消費税増税を延期しなければ、この国は瓦解していた

▶シノドスの電子メールマガジン「αシノドス」

https://synodos.jp/a-synodos

▶英語の「話し方」教えます!「シノドス英会話」

https://synodos.jp/article/23083

「良きバラマキ」をさせるために

 

本の中で行った提案で実現していないのは経済対策です。3兆円規模の経済対策を行うという話が出ていますが、本では最低限2.5兆円の経済対策が必要だと書きました(182ページ)。ただちょっと注意しなければいけないのは、いま経済対策として挙がっているパッケージの中には、私が提案していない政策や、むしろやってはいけないと思う政策が入り込む可能性が高いことなんです

 

3兆円を何に使うべきかといえば、4月に5%から8%に消費税が増税された影響を抑制するために使うべきなんです。つまり家計の所得を直接的に持ち上げるために使うべきです。定額給付金や減税、社会保険料の一定期間の減免など、さまざまな手段はありますが、とにかくできる限り早く家計に還元することです。実効性のある政策で、安心感を与えることが急務なのであり、その規模は最低でも2.5兆円が必要なのです。

 

ところが現実に上がってきている案は、1999年に行われた地域振興券のような「地域商品券」であったり、中堅・中小企業の対策として基金を立ち上げてそこから補助金を出す、といったものです。これは正直言って、いらないと思います。余計なものがごちゃごちゃと付いてしまって、結果的に低所得者の方への給付がまた数千億円程度になってしまっては、元も子もないからです。

 

 

―― 振興券や商品券は、お金を配るのと何が違うのでしょうか?

 

商品券構想の詳細はまだわからないのですが、一定期間内に特定地域での使用に限定させる方式かも知れません。現金給付であれば消費か貯蓄かという選択肢がありますし、どの場所であっても必要なものに使える。できる限りシンプルにお金で配ってしまったほうが、受け取る側には助かりますよね。増税で困っている方は、所得が少なくて困っているわけですから、使い道を限定されてもあまり助けにならないんです。

 

 

―― 所得制限を設けて、所得の低い人に限定して配布するという話も出てきていますが、近所の顔見知りの店で使うのは勇気がいりますね。

 

所得階層を明示するスティグマになる可能性がありますよね。また、所得の捕捉の問題もあります。

 

「消費をしてもらう」ことを優先して考えるのが間違いなんです。負担を軽減するために最適な方法をシンプルに実行するのが、もっとも効率的なんですね。金融緩和でインフレ期待を作る、所得を増やして消費できる環境を作る、政府にできるのはせいぜいここまでなのに、余計なことばかりを細々とやってごちゃごちゃした状況を作ってきたのが、これまでの日本の政治なんですね。

 

選挙戦のなかでこういった部分がどう変わっていくのかを、国民は注視しないといけないと思います。こういった政策はしばしば「バラマキ」という言葉で批判されますが、特定の色のついていないものであればバラマキは悪いことではないし、状況に応じてむしろやるべきです。ただ、それが正しいバラマキであるかどうかを見ないといけません。

 

消費税の影響を抑制するために経済対策をするのであれば、消費税で誰が一番困っているかを見て、そこに一対一対応するような政策を打つのがもっとも合目的です。アベノミクスの財政政策で問題なのは、目的に応じたことをシンプルに行うという視点が欠けていることなんです。

 

たとえば、5%から8%に消費税を引き上げた際の影響を除去するために、5.5兆円の経済対策をやることになり、その中身として公共事業も行われました。この公共事業も、7~9月期のGDP統計ではほとんど効いていなかったことが明らかになっています。つまり公共投資の伸びそのものは大きいのですが、GDPの落ち込みに対しては焼け石に水であったことがはっきりしています。それなのにまた従来型を踏襲した経済対策のパッケージを作って、いかにも効果があるようなことを喧伝しながら進めるというのは、やめたほうがいいんじゃないかなと思いますね。

 

 

―― これまでのような特定業界への還元の意味合いの濃い経済対策は、もう効かなくなってきているということですね。

 

そうです。むしろポール・クルーグマンの言うように「政策イノベーション」をしないといけない。2013年に安倍政権がリフレーション政策を採用したことは、画期的なイノベーションだったといえます。世界の経済学では主流でも、日本の学会では少数派でしかない政策を、政権が具体的な数値目標ともに取り入れ、中央銀行と協調した。デフレこそが問題なんだと20年以上も主張し続けて、日銀を批判してきた岩田規久男先生が、副総裁というポストに就き日銀の内部に入り込んだ。これは驚くべきことです。

 

いくら「リフレーション政策が大事だ」と叫んだところで、政治の側がそれを評価しない限りは、何も変わりません。

 

 

IMG_7514

 

 

政治という場での闘い

 

―― 点検会合のメンバーを見ても、ほとんどのメンバーは増税賛成派です。ごく一部のリフレーション政策にも賛同している方が、増税への反対を表明されているという構図でした。政治勢力として見た場合、いわゆるリフレ派はいまだ少数派なのでしょうか?

 

私も若田部先生も、内閣府や財務省の事務方が決めたメンバーではありません。当初案のメンバーには増税反対派は一人もいませんでした。私たちが後から入ることになったのは、何も正しいことを主張していると認められたわけではなく、官邸が何とか押し込んだ結果なんです。悲しいことですが、政治力学の問題なんですね。

 

 

―― 再増税派の「大義」になっているのはやはり財政再建だと思いますが、再増税しても財政健全化にはつながらない(184ページ)と指摘されています。

 

増税をしないで、2015年度にプライマリーバランスの赤字を半減させるという目標をどう達成するのかという疑問に、私なりの答えを示しています。

 

経済成長がしっかりと継続できれば、つまりアベノミクスがきちんと完遂できれば、赤字半減は確実に達成できます。もちろん不測の事態が、首相が増税延期時に「天変地異」とか「リーマンショック級の危機」と言ったのと同じようなことが起きれば、100%達成できるとはいえませんが。

 

他方で、では消費税をきちんと上げていれば達成できるかといえば、これは確実に達成できません。足元の経済状況から推計して、スケジュール通りに2015年10月に消費税を上げていたら、政府が見通しているような経済成長率はとうてい達成できません。政府が想定していた「成長率を維持しながら消費税を上げて、財政を健全化する」という話は、もとより達成不可能だったんです。そもそも両立しないんです。

 

必要なことは、まずは成長を重視しながら国民生活をより豊かなものにして、その過程で税収を増やして、財政健全化目標を達成できるような枠組みを作っていくことです。来年以降の消費税や財政、社会保障をめぐる議論の主戦場は、成長の可否になるのではないでしょうか。

 

ポイントは3つです。まずは日銀法改正などを行い、政府のリーダーシップで日銀がより適切な金融政策を行うために枠組みを構築すること。さらに経済政策の中身をより合目的な、効率的な政策に変えていくこと。成長と財政健全化の関係性を明確にして、社会保障の財源もしっかりと確保すること。このように考えています。【つづきはこちらから!

 

(2014年11月21日 三菱UFJリサーチ&コンサルティングにて収録)

 

■あわせて読みたい

 

リベラルで経済も重視したい有権者は一体どうしたらいい? 『日本経済はなぜ浮上しないのか』著者・片岡剛士氏インタビュー

「いいとこ取り野党」がなぜ現れないのか 『日本経済はなぜ浮上しないのか』著者・片岡剛士氏インタビュー

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

AWS Access Key ID: AKIAJSA5SEKND2GVG7TA. You are submitting requests too quickly. Please retry your requests at a slower rate.

 

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

・外山文子「タイは民主化するのか?」
・中西啓喜「データサイエンスは教育を「良い方向」に導くのか?――学級規模の縮小を例として」
・笠木雅史「実験哲学と哲学の関係」
・穂鷹知美「求む、国外からの介護福祉士――ベトナムからの人材獲得にかけるドイツの夢と現実」
・久木田水生「ロボットと人間の関係を考えるための読書案内」
・吉野裕介「【知の巨人たち】ハイエク」
・内田真生「ヒュッゲ(Hygge)とは何か?――デンマークが幸せの国と言われる理由」