日本は学歴分断社会である――真の共生社会に向けて

――再チャレンジの機会がない社会で、高卒段階での選択がその後の人生の岐路を決めてしまうわけですね。先ほど、「8人」のなかでも若年非大卒男性の凹みが際立っているとおっしゃっていましたが。

 

大卒学歴を得るためにお金をかけた大卒層が、社会に出てから、雇用や賃金にかんして非大卒層よりも有利な立場にたって、若年期にかけたお金を「回収」していくのは致し方ないことです。しかし、非大卒層が人生のあらゆる面で大卒層に著しく水をあけられるのはおかしなことです。

 

しかし現状では、若年非大卒男性は、他の男性たちと同じだけ働いているのに、年収が壮年大卒男性の半分以下にとどまっています。しかも彼らの多くが若いうちに転職を余儀なくされており、非正規で働く人の比率も多くなっています。

 

このように生活の基盤が安定していないために、彼らの中には、結婚して子どもをもつというステージに到達することができない人たちが多数います。

 

 

――若年非大卒男性の多くが、経済的事情によって、望んでも結婚できないようになっている。同じ非大卒の若い女性の経済的な苦境についてもしばしば耳にします。

 

若年非大卒女性はどうかというと、経済的な状態でいえば、彼女たちは男性たちよりさらに悪く、雇用も不安定です。彼女たちの5人に1人は、橋本健二さんのいう「アンダークラス」という最下層階級に分類されます。

 

しかし彼女たちはこのような苦しい状況にありながら、少子化が危惧される日本社会に重要な貢献をしています。それは、既婚者(離死別を含む)が多く、子ども数が同じ若年層の大卒女性の約1.5倍であるということです。

 

つまりわたしたちは、現役世代の「8人」のなかで、もっとも生活基盤の脆弱な彼女たちに、次世代を産み育てるという日本の将来にとって重要な、しかし他の人たちには担うことのできない役割を担ってもらっているのです。豊かな先進工業国であるはずの日本で、子どもの貧困が叫ばれるのは、このような偏りがあるがゆえなのです。

 

出産、育児というライフ局面のタスクに追われ、彼女たちのワーク局面への参画がなおざりになっているのは、致し方ないことといえるでしょう。彼女たちには、すでに行政からの支援の手が差し伸べられていますが、他の「7人」は、おおいに感謝すべきだと思います。

 

 

――「18歳まで学校で教育を受けた人材を、このように低く見る社会は、歴史上も、世界的にも、現代日本社会以外にはあまり例がない」という文章を読んで、はっとしました。

 

 

「幸せに暮らすためには、大学に進学するのが唯一の方法だ」と多くの日本人が思い込んでいて、大学に行かないことに積極的な意味などないという考えも、かなり根強いようです。

 

しかし、近未来の日本の大学進学率が100%近くに至るというシナリオは、いくつかの点で現実的ではありません。ですから若年で大学に行かない人材は、労働市場に供給され続けるわけで、かれらを尊重しながら育成して、社会のために役立つ位置についてもらうことは不可欠です。

 

けれども、かれらは大卒学歴至上主義の考えのもとでは視野に入ってきませんので、名前をもっていません。「いずれはいなくなる労働力」という程度に扱われて、政策の対象となっていないのです。しかし戦後から現代までいつの時代を見ても、非大卒層の総数は大卒層の総数より多く、彼らこそが今の日本を形づくってきたマジョリティに他ならないのです。

 

 

――だから、「レッグス」という命名による可視化が必要だったんですね。

 

レッグスというのは、LEGs: Lightly Educated Guysの略で、「軽学歴の男たち」という意味合いの言葉です。こうした呼び名を与えることで、彼らのプレゼンスをはっきりさせて、政策的な議論の俎上に載せることが可能になります。

 

もっとも、このレッグスという言葉はとても強いインパクトをもっているようで、「大卒エリートが、上から目線で非大卒層を貶める俗名を付けたとしか思えない」と、私の見識を疑うコメントをもらうこともあります。

 

詳しくは本書の本文に譲りますが、私はそういう次元の低い議論を展開してはいません。しかし、これまで「大卒じゃない人びと=非大卒」というように、消極的に言い表していた社会の一角にレッグスという言葉を与えたことは、人びとの心に、ときに不協和を生じさせ、様々な議論を喚起するようです。

 

 

――先生はレッグスをサポートする政策立案が必要だと主張されています。

 

現在の20歳前後の同一生年の総数はだいたい126万人前後で、そのうちわけは、大学進学者が約68万人、非進学者が58万人ほどです。この先の日本を支えていく若い職業人を、本腰を入れて育成しようとするならば、20歳前後の時点では、大学進学者とレッグスの双方に偏りなく財政出動をすべきだと思います。

 

たしかに、経済的な事情で大学進学をためらう若者の背中を押すために、学費を支援する政策を拡充することはとても大切です。しかし、それだけをやったのでは、いずれ社会の上位に至るはずの人びとにだけ、メリットを付与するということになります。

 

 

――いわゆる大学無償化は、大学進学者にのみメリットがある。

 

そうです。大学に進学しないで働く若者には、政策の恩恵はまったく及ばず、進学者との間の格差を助長することになりかねません。ですから大学の学費無償化を進めるなら、一方で大学へ行かなかったレッグスたちの職業生活の安定も、公的に保障すべきだと考えます。

 

具体的には、20歳前後の非大卒の若者を正規雇用した企業に、大学の学費補助と同程度の金額の雇用助成をすることで、若者たちの給与水準や雇用の安定性を上げるような政策が考えられると思います。

 

 

――レッグスは「現代の金の卵」だとされています。

 

本文中で詳しく論じていますが、非大卒の若者は地方に多く、大卒層は大都市圏に集中しています。地方消滅が危惧されている現状において、もっとも必要とされているのは、地方に住み、コミュニティを支えている若い人材や、伝承技能が途絶えかけている中小企業の熟練工の後継者などです。

 

そしてレッグスは、これらの場所をカバーすることのできる「現代の金の卵」なのです。彼らが充足した人生を歩むことができるように、その若年期を支援するのは、疲弊する地域社会を支えることにもつながり、ひいてはこの国全体の雇用と社会の安定ももたらすと考えることができます。

 

 

――現在、さまざまな格差が問題になっています。若年ワーキングプア、正規・非正規格差、勝ち組/負け組、上流/下流、子どもの貧困、結婚できない若者、マイルドヤンキー、地方にこもる若者、地方消滅などです。

 

先生は、こうした現象の正体は、すべて「大卒学歴の所有/非所有」だと指摘しながら、それを逃れられない現実として直視するべきだとされています。最後に、このご主張の意味するところを、先生の考える「共生社会」と絡めてご説明いただけますか。

 

ここのところについて、誤解している人が多いようなので、これは有り難い質問です。

 

私が伝えたかったのは、学歴が日本の格差現象の起点となっているという構造と、学歴による結果の不平等は、たやすく均してしまえるものではないということです。しかしこれは、格差容認論ではありません。

 

私が理想の状態だと考えるのは、たとえばレッグスの所得は低いが、失業のリスクは大卒層より小さく、転勤や異動もなく、生活の安定を得やすい。あるいは、20歳前後の暮らしのゆとりでは、レッグスの方が大学生よりも上だ。ワークライフバランスをとりやすいのも、子ども数が多く、イクメンとして配偶者を支える自由度があるのも、地域社会に根差した暮らしをしているのも、大卒層よりむしろレッグスだ、というように、大卒と非大卒の所得以外のメリットが、トータルでみた場合に五分五分に近くなるということです。

 

まずは、大切な役割を非大卒層に任せて、自分たちだけがメリットを独占しているという現状を、大卒層の側が理解することが共生社会への第一歩です。そして双方が、日本を支えるために欠かせない別のポジションを守っている、自分とは異なる「レギュラーメンバー」への思いやりをもたなければなりません。

 

ただし残念なことながら、新書を手に取るのは圧倒的に大卒層が多く、現時点では非大卒層に現状を伝えることは十分にできていません。その先ではこのことも考えなければなりませんね。

 

日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち (光文社新書)

日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち (光文社新書)書籍

作者吉川徹

発行光文社

発売日2018年4月17日

カテゴリー新書

ページ数264

ISBN4334043518

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