2013.06.10

<悪魔の代弁人>を立てるかどうか、クライアントこそ問われている

『したたかな韓国』著者・浅羽祐樹氏インタビュー

情報 #慰安婦#朴槿恵#悪魔の代弁人#新刊インタビュー#したたかな韓国#竹島#独島イン・ザ・ハーグ

慰安婦問題、竹島領有権紛争、在日コリアンに向けたヘイト・スピーチなど、さまざまな問題が浮上している韓国と日本。政治学者の浅羽祐樹氏は初めての単著である『したたかな韓国:朴槿恵時代の戦略を探る』(NHK出版新書、2013年)において、これからの日韓関係を考えるためには戦略とインテリジェンスが必要だと説いている。そのなかでもとくに重要と思われる<悪魔の代弁人>を中心に、本書についてのインタビューをおこなった。(聞き手・構成/金子昂)

<悪魔の代弁人>を立てて主張を鍛える

―― 本書は政治における戦略に注目して韓国や日韓関係について論じていらっしゃいます。とくに<悪魔の代弁人>という思考法は、政治だけでなくあらゆる局面で重要なものだと思いました。そもそも<悪魔の代弁人>とはなにかをお話しいただけますか?

<悪魔の代弁人(devil’s advocate)>とは、もともとカトリック教会において、ある人物を聖人と認めるに値するか否かを審問するさいに、あえて疑問や反論、批判だけを提示する役回りのことです。勝負事や交渉にのぞむ前に、みずからの論理や証拠の弱みをあらかじめ徹底して洗いだすことで主張を鍛え上げる。そんなアプローチです。

昨年、わたしが山口県立大学で受けもっている「国際関係論」という授業に、外務省で海賊対策の仕事をしている外交官の友人をまねいて講義をしてもらったことがあります。一年生にこんな話をしてくれました(詳しくは「『航行の自由』と陸での『船』造り」をご覧ください)。

海洋国家の日本にとって「航行の自由(freedom of navigation)」は死活的に重要です。「navigate」とは「行き先を定める」ことです。船長としては、まずは、海賊がでそうな場所をしっかりと見定めることで、かなり難をのがれることができるそうです。とはいえ、それでも、まったく遭遇しないというわけではありません。

そのとき、海賊にでくわしてから対応しようとしているようでは、積荷を奪われたり、拿捕されたりと、一大事になってしまいます。どれだけ避けようとしても、リスクをゼロにはできないのだから、大海原にでる前、陸にいるあいだに、船に簡単にのぼってこられないようにしておくとか、武装した警備員を常駐させられるように法改正をするといった準備をしておく必要があります。そもそも、海賊がでないようにするには、陸での治安回復やガバナンスがもっとも重要だそうです。

この心構えは実際の海だけでなくて、学生一人ひとり、わたしたちの人生もまったく一緒です。瀬戸内は鏡のように静かで穏やかな海ですが、かつては倭寇がいきかっていましたし、今日でも太平洋とつながっていて、いつ荒れるかわかりません。大学をでて今後ずっと安定した仕事があるとはかぎりません。港にいるあいだに、みずから行き先を見定めつつ、自分の船を造ってください。そのとき、べつの港では自分とは違うタイプの船造りをしている船長がいるということも知っておいてください。こんなアドバイスをしてくれたんです。

これは竹島の領有権紛争についても一緒です。「いざハーグ(国際司法裁判所)」となってから準備を始めていては手遅れになってしまうかもしれません。交渉事にのぞむ前に、相手側がどのようにでてくるか、トコトン考えなくてはいけませんし、プレゼンをするときはあらかじめみずからの弱みを徹底的に潰し終えてから、本番にいどまないといけません。「戦場」にでる前に、みずからが<悪魔の代弁人>となって備えをつねにしておこう、ということです。

本書ではわたしが、日本にとっての<悪魔の代弁人>になっているわけですが、<悪魔の代弁人>を悪魔と短絡すると、まるでわたしが韓国を礼賛しているようにみえてしまうでしょう。そうではなくて、「ああ、韓国がこんなに戦略を練っているなら、それに応じて日本も考えなくては」と思っていただけると嬉しいですね。

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わかりやすい一本調子の論理より、複数の論理を

―― <悪魔の代弁人>を立てるとき、どんなことに気を付けなくてはいけないでしょうか?

当代最高の代弁人が相手側にもついているとみなすことが大切です。自分だけでなく、相手側も<悪魔の代弁人>を立てて弱みを潰しているのだと見立てなくては、傲慢で不誠実な態度になってしまいます。

クライアントの姿勢こそが、じつは、一番問われているんです。一本の筋道だけ考えて「これで必ず勝てる!」とみょうに強気な弁護士と、それでかりに負けてしまった場合にも対応できるように第二、第三の複数のシナリオを想定している弁護士のどちらが優秀でしょうか。

ややもすれば、前者の弁護士はわかりやすく、威勢がいい話をするので、つい頼れる人だと思ってしまいがちなのですが、冷静に考えれば、「この立論だけで竹島も尖閣も勝てるんですよ!」といっている弁護士なんて危なっかしくて、とてもじゃないけど雇わないと思うんです。

「主位的主張」と「予備的主張」という法律の用語があります。主たる主張が崩れてしまっても、それとはべつに予備的に準備しておいた主張で巻き返すことのできる人、あるいはたとえ負け戦になることが必至でも、ダメージを小さくするためにディフェンスするチャンスをひろげる弁護士のほうがいい。一つ目の堤防が決壊しても、次の堤防、さらにその次の堤防が用意されている方がいいわけです。

ちなみに、主位的主張と予備的主張のあいだには論理的な食い違いがあっても問題ないんです。同時には成立しない立論をして全然構いません。だから複雑にならざるをえず、わかりやすい主張が好きなクライアントからすると優秀な弁護士にみえないのかもしれないけれど、本当に頼りになるのは誰なのか、しっかりと見極めないといけないわけです。

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フィクションを受け入れよ

―― 日本は<悪魔の代弁人>を立てられていると思いますか?

そのはずです。日中間で尖閣諸島をめぐる問題が生じたとき、外務省のホームページに「日中関係(尖閣諸島をめぐる情勢)」というまとまった文書が掲載されました。これを読んで合理的に考えるかぎり、行政官僚だけで書いているとは思えないんですよね。専門家を集めて、いろいろ綿密に戦略を練っているんだと思いますね。

日本はまだまだ経済大国ですし、教育水準も高い国です。この類の問題にたいして、戦略を立てていないと考える方が不自然です。

―― ただ、先の橋下大阪市長の発言しかり、石原前都知事の尖閣諸島買い取りの話しかり、はたからみると戦略的とは思えない動きもみられましたが……。

争点やこれまでの経緯についてよく知らない部外者が、主観的にはよかれと思ってしゃしゃりでてきたところ、国際ルールと違うところで「独自の戦い」をしてしまって、客観的には国益を傷つけてしまいました。威勢のいい言動さえすればなんでもまかり通ると思っている人がでてくるとかえって損をしてしまうことがあるということです。

それは韓国にとっての「独島」についてもいえることで、それまで通り静かに支配していればよかったのに、2012年8月に李明博前大統領が竹島を上陸することでむしろ、当事者間だけでなく国際的にも領有権紛争の存在が一気に注目されるようになってしまったわけです。

グーグルのトレンド検索にかけるとわかりますが、「島根県の竹島」という表現はこのとき生まれたんですね。それ以前は、そもそも島根県の位置ですら半数近く日本人が正確には知らなかったというのに(苦笑)。

この竹島上陸という、いっけん威勢のいい行動を通じて、韓国としてみれば、日本人のみならず国際社会にたいして、「韓国は、『独島』は韓国領であって外交交渉も司法的解決も必要ないといっているけれど、実際は日韓間には領有権紛争があるんだな」とはからずも知らしめてしまったんですよね。

―― 綿密に戦略を練っている人がいる一方で、事情を知らない人が騒ぎ立てて、むしろ不利になってしまっているわけですね。

双方、内政上の理由もあったと思いますが、慰安婦問題も竹島領有権紛争もそもそも二国間の問題というより国際的な問題なので、事情をよく知らないプレイヤーが首を突っ込むとたいへんなことになるんですよね。

威勢よく本音を喋っていると格好よくみえるかもしれません。でも国際社会ってある種の擬制のうえで成り立っているんですよね。1952年4月28日のサンフランシスコ講和条約にしたって、極東国際軍事裁判の判決あるいは裁判結果を受けいれるということで主権を回復し、国際社会に復帰しているわけです。

そりゃいろいろといいたいことはあると思います。「勝者の裁きだ」とか「遡及法はけしからん」とか。その通りだとも思いますが、とにかくそれを全部受けいれているということになっているわけです。だから、それをくつがえすような言動、たとえば「侵略戦争の定義がよくわらない」とかいまさらいっても仕方がないわけです。「~~ということになっている」という擬制、フィクションを粛々と受けいれることで、そもそも戦後日本の政治外交が成り立っているわけですから。

でないと、アメリカからしたら、みずからリードしてきた戦後の国際秩序にたいして挑戦しているのは、いままでは中国だとうつっていたのに、「日本よ、お前もだったのか!」になってしまいます。中国はそういうところは賢いですから、「日本こそ歴史修正主義で挑戦国だ!」とすでに宣伝戦を繰り広げています。

ただ皮肉なことに、今回の橋下市長による一連の発言で唯一よかったことは、一地方の首長でまだ野党の共同代表にすぎない人物が地雷のありかをはっきりとしめしてくれたことですね。「そこを歩くと自爆するんだ」ってことが誰の目にもあきらかになりました。もしこれを政権与党のトップがやっていたらと思うとぞっとします。あの騒動を契機に、あきらかに、安倍総理はいろいろな言動を修正しましたよね。政治的な教訓は残りました。

韓国も<悪魔の代弁人>を立てている

―― もちろん韓国も<悪魔の代弁人>を立てていると考えたほうがいいわけですよね。

もちろんです。

韓国は「独島」領有権について、いっけんするとシンプルなことしかいっていません。「韓日間に独島をめぐる領有権紛争は存在しません。それゆえ外交交渉も必要なければ、国際司法裁判所をふくむ司法的解決にゆだねる必要もありません」と。日本の尖閣諸島にたいする主張と同じです。

でもじつは、非常に用意周到で、オランダのハーグにある国際司法裁判所に行くかもしれないという万が一の場合も考えて着実に準備をしているわけです。たとえば、韓国の外交部は、『独島イン・ザ・ハーグ』という小説で、日韓が竹島の領有権をめぐってハーグで法廷論争を繰り広げる様子を見事に描いた鄭載玟という現役の若い判事を独島法律諮問官としてスカウトしています。

かれが任官する直前に、「わたしは韓国の主張を擁護するのではなく、むしろ日本側に立って韓国の主張を徹底的に潰そうとする。それでも残るような論理と証拠こそが、いざというときに有用だ」といっていました。まさに<悪魔の代弁人>で、韓国政府はあえてそうした役回りを演じさせるクライアントというわけです。スカウトは「斥候」のことで、戦場で前線の様子をいちはやくつかむということですし、スカウトのモットーは「備えよ、常に」です。

実際、本当になにをやっているのかはっきりとはわかりませんが、かれは任官したあともツイッターを続けていて、「シンガポールを訪問しています」とつぶやいていたりします。公開情報でも、一つひとつピースをつぶさに集めると「一枚絵」がみえるときもあって、どんな目的の訪問で、なにをしているのかが推論できたりするんですね。

べつの例ですが、韓国では学校教育の場で、子どもたちに粘土で「独島」の模型をつくらせたり、「独島は我が地」という歌をうたわせたりと、熱狂的な「独島」教育や「反日」教育をしているのではないかという疑いがあるかもしれません。一部だけみると、確かに、いたいけな児童にたいしてただひたすら「独島は韓国領である」と結論だけをすりこんでいるという印象をもつと思います。

しかし、こんな可能性もあります。小学生にたいする「独島」教育のなかで、1900年の勅令41号が教えられています。勅令41号とは、韓国側にとって「独島」が韓国領であることの論拠となる大事な文書のひとつで、「石島」を管轄すると記しています。この「石島」がいまの「独島」だというのが韓国の主張で、方言までもちだして名称の変遷について説明しています。

もちろん、本当に「独島イン・ザ・ハーグ」になったときには、15名の判事にたいして英語やフランス語で、方言による名称の変遷を論拠として訴えかけてもまったく通じないでしょう。韓国だって当然それはわかっています。ですから「石島」が「独島」であると明示している文書や、韓国の公権力が行使されていた――税金を取り立てていたとか、外国人を排除したとか――証拠を政府傘下の研究機関の研究者に必死に探させています。

わたしも、勅令41号についてこうした法的な論点まで韓国では子どもたちが学んでいるとは、正直思っていません。しかし、ここで肝心なことは、少なくとも理論上はそうした可能性があるということですし、優れた<悪魔の代弁人>であればあるほど、相手もそうだと見立てるということです。

日本だってもちろん、名前の移り変わりに対しては、「立証責任は韓国側にあって、証拠をださないと韓国側の主張は意味がない」と突っ込みをいれていますが、そこだけが論点じゃないこともわかっています。このように、ある主張が崩れた場合でも、べつの主張を複数構えている。これこそが戦略的に戦いにのぞむというものです。

専門知識がなくても<悪魔の代弁人>を立てることはできるのか?

―― 読者でも<悪魔の代弁人>を立てて竹島問題を考えることはできるのでしょうか?

一定のトレーニングを受ければ、誰でもできるようになります。昨年度、大学の「国際情勢」という教養科目で、「竹島イン・ザ・ハーグ」「独島イン・ザ・ハーグ」を素材にディベートのトレーニングをやってみました。

もちいた資料は日韓両国の政府の立場がしるされた広報パンフレットで、日本側の『竹島問題を理解するための10のポイント』と韓国側の『韓国の美しい島、独島』(日本語版)です。

まずは、個別の論点について時期ごとに3つにわけて日韓の主張を確認するところから始めました。1つ目は、17世紀。日本は遅くても17世紀なかばには竹島の領有権を確立していたと主張している反面、韓国は世紀末におこった安龍福事件で日本が竹島の領有権を放棄したと主張しています。2つ目は、東アジアが近代国際秩序のなかに再編されていく20世紀初頭。1900年にだされた勅令41号か、1905年の島根県への編入措置か、が焦点です。3つ目は、戦後の国際秩序の根幹を形作ったサンフランシスコ講和条約での取り扱われ方です。

それぞれの主張を確認したうえで、つぎは、論点ごとに、双方の立場に順次立って、立論したり反論したりします。そうすることで、互いの主張のどこが対立しているのか、さらには、それぞれの主張のどこに矛盾や弱みがあるのかに次第に気付いてきます。

最後には、3つの論点のあいだで筋が通った立論、いわば3つの団子に一本の串が突き通るような訴状を、やはり日韓それぞれの立場から書かせてみました。これがなかなか立派な書面で、驚きました。

授業が進んでいくにしたがって、「この条件が満たされると日本の方が有利だ」とか、「勅令41号を裏付ける証拠がでてきたら、韓国がいうように、1905年の島根県への編入は『植民地支配の最初の犠牲者』ということになる」とか、前提条件におうじて結論が変わりうるということが社会福祉学部や看護栄養学部の学生でもわかるようになりました。教養科目として手応えのある授業で、教員冥利に尽きるものでしたね。

<法ならぬ法>「国民情緒法」と慰安婦問題

―― 本書の第4章では、慰安婦問題についてお書きになっています。とくに、韓国では憲法の上位に、国民の感情を考慮する「国民情緒法」が<法ならぬ法>として存在するという話はとても興味深かったです。

2011年に京都でおこなわれた野田前総理と李明博前大統領の日韓首脳会談で、李前大統領は「慰安婦問題は法以前に、国民の情緒、感情の問題である」とのべています。日本は「完全かつ最終的に解決されたこととなる」という日韓請求権協定で慰安婦問題は「法的には解決済み」という立場をとっていますが、韓国は、「その後に明らかになった問題なので、未解決のままだ」という立場で、両国間で協定という名の法をめぐる解釈が食い違っています。「完全かつ最終的に解決されたこととなる」というのもある種の擬制で、それを受けいれるかどうかです。

李前大統領の発言を善意で解釈すれば、「国民情緒」を強調することで、慰安婦問題の解決は法ではなく政治でやろうとせまっていたといえます。つまり日本が請求権協定で解決済みという法的立場を崩せないことはわかっているからこそ、政治的にアプローチしようというシグナルとしても読み解くことができます。

―― 本書を読んでいると、李前大統領のあの行動は「早くなんとかしようよ」という焦りがあったのではないかと思いました。

むしろそういうことですよ。

李前大統領は、「韓国政府が慰安婦問題についてなにもしないのは違憲である」という自国の憲法裁判所の判決によってあのような行動にでたわけですが、この判決は、いまの朴槿恵大統領も当然拘束します。つまり彼女もなにか行動しなくてはいけないのです。

朴大統領の行動準則は「約束と信頼」です。政治や外交において、相手が本当はなにを考えているかなんて永遠にわからないじゃないですか。とくに北朝鮮や日本にたいする不信感が根強く存在しています。そのなかで「信頼外交」をしていくわけですから、まずは約束にもとづいて相手が行動するかどうか、その結果を一つひとつ確かめながら、信頼を積み重ねていくしかないと考えています。要するに、「信頼せよ、だが検証せよ(trust, but verify)」なんですね。

朴大統領は、世論に引っ張られてルールが変わるという「国民情緒法」をなんとかしないとまずいと思っています。ルールがはっきりと定まっているのに、盗んだ仏像を返さないなんてことはしていてはいけないんです。韓国は貿易で食っている国ですから、韓国企業と契約している外国企業が「いつ契約を破棄されるかわかったもんじゃない」と思うようになってしまったらたいへんなことになります。

この件については、問題の所在も、アプローチの方法もそれこそ正しく認識していますから、期待をもちながら注意深く見守っていきたいですね。

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「したたかな韓国」をなめてはいけない

―― 最後に、既に本書を読んでいる読者に本書をどのように活かしていただきたいか、またまだ本書を読んでいない方になにを意識して読んでいただきたいかお話いただけますか?

1章では、韓国の政治制度が政治家や有権者に与える影響に注目しながら、大統領になるための朴槿恵の戦略を描きました。じつは同じことが、2017年12月19日の大統領選に向けてもうすでに始まっている戦いについてもいえます。ですので、誰がどういう戦略で、先読みと逆算をしながら動いているかをみてほしいですね。注目は、なんといっても、安哲秀です。

安は昨年の大統領選で、朴と争った野党の文在寅と手を組んだにも関わらず、文が負けた場合に責任を取らずにすむよう投票日に渡米しました。その後帰国して、安は4月の補欠選挙に無所属で出馬をして国会議員になりました。いずれ新党を結成するだろうといわれていますが、今後どういう動きにでるか、一時も目が離せません。

2章では韓国社会の課題について話をしていますが、日本と同じく少子高齢化の進む韓国が、今後どのようにして持続可能な社会を作っていくのかに注目してほしいです。これから中国やマレーシアなども日韓を追いかけるように同じような社会構成に変わっていくでしょう。そのなかで、日本と韓国のどちらが優れたモデルになりうるのか、これからはこういう部分で政策を競いあってほしいですね。

今回とくにお話をした竹島領有権紛争や慰安婦問題についてはそれぞれ3章と4章で詳述していますので、それぞれの問題の「大きな絵」を理解するうえで参照していただければ嬉しいです。古地図の発掘とか、「狭義の強制性」の有無とか、あるひとびとにとっては強いこだわりがあるかもしれませんが、じつは、外交ゲーム全体のなかではガラパゴスな議論になっているかもしれません。まずは、ゲームの構図がどうなっているか、そのルールはなにで、ジャッジは誰なのか、といった「大きな絵」を理解することが大切ですね。

本書の副題は「朴槿恵時代の戦略を探る」ですが、もちろん、朴槿恵の戦略をそのまま受けいれるという意味ではけっしてなくて、相手やゲームの性格におうじた日本の戦略を探り、外交にのぞむためです。読者の方々には、ぜひとも優秀なクライアントになって、自分に不利なものも含めてそれぞれのシナリオごとに筋道を考え結論を導く<悪魔の代弁人>を立てて、さまざまな問題にアプローチしていってほしいと思っています。

むかしと違って、日本と韓国の関係は対等になっています。部分的には韓国の方が優れているところもあるくらいです。いままで対等な相手とみなさずに上から目線だった日本と、日本に追いついて横に並んだ韓国では、「対等」のニュアンスがおのずと異なります。相手が自分と同じくらい賢いという見方ができないと、ぎゃくに足元をすくわれかねません。「したたかな韓国」をなめてはいけないんです。

<悪魔の代弁人>は悪魔そのものではないですし、そもそも日本にとって韓国は悪魔ではありません。互いに競いあっていいところを学びあうパートナーになれればと願っています。

(2013年6月1日 東京にて)

プロフィール

浅羽祐樹比較政治学

新潟県立大学国際地域学部教授。北韓大学院大学校(韓国)招聘教授。早稲田大学韓国学研究所招聘研究員。専門は、比較政治学、韓国政治、国際関係論、日韓関係。1976年大阪府生まれ。立命館大学国際関係学部卒業。ソウル大学校社会科学大学政治学科博士課程修了。Ph. D(政治学)。九州大学韓国研究センター講師(研究機関研究員)、山口県立大学国際文化学部准教授などを経て現職。著書に、『戦後日韓関係史』(有斐閣、2017年、共著)、『だまされないための「韓国」』(講談社、2017年、共著)、『日韓政治制度比較』(慶應義塾大学出版会、2015年、共編著)、Japanese and Korean Politics: Alone and Apart from Each Other(Palgrave Macmillan, 2015, 共著)などがある。

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