2020.10.27

「女性にリーダーは向かない」というジェンダー・バイアスをなくそう

野村浩子 ジャーナリスト

経済

ポストコロナにこそ女性リーダーが求められる

もう元には戻れない――。コロナ禍を受けて、働く側も、企業も、そして自治体や自治体も模索が続く。過去の延長線上に、新たな社会は構築できない。社会を再構築するにあたって求められる重要な視点のひとつが、ジェンダー目線である。

政治の世界においては、女性活躍推進といいながらも、働く女性の「ケア労働」に対するフォローが欠けていたことが、今回のコロナ禍で明らかになった。働く女性は職場の仕事に加えて家事育児・介護といったケア労働を担い、ダブルワーク、トリプルワークになっている。日本はOECD諸国のなかで最も、有償労働は男性に偏り、無償労働は女性に偏っている。日本人女性の有償労働、無償労働を足し合わせた総労働時間は日本人男性よりも長く、OECD諸国のなかで最長である。付言するなら、日本人女性の睡眠時間は最も短い。女性が輝く社会というキャッチフレーズの裏には、女性が睡眠時間を削って無償労働を担う姿がある。

企業においては、今回のコロナ禍を受けて働き方の見直しが進んでいる。これまで在宅勤務は子育て中の女性社員のためという位置づけの企業もあったが、今回は一気に全社員に対象が広がった。性別、階層問わず広がったテレワークの実験的導入が、今後フレキシブル・ワーク(柔軟な働き方)を広げる契機となるだろう。これは正社員として働く女性にとっては追い風となる。ただし課題は山積だ。時間でなく成果で評価する仕組みをどう作るか、マネジメントの在り方をどう変えるか。在宅での仕事とケアワークとの両立をどう認めるのか。

一例を挙げたまでだが、政治の世界も企業も、そして地域社会も家庭も、ジェンダー視点で見つめなおしてみると、新たな社会を築く上での課題とヒントが見えてくる。むろんジェンダー意識の高い男性リーダーもいるが、より多くの女性リーダーを登用することにより、変化が加速していくだろう。

日本はジェンダー・ギャップ指数121位。政財界に少ない女性リーダー

では、日本における女性リーダーの現状はどうか。そのお寒い状況を表すのが、2019年12月、世界経済フォーラムが発表したジェンダー・ギャップ指数が153カ国中121位という結果である。過去最低の順位に沈み込んだが、その大きな要因が政治と経済分野における女性リーダーの少なさだ。

衆議院の女性比率は約10%と世界最低水準、全国市区町村議会では女性の議員ゼロが2割を占める。2020年9月に誕生した菅義偉政権の女性の閣僚も、わずか2人。カナダ、スペイン、フィンランドなど閣僚の半数を女性が占める国が出てきているなか、登用が遅れているのは明らかだ。

危機感を抱いた超党派の議員連盟などの働きかけにより、2018年5月、男女の候補者の数が均等になるように各政党に努力を求める「政治分野における男女共同参画推進法」が制定された。施行後初めての国政選挙となった2019年4月の参院選では女性候補者は28%と前回の25%をわずかに上回った程度。自民党の女性候補者は15%にとどまった。結果として、当選した女性議員は前回と同数という結果となった。罰則規定のない努力義務では、男女均等の実現には効力がないことが実証されることとなった。

経済界でも、女性管理職比率は11.9%にとどまる(厚生労働省、2019年度「雇用均等基本調査」)。政府は2020年に、あらゆる分野で指導的地位に占める女性の割合を30%にしようという目標を掲げ「202030」という掛け言葉をかけてきたが、残念ながら目標未達は必至だ。ちなみになぜ30%かというと、ある集団の中で少数派が30%を超えると意思決定に影響を及ぼすようになるという、米ハーバード大のロザべス・モス・カンター教授の黄金の3割理論によるものだ。

女性の役員比率をみると5.2%(2019年7月末現在、東洋経済新報社「役員四季報」)。欧米の2~4割に比べると、その差は明らかである。ただし人数は10年で4倍に増えている。役員増のきっかけは、2013年に安倍晋三政権が成長戦略のひとつとして女性活躍推進を掲げ、上場企業に「最低ひとりは女性役員を置くように」と産業界に要請をしたことだ。さらに2018年改訂のコーポレート・ガバナンス・コード(企業統治指針)で女性取締役を登用することを促し、もし実行できない場合は投資家への説明を求めたことも、女性取締役増の後押しとなった。

海外では女性リーダー不在への危機感が高い

近年ではESG投資の観点からも、女性取締役を求める機関投資家の声が高まっている。女性取締役のいない場合、株主総会で社長の選任などに反対票を投じる海外機関投資家も現れた。そこまで女性取締役を求めるのは、なぜか。一つには、企業統治の強化である。経営陣が均質な集団だとグループシンキング(集団浅慮)が起き、リスクが回避できないという。その典型例が、リーマン・ショックだ。リーマンブラザーズの経営陣が、男性、アングロサクソン、白人と極めて均質な集団であったために、危うい経営判断に歯止めがかけられなかったとされている。

もう一つは、女性取締役を迎えることが業績向上につながるという期待だ。実際に女性取締役比率の高い企業ほど業績がいいという分析が様々発表されている。マッキンゼー・アンド・カンパニーの2018年のレポートでは、経営陣に占める女性の割合が多い企業上位25%と下位25%を比較したところ、企業の収益性を示すEBITマージン(金利税引前の利益であるEBITを売上高で割ったもの)が前者のほうが2割も高いことが示されている。ただし、女性役員をひとり登用すれば業績が向上するといった単純な話ではない。性別、年齢問わず優秀な人にチャンスを与え、意思決定層を多様化している企業は業績が伸びる、ということだろう。属性や経験が異なる知と知がぶつかり合うことで新しいものが生まれるのだ。

欧米では、女性リーダー不在への危機感が強い。現状のままではあらゆる分野で男女平等を実現するのに99.5年かかると世界経済フォーラムは試算している。男女間格差を是正するため、変化を加速させる必要があるとして各国が導入するのが、ジェンダー・クオータ制(割当制)だ。

政治分野でいえば、議席の一定割合を女性に割り当てることを法律で定める「議席割当制」、議員候補者の一定割合を女性または男女に割り当てる「法的候補者クオータ制」、政党による「自発的クオータ制」などがある。現在世界の約6割、100を超える国と地域で導入されている。議会に占める女性割合は世界平均で約24%(2019年1月、列国議会連盟調べ)、この25年間で女性議員数が倍増したのは、クオータ制導入によるものとされている。

経済分野では取締役会に占める女性の割合を3割以上、4割以上とする「女性役員クオータ制」の導入が、欧州で進んでいる。欧州連合(EU)は2013年秋、欧州議会で欧州全体の上場企業に「2020年までに社外取締役の40%を女性にすべし」という指令案を圧倒的多数で可決した。その後理事会で通らなかったため、欧州全域でのクオータ制は実現しなかったものの、押し付けを嫌った各国が独自にクオータ制を導入。今や女性役員比率2~4割に達する国が多い。なぜ、クオータ制などという強硬策まで講じて、女性役員を増やそうとしたのか。それは欧州経済危機を受けて「女性の力を生かさないと、この経済危機を乗り切ることはできない」と考えたからだ。

これを現在のコロナ危機に当てはめて考えるとどうか。日本はこれまで不況を迎える度に「女性活躍推進などと悠長なことを言っていられない」と後退してきた。果たして今回はどうだろう。「女性の力を生かさないと、このコロナ危機を乗り越えることはできない」と考える企業は再生へのステップを踏み始めるのではないか。 

 

リーダーは男性向きというアンコンシャス・バイアスをなくそう

 

政財界でなぜここまで女性リーダーが少ないのか。その一因として「リーダーは男性向きである」という「アンコンシャス・バイアス」があると考えらえる。

アンコンシャス・バイアスとは、日本語でいうと「無意識の偏見」。いわば無意識のうちの刷り込みである。これは100%悪いわけではない。これまでの仕事の経験から得た刷り込みで素早く判断して効率性を上げるといった利点もある。問題は差別などマイナスを生む刷り込みだ。先進国のダイバーシティ推進企業がいま問題意識をもつのが、性別、人種や国籍などに関するアンコンシャス・バイアスにより、採用、評価、昇進昇格などで差別をしてしまうことだ。アンコンシャス・バイアスのなかでも、ジェンダー(社会的性差)に関するバイアスを、「ジェンダー・バイアス」という。

筆者は2018年に大手企業25社約2500人を対象に、リーダーシップの性差とジェンダー・バイアスに関する調査を行った(桜美林大学講師、川崎昌氏との共同研究)。「野心的である」「愛想がいい」といった特性語38に対して、「女性として望ましい」「男性として望ましい」「組織リーダーとして望ましい」の3分類で望ましさの程度を7件法で回答してもらった。その結果、男性として望ましい、リーダーとして望ましい特性は「責任感がある」「行動力がある」「説得力がある」など重なりが多かったが、女性として望ましい、リーダーとして望ましい特性で共通するのはわずかで「責任感が強い」「自立している」のみだった。回答者の性別、階層別でみても同じ傾向だった。ここから分かるのは「リーダーは男性向きで、女性には向かない」というバイアスがあることだ。

こうしたバイアスがある限り、女性自身が無意識のうちに上を目指すことにブレーキをかけることになりかねない。組織内評価でも意図せずとも「女性らしさ」と「リーダーらしさ」の異なる2つの軸で印象をもとに評価してしまう可能性もある。力強いリーダーシップを発揮している女性を、無意識のうちに「女性らしくない」とマイナス評価してしまう可能性もある。登用にあたっては「管理職にふさわしい女性がいない」という言葉がよく聞かれるが、この言葉の裏にもまた「リーダーは女性には向かない」というジェンダー・バイアスが潜んでいるかもしれない。「リーダーは男性向きで、女性には向かない」というバイアスを取り除かない限り、女性リーダーの登用はおぼつかない。

プロフィール

野村浩子ジャーナリスト

1962年生まれ。84年お茶の水女子大学文教育学部卒業。日経ホーム出版社(現日経BP)発行の「日経WOMAN」編集長、日本初の女性リーダー向け雑誌「日経EW」編集長、日本経済新聞社・編集委員、淑徳大学教授などを経て、2020年4月東京家政学院大学特別招聘教授。財務省・財政制度等審議会委員など政府、自治体の各種委員も務める。著書に「女性リーダーが生まれるとき」(光文社新書)、「未来が変わる働き方」(KADOKAWA)、「定年が見えてきた女性たちへ」(WAVE出版)など。

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