2018.11.08

消費増税は「確定」したのか――「19年10月10%」について考える

中里透 マクロ経済学・財政運営

経済 #消費税#軽減税率

先月10月15日の臨時閣議で、安倍総理は2019年10月に消費税率を10%に引き上げることを表明した。このことは新聞やテレビで広く報じられ、大きなニュースとして受けとめられたが、この「表明」が意味することについての認識はさまざまであり、必ずしも共通の理解が得られているとはいえない状況にある。

この閣議での「表明」に際しては、消費税率の引き上げに伴う家計の負担軽減策や反動減対策などについても言及がなされたが、このような対策として検討が進められているものの中には、公平・中立・簡素という租税の基本原則からみて妥当とはいえないものも含まれている。

そこで、以下ではこれらの問題について、これまでの議論の経過を踏まえつつ、論点整理を試みることとしたい。本稿の主たるメッセージは、

・10月15日の「表明」の前後で消費税率引き上げに対する安倍総理のスタンスに不連続な変化が生じたわけではない。19年10月の税率引き上げが閣議決定されていない現在の状況のもとでは、予定通りの引き上げが「確定」したとはいえない(ただし、形式的には引き上げが「確定」している)

・外食を軽減税率の対象から除外することは、課税の中立性(課税が経済活動にできる限り影響を与えないようにするという租税原則)と公平性(異なる所得階層間などで税負担がバランスのとれたものとなるようにするという租税原則)のいずれの観点からも妥当な取り扱いとはいえない。外食が軽減税率の対象から除外されることで、消費税の税制としての簡素さも損なわれ、かつての物品税と同じような問題が生じてしまうことになる

・増税に伴う家計の負担軽減策や反動減対策として検討が進められている施策の中には、家計の負担軽減や反動減への対応を名目に別の政策目的を達成しようとするものが含まれている(マイナンバーカードを利用した地域振興券(プレミアム商品券)の発行やクレジットカードを利用したポイント還元など)。このような対応は、負担軽減策や反動減対策の所期の目的(消費の落ち込みの回避)の達成にとってマイナスとなるだけでなく、店頭での混乱などを通じて消費増税そのものに対する理解を得られにくくしてしまう要因となることが懸念される

・現時点において10%への引き上げ時(19年10月)の経済の状況を見通すことには困難が伴うが、昨年末あるいは今年の年初から景気に足踏みが生じており、海外経済の不安定さが増していることを併せて考えると、今後、停滞感が強まっていく可能性がある。消費税率引き上げの最終判断に当たっては、景気と物価の先行きに対する慎重な見極めが求められる

というものだ。以下ではこれらの点について順を追ってみていくこととしよう。

1.消費増税は「確定」したか?:消費増税の「行政学」

「2019年10月の消費税率引き上げは確定しているか」という問いに対しては、「すでに確定している」と答えることも、「まだ確定していない」と答えることもできる。これは一見するとおかしな話のように思われるかもしれないが、過去の経緯に照らすと、いずれの答えについてもきちんと整合性のある説明が可能となる。

法律上は「すでに確定」

「19年10月の引き上げは確定しているか」と問われた場合、一番簡単な答え方は、消費税率を19年10月に10%に引き上げる法案がすでに可決成立して施行されていることを根拠として、「すでに確定している」と答えるというものだ。10%への引き上げ時期(施行期日)を定めた「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(平成24年法律第68号)の改正法はすでに可決成立し、公布・施行されている(16年11月18日)。

したがって、今後新たに法改正の措置がとられない限り、消費税率は19年10月1日に自動的に10%に引き上がる。この意味では、「19年10月10%」はすでに確定しているということになる。

政治的には「予定は未定」

もっとも、この説明は多分に形式的なものだ。というのは、10%への引き上げの延期が表明された時も(14年11月18日)、再延期が表明された時も(16年6月1日)、上記の意味ではその時点で消費税率の引き上げがすでに「確定」していたからだ(当時予定されていた10%への引き上げ時期は、それぞれ15年10月1日と17年4月1日)。法律は法律で上書きすることができる以上、税率の引き上げが行われる日(施行日)の数か月前までは増税延期の決定が政治的には可能であり、したがって、この観点からすると「19年10月10%」という「予定は未定」(確定ではない)ということになる。

このことは、消費増税の再延期が表明された際の経過からも確認することができる。16年4月18日に開催された衆議院TPP特別委員会で消費税率の引き上げについて問われた安倍総理は、「消費税につきましては、今までも申し上げているように、リーマン・ショック級あるいは大震災級の事態にならない限り消費税は予定どおり引き上げていく、この基本的な考え方に変わりはないわけであります」との答弁を行っている。だが、それから1か月半後(16年6月1日)には延期の表明がなされたわけであり、このエピソードからも「予定は未定」であることが容易に理解されよう。

じつは安倍総理が19年10月の消費税率引き上げを表明したのは今回が初めてではなく、たとえば去年の10月22日にも民放のテレビ番組で、予定通りの引き上げを表明している。それにもかかわらず、今回の表明が特に注目されたのは、発言が閣議の席上だったということが影響しているかもしれない。

だが、10月15日の臨時閣議で閣議決定されたのは、平成30年度の補正予算案(第1号及び特第1号)のみであり、予定通りの消費増税実施という表明は、あくまで閣議の場での発言に過ぎない。安倍総理が消費増税の実施を「明言」したと報じた新聞もあったが、閣議での実際の発言は「消費税率については、法律で定められたとおり、平成31年10月1日に現行の8%から10%に2%引き上げる予定です」(「消費税率引上げとそれに伴う対応について(臨時閣議における総理発言)」(内閣官房)より引用)というものであり、この「表明」は法律に定められていることを淡々と述べただけのものだ。

消費増税の「確定」とは?

これらのことからすると、現時点では2019年10月の消費税率引き上げが「すでに確定している」と答えることも、「まだ確定していない」と答えることもできることになる。そうなると、次の問題は、消費税率の引き上げが確実に実施されることが決まるという意味で「確定」したといえるようになるのは、いつのことなのかということになる。この点については、消費税率の引き上げが実際に行われた時(1997年4月、2014年4月)の状況を振り返ってみれば、ひとまずの答えを導くことができる。

過去の経緯を確認すると、97年4月に実施された5%への引き上げについては96年6月25日に橋本内閣のもとで引き上げの閣議決定がなされており、14年4月に実施された8%への引き上げについては13年10月1日に安倍内閣のもとで閣議決定が行われている。これらは法律ですでに定められている消費税率の引き上げについて、予定通りの期日に引き上げを実施することを閣議決定したものである。

閣議決定は、対象とするそれぞれの事案について内閣としての正式な意思統一を図る手続きであり、それ以降の内閣の行為は閣議決定の内容に拘束されることになるから、閣議決定がなされた時点をもって消費増税が「確定」したと理解することには一定の合理性があるだろう。

この点からすると、19年10月に10%への引き上げを行うことが閣議決定されていない現時点では、消費増税はまだ確定していないということになる。11月2日の衆議院予算委員会での答弁でも「リーマン・ショック級の出来事が起こらない限り、基本的には引き上げる」(安倍総理) との説明がなされており、この説明の仕方は10月15日より以前のものと変わらない。すなわち、10月15日の表明の前後で、消費税率引き上げに対するスタンスに不連続な変化が生じたわけではないということが、ここからも確認されることになる。

2.公平・中立・簡素はどこへ?:軽減税率と反動減対策の問題点

消費税の「逆進性」に対する対応としては、特定の品目に対する軽減税率の適用よりも、低所得世帯などへの給付措置によることが望ましいことは、もちろん言うまでもない。だが、実際には軽減税率による対応が選択されている。となれば、現実的な判断としては、軽減税率の採用を前提としつつも、その中でできる限り公平・簡素で効率的な税制を維持していくことが重要ということになるだろう。だが、実際の消費税はこの点から見て理解しにくい方向に変化していくことが懸念される状況にある。ここでは、この点について考えてみることとしよう。

「外食」をめぐる混乱

「先生、遠足に持っていくバナナはおやつの300円に含まれるんですか」。これは小学校の遠足の微笑ましい光景として長く語り継がれてきたフレーズだが、19年10月に消費税の軽減税率が導入されると、同じような問題が多岐にわたって生じることになる。たとえば、

・発泡酒は10%(標準税率)、ノンアルコールビールは8%(軽減税率)

・本みりんは10%、みりん風調味料は8%

・屋台のラーメンは8%、駅の立ち食いそばは10%

・そばの出前は8%、ケータリング(出張料理)は10%

・ショッピングモールのフードコートでの飲食は10%、コンビニは店内のイートインコーナーを飲食禁止にすれば酒類を除く食品全品8%

というように(なお、これはあくまで原則で、実際に適用される税率はそれぞれの店舗の状況などによって上記とは異なったものとなる場合がある)。

消費税が導入される前に存在していた個別間接税、すなわち物品税においては

・歌謡曲のレコードは課税、童謡のレコードは非課税

・ゴルフクラブは課税、テニスラケットは非課税

・コーヒーは課税、紅茶は非課税

といったややこしい課税・非課税の区分があったが、軽減税率の導入によって、このようなややこしさが見事に復活することになる。

なぜこのようなことが起きるかといえば、軽減税率の対象となる「飲食料品」から酒類と外食が除外されているからだ。このうち酒類については、酒税法によって酒類についての明確な定義と分類がなされているから、みりんのような例外を除けば、それほど混乱は生じなさそうだ。

だが、外食については商品の性質自体による明確な定義が困難で、たとえば、屋台のラーメンひとつをとってみても、テーブル、椅子などを設置している場合にはラーメンの販売が「飲食料品の販売」ではなく「食事の提供」とみなされるため、軽減税率の適用が受けられないということが起こり得る。外食についてはこのような例に事欠かないため、「バナナはおやつの300円に含まれるのか」という問題をめぐる議論が、全国各地で繰り広げられることになるだろう。 

外食の取り扱いは実にやっかいだ。というのは、ファーストフード店やコンビニでの「イートイン」と「テイクアウト」(外食かどうかの区分)は購入者の意思表示によって決まり、しかも「テイクアウト」と言って商品を購入した人が店内で飲食を始めたとしても、イートインの場合の税額とテイクアウトの場合の税額の差額分を店側が追加で徴収することは困難であるからだ。このため、コンビニではこのような曖昧さを回避して飲食良品(酒類を除く)の全品を8%の軽減税率とするために、せっかく設置したイートインコーナーを、飲食禁止のスペースとして模様替えしないといけなくなるといった問題が生じてしまうこととなる。

「公平・中立・簡素」からの逸脱

このような混乱やコストの発生が予想されるにもかかわらず、外食を軽減税率の適用範囲から除外するという措置をとった背景には、「外食はぜいたく品である」との判断があったとされている。だが、この判断は十分な妥当性を持ち得ない。

現時点で予定されている取り扱いにしたがうと、マクドナルドでハンバーガーとコーヒー(現行では合計金額(税込み)が200円)を買って店内で食べる場合は標準税率の10%、デパートの食品売り場で20グラム1万2千円のキャビアを買って持ち帰る場合には軽減税率の8%が適用されることになるが、この場合にどちらが社会通念上「ぜいたく」と判断されるかを想起すれば、外食を一律に軽減税率の適用対象から除外したことには十分な合理性・妥当性がないことが容易に理解されるだろう。すなわち、課税の公平性という観点からは、外食を軽減税率の適用から除外することに十分な理由がないということになる。

ファーストフード店のハンバーガーがテイクアウトかイートインかで税率が異なることは、課税の中立性(消費税の場合には、課税の有無や税率の違いによって消費者が選択する商品の種類などに影響が生じることがないようにすること)という点から問題があり、このような区分をすることで消費税の制度が徒に複雑なものとなってしまうという点では、税制の簡素さも損なわれてしまう。

これらの点からすると、軽減税率の適用対象から外食を除外することについては、本来であれば見直しが必要ということになる。もし外食への軽減税率の適用が高級店で飲食をする高所得者への優遇になるという懸念があるということであれば、それは別の方法で対応することが可能である。2000年3月まで存置されていた特別地方消費税(1989年3月までは料理飲食等消費税)では一定金額以上の飲食(外食)について3%の税率で利用者から税を徴収することが行われており、税率や免税点などについて所要の見直しを行ったうえで特別地方消費税を復活させれば、消費税の簡素さを維持しつつ、「外食はぜいたく品である」との指摘にも対応できる税制が構築できることになる。

負担軽減策・反動減対策の「目的外使用」

消費増税に伴う家計負担の軽減策や反動減対策としては、地域振興券(プレミアム商品券)の交付や中小小売店での商品購入に対するポイント還元といった措置が検討されている。だが、これらの中には負担軽減策や反動減対策という名目で別の政策目的を実現しようという意図が見え隠れするものもある。地域振興券を紙の券面ではなくマイナンバーカードを利用して発行するという構想や、商品購入の際のポイント還元を中小小売店における決済のキャッシュレス化(クレジットカードの利用促進など)と結びつけて実施しようという構想がそれだ。

マイナンバーカードの普及促進や決済手段のキャッシュレス化自体は望ましい政策だとしても、それを消費増税に伴う家計の負担軽減策や反動減対策として実施するということは、負担軽減策・反動減対策の「目的外使用」という謗りを免れないだろう。消費増税に伴う消費の落ち込みを回避するために負担軽減策や反動減対策を実施するという趣旨からは、速やかに、かつ広範に施策の利用がなされ、それによって消費の喚起が行われることが重要であり、この観点からは誰でも利用しやすい簡便な仕組みであることが求められる。

だが、マイナンバーカードの形で発行される地域振興券の利用には、マイナンバーカードの発行申請という手続きが必要であり(マイナンバーカードの普及率は、2018年7月1日現在で11.5%)、クレジットカードを利用したポイント還元についても、クレジットカードを保持していない人にとっては発行の申し込みという手続きが必要となる。このため、このような方法によって負担軽減策や反動減多作を実施することは、消費の喚起という所期の目的にとってむしろ阻害要因となりかねない。マイナンバーカードやクレジットカードの利用を可能とするためには、事業者(販売者)の側で端末の設置などの準備と経費の負担が必要であり、この点からも利用の拡大に制約が生じる可能性がある。

これらの対策は負担軽減策や反動減対策の所期の目的(消費の落ち込みの回避)の達成にとってマイナスとなるだけでなく、店頭での混乱などを通じて消費増税そのものに対する理解を得られにくくしてしまう(むしろ抵抗感や嫌悪感を強めてしまう)ものとなることも懸念される

反動減対策と「活力ある日本の再生」のあいだ

ここで想起されるのは、東日本大震災からの復旧・復興費の「流用」をめぐるエピソードだ。復興増税は「今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合う」ことを謳って導入されたが、復興予算をもとに実施された施策の中には、東京スカーツリーの開業前イベントや山口県のゆるキャラ「ちょるる」のPR、鹿児島県の水田のタニシの駆除などが含まれていることが発覚し、大きな社会問題となった。このような「流用」が生じた背景には、東日本大震災復興基本法や復興基本方針に「活力ある日本の再生」というフレーズが盛り込まれ、被災地以外の地域の事業への予算の流用が「合法的に」行えるようになったことが背景にある。

消費増税への対応について、麻生財務大臣からは「経産省の、商工・中小・零細・小売業者等のところが、田舎で、魚屋で買い物をしたことがあるかしらないけれども、クレジットカードなんかでやっている人はいないからね。そういうところで現金で、かごの中から出してバッとやっていくという、あの中で、はい、8%、10%、還元なんていう話がどれだけうまくいくかという話は、これは主に窓口をやる経産省のところでいろいろやっていかなければいけないというところになってくるのだと思います」(18年10月16日の麻生副総理兼財務大臣記者会見)との見解が示されているが、このような指摘も踏まえ、くれぐれも本来の趣旨に即した慎重な対応がなされていくことが望まれる。

3.逆戻りは生じないか?:デフレ脱却と財政健全化の両立に向けて

消費増税に伴う負担軽減策や反動減対策が重視される背景には、14年4月の消費増税後に消費が大幅に落ち込み、3年近くにわたって停滞が続いたということがある。この消費の停滞は、駆け込み需要の反動減というよりは消費増税に伴う実質所得に低下によるところが大きい。したがって、消費増税が景気や物価に与える影響について考える場合には、増税に伴う直接的な負担増がどの程度のものとなるか、増税に伴う負担増を吸収できるような経済環境が整っているかを中心に点検を行えばよいということになる。

現時点において10%への引き上げ時(19年10月)の経済状況を正確に見通すことには困難が伴うが、上記の観点から今度の増税(10%への税率引き上げ)の影響についてみると、前回の増税(8%への税率引き上げ)の時よりも影響が小さいと思われる面と、前回よりも影響が大きいのではないかと懸念される面の両方がある。

前回よりも影響が小さいとみられる理由は、増税に伴う家計の負担増が前回よりも小幅なものにとどまる見通しであることによるものだ。今度の増税では税率の引き上げ幅が2%にとどまり、しかも軽減税率が導入され、教育無償化などによる給付措置も予定されている。日本銀行の試算によれば、消費増税に伴う家計のネットの負担増は、前回の8.0兆円に対し今度の増税では2.2兆円にとどまるものと見込まれており(日本銀行「経済・物価情勢の展望(2018年4月))、この点からは、増税が消費に与えるマイナスの影響は前回よりも小幅なものにとどまるものと予想される。

一方、前回よりも懸念される点は、増税時の景気の勢いが前回の引き上げ時よりも弱いものとなる可能性があることだ。昨年末あるいは今年の年初から、景気の動向や景況感を表す多くの経済指標において足踏みがみられ、足元ではやや下振れも生じている。これに加えて、海外経済についても中国経済の減速や一部の新興国における金融面での混乱などによる下振れのリスクが高まりつつある。

こうした中、消費増税などをきっかけに景気の停滞感が強まるようなことがあれば、物価の動きにもマイナスの影響がもたらされることになる。足元、コア(生鮮食品を除く総合)でみた場合の消費者物価は、前年同月比1%程度の上昇率となっているが、コアコア(食品及びエネルギーを除く総合)はほぼ横ばい(前年同月比の上昇率が0.0%ないし0.1%)で推移しており、基調的な物価の動きは依然として弱いままである(コアでみた場合の物価上昇は、エネルギー関連品目(ガソリン代、電気料金、ガス料金)と病院の診療費の上昇などによるところが大きい)。 

こうしたもとで景気の下振れが生じると、家計の節約志向が高まって買い控えが起こり、それに対応する形で企業の価格設定行動も慎重化することから、物価の基調がさらに弱含みで推移するようになる可能性もある。14年春の時点では1%台半ばに到達していたコア(生鮮食品を除く総合)の上昇率(対前年同月比)が、14年5月以降は鈍化して、年末以降は0%前半で推移するようになった経過を想起すれば、このようなことが現実に起こり得ることは容易に理解されよう(14年8月以降については、原油価格の下落に伴うエネルギー関連品目の価格低下を併せて考慮する必要があるが、14年の年央まではガソリン価格なども上昇が続いていたことに留意が必要である)。

物価が下落基調で推移し、円高が進展する中で、税収が7年ぶりに前年割れとなった16年度のことを想起すれば、税収にマイナスの影響が生じる可能性があることにも目配りが必要となる。

これらの点を踏まえると、消費税率引き上げの最終判断に当たっては、景気と物価の先行きに対する慎重な見極めが求められることになる。

ここまでみてきたように、19年10月の消費税率引き上げとそれに伴う対応策については、検討すべき数多くの課題が残されている。これらの課題について、落ち着いた環境のもとで誤りのない対応がなされていくことが望まれる。

プロフィール

中里透マクロ経済学・財政運営

1965年生まれ。1988年東京大学経済学部卒業。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)設備投資研究所、東京大学経済学部助手を経て、現在、上智大学経済学部准教授、一橋大学国際・公共政策大学院客員准教授。専門はマクロ経済学・財政運営。最近は消費増税後の消費動向などについて分析を行っている。最近の論文に「デフレ脱却と財政健全化」(原田泰・齊藤誠編『徹底分析 アベノミクス』所収)、「出生率の決定要因 都道府県別データによる分析」(『日本経済研究』第75号、日本経済研究センター)など。

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