つぶつぶの漢字から、世界が広がっていく

漢文って、なんか古臭くて難しそう……。そう思っている高校生の方は多いのではないでしょうか。しかし、漢文学者の齋藤先生は、「自分を遠くに連れて行ってくれる一つの道具」と言います。今回の高校生のための教養入門は、つぶつぶの漢字から見える世界の魅力を存分に聞いてきました。(聞き手・構成/山本菜々子)

 

 

本を読んでいるか、山登りをしているか

 

―― 今日は、中国古典文学の研究をされている、齋藤希史先生にお話を伺います。なんと、2014年センター試験の現代文の問題は、齋藤先生の『漢文脈と近代日本』(日本放送出版協会)からの出題でしたね。先生は何がきっかけで中国文学に興味を持ったのでしょうか。

 

たまたま家にあった『新唐詩選』(岩波新書)を手にしたのがきっかけです。この本は、吉川幸次郎と三好達治の共著なのですが、当時、三好達治の詩が好きだったので、読んでみたんです。それまでは、漢文は得意なほうではあったのですが、教科書の内容はなんとなく古くさいもののように感じていました。

 

もちろんその古くささはそれでよかったのですが、ところがこの本を読んで、まったく違う世界が開けた感じがしました。一方で、夏目漱石が好きで、その全集が家にあって読んでいて、漢詩が多く目に入ったのも影響していますね。

 

 

―― 本を読むのが好きな高校生だったんですね。

 

そうですね。中学高校時代の私は、本を読んでいるか、山登りをしているか、山登りの計画を考えているか、といった感じで勉強はまあ……(笑)。じつは山登りも、漢文に興味をもったきっかけの一つです。

 

私は街から自然に入る感覚が好きでした。さらに尾根道に登って歩いていくのも独特の感覚で楽しかったです。視界が開けて、すごく気持ちいい。山のなかにぽっかり空いた湿原もいい感じです。

 

漢詩を読むと、自然を描くものが多くあります。李白でも王維でも。そうした彼らの漢詩を読んでいて、自分が山登りで感じている感覚と、どこか近いと思ったんです。

 

 

―― 山登りに没頭されていたんですか。

 

中学高校時代はワンダーフォーゲル部に所属していました。夏休みには、大きな荷物を背負って、一週間ずっと山を歩きます。もちろん夏でも風呂でも入りませんから、下界に降りてきたら、みんなが私たちを避けていましたね(笑)。

 

 

―― 中国古典文学には仙人のような人たちがよく出てきますが、齋藤先生は、仙人に近いことをしている高校時代だったのかもしれませんね。

 

それはどうかわかりませんけどね(笑)。

 

 

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入口と出口

 

―― 中国古典文学の中でも、特に何を研究されているんですか。

 

いろいろと関心はありますが、コアになっているのは詩ですね。中でも、2つの時代に注目しています。一つは魏晋南北朝時代です。前漢、後漢と統一王朝が続いて、それから分裂の時代、そして隋が再統一しますが、その間の分裂の時代です。変化の時代ともいえます。その時代の文学が一つの専門です。

 

もう一つの専門が、近代のはじめ。つまり日本で言うと明治時代、中国でいうと清朝の末期です。近世から近代に変わる時代です。この両方の時代を軸にしています。

 

 

―― 時代が離れていますね。

 

いわゆる中国古典文学、とくに知識人による詩の世界が成立するのが魏晋南北朝時代で、終わるのが近代なんです。つまり入り口と出口をみることで、中国古典文学とは何かを考えたいのです。

 

 

―― 近代の終わりとして、中国だけではなく、日本も扱ったのはどうしてですか。中国古典文学なら、中国だけの研究をするものだと感じるのですが。

 

中国古典文学は、高校の授業で言うと「漢文」ですね。では、漢文とはなんでしょうか。簡単に言えば、漢字だけで書いてある詩や文章です。中国古典文学は、漢字で書かれた文学全般を扱います。日本でも、漢字は共有され、漢詩や漢文がたくさん作られてきています。その意味では、日本と中国とを区別する必要はないと考えています。

 

魏晋南北朝時代は、3世紀から始まります。もちろん日本にはまだ漢字を使った文学はありません。一方、近代文学は中国に比べ日本の方が早く進みます。日本の方が西洋化にともなう政治体制の変革が早かったことが、その背景にはあります。

 

近代の東アジアで漢字を使った地域の中で、一番早い日本の姿を見ると、古典世界がどう変わっていくのかの出口をみることになります。逆に、入口として早いのは中国です。入口が中国の魏晋南北朝時代で、出口として早いのが日本の近代ということですね。

 

 

 

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