2016.03.28

ロビイングで社会を変える

『誰でもできるロビイング入門』著者、明智カイト氏インタビュー

情報 #ロビイング#新刊インタビュー#誰でもできるロビイング入門

政策を実現したいのであれば、政治家ではなくロビイストになれ――暗黙のルールになっていたロビイングのルールとテクニックを紹介した『誰でもできるロビイング入門』が話題だ。選挙やデモとは異なる社会の変え方について、著者の明智カイト氏に話をうかがった。(聞き手・構成/山本菜々子)

ロビイングってなに?

――明智さんは、LGBTなど性的マイノリティの自殺対策、いじめ対策をしている「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」の代表をしながら、認定NPO法人フローレンスでもロビイストとして活動されてます。初の単著を出すと伺い、LGBTではなく、ロビイングの方で出すんだと意外な感じを受けました。

今回、この本を書いたのはあまりにもロビイングについて取り上げたものがなかったからです。本では、私のほかに、自殺対策に清水康之さん、病児保育・待機児童問題に駒崎弘樹さん、いじめ対策に荻上チキさん、児童扶養手当削減の反対に赤石千衣子さんと、それぞれのロビイングについてインタビューをしました。

私もそうなのですが、やはりメディアで発言するときは自殺やLGBTなど、それぞれのイシューの問題点についてばかりです。ロビイングの話をすることはありませんし、ロビイングそのものに関する取材もほとんどありません。

その上、ロビイングの技術はこれだけITが発達しているのに口頭で伝えられてきました。そもそもだれも記録を取っていない。ですから、ロビイングってなに? ロビイストって何してるの? と思っている人が大半でしょう。

――未確認生物のような存在になっているんですね。

そうですね。荻上チキさんは本書の中で「概念をつくる」と言っています。たとえば、「マタハラ」や「ブラック企業」という概念をつくることによって、社会問題が可視化される。ロビイングも同様で、今まで知っている人だけが知っているものでしたが、今回の本で可視化されることを狙いました。

よく「おれが選挙にいっても政治は変わらない」「デモじゃ政治は変わらない」という人がいますが、選挙やデモだけではなく、ロビイングという手段もある。民主主義の一つの方法であるにも関わらず、暗黙のルールになっているのは、政治において損失だと思っています。

そのために、必要な人が知りたいと思ったときに、すぐ手に取れる新書というかたちで世に出したかった。たしかに、ロビイングは難しいかもしれませんが、情報にすらアクセスできないのはおかしい。

――「政策を実現したいのであれば、政治家ではなくロビイストになれ」という一文が非常に興味深かったです。そう思われるきっかけはあったのでしょうか。

私がはじめて政治に興味を持ったのは郵政選挙後の小泉政権の時でした。その頃は、政治家ブームというのか、多くの若者が政治に興味をもっていました。私の中では、政治=議員でしたので、都議会議員の元で議員インターンシップを行うことにしたんです。

実際にやってみると、細かな仕事の多さに驚きました。支持者が参加している小さな会合を毎日いくつも回り、挨拶をして名刺を配る。いくつもの報告会に顔を出す。秘書の方や後援会の方が名簿をつくったり、報告会の参加不参加を電話したり、とにかく事務作業が多かったんです。

政治家はとにかく忙しい。そして、いろんな方に支えられている分、しがらみが多い。立場上思ったことを主張していくのが難しい。政治家なのに、政策のことを考えられる余裕がないように見えました。私としては、純粋に政策だけにコミットしたかった。そこで知ったのがロビイストの存在でした。

通常私たちは、国会の審議で賛成や反対を知ることができます。しかし、国会に法案が提出されるまでには様々な動きがあります。まずは、政党の中で採決をする。超党派議連をつくって各党の意見をすり合わせる。その一番のスタートがロビイングです。

国会議員だけでは、それぞれの立場があるので、議論は進んでいきません。そこで、人間関係を調整していく必要があります。国会議員も官僚もメンツを気にする人たちなので、第三者が入らないとメンツが保たれないのです。その中で、シンポジウムを開いたり、メディアに働きかけ問題提起をしてもらうこともあれば、内密に進めていくこともあります。

困っているからロビイングする

――当事者ならではのロビイングのむずかしさはありますか。

ありますね。たとえば、私の場合はLGBTの当事者です。ロビイングをする際には、メディアに訴えることもありますが、基本的には顔や名前を出す必要があります。私はたまたまカミングアウトできる状況でしたが、周囲の状況によっては公にできない場合もあります。また、何かしらの障碍を持っている方や難病の方の場合は、物理的に国会にいけない場合もあるでしょう。

また、どのように自分が困っているのか説明しないといけません。私は自分の自殺未遂の話をなんども議員や官僚たちの前で話しました。自分の過去や体験を説明するのは非常に難しいですし、辛いと感じる方もいるでしょう。そもそも、困っているからロビイングをするわけですから。

日本では当事者やその家族がロビイングを行っていますが、アメリカでは職業としてのロビイストがいて、給料を貰っています。このように非当事者の人が仕事の一環としてやっていく方が効率がいい。

『誰でもできるロビイング入門』を書いていて矛盾するようですが、やはりロビイングは一朝一夕でできるものではありません。ロビイングには細かいルールが沢山あります。法律も勉強しなければいけないし、どこから話を通していくのか、書類のフォーマットも決まっていますし、勘所もある。ただでさえ大変な状況なのに、並走してやっていくのはかなり体力がいるからです。もっと日本でもロビイストが一般的な職業になってほしいですね。

――政局によってどの程度影響されるものなのですか。

すごく影響されますよ。いろんな政治家と手を組みます。政党間で異動する人も多いです。ロビイングで一番やりやすいのは、政権交代しないことです。私は2度の政権交代を体験していますが、本当に大変でした。またゼロから作り直さないといけない。

最近は議員定数の削減が議論されていますが、非常に疑問を感じています。なぜなら、政治家は私たちの代表であるわけですから、その人数を減らすとその分損するのは私たちです。

もちろん、私たちの代表と言えるのか?という人もいます。たとえば、選挙である党が大量に当選した場合、比例で名前だけ載せた人が受かることが問題視されています。それは今の選挙制度が悪いのであって、議員の数とは関係ありません。

それに、いま政党の数が多くて超党派でやることがとても大変です。基本的に議員立法は超党派でやります。政党が増えたり減ったりするとそれだけ手続きが煩雑になります。みんな、政党が多いほうが多様な意見をくみ取れると言いますが、あまりにも政党が多いと議論は進んでいきません。

実際に、政党に話を通しているのに、党内で分裂することがあります。党内では、代表がいて、執行部があっていろんな役職の人がいて、手続きが進んでいきますが、政党が分裂・合併するとそのプロセスをもう一度踏まないといけなくなります。何のための政党なのか……と思ってしまいます。小さな政党は多様な意見を形成するためではなく、政党交付金をもらったり、自分の保身のためにあるのではないかと思ってしまいますね。

確かに、小さな政党は話を聞いてくれるかもしれませんが、基本的に何かするのは難しい。国会の中には委員会がありますが、5人しかいないとイシューもたくさん持てない。大きい政党の方がいろんな委員会に人がいますし、委員もいますので話は吸い上げてもらいやすいです。

よし、ロビイングしよう

――ロビイングする際に気を付けることはなんでしょうか。

ロビイングには鉄則があって、与党に行ってから野党に行く。これは、仁義みたいなもので、野党から行くと「失礼」となってしまう。断られてから野党に行けばいい。やはり、どれだけイシューが正しくても、まわる政党の順番が間違ってしまうとそれだけで賛成できなくなってしまう。

やはり政治なので、党内手続きを踏めるのかどうかが大事なんです。自民党の人は「なんで与党なのに、うちからこないの?」という感覚ですし、議員には当選回数による序列もあります。一般の市民からすると、「知らないよ」って思われるかもしれませんが、政治家には政治家のルールがある。

それさえきちんと守っていれば、賛成か反対かは別として話は聞いてくれます。自民がダメなら公明党から自民に働きかけてもらう。今のところ、自民党が賛成するマイノリティや弱者の問題に野党が反対することはほとんどありません。

このように細かい決まりが沢山ある。そんな細かいことで、はじかれてしまうともったいないから、この本では明文化しようと思いました。

――この本を読んで、「よし!ロビイングをしよう!」と思いたったとき、まずは何をすればいいでしょうか。

地元の選挙区にいる国会議員に会いにいけばいいと思います。一票を持っているわけですから。政治家の仕事は自分の地域の有権者の声を聞くことです。そのために様々な場所に足を運んでいます。ですが、今は話を聞く人たちが固定化されています。

政治家の人も、いろんな声を聞きたがっていますが、なかなか聞ける機会がない。いきなり、ロビイングやロビイストというと難しいように聞こえますが、政治家は私たちの代弁者です。議会で代弁するのが政治家の役割なのです。

ですが、今は「政治家が悪い」と言われているだけになっています。ですが、本当にそうなのでしょうか。そもそも私たちが使いこなせていないだけなのかもしれません。せっかく私たちの代表なのですから、使って使って使い倒さないといけない。

今の日本は、まだ市民と政治家をつながりが薄いです。この間を埋めていくのがロビイングなのでしょう。もっとロビイングが世の中に浸透していけば、少しずつ日本の民主主義も変わっていくと考えています。

プロフィール

明智カイトNPO法人市民アドボカシー連盟代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。中学生の時にいじめを受け、自殺未遂をした経験から「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、ホワイト企業の証しである「ホワイトマーク」を推進している安全衛生優良企業マーク推進機構の顧問などを務めている。

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