被差別部落と結婚差別

結婚差別は乗り越えられる?

 

――結婚差別の聞き取りをして、意外だったことはありますか?

 

まず、2000年の調査のときに、意外と乗り越えているんやって思いました。この本でも、差別の実態を書くだけではなく、どのように乗り越えたのか、その事例も書きました。

 

私個人としては、理屈っぽいところがあるので、「正しければ勝てる」と最初のうちはなんとなく思っていたんです。でも人を動かすのは、理論はよくわからないけど、「しつこい」とか「粘る」とか、そういうところなんだと最近は思っています。

 

 

――事例を読むと、年月で関係性が変化していきますよね。子どもが生まれて態度が軟化したり、親が死の間際に差別したことを謝ったり。関係性は一回じゃ終わらずに、続いていくものなんだと思いました。

 

あるケースでは、相手の親から結婚の「条件」として、出自を口外しないこと、部落から引っ越すこと、子どもを産まないことなどを挙げられましたが、部落出身の男性が「そんなのできない!」と突っぱねるんです。それが逆に彼女の両親に「見どころのあるやつだな」と思われ、結婚することになります。

 

 

――なにがきっかけになるのか、ロジックで考えてもわからないですね。

 

そうですね。このケースでは、子どもを産むなという条件は反故にされて、夫婦には子どもが生まれます。すると、結婚に反対していた妻のお母さんは、孫が差別されるのが許せなくて、「部落差別はいけない」と主張するようになりました。こうやって関係性って変化していくのだと思います。

 

 

――この本でふれなかった部分はありますか。

 

この本は「結婚差別」をテーマにしているので、恋愛の時点であった差別はほとんど事例に入っていません。また、結婚差別は結婚をめぐる問題であるので、基本的には、結婚を前提にした議論になっています。しかし、部落の若者たちも、日本社会における晩婚化・非婚化の影響を大きく受けています。

 

それから、恋愛は「自然に」できません。意欲やスキルが必要です。ただでさえ、日本の多くの若者が「恋愛する」「恋人を作る」ことのハードルの高さを感じている中、マイノリティであることから恋愛を躊躇したり、過去の被差別体験から新たな恋愛や結婚に踏み出せないことは、たくさんあると思います。このような構造は、質的調査でも量的調査でも、明らかにすることが難しいかもしれませんが、きちんと聞き取っていかないといけないと思っています。

 

また、障害学研究の方が「障害者の場合、結婚している人もいるし結婚差別問題もあるけれども、そもそも結婚することが議論の前提になっているとはいえない」と話していました。

それから、在日外国人の友人たちから、同様の結婚差別の話を聞きます。今回私が「結婚差別」の枠組みを整理したので、これを基礎に他の分野でも恋愛や結婚をめぐる差別の研究が進んでほしいと思っています。

 

 

「私からお花の冠をあげます」

 

――自分や相手が結婚差別を受けた場合、どういった対抗手段があるのでしょうか?

 

結婚を反対されると、まずはびっくりしてしまい、反論できずに言われたい放題になってしまう。私が本の中で伝えたかったのは「よくある言い方だから大丈夫」と言うものです。反対されると、その論理に反論できなくて、自分たちの問題がすごく解決が難しいものだと思ってしまいがちですが、実はよくある言い方なんですよね。

 

授業で紹介すると、「自分の親もいいそう」と反応する生徒が多いんです。本を読んだ方からも「親が子どもに意見を押し付けるときによくある言い方に似ている」と指摘を受けました。

 

 

――差別を受けた場合、誰に相談に行けばいいのでしょうか。

 

結婚や恋愛はプライベートなことなので、相談するのをためらってしまうかもしれませんが、公的な機関でも、結婚差別の相談の蓄積がありますから、力になってくれると思います。法務局などの相談もありますが、各地の人権センターや隣保館、NPOなどでも相談を受けてくれます。担当者との相性もあるので、一度あまりよくなかったと感じても、相談自体を諦めないでほしいと思います。

 

月並みな言い方ですが、「ひとり(ふたり)で悩まないで」と言いたいです。結婚差別に関する情報を持たない上に、ふたりだけで対策を練ろうと思っても、堂々めぐりをするだけで、よいアイデアはでてこないと思います。情報と相談によって、問題が整理されていき、次に何をすべきかが見えてくると思います。

 

ちょっとハードルが高いなと思う人は、自分が学生のころに信頼していた先生でもいいでしょう。色んな人の話を何回も聞いている人たちは「ようある話やな」と言ってくれると思います。また、その先生を通じて、人権問題に詳しい先生などにつながっていけるのではないかと思います。つながりの中で、出会いがあるのではないかと思います。

 

 

――『結婚差別の社会学』では、淡々と差別の事例を分析していますが、支援者にインタビューをした最後の章(10章「支援」)では、齋藤さん自身も前に出てきて、ぐっと文章の温度が上がっていきますよね。

 

 

【第10章「支援」より引用】

吉岡 結婚差別や就職差別が、急にきたとき、「自分が悪い」と思ってしまう。だから遺書がみつかることは少ないけれども、遺書を読むと、相手に対する憤りは、ひとつも書いてないよ。「お父さんお母さん、早く自分が死ぬことを許してくれ」って書いてある。「相手が悪い」とか、相手を「差別糾弾する」っていう遺書なんか、見たことない。全部、自分の親に対して、すまんと書いてある。だから死ぬんですよ。「こんちくしょう、許せんぞ」って思っていたら、死なない。

 

――それやったら戦いますよね。

 

吉岡 そうですよね。だから運動が必要なんです。ぼくはそう思う。

 

――自分を責めてしまうわけですね。

 

吉岡 そう、せめてしまう。自分に非があると思うわけ。そして、悶々としているけど、相談する相手すらいないと。いたら、また違うね。だから、部落の中でも、自殺して、何も遺書がない、しかし、ちょうど恋愛での結婚の時期だったというのは、そんなのは気になる。

 

ひとは、差別への怒りで自死するのではない。親と自分との板挟みで苦しむ相手をみて、こうなったのは自分が部落出身であるせいだと思い、身を引くしかないと思ったときに、自死を意識したと、吉岡が述べている。部落の青年が自死したと聞くと、そのことが頭をよぎる。

 

【第10章「支援」より引用】

高橋がかつて支援したケースでは、部落の側の父親がその役を果たした。高橋とカップルの3人で、父親に会いに行ったときのことである。

 

高橋 (部落出身の側の)お父さんに会わせてもらったんだけど、そのときお父さんの表情と言葉が忘れられない。黙って二人のことを聞いていて、そのうちに大きな声で泣きはじめ、涙をボロボロ流して、しばらくして一言だけ、このお父さんは娘たちに向かって「お前たちふたりは、どんなことがあっても、俺が守るから」、それだけでした。すごく大事なものがいっぱいあった。

 

 

悩んでいる人を慰めるときの話って、エモくなって当然だと思っています。部落のおっちゃんの中には、自分が結婚差別を乗り越えているのに「若い子に色々言ったらダメかな」と遠慮して言わない人がいる。同じしんどい体験をした人の話って、支えてくれる力になると思うんです。

 

この本の表紙は自分でデザインして、自分で刺繍したのですが、そこにもささやかながら励ます気持ちを込めました。日本ではじめての当事者による部落解放運動団体である水平社のシンボルマークは、茨の棘の冠(荊冠旗)なんです。「殉教者が、その荊冠を祝福されるときがきたのだ」と、「水平社宣言」にあります。

 

でも茨の冠は痛いし、常にしんどい立場でいる必要はないと思っています。だからあなたには、私からお花の冠をあげます。そんな気持ちで、ちくちく刺繍をしました。必要な人に、届く本になってほしいと思います。

 

 

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Lecture & Talk Event

 

私たちの部落問題vol.2 ―カミングアウトとアウティング―

 2017年9月24日(日)13:00-16:00(OPEN 12:00)

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