日本は学歴分断社会である――真の共生社会に向けて

若年/壮年、男/女、大卒/非大卒の組み合わせからなる「8人」のプレイヤーが支える日本社会。だが、この「8人」のプレイヤーが歩む人生の岐路は、格差に満ちたきわめて不平等なものである。その元凶にあるのが「学歴」だ。容易に是正することのできない「学歴分断社会」を前に、われわれは今どう考えるべきなのか? 『日本の分断』の著者、吉川徹氏に話を伺った。(聞き手・構成/芹沢一也)

 

 

――本日は光文社新書から『日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち』を出版された吉川徹先生にお話を伺います。最初に本書のコンセプトを教えていただけますか。

 

まず、日本が学歴分断社会への歩みを進めているということを、多くの人に伝えたいという思いが強くありました。

 

そのためには、今の日本では、大学に進学するかしないかということで、人生・生活に大きな格差が生じているという現実にきちんと向き合わなければなりません。これは、だれもが本当は気づいている公然の事実なのではないかと思います。しかしわたしたちは、学歴による格差をとかくタブー視しがちです。

 

 

――たしかにさまざまな格差が問題になっているのに、学歴による格差が議論されるのは耳にしません。なぜでしょうか?

 

その理由を突き詰めると、根源にあるのは、学校教育が成績によって同年生まれの人たちに上下の序列を付け、「中卒」「高卒」「大卒」…という公的なラベルを貼って、社会に送り出すはたらきをする「正規の格差生成装置」となっているということです。

 

学歴が「元凶」だとわかっていても「格差を是正するために、学歴差をなくしてしまおう!」とまで叫ぶわけにはいきません。

 

それでも本書では、社会調査に基づく否応のないエビデンスとして、学歴分断の諸局面が描き出されていきます。解決の困難なこの現実から目をそむけることなく、また安易に倫理観を振りかざすことなく、しっかり向き合うことが、深刻な分断を回避するための大前提だと思います。

 

 

――本書では「8人」のプレイヤーが社会を支えているとされていますね。

 

本書では20歳以上60歳未満の男女を現役世代としています。これは、経済成長、少子化対策、男女共同参画、働き方改革、税と社会保障の問題など、現代日本の諸課題の担い手となっている世代です。これを若年/壮年、男/女、大卒/非大卒で切り分けると、次のようなプロフィールがみえてきます。

 

まず、最上位にいるのは壮年大卒男性(構成比率約10.8%)です。彼らは多くの面で少し取り過ぎかと思われるほど有利な状態にあります。それは、社会の骨組みがまだ安定していた20世紀の「人生の勝ちパターン」にギリギリ乗ることができた人たちだからです。

 

結果として、多くが転職や離職の経験をもたず、安定した家庭を築き、ポジティブな気持ちで社会を牽引しています。世帯年収は約890万円、9人に1人が管理職で、子ども数は1.63人です。

 

 

――40歳以上の大卒男性が、いわゆる「勝ち組」になるわけですね。同じ世代の大卒女性もそうですか?

 

壮年大卒女性(構成比率約9.7%)は、既婚率が高く、世帯の暮らしには比較的ゆとりがあり、独身キャリア女性から既婚の専業主婦まで、多様な人生を歩んでいます。こうした生活の余裕と柔軟性を背景に、彼女たちは高級消費や文化的活動に積極性を発揮しています。現代日本の生活・文化局面を支えるのに欠かせない人たちだということです。世帯年収は約850万円、子ども数は1.72人です。

 

 

――ブランドやグルメ、アートや習い事などにお金をかけられる層ですね。大卒の若い女性にも同じようなイメージがあります。

 

若年大卒女性(構成比率約11.3%)は、職業キャリア、結婚、出産育児などについてライフコース進行の序盤にあるため、壮年大卒女性以上に多様な生活パターンの人たちの集まりになっています。

 

それでも満足度や幸福感が「8人」の中で最も高く、文化的活動や国際的な活動にも広く目を向ける傾向がみられます。世帯年収は約680万円と比較的豊かですが、子ども数は少なく0.91人にとどまっています。

 

 

――大卒の若い男性はいかがでしょうか?

 

若年大卒男性(構成比率約11.8%)は、上の世代の大卒男性ほどは社会と積極的にかかわっているわけではありませんが、それでも若年層の「4人」のなかでは、政治や仕事にもっともしっかり向き合っています。

 

ただし、結婚して子どもを育てるという家族形成に遅れが目立ち、現代若者に特有の将来不安も抱いています。世帯年収は同世代の大卒女性よりやや少ない約650万円、子ども数はわずか0.84人です。

 

 

――将来不安があっても、経済的にはやはり恵まれていますね。他方で、大学を卒業していない人たちにはどのような特徴がありますか?

 

まず40歳以上の人びとから考えましょう。壮年非大卒男性(構成比率約16.8%)と壮年非大卒女性(構成比率約17.6%)は、やはり20世紀からの時代の流れのなかで、産業経済セクターの中間あたりに手堅く居場所を確保している人たちが多いようです。世帯年収はほぼ600万円台前半で、職業的地位も高いわけではありませんが、既婚率と子ども数では他の人びとを上回っています。現役世代の3割を占めるこの層の堅実さは、日本社会の安定に寄与しているとみることができるでしょう。

 

 

――バブル崩壊前にポジションを確保していたわけですね。「失われた20年」といわれる時期に社会に出た非大卒層は厳しそうな気がします。

 

そのとおりです。20~30代の若年非大卒男性(構成比率11.2%)、若年非大卒女性(構成比率10.8%)に目を転じると、かれらは経済力、職業、家族関係などで、他の「6人」に数歩の後れをとっています。政治や社会参加、文化的活動などについてもきわめて消極的です。世帯年数は男女とも約500万円程度と、他よりも低い水準にあります。

 

このように、現役世代の「8人」には学歴による分断傾向があり、しかもその度合いは、世代と性別によって異なっていて、とくに若年非大卒男性の凹みが際立つ結果になっています。

 

日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち (光文社新書)

日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち (光文社新書)書籍

作者吉川徹

発行光文社

発売日2018年4月17日

カテゴリー新書

ページ数264

ISBN4334043518

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――冒頭で指摘された学歴による分断が、この「8人」のあいだには走っているわけですね。

 

はい。互いに競合する同性の同世代を見比べると、大卒層と非大卒層には、就いている職種や産業、管理職への昇進のチャンス、仕事を失うリスクの大きさ、求職時の有利・不利、そして賃金などにおいて明らかな格差があります。壮年層の世帯年収でみると、その差は約250万円です。さらに、大卒層と非大卒層では、ものの考え方や生活様式も異なっています。

 

加えて、若年大卒層の父母の約5割が同じ大卒層であるのに対し、若年非大卒層の父母は約8割が同じ非大卒層です。つまり学歴の世代間再生産傾向が明瞭にみられるのです。さらに大卒同士、非大卒同士が結婚する学歴同類婚の夫婦は、現役世代の夫婦のほぼ7割を占めます。

 

そして大卒学歴をもつ父母の8割以上は、子どもの大学進学を望んでいますが、非大卒の父母では6割以下にとどまっており、大学進学志向の温度差もはっきりしています。

 

 

――大卒同士が結婚して、その子どもが大学に進学することによって、学歴による格差が再生産されている。

 

そうです。これらを総合すると、現代日本では、大学・短大に進学するかしないかの選択が、その後の人生を分断しており、しかもこの構造が世代を超えて繰り返されはじめているということがいえます。

 

結果として現在、友人関係や恋愛や結婚においても、同じ学歴同士の結びつきが強くなり、日常生活において異なる学歴の人と接する機会が少ないという、人間関係の断絶がはっきりしはじめています。これは、現代日本社会では、他社会における階級やエスニシティのように、学歴が社会の分断を生じさせる主たる要因になっているということです。

 

 

――学歴がものをいう社会であるにもかかわらず、日本は再チャレンジの機会が乏しい社会だといわれます。

 

まず、日本では大学の学費の私的負担が大きい割に、大卒学歴の収益率が高くありません。ですから、人生の途上で大卒学歴を得たとしても、他社会のようにすぐに元がとれるわけではありませんし、象徴的な価値(社会的に高い評価)がついてくるわけでもありません。

 

実際、人生の途上で学歴に関する再チャレンジができるとみなしている人は多くはなく、結局、人生・生活を決定的に左右するのは、高校卒業後にどのような進路をとったかということになります。この実態を社会全体が了解しているから、日本人にとって、高卒時に選び取る最終学歴は、変更しえないアイデンティティの源泉となるのです。【次ページにつづく】

 

 

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