2016.06.10

ネット炎上の真実と解決策

田中辰雄 / 計量経済学 山口真一 / 計量経済学

社会 #SNS#炎上

炎上が社会にもたらした影響

インターネット黎明期、多くの人はその可能性に胸を躍らせたものである。とくに、非対面コミュニケーションが飛躍的にしやすくなり、それによる新たなる知の創造が起こることは、大いに期待された。実際、ソーシャルメディアの登場と普及は、「普通の人」による不特定多数への情報発信という、今までにない情報発信/共有のかたちをもたらした。まさに、コミュニケーション革命といえるだろう。

しかし現在、インターネット上での自由な発信や議論について、悲観的な意見が増えてきている。その大きな要因となっていることの1つに、1つの対象に批判や誹謗中傷が集中する、いわゆる「炎上」があげられる。例えば、一般人がUSJでの反社会的行為をブログやTwitterで発信したところ拡散されて批判が集中した事例や、複数の芸能人が行っていたステルスマーケティング(注1)が露呈して批判が集中した事例等、様々な対象・様々な行為に対して炎上が起こっている。

(注1)消費者に宣伝と気づかせないように行う宣伝のこと。

このような炎上は、平均して1日1回以上起こっていることが知られており、今日もどこかで誰かが炎上している状態である(注2)。炎上は、ただ対象となった人の精神的・金銭的被害が出るだけではなく、人々の自由な発言を委縮させていると考えられ、大きな社会的コストを持っていると考えられる。実際、ブログやtwitterのような炎上するSNSはユーザが伸び悩み、変わってfacebookやLINEのように炎上しにくいSNSのユーザが増えている。ユーザは炎上を嫌い、情報発信を避けてひきこもっているように見える。

(注2)エルテス社の「eltes Cloud」より。

炎上にはどのような人が書き込んでいるのか

では、炎上にはどのような人が参加している(書き込んでいる)のだろうか。2014年11月に行ったアンケート調査データをベースに、ロジットモデルを用いた統計的分析を行った結果、統計的に有意(注3)となった変数とその効果が図1のように得られた。

(注3)統計上、ある事象が起こる確率が偶然とは考えにくく、意味があると思われること。

図1 炎上参加確立に対する各属性の影響

炎上参加確立に対する各属性の影響

解釈としては、例えば男性であれば、女性よりも炎上に参加したことのある確率が0.66%高いといえる。また、*のついている連続変数では、それが倍になった時の、確率の変化を表している(注4)。値はどれも小さいように見えるが、後述するように炎上参加確率自体が非常に小さいため、効果としては決して小さくない。

(注4)例えば、世帯年収が100%増えると、炎上参加確率が0.33%増加する。

これを見ると、炎上に参加する人の傾向として、「子持ち」「年収が多い」「ラジオ利用時間が長い」等が見えてくる。これらの属性は、「無職の引きこもり」や「バカで暇人」等の、今まで一般的に言われてきたような炎上参加者像とは異なっているといえる。

何故、このような人たちは炎上に参加するのか。1つ考えられるのが、先行研究で言われているような「頭を良く見せたい型」の炎上参加者になりやすいということである。自分の政治信条等に確固たるものを持っており、自分が気に入らない発言や社会的に許されない発言に対して「この人は自分より劣っている」と感じて批判している可能性がある。また、子持ちについては、子供に関連する話題(注5)にとくに敏感になって、攻撃的になっていると考えられる。

(注5)保育園や安全保障関連。

そして注目したいのは、大きく影響を与えている「ネット上では非難しあって良いと思う」である。これに、はいと答えた人はわずか10%程度であり、インターネットに対して少々特殊な考え方を持っている人といえる。そのような特殊な考え方を持っているごくわずかの人が、炎上を起こしている。

炎上参加者はどれくらいいるのか

炎上参加者はきわめて少ない。炎上が起こるとネットは批判一色になり、すべての人から攻撃を受けているような気になるが、実際には炎上に参加して攻撃的なコメントを書く人はごくわずかである。

下の図は、インターネットユーザに対して、炎上事件とのかかわりを尋ねたものである。炎上を知らない人は1割、ニュースで聞いたことのある人が7割、炎上の書き込みを見たことのある人が2割、そして炎上に書き込んだことのある人はなんと1.1%(=0.49+0.63)しかいない。さらにこれは期間を特定していないので、過去1年に書き込んだことのあるいわば“現役”の炎上参加者に限ると。この半分の0.5%となる。加えて炎上事件は年に400回程度は起きているので、一回あたりの参加者は0.00X%のオーダーになる。

図2

図2

それでもインターネット総人口に掛けると数千人のオーダーにはなる。しかし、このうち大半は一言感想を書くだけであまり攻撃的ではなく炎上の主役ではない。実際に相手に攻撃する直接攻撃者の数を推定するためにツイッターでの書き込みを見てみる。図3は最近あった熊本地震でのアナウンサーの弁当炎上事件でのツイッターでの書き込み数の推移を見たものである。この事件は、熊本地震を取材したアナウンサーが、取材が終わってようやく弁当を食べられましたとツイートして弁当の写真を貼ったところ、“こんな時に不謹慎だ”、“被災者の弁当を横取りするのか”という批判が殺到して炎上した事件である。

横軸が時間推移で縦軸がツイート数である。炎上が始まると急激にツイート数が増えていることがわかる。炎上前からあるツイートはこの事件とは無関係なのでこれを除き、炎上関連ツイートだけ取り出すと下の表の3行目にあるように、関連ツイート数は8019個になる。このなかには批判ツイートでない中立的な情報提供や無関係ツイートも入っているので、サンプリングしてその比率を求めて除外し、批判ツイートだけを推定すると2245個になる。この値は、アンケートで求めた数千という値とオーダーで一致する。

図3

図3

図3b

さらにこのうちほとんどは一言感想をつぶやくだけであった。炎上のまとめサイト等で強い口調で非難する人は何度も繰り返しツイートしており、実際に当事者に直接攻撃する人はそのような多数ツイート者から現れると考えられる。

多数ツイート者を3回以上ツイートした人とすればこの事例では3.3%であり、2245に乗じると70人程度が直接攻撃の予備軍になる。そのうち実際に当事者に向けて攻撃コメントを送る人はさらに限られると考えられるので、直接攻撃する人はオーダーとしては数人~十数人となるだろう。炎上事件で非難をあびせてアカウント閉鎖や謝罪に追い込む人は実際にはこのようにごくわずかである。

炎上事件での攻撃者がごく少数であることは実は有識者には知られていたことである。熊本震災事件では平子理沙氏が支援金を送りその書類を貼ったところ売名行為だとして炎上したが、彼女は後に繰り返し書き込んでいたのはわずか6人だったとのべている(注6)。2ちゃんねるの管理人ひろゆき氏は、2ちゃんねるでの炎上事件の実行犯は5人以下であったと述べたと述べている(注7)。ジャーナリストの上杉隆氏は、靖国問題で自身のブログが炎上した時700を超える批判コメが着いたが、それを書いたのは4人だったという(注8)。このように炎上事件の主役である攻撃者はきわめてごくわずかなのである。

(注6)「Risa Hirako Official Blog – LINEブログ読者のみなさまへ」http://lineblog.me/hirakorisa/archives/1056214373.html

(注7)川上量生(2014).「ネットがつくった文化圏」、川上量生監修『ネットが生んだ文化-誰もが表現者の時代』、角川インターネット講座4 序章、角川書店

(注8)上杉隆×ちきりん「なぜブログは炎上するのか? “嫌いな人が好き”の論理」

http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0907/27/news008.html

どのように予防・対処すればよいのか

以上のような炎上に対して、我々はどのように予防・対処していけばよいのだろうか。まず予防法として考えられるのが、インターネットユーザの規範を知っておくことと、炎上に書き込みやすい傾向のある属性を知っておくことである。

前者は、ソーシャルメディアやコミュニティ内に暗黙で流れている規範について、重々知っておくことを指す。炎上に書き込む人たちは、何かしらの理由があるとそれに対して批判を行うことが多い。それがたとえ犯罪や反社会的行為でなくとも、そこに暗黙で流れている規範に反していた場合、それを理由に批判を行う。後者は、高収入の男性や子持ちの男性を対象とした商品のプロモーション等では、炎上しやすいことを知っておき、とくに注意を払う必要があることを指す。

そして、対処法として重要なのが、炎上参加者は少ないことを知っておくことである。大量の人が自分を批判しているように見えるが、実はごく少数であり、パニックになってすぐに謝罪したり、撤回したりする必要はない。ひとたび炎上してしまったら、まずそれが本当に謝罪する必要があるのかどうか、冷静に判断する(もちろん、即座に反論するのもNGである)。

自分に非があるかの判断は、コメントである程度できる。批判が集中する中で、擁護コメントが少なくない量あれば、「ある層のネットユーザの規範に反してしまったが、行為としてはとくに誤りはない」可能性が高いといえるだろう。また、緊急性の高い大炎上かどうかは、「まとめサイトに掲載されたか否か」で判断できる。

個人を超えた社会全体の対策としては、炎上しにくいSNSを新たにつくることも考えられる。炎上の少ないSNSとして現在facebookのように閉じたSNSがあるが、閉じ過ぎていて発信力が無く世論への影響力がほとんどない。Twitterやブログ並みの発信力を保ったまま炎上の影響をうけないSNSが望ましい。

一つの案として受信と発信を分離するサロン型のSNSを考えることができる。書き込むのはサロンのメンバーだけだが、読むことは誰でもできるという非対称型のSNSである。いまはSNSといえば、情報発信力はあるが炎上するtwitterと、炎上はないが情報発信力がほとんどないfacebookという両極端しかない。両者の良いところをとったSNSができれば大いに需要があるはずである。

最後に高校生などに炎上リテラシー教育を行うことも有効であろう。小さな炎上はリテラシーを持っていればしのぐことができる。炎上が辛いのはちょっとしたことでリアルの世界ではありえない罵詈雑言の攻撃をあびせられ、どうしてよいかわからず、ひどく孤独なことである。

しかし、炎上は誰にも起こりえることで、とくにあなたが特別悪いというわけではないということがわかるだけで孤独感が癒され元気が出てくる。炎上での攻撃者がごく一部であり、9割以上の人はあなたの味方だと思えばくじけず情報発信を続けていくことができる。重要なのはそのような認識を自分以外の誰もが持っていると思えることで、そのためには高校生の段階でリテラシー教育を行うことが有用である。

プロフィール

田中辰雄計量経済学

東京大学経済学部大学院卒、コロンビア大学客員研究員を経て、現在慶應義塾大学経済学部准教授兼国際大学GLOCOM主幹研究員。

編著に『著作権保護期間―延長は文化を振興するか?』、「フェアユース導入はコンテンツ産業にプラスかマイナスか」、「クリエイター側は著作権保護をどうみているか―日米国際比較―」などがある。

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山口真一計量経済学

1986年生まれ。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター講師。2010年慶應義塾大学経済学部卒、2015年同大学経済学研究科で博士号(経済学)を取得し、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター助教を経て、2016年より現職。専門は計量経済学。情報社会において新しく生まれた社会課題やビジネスについて定量的な考察をすることを主としており、テレビ・ラジオ番組にも多数出演。主な著作に、『ソーシャルゲームのビジネスモデル』(共著、勁草書房)、『ネット炎上の研究』(共著、勁草書房)などがある。

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