円高が好きな人たちの「正体」とは?

▶シノドスの電子メールマガジン「αシノドス」

https://synodos.jp/a-synodos

▶真の教養を身に着ける「シノドス・サークル」

https://synodos.jp/article/20937

貿易黒字で円高? 金利差で円高?

 

飯田 その一方で、ユーロはなんでこんなに安くなるのか、ちょっと不思議なのですが。ユーロは維持可能なんですかね?

 

安達 経済学者の方はよく「最適通貨圏」、つまり一定の条件のもとで同一通貨を使用した時に、経済効率がもっとも好ましくなる地域の規模についての議論をしますよね。その議論からすれば、ギリシャ、ポルトガルからドイツまでを含む経済圏など無理に決まっているんで、まあ、壊れますよね。

 

ただEU統合の歴史をずっと見てくると、ユーロはかなり政治的な思惑で作られてしまっている部分があります。ユーロ圏や欧州の政治的な分断が起こらない限り、ユーロも壊れないんじゃないかなと思っています。なんとかもたせようという方向で必死に努力するのではないか、という気がします。

 

飯田 為替レートへのよくある誤解が「為替は国力競争」みたいなイメージですね。そういう先入観がある人には、あちこちで綻んでいるEUで起こったユーロ安はすごく理解しやすい。だけど、それでは円高は説明できないですよね。

 

こんなに景気が悪いのになんで円が高いのか、みたいなイメージがある。ビジネス系エコノミストでも、ごくごく基本的な経済学の理解がむちゃくちゃな人がいるじゃないですか。よく「エコノミスト」って名乗れるな、というくらいに。

 

安達 そうですね。

 

飯田 「通貨の量は市場が決めるんだ」とか、ぼくもそういう批判を受けたりします。「いやいや、まずはマクロ経済の教科書の〈貨幣〉のところか、ミクロ経済学の〈独占〉の項をよく読んでください」と言いたいのですが……。安達さんも、そんな「誤解」と出くわしたりしますか?

 

安達 まあ、「強い円」イコール「強い日本」といった話はよく目にします。為替については起こった現象についてあとから説明するパターンが多いので、定量的な分析のようにシステマティックに予想するということがまったく行われていない。ある時は金利差による説明がされますし、ある時はなぜか景況感の格差で説明されて、その国の景況感がいいと通貨高になる、といった話になっちゃう。政治的な話にされたり、生産性上昇率で説明されたり、ありとあらゆる要因のうち、都合のいい説明でお茶を濁す人が、エコノミストよりもむしろ為替のアナリストの人に多い気がします。

 

あとは、やっぱり「経常収支説」です。経常収支の黒字と金利差、このふたつで円高を全部説明してしまうパターンはけっこう多い。

 

飯田 でも、経常収支は15年ぶりの低水準になっているので……

 

安達 経常収支説は破綻してしまった。そこでまた「通説」が変わってきているとは思うんですけどね。ですが、「経常収支黒字が円高の根本的な理由だ」と考える人は今も多いですね。

 

飯田 でも安達さんなら「円が足りないから円高。当たり前。以上」ですよね。ぼくも同じですが。

 

安達 そうですね。

 

飯田 そうじゃない人は、どういう理由で円高だと思っているんですかね。「金融政策は関係ない」という人たちは。

 

安達 経常収支の黒字が、ほぼ唯一のよりどころだったと思うんですけど、みるみる貿易赤字になっていますよね。そうなると残るのは、どうにも理解できない「金利差で決まる」という説明ですよね。

 

飯田 でも長期金利ですら、いまだにアメリカのほうが高い。

 

安達 高いですね。金利差が縮まってくることを円高の理由にしているんですね。アメリカでは金融緩和で金利大きく下がってきていて、日本は変わらないので、この差が縮まってくることが円高の要因なんだというのが、ほとんどの為替アナリストのロジックだと思いますよ。

 

飯田 まあ、それ自体はたしかに間違いではないですよね。

 

安達 間違いではないのかな。ただこれ、逆に債券アナリストに金利の見通しを聞くと、為替が原因だと言うんですよ。グルグル回って、いったいどっちなんだ、という話になっています。

 

あと「金利差説」への私の疑問は、どの金利の差なのかがコロコロ変わるんですよね。昔は10年国債の利回りでした。で、ちょっと前までは政策金利です。でも政策金利はみんなゼロになっちゃったんでもう使えないとなると、今度は2年国債だ、という。2年物の金利を予想するのってすごく大変だと思うんですけど、「2年国債の金利差と為替レート変動がぴったり合っています」みたいな説明がされるケースがかなり多い。まあ、事実としてはそういうふうになってはいるのですが、ロジックがよく分からない。なぜ2年国債なのか、と。

 

飯田 SYNODOS×BLOGOS「若者のための『現代社会入門』」の初回に出て改めてわかったことがありました。なんだか難しくてよくわからないロジックを、なぜかみんなすごく信じているんですね。でもモノの値段ってもっと簡単に決まっていると思うんですよ。

 

円高は、ドルで計った円の値段の値上がりです。例えばイチゴが最近値上がりしているそうですが、ふつうに考えればイチゴの需要が増えたか供給が減ったか、ですよね。今年は厳冬で、ビニールハウスで暖房をフル回転させてもなかなか暖まらないらしくて、イチゴがあまり育たず高くなっているそうなんですが。

 

安達 あ、そうなんですか。

 

飯田 つまりは供給減であって、そうでなければ急にイチゴブームが来て需要が跳ね上がっているか、どちらかだと普通は思うだろう、と。 こう言えばみんな「ああ、なるほど」って思ってくれる。でも為替レートについては、なぜか「ミカンとの品質差により……」みたいな議論が始まってしまう。なぜなのか、と思うんですよね。

 

安達 たしかにね。なぜでしょうね。

 

飯田 貨幣は特殊なんだという思いが強すぎるんですかね。もちろん普通の財と違うところはたくさんあるんですけど、でもいちばん基本的な論理を捨ててどうするんだ、と。普通に考えれば、円が高くなるのは円の需要が大きいか、円の供給が足りないか。もしくはその両方ですよね。

 

で、まず「円の需要が大きい」、これはどうやって起こりうるのか。

 

安達 「需要が大きい」ってありうるのでしょうか、という気がしますよね。

 

飯田 なるほど。そうすると、供給面しかない。

 

安達 ええ、供給しかないような気がするんですよ。

 

飯田 需要面で唯一ありうるとしたら、復興資金需要なのかな。「復興バブル」の資金需要は絶対値としては大きいですが、大勢を変えるほどじゃないと思うんです。第一、資金需要が旺盛ならばそれに応じて供給すべきだと言うだけです。そうすると、やっぱり供給しかないわけですね。

 

安達 そうですね。仮にドルの供給が一定だとすると、円の供給が増えれば円安になるし、減れば円高になる。こういうことを言うと反対意見がすごい勢いで飛んでくるのですが、基本的には円の供給が足りないので円高になっているということなんですよね。

 

円の供給元は日本銀行で、ドルの供給元は連邦準備制度(FRB)です。イングランド銀行(BOE)や欧州中央銀行(ECB)も含めてその供給量をバランスシートで見ると、明らかに日本銀行の円の供給量はほとんど同じ水準にとどまっています。

 

飯田 そうですね。BOEが3倍、FRBは2.5倍、日銀は1.1倍です。

 

安達 その差がはっきり為替レートに現れている、というふうに考えると、少ないから稀少になってしまっているということだけだと思うんですけどね。

 

飯田 ぼくも同じような主張なのでよくわかるんですが、あまりにも普通で当たり前すぎる理屈なので、書くと5行くらいで話が終わってしまう。

 

安達 そうなんですよね。説明が終わっちゃう。

 

飯田 1ページで本が終わっちゃうんですよ。だから、それをこの量まで書ききったのがすごいと思う(笑)。たしかにほかの要因もたくさんあるでしょう。でも、いちばん基本ですよね、「少ないものは高い」って。

 

安達 そうなんです。

 

 

1 2 3 4 5
シノドス国際社会動向研究所

vol.267 

・堅田香緒里「ベーシック・インカムとジェンダー」
・有馬斉「安楽死と尊厳死」

・山本章子「誤解だらけの日米地位協定」
・桜井啓太「こうすれば日本の貧困対策はよくなる――貧困を測定して公表する」
・福原正人「ウォルツァー政治理論の全体像――価値多元論を手がかりとして」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(11)――シンクタンク人生から思うこと」
・杉原里美「掃除で、美しい日本人の心を育てる?」