2018.04.05

中国再生可能エネルギー事情を読み解く

松原弘直 環境エネルギー政策

科学 #再生可能エネルギー#中国

1.概況

東アジアの隣国である中国(中華人民共和国)は、13億7000万人を超える世界最多の人口を抱え、いまやGDP(国民総生産)が世界第二位の経済大国である。2000年以降の高度経済成長の結果、2007年以降は米国を上回って世界で最も大量の温室効果ガス(主にCO2)を排出している。

そのため国民一人当たりの年間CO2排出量は先進国並みの約8トン近くに達し、総排出量は世界全体の年間排出量の約3割を占めるまでになっている。CO2の最も大きな排出源となっているのが石炭による発電や熱供給である。中国では主に国産の石炭が年間発電量の約6割以上を占めており、石炭の利用に伴う大気汚染が、特に都市部で深刻な公害問題となっている。

その一方で、この10年間で中国は世界で最も再生可能エネルギーの導入を推進している国となっている。水力発電の累積導入量は3億kWを超え第2位のブラジルの3倍に達している(注1)。風力発電では、2010年に累積導入量が米国を超え2016年末には米国の2倍の1.6億kW以上に達した(図1)。太陽光発電の累積導入量も2015年にはドイツを超えて2016年末には7000万kW近くに達している(図2)。

その結果、中国では再生可能エネルギーの発電設備の累積導入量は2016年末までに6億kW近くに達して圧倒的な世界第一位である。再生可能エネルギーの熱利用でも太陽熱設備の導入量も世界全体の7割以上を占めており、各都市での地域熱供給の普及も進んでいる。

(注1)REN21「自然エネルギー世界白書2017」”Renewable 2017 Global Status Report” http://www.ren21.net/gsr/

2.再生可能エネルギー市場と産業の急成長

すでに、中国では新規に導入される発電設備のうち半分以上の設備容量が再生可能エネルギーによる発電設備となっており、水力、風力、太陽光などを合わせて年間導入量が7000万kWを超えている。2016年には中国での再生可能エネルギーの設備投資金額が780億ドルと世界全体の約3割を占める世界第一の再生可能エネルギー市場となっている。再生可能エネルギーによる雇用についても、世界全体の980万人に対して中国が360万人と日本(約31万人)の10倍以上に達している(注2)。

中国では再生可能エネルギー産業が産業政策として重視されており、すでに風力発電設備産業も太陽光産業も世界第一位の規模がある。太陽光発電の太陽電池モジュールの出荷量では中国が世界市場全体の7割近いシェアがあり、上位3社を中国メーカー(Jinko Solar, Trina Solar, JA Solar) が占めている。風力発電設備では欧州メーカーからの技術移転などによりGoldwind社を始めとする中国メーカーが国内市場で大きなシェアを占めており、国内の市場だけではなく海外市場への展開も始まっている。

(注2)IRENA “Renewable Energy and Jobs Annual Review 2017” http://www.irena.org/

図1: 世界各国の風力発電の累積導入量の推移(出所:GWECデータよりISEP作成)
図2: 世界各国の太陽光発電の累積導入量の推移(出所: IRENAデータよりISEP作成)

3.気候変動対策とエネルギー政策

中国では、2000年以降、急速な経済成長に伴い、電力などのエネルギー需要が増加し、豊富な国内資源である石炭などを燃料とする火力発電所の建設が進んだ。その結果、CO2排出量が大幅に増加すると共に深刻な大気汚染を引き起こした。中国の大都市では大気汚染を始めとする環境問題の解決が重要課題となってきている。そのため、中国では経済発展を重視しながらも石炭火力発電の抑制などの気候変動対策と共に再生可能エネルギーの急速な導入を国家レベルの重要政策として5か年計画の中で進めてきている。

その中で、2006年には、「再生可能エネルギー法」が施行され、エネルギー不足の解消と環境問題の緩和という二つの重要課題を同時に解決する切り札として期待されてきた。中国において、再生可能エネルギーは、エネルギーの供給源を多様化することによりエネルギー安全保障の確保が可能となり、石炭・石油などの化石燃料の使用により生じる大気汚染および温室効果ガスの排出量を減少させることができるとされてきた。

特にエネルギー不足が深刻な農村部において農民の生活様式を改善するという政策目標の実現を早めて都市と農村との社会経済的格差の解消という国家目標を実現する重要な政策手段としても位置付けられており、さらに産業の発展により就業機会を増やし、社会に一層の安定をもたらすことができるとされている。

中国は、再生可能エネルギーの導入目標として2020年までに、大部分の再生可能エネルギー技術の商業化を達成し、2050年までに大規模な化石エネルギーの代替を実現して一次消費エネルギーの30%以上とするとしていた。直近の2016年になって策定された第13次五か年計画では、2016~2020年の間の計画が定められており、再生可能エネルギーについても第12次五か年計画での2015年までの順調な実績を踏まえて2020年までの高い目標が掲げられている。

全発電量に占める再生可能エネルギーの割合は2016年には24.5%だったが、2020年には27%を目標としている。中国の再生可能エネルギーの導入割合は先行するドイツなど欧州各国の現状や目標(2020年)に比べれば低いものの、日本の現状(2016年度に約15%)や2030年の目標(20~22%)と比べれば十分に高いレベルにある。

気候変動の目標においては、気候変動対策の国際的な温室効果ガスの削減目標(INDC)としてGDP当たりのCO2排出原単位を60~65%削減(2005年比)し、2030年前後にはCO2排出量をピークアウトするとしている。この目標を実現するシナリオが中国の国家再生可能エネルギー研究センター(CNREC)から発表されており、2030年には再生可能エネルギーの割合を全発電量の50%以上にして、2050年には割合を80%近くまでする必要がある(注3)。

ここ数年はCO2排出量が横ばいの状況にあり、中国でも経済(GDP)とCO2排出量のデカップリングが始まったと考えられる。さらに排出削減のためのカーボンプライシング(炭素への価格付け)への取組みとして、これまでパイロット的に国内数カ所で試行してきた温室効果ガスの排出量取引制度(ETS)が電力部門に対して全国的に適用されることが2017年12月に公式に発表されている。再生可能エネルギーに対してもその環境価値をクレジットとして取引可能とする「グリーン電力証書」の制度が2017年からスタートしており、太陽光や風力発電の事業が対象となっている。

(注3)CNREC ”China Renewable Energy Outlook 2017 – Executive Summary”

4.主力の水力発電

中国国内で従来から導入が進められてきた水力発電は、水路式の小水力発電からダム建設を伴う大規模なものまで年間導入量(2016年)が1400万kW程度あり、2016年末までには累積の設備容量が3億kWを超えて圧倒的な世界第一位の規模である。水力発電は中国の全発電量の約20%を賄っており、その発電量は日本の全発電量に匹敵する。

さらに蓄電の機能を持つ揚水発電の導入も進んでおり、すでに日本と同規模の2700万kWが導入されている。中国は熱利用の分野でも太陽熱の導入量では世界第一位となっている。熱利用分野での再生可能エネルギーへの転換は中国でも大きな課題となっており、すでに普及が進んでいる地域熱供給や工場などのエネルギー源としてバイオマス等の高効率な利用が期待されている。

5.着実な風力発電の発展

中国での水力以外の再生可能エネルギーによる発電への本格的な取り組みは約10年前の2005年頃に始まり、その年に策定された中国の再生可能エネルギー法により固定価格買取(FIT)制度が2006年1月から施行され、風力発電の本格的な導入が始まった。2010年にはアメリカを抜いて世界第一位の風力発電の設備容量となり、2016年末までには1億6800万kWの大台に達している(GWEC調べ、図3参照)(注4)。

風力発電については、第12次五か年計画において2015年までの導入目標だった1億kWを超えて、第13次五か年計画では2020年までには2.1億kWの導入を目指している。さらに、中国の風力発電の業界団体では2030年に4億kW、2050年までには10億kWを目指すとしている。

一方で、2016年末の時点では風力発電が多く導入されている中国北西地域などの電力系統の整備が課題となっており、一部の新規風力発電設備は送電ができずに約17%も発電量が抑制される「棄風」という状況が発生し、実際に運転を開始している風力発電設備は1億4900万kWに留まっている。それでも風力の年間発電量(2016年)は中国全体の発電量の4.0%に達しており、東部の電力需要地と結ぶ送電網の整備も進み始めている。さらに東部沿岸部での洋上風力発電の導入にも力を入れ始めており、2020年までには3000万kWの導入を目指している。

(注4)ISEP「自然エネルギー・データ集」 http://www.isep.or.jp/archives/library/9570

図3:中国国内の風力、太陽光および原子力発電の設備導入量の推移
(出所:IRENA, China Energy Portalのデータより筆者作成)

6.急成長する太陽光発電

一方、太陽光発電については、中国はすでに2007年頃には太陽電池モジュールの生産量で世界第一位となっており、世界の約7割のシェアを持っている供給大国である。国内への太陽光発電の導入については、導入コストの高さから遅れていたが、世界的な導入コストの低減に伴い、2012年以降に様々な制度の改正があり、2016年には一年間で約3400万kW以上の太陽光発電設備が導入され、2016年末までに7700万kWに達した。いまや世界全体の太陽光発電設備の年間導入量のほぼ半分が中国国内の市場となっている。

すでに2015年から中国は年間導入量でも累積導入量でも世界第一位だったが、累積導入量4200万kWで世界第2位の日本と比べても、その規模の大きさがわかる。2017年も中国政府の普及政策やコストの低減を受けて大量の太陽光導入が進んでおり、9月までに4300万kWの導入実績、年間で5400万kW以上の導入量に達したとの推測も出ている(注5)。

太陽光発電設備の大部分はFIT制度の支援による事業として導入され大規模なものが多いが、中国中央政府や地方政府は農村部の貧困対策としても太陽光発電に力を入れており、地方金融機関によるファイナンスと共に太陽光発電の導入を進める支援プログラムがある。中国の第13次五か年計画では2020年までに1億kWの太陽光発電の導入を目標としており、2030年には3億kWに達するロードマップも描かれているが、すでに2017年末の段階で2020年の政府目標を超えたことになる。

(注5)Bloomberg News “China on Pace for Record Solar-Power Installations” 2017年11月20日

7.再生可能エネルギーの将来

中国国内の全発電量に占める再生可能エネルギー(バイオマスを除く)の割合は、2016年には24.5%に達しており、水力が19.3%を占めるが、風力が4.0%、太陽光が1.1%となっている(図4参照)。原子力発電については、2016年の時点で全発電量の3.6%だが、2012年以降、風力の発電量を下回っている。

2008年の時点では再生可能エネルギーの割合は全発電量の約17%だったが、そのほとんどが水力発電だった。一方では、経済成長に伴って国内の全発電量が急速に増加しており、2008年の3.5兆kWhから2016年には倍近い6兆kWh(日本国内の全発電量の約6倍)に達している。発電量全体の大幅な増加にもかかわらず、それを上回るスピードで再生可能エネルギーの導入が進んでいる。

さらに中国政府の再生可能エネルギー政策に関するシンクタンクである国家再生可能エネルギー研究センター(CNREC)では他の研究機関と共同で、2050年までに発電量全体の85%以上、一次エネルギー全体の60%以上を再生可能エネルギーで賄う長期エネルギーシナリオおよびロードマップを発表している(図5参照)(注6)。

この長期シナリオでは、一次エネルギー需要が現状とほぼ同じレベルに抑えられる一方、発電量については現状(2015年)の約2.5倍に達すると想定している。風力発電でその約35%、太陽光発電で約27%を賄うシナリオとなっており、電力系統の増強やそれらに伴う費用や経済的な効果についても考慮している。

このように中国はいまや再生可能エネルギーの分野では研究、技術開発、人材、生産量、導入量、導入目標いずれの点でも世界をリードする存在となってきており、アジア最大の市場として欧州各国からも注目されている。さらにその影響力は、これから再生可能エネルギーの本格的な導入を進めようとしているアジア各国にも広がっている。日本国内でも3.11以降に明確になった再生可能エネルギー市場の多くの課題を克服することで、日本国内の豊富な再生可能エネルギーの導入ポテンシャルを生かし、100%再生可能エネルギーに向けた本格的なエネルギー転換を長期的に実現しながら、アジア各国とこの分野で様々な連携をしていくことが可能なはずである。

(注6)CNRECほか “China 2050 High Renewable Energy Penetration Scenario and Roadmap Study” http://www.cnrec.org.cn/english/result/2015-05-26-474.html

図4: 中国国内の年間発電量および発電量比率の推移(出所:China Energy Portalより筆者作成)
図5: 高位シナリオでの中国国内の発電量の推移(出所:CNREC)

プロフィール

松原弘直環境エネルギー政策

1963年、千葉県生まれ。環境エネルギー政策研究所理事/主席研究員。工学博士。東京工業大学においてエネルギー変換工学を研究し、学位取得後、製鉄会社研究員、ITコンサルタントなどを経て、持続可能なエネルギー社会の実現に向けて取り組む研究者・コンサルタントとして現在に至る。持続可能なエネルギー政策の指標化(エネルギー永続地帯)や長期シナリオ(2050年自然エネルギービジョン)の研究などに取り組みながら、自然エネルギー白書の編纂をおこなう。自然エネルギー普及のため、グリーン電力証書およびグリーン熱証書の事業化、市民出資事業や地域主導型の地域エネルギー事業の支援などにも取り組む。

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