円高が好きな人たちの「正体」とは?

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もうダマされないための金融政策ミニ講義

 

飯田 円高そのものの話ではないのですが、日本でここまで消費が伸びない、消費が頭打ちになる理由はどこにあるのでしょう? それは家計部門だけじゃなくて、日本の場合は企業部門さえもが貯蓄しているというのは、はっきり言って意味が分からない状態だと思うのですが、なんでこうなっちゃうんですかね?

 

安達 円高ともつながってしまいますが、賃金などが減って需要が伸びなくなってしまう循環にいったん入っちゃうと、ずっとそういう状況が続きますよね。特に日本の場合は、トレンドとして円高とそれによる悪循環がずっと続いているので、設備投資をしてもペイできないから投資しないでおこう、という行動になってしまう。かといって、その分を従業員に還元するかというと、企業も将来が心配なのでそれもできない。だから企業による貯蓄が増えてしまう。まあ、貯まってもそれにより何をするわけでもなく、たぶん銀行に預けているだけですね。いまは投資を控えようというのが、10年以上続いてしまっている。

 

飯田 そこから抜け出すために積極的な金融緩和を、という話になるのですが、円高がまずいという認識はようやく徐々に共有されてきている。でも、最近までやっていることは為替介入だけでした。

 

安達 そうですよね。

 

飯田 なぜ為替介入はこんなに効かないんですかね?

 

安達 日本銀行の協力がない、協力しない制度になっちゃっていますよね。財務省が円を売ってドルを買うことで為替介入をすると、円が市中に出る。円の量が増えることによって円安になる、というのは先ほどのイチゴと同じ簡単なロジックなのですが、同時に日銀はその市中の円を吸収するオペレーションを行っているので、結局はプラスマイナスゼロなんですよね。

 

飯田 吸収オペレーション、いわゆる「不胎化介入」ですね。たとえば円売りドル買い介入をした場合は、増えた分の円を市中から吸収してマネーサプライを一定にする。ですから不胎化介入には実効性がなく、通常、実効性を持たせる介入は非不胎化介入を行うわけですが、これは二重否定なので用語として良くないと思う。

 

安達 日本語としてよく分からない。

 

飯田 非不胎化介入、non-sterilized interventionしか本来はないはずなんですが、なぜか不胎化が原則になっている。

 

安達 そうですね。2003年4月からおよそ1年間続いた「テイラー・溝口介入」とよばれた大規模な介入は非不胎化でしたが、たぶんそれでも6割くらいの非不胎化で、4割は吸収しているはずなんですよ。震災後の為替介入は120%くらいの不胎化じゃないかと思います。つまり、出した以上に吸収している。

 

飯田 吸収していますよね。仕手筋やヘッジファンドが出てきたとか、そういうことがあるのだったら不胎化介入にも意味はありえる。相場の混乱を一時的に収める効果はあるのですが、今は一時的に混乱して円高になっているわけじゃない。完全に趨勢的な円高ですよね。

 

安達 たぶん趨勢的な円高については、ある程度まで許容してしまっているんじゃないかと思っています。東日本大震災のときはたしか20分ほどで3円くらい安くなったんですね。そういうのは起こるとまずいということで介入されますが、傾向として円高になっていること自体は、なぜか許容されている。

 

飯田 問題視されていないですよね。

 

安達 じわじわと円高になっていくのを止める、というつもりはおそらく毛頭なくて、瞬間的なショック以外は全然止める気配がない。

 

飯田 「為替相場は自由な取引によって市場が決めているんだ。だから国にできることは何もない」と言う人がいますが、いつから国が貨幣を作れないことになったのか。または、いつから中央銀行を含める広義の政府以外が貨幣を造れるようになったのでしょう。「日銀は国の組織ではない」という感覚って、どこから生まれるんでしょうね。

 

安達 たぶん、為替とか債券の取引の世界はものすごい「村社会」のなかの話で、日銀はその頂点に君臨する、そんな構図がイメージとしてあるのかな。金融市場ではまず日銀がお金を出して、そのお金をもとに資金の融通をしあう。日銀はようするにゲームの親なんですよね。親として君臨しているので、その村の秩序を壊したくないから無茶もしたくない、そんな構図がある気がするんですね。

 

飯田 まあ、「中の人」がそうするのはまだ分かるんですが、絶対に日銀から何ももらえないはずの人まで、すごい数の「外の人」たちがいる。「日銀の独立性は神聖にして侵すべからず」みたいなことを言う人がここまで多いのは不思議でならないですよね。

 

安達 エコノミストだったら、日銀の審議員になるという夢があるのかも知れませんね。マスコミの方もそうですよね。それと、日銀とコンタクトをとることによって有益な情報が得られるんじゃないか、みたいな期待があるのかもしれない。

 

飯田 でも、そこまで甘い組織じゃないですよね。

 

安達 そうですよね。それでもみんな批判的なことは言わない。お金の量が足りないんだ、みたいなことは言わないですよね。

 

飯田 足りないから高くなる、火を見るよりも明らかな論理だと思うんですけど、なぜか「複合的な要因」にされてしまう。「具体的に何と何の複合ですか?」と聞いても誰も答えられない。

 

安達 そうそう。答えられない。

 

飯田 そういう意味ではアメリカは、思いきり金融政策のアクセルを踏みましたよね、

 

安達 そうです。リーマンショック以降、QE1とQE2とよばれる量的緩和をしてバランスシートを拡大させたら、すぐに為替レートがドル安になった。ものすごく分かりやすい関係性です。今もインフレターゲット導入宣言をしてから、やっぱりドル安になってきているんですよね。金融政策の効果が明らかに為替に表れていることは、ドルを見ればはっきりしていることです。

 

飯田 日本の新聞は「アメリカが量的緩和政策をにおわせたので、ドルが安くなりました」という記事の隣で、「日本では量的緩和をしても効きません」と書いたりする。なんだそれ? と言いたいですよ。これまでは「日本は金利がゼロだから効かない」などというのを伝家の宝刀のように使っていた。「アメリカもゼロですが、何か?」って、完全に論理破綻です。アメリカでは金融政策が効いているんですから。

 

安達 「でも日本では効かない」となっている。

 

飯田 それが謎ですね。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.267 

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