『親衛隊士の日』(河出書房新社)刊行とウラジーミル・ソローキン氏来日を記念して、ウラジーミル・ソローキン氏、翻訳家であり映画評論家の柳下毅一郎氏、そしてソローキン氏の小説『青い脂』『親衛隊士の日』を翻訳された松下隆志氏によるトークイベント「文学破壊者と語る夜」が開かれた。独特で強烈なソローキン氏の小説はいかにして書かれているのか。貴重なトークイベントをここに記録する。(通訳/北川和美、構成/金子昂)
東京外国語大学での日々を振り返る
柳下 本日はロシアの作家であり、昨年に『青い脂』(河出書房新社)、今年に『親衛隊士の日』(河出書房新社)が日本で翻訳出版された<文学破壊者>のウラジーミル・ソローキンさんをお迎えしました。進行を務めさせていただきます翻訳家の柳下毅一郎です。
松下 北海道大学院生の松下隆志です。縁があって尊敬する作家であるソローキンさんの『青い脂』と『親衛隊士の日』を翻訳させていただきました。よろしくお願いします。
柳下 まずはソローキンさんに簡単に自己紹介いただきたいと思います。
ソローキン コンバンハ。今日はトークショーに来て下さってありがとうございます。11年ぶりに日本にきて、とても嬉しくノスタルジックな気持ちです。これだけの方が集まってくださったのは、どんなに破壊的な小説を書いても、ロシア文学が生きている証拠であり、また読者がいることの証拠だと思います。
柳下 いま11年ぶりとおっしゃいましたが、実はソローキンさんは1999年から2000年の2年ほど、東京外国語大学で教師をやっていらっしゃったんですよね。そのころの思い出などありましたら教えてください。
ソローキン 吉祥寺にある東京外国語大学の教職員用の寮に住んでいました。今日、妻と一緒に行ってきましたが、11年も経つと寮の周りに植物が生い茂っていて、建物を見つけるのに苦労しました。吉祥寺から大学までの道のりを長く感じ、「年をとったんだなあ」と思いました。
東京外国語大学での日々を思い出すとあたたかな気持ちになります。2年間の教師としての仕事は非常に有益なものでしたし、当時教えていた学生の何名かがロシアの古典文学を好きになってくれたことは嬉しかったです。東京を去るとき、私の心のひと塊を永遠に残してきた気がした、そんな滞在でした。
柳下 ソローキンさんは日本について書かれた短編小説があると聞いたことがあるんですが。
ソローキン 確かに日本をテーマにした作品はいくつかあります。ただ滞在生活について書いた小説はありません。というのもあまりに印象深すぎて書けないんです。
松下 以前、日本についての長編小説を構想しているというインタビューを読んだことがあるのですが、どんな作品なのでしょうか?
ソローキン うーん……わたしはストーリーについてお話しないタイプの作家なのですが……。
客 (笑)。
ソローキン 書く前に言葉にしてしまうと、小説を書く意味が失われてしまうんです。
柳下 ということは、これから読める可能性があるということですか?
ソローキン あー……もちろん、可能ではあります。時間をかけて熟成させるべき大きなテーマなんですね。
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