2017.04.18

過酷な労働を強いられる外国人留学生たち――移民政策を問う前に向き合わなければならないこと

ジャーナリスト・出井康博氏インタビュー

社会 #外国人労働者#ルポ ニッポン絶望工場

現在、日本で働く外国人労働者は108万人以上にものぼる。いまや、私たちの便利な生活は彼らなしでは成り立たない。特に、近年ではベトナムやネパールからの“出稼ぎ目的の留学生”が急増しているという。彼らの多くは「月20万−30万円は簡単に稼げる」という嘘の宣伝によって日本に留学し、学費等の返済のため過酷な労働を余儀なくされている。そんな外国人労働者の現場を10年にわたって取材されてきた、ジャーナリストの出井康博氏にお話を伺った。(取材/大谷佳名)

新聞配達、コンビニ弁当の製造工場……人手不足を支える留学生

――現在、出井さんのご著書『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)が、大宅壮一ノンフィクション大賞にノミネートされていますね。この本にまとめられている、外国人労働者の実態について取材を始められた経緯を教えてください。

ちょうど今から10年前の2007年、私は「フォーサイト」という月刊誌で「外国人労働者」をテーマに連載を始めました。当時から欧米先進国では「外国人労働者」や「移民」は国論を二分する問題になっていましたが、日本ではほとんど関心が払われていなかった。それでも、技能実習生や日系人などの外国人労働者は徐々に増えつつありました。また、翌08年からは外国人介護士・看護師の受け入れも始まることになっていた。そうした状況を前にして、やがて日本でも欧米のように移民問題が注目されるようになるに違いないと考え、この10年間、外国人労働者が受け入れられた現場を訪ね歩いてきました。

――出井さんは、「技能実習生よりも厳しい状況に置かれているのは留学生だ」と指摘されていますが(「これからの『共生』のために――外国人労働者をいかに受け入れるか」[2017.01.11])、外国人留学生について調査を始められたきっかけは何だったのでしょうか。

取材を始めたきっかけは、3年ほど前、新聞販売店の関係者から「新聞配達の現場で留学生のアルバイトが急増している」という話を聞いたことです。販売店の経営者に頼み、留学生と一緒に新聞配達も体験してみました。すると彼らが留学生に法律で許される「週28時間以内」というアルバイトの上限に違反して働いていることがわかった。

その後、留学生という存在に興味を持って取材を続けてみると、様々な現場で「留学」に名を借りた出稼ぎ目的の留学生が急増している現実が見えてきたのです。

――出稼ぎ目的の留学生が増えているというのは、どういうことですか。

政府は現在、2020年の達成を目指して「外国人留学生30万人計画」を進めています。この計画を達成するために留学ビザの発給基準が緩んでいて、勉強よりも出稼ぎが目的の“偽装留学生”に対してもビザが簡単に下りてしまう状況になっているのです。

留学生の数は過去4年間で約10万人も増え、昨年末段階で約28万人に達しています。私が取材してきた印象では、その半分以上は“偽装留学生”ではないかと思います。

彼らが日本を選ぶ理由はシンプルで、日本に来れば働けるからです。留学ビザを取得すれば、「週28時間以内」で就労が許されます。先進国で留学生にアルバイトを認める国は多くない。しかも日本は今、未曾有の人手不足で、アルバイトは簡単に見つかります。「人手不足」が言い訳となって、「週28時間以内」の制限を破ることも簡単にできてしまう。“偽装留学生”にとっては極めて好都合な状況です。

一方で受け入れ側の日本も、出稼ぎ目的の留学生を歓迎している。とりわけ人手不足が深刻な夜勤の肉体労働、たとえば新聞配達、弁当や総菜の製造工場、宅配の仕分け現場といった仕事は、もはや留学生の労働力なしでは成り立ちません。こうした仕事は、日本語のできない留学生でもこなせますからね。

(参照)図表1:在留資格別外国人労働者の割合

在留資格別外国人労働者の割合

留学生による労働は「資格外活動」に含まれ、209,657 人と前年同期比で 41,997 人(25.0%) 増加。また、「技能実習」の外国人労働者は、211,108 人と前年同期比で 42,812 人(25.4%) 増加している。

図表2:国籍別・在留資格別外国人労働者数

国籍別・在留資格別外国人労働者数

(出典)厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(平成 28 年 10 月末現在)

――増加している留学生は、主にどの国から来ているのでしょうか?

近年、急増しているのがベトナムやネパールといったアジアの新興国出身者です。ベトナム人留学生は過去4年で7倍以上も増え、約6万2000人にも膨らんでいます。

ベトナムなど新興国の留学生は、大半が留学斡旋会社を通して日本にやってくる。留学ビジネスは大繁盛です。ブローカーは「日本に留学すれば、アルバイトで簡単に月20万−30万円は簡単に稼げる」と宣伝し、留学希望者を募る。そんな誘いに乗って若者たちが来日しているのです。

ベトナムの庶民の月収は日本円で1−2万円程度に過ぎません。海外での出稼ぎ希望者は数多くいます。そんな人たちの出稼ぎ先となっているのが、主に韓国、台湾、そして日本です。

そのなかで最も賃金が高いのが日本。技能実習生として来日すれば、月10万円程度は稼げます。ただし、実習生の場合、就労は3年までしか許されず、職場も変われない。留学で「月20万−30万円は簡単に稼げる」と聞けば、希望者が殺到するのも当然です。

失踪する留学生、増加する不法残留者

――日本語学校から失踪する留学生が増えていると聞きます。なぜ日本語学校に通いながら、重労働を余儀なくされているのですか。

外国人の不法残留者の数は今年1月1日時点で6万5270人と、3年連続で増加しています。最も増加が著しいのがベトナム人で、前年から約35パーセント増えて5137人に上っている。そのうち4割近くが、日本語学校などから失踪した「元留学生」です。

留学生の失踪問題には、彼らの置かれた経済状況が影響しています。出稼ぎ目的の留学生たちは、多額の借金を背負って来日している。留学先となる日本語学校に支払う初年度の学費や渡航費、ブローカーへの手数料などで、借金の額は150万−200万円にも及びます。ベトナム人などにとっては、とてつもない金額です。それでも皆、実家の田畑や家を担保に銀行や知り合いなどからカネをかき集めて工面する。大金を借りても、日本で「月20万−30万円は簡単に稼げる」ならば、すぐに返済できると考えているわけです。

しかし、現実は甘くない。日本語も不自由な留学生が就けるのは、日本人の寄りつかない単純労働ばかりです。仕事は重労働で、報酬も最低賃金レベルに過ぎません。そんな仕事をかけ持ちし、「週28時間以内」という法律に違反して働いても「月20万円」を稼ぐのは難しい。しかも彼らは翌年分の学費も貯めなければなりません。

日本語学校に在籍できるのは2年です。その間では、母国に残した借金は返済できない。借金を残したまま帰国すれば、一家は破産してしまいます。そのため彼らは、日本に残って重労働を続けるしかない。ブローカーや日本語学校の食い物にされ、重労働を強いられているという意味では、現代の“奴隷労働者”と呼べるのではないでしょうか。

日本語学校を卒業した留学生を待ち受けているのが、日本人の学生不足に悩む専門学校や大学です。少子化の影響によって、半分近くの私立大学では定員割れが起きています。専門学校に至ってはさらにひどい。たとえ日本語など全くできない留学生であろうと、入学金と学費さえ払えば受け入れてくれる学校はいくらでもあります。もちろん、専門学校や大学も“偽装留学生”とわかって入学を認める。日本語学校と同様、学費目当てに留学生たちを食い物にしているのです。

こうしたなかで、留学生たちは学費の支払いから逃れようと学校から失踪してしまう。結果、不法残留者も増えているという状況です。

――出井さんはそうした留学生の方々にかなり密着して取材をされていますが、その中で印象に残っているエピソードをひとつご紹介いただけますか。

ベトナムから出稼ぎ目的で来日し、日本で過労死した留学生がいました。コン君という若者で、2015年に亡くなったときには26歳でした。

ベトナムで漁船の機械工をしていたコン君は、約150万円の留学費用を借金し、岡山県の日本語学校に入学します。その後、彼は学校に通いながら、夜勤で週5日、2つのアルバイトをかけ持ちして働いていた。2つとも仕事はコンビニ弁当の製造工場です。

1つの工場は日本語学校の寮からもさほど遠くはなかった。でも、もう1つの工場は、2時間以上も離れた場所にありました。午後7時、人材派遣会社の事務所前に集合し、瀬戸大橋を渡った先にある香川県までマイクロバスで揺られていく。バスに乗っているのは、コン君と同じような出稼ぎ目的の留学生ばかりです。そして夜通し働き、翌朝8時に岡山に戻ってくる。その後、一睡もせず日本語学校の授業に出る。そんな生活を続けた挙げ句、コン君は亡くなりました。

彼が来日してから1年以上も経っていましたが、ベトナムに残した借金はほとんど返せていなかった。日本語学校の学費や寮費で、アルバイト代が消えてしまっていたのだと思います。悪質な日本語学校になると、相場以上の寮費をボッタくるところも少なくない。留学生たちが日本の事情に疎いことにつけ込み、あの手この手で彼らからカネを巻き上げているのです。

幸いコン君が残した借金は、在日ベトナム人たちがフェイスブックなどで募金を募って返済されました。しかし、借金返済と学費の支払いのため、徹夜の重労働に追われ、“過労死予備軍”と化している留学生は全国に数多く存在しています。

「移民は一日にして成らず」

――悪質な日本語学校が増えているのはなぜでしょうか。こうした業者を取り締まるために、どのような改善策が考えられますか。

「留学生30万人計画」の恩恵を最も得ているのが日本語学校です。約28万人まで増えている留学生のうち、3分の1以上は日本語学校に在籍していると見られます。10年前には全国で380校だった日本語学校の数も、現在では600校以上にまで増えました。最近では、2000人近くが在籍しているようなマンモス校さえある。“偽装留学生”であっても構わず受け入れられる状況のもと、「日本語学校バブル」が起きているのです。

留学生が日本語学校に入学するためには、学費などの経費支弁能力を証明する書類が必要になります。具体的には、親の銀行残高や収入の証明書です。しかし、そんな書類も途上国では簡単にでっち上げられてしまう。銀行であろうと行政機関であろうと、賄賂を払えばサインしてくれ、公の証明書がつくれてしまうのです。こうした実態は、留学生を受け入れる日本語学校の側もわかっている。わかっていて受け入れ、留学生の数を増やそうとする。数が増えれば、それだけ利益も上がりますからね。

そのため“偽装留学生”が多額の借金を背負って続々と来日することになる。そして奴隷のような労働を続けた挙げ句、一部の者が失踪したり、犯罪に走ったりしているという構図です。

悪質な日本語学校を取り締まれるのは法務省です。留学ビザの発給は、法務省の入国管理局が担当しています。ビザの審査を厳しくすれば、悪質な日本語学校や出稼ぎ目的の留学生は排除できる。しかし「留学生30万人計画」の達成が優先され、これまで対策が講じられていませんでした。

やっと最近になって、入管当局も動き始めています。ベトナムやネパールなど「問題国」と見られる国から来日する留学生に対しては、ビザ審査が厳しくなりつつあります。また、失踪者を多く出した日本語学校にも、監視の目が強まっている。

ただし、日本語学校を取り締まるだけでは問題は解決しません。「日本語コース」などを設け、日本語学校化する専門学校や大学も増えている。なかには、学生の9割以上が留学生といった大学もあります。新聞などは「グローバル化に成功した大学だ」といった具合に持ち上げますが、とんでもない。授業などまともになされず、学費と引き換えにビザを発給するだけの大学も少なからずある。そうした大学や専門学校の実態にもメスを入れなければ、この問題は解決しないと思います。

――最後に、これから移民の受け入れについて日本はどう議論を進めていくべきか、出井さんのお考えを教えてください。

まずは政府が「人手不足だから外国人労働者が増えている」という現状を認めることが必要です。留学生と同様、実習生も増え続けていますが、政府は実習生を「日本人の人手不足を補うための存在」とは認めていない。日本に技術を学ぶために来日した「実習生」だと言い張っているのです。

しかし実習生の実態とは、日本人の嫌がる単純労働を担うための労働者です。外国人が単純労働目的に来日することは禁じられているため、「実習生」と称して受け入れているのです。そして実習生の受け入れすら認められないさらに過酷な現場で、「留学生」という名の単純労働者が急増している。

安倍晋三首相は「移民政策は取らない」と繰り返し述べています。しかし、実質的に「移民」と呼べる永住権を持った外国人の数は、過去20年で10倍に増え、すでに70万人を超えている。大半の日本人が気づかないところで、日本は着実に移民国家への道を歩んでいるわけです。

もちろん、日本における外国人労働者や移民の割合は、欧米先進国と比較すればまだまだ低い。とはいえ、なし崩し的に外国人労働者の受け入れが進んでいることに私は危うさを感じています。その象徴が、留学生や実習生の受け入れを巡るデタラメな状況です。彼らの不法残留や犯罪が今後、社会問題と化していかないか心配しています。

留学生の置かれた現状について詳しく述べましたが、彼らの存在抜きには、私たちが当たり前のように享受している「便利で安価な生活」はもはや成り立たちません。「398円」のコンビニ弁当が食べられるのも、宅配便が時間通りに届くのも、留学生たちの労働があってのことなのです。そのことは是非、読者の皆さんにも知っておいていただきたいと思います。

「移民は一日にして成らず」です。移民の受け入れの是非を問う前に、まずは外国人労働者の受け入れ政策について、真正面から議論することが必要なのではないでしょうか。

プロフィール

出井康博ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙『日経ウィークリー』記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て独立。著書に、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)『松下政経塾とは何か』『長寿大国の虚構―外国人介護士の現場を追う―』(共に新潮社)などがある。

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