2021.01.08

日本国憲法は同性婚を認めるのか?――『同性婚論争 「家族」をめぐるアメリカの文化戦争』(慶應義塾大学出版会)

小泉明子(著者)法社会学

同性婚論争:「家族」をめぐるアメリカの文化戦争

著者:小泉 明子
出版社:慶應義塾大学出版会

本書『同性婚論争』は、アメリカで同性婚(婚姻の平等)が2015年に実現されるまでにどのような経緯を経たのか、そのダイナミズムを中心に描いた本である。同性婚を認めるか否かという論点は、近年日本でも話題になっている。同性婚の承認は、性的マイノリティとりわけ同性愛者・両性愛者の当事者にとって、生活上も法律上も、そして個人の尊重という意味でも、重要な事柄である。

性的マイノリティはLGBTとも称されるが、近年メディアでもよくみかける用語である。恋愛の対象や性的欲求が誰に向くかを性的指向といい、異性に向く場合を異性愛者(ヘテロセクシュアル)、同性に向く場合を同性愛者(男性の場合ゲイ、女性の場合レズビアン)、男女両方に向く場合を両性愛者(バイセクシュアル)という。

性的指向は変わることもあるが、自分の意思で選択することは難しい。社会の多くの人々は恋愛の対象が異性に向く異性愛者であるが、自分で選んで異性愛者になったという認識を持つ人はほとんどいないだろう。同じように、同性愛者(以降、「同性愛者」と書いた場合は両性愛者を含む)も自分の意思で選んでなっているわけではない。だから、「嗜好」や「志向」という文字は使わない。

恋愛対象が誰にも向かわない無性愛者(アセクシュアル)もいる。また自分が自分の性別をどうとらえているかを性自認(ジェンダー・アイデンティテイ)といい、自分の身体的性別と性自認が同じ場合をシスジェンダー(たとえば身体が男性で、自分は男性であると認識している)、異なる場合をトランスジェンダー(たとえば身体は男性だが、自分は女性であると認識している)という。このレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーそれぞれの頭文字をとったものが、LGBTである。

このほか、性自認や性的指向が定まらないQ(クィア、クエスチョニング)や、性染色体や生殖器のつくりが典型的ではないI(インターセックス)などの頭文字をつけて、LGBTQやLGBTIといった表記をする場合もある。このように、性のありかた(セクシュアリティ)は多様である。性的マイノリティであっても、一人一人は意思も感情も、尊厳もある人間である。その多様な性的マイノリティのあり方を尊重しようという動きが国際社会で出てきており、遅ればせながら日本でも少しずつ制度や保護の仕組みが整えられてきている。

誰かが誰かを好きになり、お互いをいつくしみあいながら生活を共にしたいと望むのは、異性愛者と同様に同性愛者も当然考えることだろう。同性同士のその関係を結婚という形で法的に認めるかどうか、これが同性婚にかかわる問題である。

法律婚をした場合、結婚した当事者には様々な法的な利益や保護が認められる。特に相続や、配偶者控除といった税制上の優遇、年金などの社会保障制度は、お金がかかわるため重要である。カップルに子どもがいれば共同親権を行使でき、パートナーが外国人の場合は配偶者ビザが取得できる。

2020年現在、世界28カ国で同性婚が認められているが、日本では認められていない。G7(先進国首脳会議)で、同性婚あるいはそれに準ずる同性パートナーシップ制度を国として認めていないのは日本だけである。同性カップルは、法律婚夫婦と同様の生活を送りながらも同性同士であるという理由で、結婚に伴う様々な法的権利や利益を認められていない。

法律上結婚が認められないということは、社会的にもその関係性が認められにくいということを意味する。同性カップルの片方が急病で病院に担ぎ込まれても、もう片方は「家族」とは認められずに面会を断られたり、同性パートナーの容態に関わる重要な説明を聞くことができなかったりする。同性カップルの片方が亡くなった場合には、生活を共にしていたにもかかわらず遺された側が葬儀に参列できなかったり、亡くなった同性パートナー名義のマンションに住んでいた場合は、遺族から追い出されることもある。

2015年4月、東京都渋谷区で「男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」が施行され、同性パートナーシップ制度が導入された。この条例は「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の性別が同一である2者間の社会生活関係」を「同性パートナーシップ」と定義する(第2条(8))。そして、区は、区内在住の同性カップルに対して「同性パートナーシップ証明書」を発行することができる(第10条)。

こうした同性パートナーシップ制度を導入する自治体は徐々に増えており、NPO法人虹色ダイバーシティの調査によれば、2020年9月時点で全国60の自治体で認められている。しかし同性パートナーシップ制度はあくまでも自治体レベルの同性カップルに対する保護であり、法的効果はない。

では、日本で同性婚は認められるのだろうか? 同性婚が法制度として認められるか否かという問題は、国家と個人の関係を規律する憲法の問題になる。同性婚を権利として認めるべきと主張する際の主な根拠としては、(1)憲法13条の幸福追求権、(2)憲法14条の法の下の平等、(3)憲法24条の「婚姻の自由」がある。

(1)について、憲法13条は「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」(幸福追求権)を規定している。同性婚を認めていない現行の結婚制度は、同性の相手と結婚したい個人の幸福追求権および幸福追求権から導かれる自己決定権を阻害していると考えられる。

(2)について、憲法14条は、国民は法の下に平等であって差別を受けないと規定する。すなわち、国は国民を不当に差別してはいけない。であれば、異性カップルであれば結婚制度を利用できるのに同性カップルが利用できないというのは、性別あるいは性的指向にもとづく不合理な差別ではないかと考えられる。すでに、性同一性障害特例法にもとづいて性別変更をしたトランスジェンダーは、性別変更前の同性と法律婚ができる(男性が女性に性別変更した場合は、男性と法律婚ができる)。

ということは、異性カップルにのみ結婚を認めるとする現行の制度は絶対的なものではない。子どもをつくらない夫婦の結婚も臨終婚も認められているのならば、なぜ同性カップルは結婚制度から排除されるのか、その合理的理由が問われることになる。

(3)について、憲法24条1項は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と規定する。この条文が保障する「婚姻の自由」について、最高裁は「婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたもの」と解している。

元々憲法24条は、家長が家を統率し、他の家族メンバーが家長に服従する明治民法の家制度から個人(特に家制度下で差別された女性)を解放する趣旨で規定されたもので、同性婚を否定しているわけではない。そこで、現在の憲法学説の主流は、憲法24条の規定に「両性」や「夫婦」といった文言があったとしても、民法の家族法規定を改正すれば日本でも同性婚は可能であるとしている。

アメリカの場合は法制度も憲法の考え方も異なるので、日本とは違う根拠理由にもとづいて同性婚が認められた。より掘り下げた詳しい内容に興味がある方は、拙著をお読みいただければ幸いである。

プロフィール

小泉明子法社会学

新潟大学教育学部准教授。
専門は法社会学。京都大学法学研究科博士後期課程修了(博士(法学))。京都女子大学非常勤講師、京都大学法学研究科助教などを経て、2012年9月より現職。
主な著作に、「「家族の価値」が意味するもの」(『変革のカギとしてのジェンダー』ミネルヴァ書房、2015年)、「婚姻防衛法の検討」(『法の観察』法律文化社、2014年)など。

この執筆者の記事