2011.04.01

3・11後の「外」からの眼差しの変化 ――「外国人」とどう向き合うか  

大野更紗 医療社会学

国際 #メディア#東日本大震災#放射能#福島第一原発#退避勧告

東日本大震災に対する海外メディアの反応

現在、東日本大震災のさなかで、これまで日本で生活してきた外国人が、国籍を問わず多数出国している。とくに、海外のマスメディアにおいて、原子力発電所の放射能問題に関する情報や日本社会の混乱状況を、日本のメディアと比較するとかなりセンセーショナルに報道している傾向があることの影響は大きい。

たとえば日本でも視聴可能なアメリカのCNN、ABCやイギリスのBBCなどの映像をみているかぎり、日を追って、さすがにこれはヒステリックな反応なのではないかと感じられるような場面が多くなってきたように思う。

津波が東北沿岸部の町をのみこんでゆくシーンや、福島第一原発が爆発し煙をあげるシーンを繰り返し流しつづける。いかにも危機的でインパクトの強い映像が繰り返される。また、それらの映像やニュースのソースは、独自取材によるものは少ないようだ。

映像についてはテロップに日本語が映っているものが多数で、主に日本のメディアや大手通信社が流したものを使用していると思われる。原発の影響によって、海外メディアの特派員の日本への入国や、日本国内での取材行動が、非常に限定的になってしまっていることが、大きな感覚のギャップを生み出しているのではないだろうか。

また、日本の政府機関やマスメディアも国内の対応に手いっぱいで、海外に対する情報発信とその影響を考えている余裕はとてもないのが現状だろう。日本国内の日本語の情報すら錯綜し混乱するなかで、その最中、在日外国人が不安に陥るのは当然の反応である。海外のメディアの報道を本国の家族や友人から伝え聞き、帰国を迫られる在留外国人も多い。

各国の在日公館も、自国民に対して退避の情報や勧告を発しつづけている。たとえば、スウェーデンは、福島第一原発から半径80キロ圏内にいるスウェーデン国民に対してその範囲地域からの退避勧告を出し、また日本への一切の渡航自粛を勧告している(スウェーデン大使館HP)。アメリカは、半径80キロ圏内の自国民への退避勧告とともに、地震、津波の被災地への旅行をすべて延期するよう勧告した(アメリカ大使館HP: http://japanese.japan.usembassy.gov/j/p/tpj-20110319-71.html 及び  http://japanese.japan.usembassy.gov/j/p/tpj-20110325-75.html)(3月27日現在)。

日本への新規入国者数の減少とその要因

海外メディアや海外の大使館らのこうした反応は、それぞれの自国民の安全のために「多めに見積もって」振舞っているものでもあり、「過剰反応」であるとか(もちろん、「日本の野菜が危険ではないか」といった風評も多くある)、あるいは逆に「海外メディアが正しい」というような単純な論法で処理できるものではない。しかし事実として、これまで日本社会の一端を担ってきた外国人労働者や留学生が帰国をしていく。帰国者は、はたして今後、日本に戻ってくるのだろうか。

東日本大震災以前から、日本への新規入国者は減少している。2008年をピークに、新規入国者数はマイナス推移する傾向に転じはじめた。就労を目的とする新規入国者数にいたっては、2005年から2010年の推移を比較すると、125,430人→57,093人、5年間で45%の減少がみられる。日本で暮らしている外国人の数、外国人登録者数全体についても、過去最高を記録した2008年度の約220万人(日本の総人口の1.74%)をピークとして、以降はゆるやかな減少傾向にある。

新規入国者が減少した要因について、法務省入国管理局は2010年度の「入管白書」において、「リーマンショック後景気後退、新型インフルエンザの発生などにより、観光やビジネス等を目的とした外国渡航を一時的に手控えようとする傾向が続いたことが原因と考えられる」と分析している。

新規入国者の減少については、受け入れ側の要因と送り出し側の要因、双方を考える必要があると思われる。受け入れ側である日本側の要因としては、バブル経済期の人手不足の下、何もしなくてもどんどん外国人がやってきてくれた時代の想定のまま、「上から目線」「取り締まり」姿勢の入管管理施策の硬直が、受け入れの基盤をつくれなかったことが大きく影響している。送り出し側の要因としては、日本経済の低迷と、新興国の経済的地位の相対的な上昇により、日本へ行くという選択肢が必ずしも魅力的ではなくなったことがまずはあげられる。

東日本大震災によって「危険な場所」という扱いとなった日本が、送り出し側にとって、ますます「行きづらい国」という認識になれば、こうした減少傾向は高まりかつ慢性化する可能性もある。

「その後」の入管施策を考える

もちろん、外国人や移民の問題は、日本にかぎらずどの国でもセンシティブな社会問題である。移民はどの社会においてもマイノリティとして在らざるをえない。

「移民」という現象そのものが良いものか悪いものなのかは、筆者としては判断のしようもない。長らく移民や難民の問題と向き合ってきた欧州やオーストラリア、アメリカですら、つねに「反発」や「差別」が繰り返されてきた。外国人や移民受け入れ、という大枠の議論をするには、日本社会は時期的にも経験的にも未成熟であり、筆者は受け入れを否定したいわけでも推進したいわけでもない。

だが、東日本大震災以降、これまでその矛盾をみぬふりをし、一方的に外国人を頼みの綱にしてきた経済基盤や政策は、その姿勢の変化を迫られるのではないだろうか。経済連携協定(EPA)にもとづく外国人看護師・介護福祉士の受け入れや外国人研修制度。医療ツーリズムビザの新設。難民の受け入れと彼らの処遇等々。やがてはじまる少子超高齢化社会に「外国人」を想定した政策は、数多存在したはずだ。

これまで、どのような態度を外国人に強いてきたか、先日新宿区で開催された「多文化共生」をテーマとするシンポジウムで、あるビルマ(ミャンマー)難民が象徴的な発言をしている。ビルマ難民研究者の久保忠行氏のブログ(http://www.shimizukobundo.com/category/sometime-somewhere/)で紹介されているので、一部を引用させていただく。

難民と地域の人が仲よくできるように、私たちは次のようなことをしていきたい。例えば、夜中に騒がないこと、ゴミ出しを守ること、地域の清掃に参加したり、環境問題に積極的に取り組むこと。それから日本は高齢化社会を迎えているので、高齢者のために私たちクリスチャンは歌を歌って楽しませてあげたい。日本で暮らしていくので、日本人ことをよく理解しないといけない・・・私たちは命をかけて家族と離れて難民として逃れてきました。日本は難民にとって第二の故郷です。日本人は私たちにとって家族のようなものであり友人です。だから日本人には、難民たちの心の叫びにも耳を傾けて欲しい・・・これからも私たち難民を温かく見守って下さい。

久保氏はこの発言に対して、次のような雑感を述べている。

…私たちも日本人のことを理解するよう努力するので、日本人も難民のことを理解して下さいというメッセージである。しかし、この場で「ゴミ出しのルールを守ります」、「夜は騒がないようにします」、おまけに高齢者問題や、流行の「エコ」にも取り組みますと言わしめるものは何なのだろうか。

無論、ルールを守ることの大切さを否定するつもりはない。

一抹の違和感をおぼえるのは、「多文化共生」を考えるためのシンポジウムで、マイノリティの立場にあるこの人は、「できるだけ日本人に同化できるように頑張りますので、いじめないでください」と白旗を振っているようにすら思えたからである。…

もちろん、入国管理政策にリスク管理やゾーニングは不可欠だろう。だが、現実のグローバルな構造的変化に見合わない、旧来の「上から目線」体質を見直すこともまた、戦略的に不可欠な時代になっている。そして、こんな状況下でも、帰国せず残ってともに働いてくれている人たちに対するわたしたちの姿勢も、今後問われるのだろう。

日本に対する「外」からの眼差しは、近年ゆるやかに変化しつつある。さらに、この震災を契機に、長期的に大きく変化する可能性があることも確実だ。海外への情報発信、国内にいる多様な外国籍の人々への対応を含め、いま改めて、「外国人」とどう向き合うかを再考したい。

プロフィール

大野更紗医療社会学

専攻は医療社会学。難病の医療政策、難治性疾患のジェネティック・シティズンシップ(遺伝学的市民権)、患者の社会経済的負担に関する研究等が専門。日本学術振興会特別研究員DC1。Website: https://sites.google.com/site/saori1984watanabe/

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