「夜」の世界に光を照らせ

夜の世界から、僕らの幸福度、他者への厳しさ・やさしさまで――今まで印象論で語られてきた分野に、経済学者・飯田泰之と評論家・荻上チキがデータを武器に鋭く切り込む『夜の経済学』。著者の一人である飯田氏に、データを分析する意義とその可能性についてお話を伺った。(聞き手・構成/山本菜々子)

 

 

「夜」に光を当てる

 

―― 『夜の経済学』では一般的には調査があまり行われていない分野に対し、データを使い検証しています。そもそも、なぜこのような本を書こうと思ったのでしょうか。

 

「社会科学」と呼ばれるものは、参与観察のようにそのグループと密接に関わりルポルタージュ風に証拠を積み上げるか、データで検証するか、少なくともそのどちらかがなければ「科学」とは呼べない。このどちらも含まれていない議論を、ぼく自身は検討するに値しないと思っています。

 

昔から「理屈と膏薬はどこにでもつく」と言われる通り、理屈だけだったらどんなことでも言うことが出来ます。ぼくの専門である経済学の分野でも、消費税増税をすると「景気が良くなる」「景気が悪くなる」という意見がありますが、そのどちらも論理的には正当なモデルによって導き出すことが可能です。論理的であることはかなり緩い必要条件に過ぎないわけです。どんなことにも理屈だけはつく。勝負はデータの方なんです。ですから、この本ではデータを積み重ねることで、検証を行っていくことにしました。

 

具体的な数字が出てきて、はじめてこの数字が高いのか低いのかという議論が出来ます。科学というものは、自分の頭の中だけで理論を考えて一発でベストな答えを出せるわけではありません。実際には仮説があって、検証してみて、理論を修正していくというプロセスを取ります。このプロセスを繰り返すことが真実に近づく、少なくとも役に立つものを捜すための基本的な方法です。

 

 

―― フィールドとして「夜」を選んだのは、なぜでしょうか。

 

風俗産業だけの市場規模は非常に大きく、これまでの類書などでの推定では7兆円とさえいわれます。本の中では、これが「過大推計」の可能性があることに触れていますが、それでも基本的には百貨店や旅行業全体と同等の市場規模です。これほどの大きな業界について、データに基づいた話が行われていないわけです。ですので、まずはぼく達が調査をし、荒っぽい形でもいいので数字をまず示してみることにしました。

 

調査を重ねていくうちに、風俗産業とワリキリ(個人売春)業界の性質の違いが分かってきました。風俗産業は市場化されシステマティックになっており、価格の収束傾向が非常に強い。一方ネット上の不特定多数を相手に単独で売春行為を行うワリキリの場合は、地域によって価格のばらつきが大きいことなどが分かりました。また、「買う男性」についても客層が異なっていることも判明しました。

 

「夜」と銘打ってありますが、風俗業界やワリキリの話だけではなく、大学生の意識調査や、生活保護受給者への寛容度についてもデータを収集しました。なかなか光が当たることのない分野での、叩き台となる数字をまず出したかったからです。

 

 

―― 大学生の意識調査では、大学の偏差値別に分析していましたね。ここにはなにか意図があるのでしょうか。

 

夜の世界のように、今まで光が当たって来なかった分野が「学歴」です。例えば、今までの社会調査では「中卒」「高卒」「大卒」という枠組で学歴を聞いてきました。しかし、大学進学率が50%を超え、「大学全入時代」と言われる現在、単に「大卒」といっても様々でしょう。これを、ひとくくりにするのは難しい。そこで入試難易度別に比較をしてみようと思ったんです。本書では大手予備校のランキングを使って、「難関大学」「偏差値60以上70未満」「中堅大学」「偏差値50未満」の4つに分類し、大学ランク別の学生意識調査を行いました。

 

アンケートでは、喫煙習慣、飲酒習慣、生活満足度、高校時代にどのような部活に入っていたのか、処女・童貞なのか……といった様々な質問項目を設置し、相互にどのように寄与しているのかについて分析しています。その結果についてはぜひ、本書を読んでいただけたらと思います。

 

 

夜の経済学(オビアリ)

 

 

 

 

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