを最初から諦めてしまわないように何か手助けできないか、と考えてたどり着いた、僕なりの一つの回答です。

 

 

 

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TeNQリサーチセンター

 

 

「これをやりたい」という心が大事

 

――宇宙に関わる仕事に興味を持っている方へのメッセージをお願いします。また、これからはどんな分野が注目されるでしょうか。

 

これからは天体の探査がより活発になってきます。探査機の値段も安くなって、色々な星のデータが取りやすくなるでしょう。僕らもラボ内での分析や実験をやっていると、「もうすこし探査データがとれたらもっと科学が進むのにな」と思うことがあります。

 

天体の探査計画では、ロケットを作る人から探査装置を作る人、資金を集めてくる人、世の中の人々に支援してもらえるように説明する人まで、たくさんの人たちが集まってチームになります。同じように、宇宙の研究には色々な人が関わっていて、その中で自分が得意だと思うところをがんばる。全体としてその分野に自分ができる貢献をしていく、ということになります。

 

一つ言えるのは、例えば固体惑星科学を研究する場合、基礎物理とか地学の一分野に限られるんじゃないかと思われるひともいるかもしれませんが、それは間違っていて本当に色々な分野が関わっています。生命体に関わるなら生物学だし、火星に基地を作ろうとするなら土木工学、探査機作るなら機械工学とか電気工学。だから「これをやりたい」という心の方が大事で、そこに自分の専門性をどう生かしていくかという話なんです。

 

みんながみんな同じロケット作るのでは宇宙開発は進まないので、色々な背景を持つ人が集まってきて主体的に動いていくわけです。だから「私は○○学部卒だからこの宇宙なんてできない」とか、大学に入るときに全部決まるなんていうのは大きな間違いです。自分のやりたいという思いを大事にしてそこに突き進んでいけば、自然とその道の人が導いてくれたり、自分で気づくことも多いでしょう。そういう志をもって、一方で実力を磨く。この二つが必要だと思います。

 

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

 

 

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vol.276 

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