2020.07.27

新型コロナウイルス、「夜の街」の取締りと補償

海老原嗣生 株式会社ニッチモ代表取締役、『HRmics』編集長

社会

国家権力での別件逮捕行為は、最小限に留めるべき

新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて、夜の街クラスター対策に政府が本腰を入れて乗り出したようだ。風営法、建築物衛生法に基づく立ち入り検査の実施を全国で検討していることを明らかにした。新型インフル等特別措置法の効力が弱いため、当面の対応として現行の法制度をフル活用して規制を強化するということになる。いわば、刑事事件でいうところの「別件逮捕でしょっ引く」わけで、本来ならば推奨されるべきことではない。ただ、現実的には、特措法の改正に時間がかかるため、緊急避難的に「必要最小限」こうした取締りを行っていくしかないだろう。

正直、この施策は6月中旬までに実施してほしかった。当時であれば感染拡大は全国で東京のみであり、それも緒に就いたばかりのところで、感染者の7割が夜の街関連だったのだ。ここで手を打っていれば、こうした別件捜査的な取締りはごく少量ですんだはずだ。それも、ここに上げた法律以外に、税務査察や労基署の臨検なども含めて徹底的に行えば、早期解決が可能だっとろう。そう私は6月から訴え、その一端は第13稿にても披露してきた。

この対策はもう東京では意義が薄れている。昨日239人を数えた新規感染者のうち、夜の街就業者はわずか10名、夜間の会食による感染を加えても総勢26名、全体の10%余りにしかならない。圧倒的多数がその他市中感染であり、東京では夜の街対策の効果に期待はできないのだ。

6月中旬の時点で東京アラートを中止し、何の手立てもなく経済再開ステップのみ進めた小池都政には今更ながらに憤りを感じざるをえない。

現行ルールでも、十二分に休業補償はできる

一方でこうした対策により、取締りを受けた店舗に経営危機が訪れることを心配する声も多く聞かれる。特定業種のみ狙い撃ちして営業規制を強制することは確かに民主主義国家としては厳しすぎる対応といえるだろう。

当然、休業に応じてアメを用意すべきだ。その方策についても何度か書いてきたが、まとめて以下に再説しておきたい。

まず、休業協力金の支払いだ。都は7月9日になってようやく一店舗あたり50万円の協力金を支払うことを決めたが、これを1ヵ月早く実施すべきだった。

ただ、この施策に対しては「たった50万円じゃ全く足りない」という反論が出る。それに対しては、新型コロナウイルスで売上減少した事業者には、家賃支援給付金が支払われる。これは6月12日に可決された補正予算に盛り込まれ、先行して経産省からその概要が発表されていた。

同給付金は、75万円までの家賃に対しては3分の2が、それを超える分については3分の1が、6か月にわたって支払われる(上限は月100万円)。仮に月の家賃100万円程度の店舗の場合、約60万円が給付される。これと休業協力金を合わせれば、1ヵ月の家賃を払ってもお釣りがくる。これで1月の休業は実施できるだろう。

のみならず、この給付金は休業が終わったあと、さらに5か月も支払われ続ける。トータルでは300万円も得するということだ。

さらに、風俗以外の事業者、すなわちバー、キャバクラ、ホストクラブ、パブ、スナックなどは持続化給付金の対象にもなっている。法人であれば200万円、個人でも100万円が給付される。この件も、非対象と勘違いしている事業者が多いから、しっかり説明すれば、納得させられるケースも少なくないはずだ。

ホストや風俗嬢にも、持続化給付金は支払い可能

「問題は、従業員の休業補償の方だ」という人もいるかもしれないが、こちらも大丈夫だ。

まず、こうした夜の街の場合、店員・接客嬢ともに雇用をせず、業務委託扱いにしている場合が多い(このこと自体が、「雇用隠し」で大問題だ。「年金・社会保険加入」の調査で違反取締の対象としてもよいだろう。衣装代などの経費や売掛負担も違法になる可能性ぷんぷんだ)。

結果、雇用ではないから、休業時に「雇用調整助成金」が支払われない。この点が大いに困る。がしかし、だからこそ対策も可能なのだ。実は、彼・彼女らは雇用でないため、れっきとした個人事業主と認められ、持続化給付金の対象となる。つまり、夜の街で働く従業員(正確には就労者)の多くは、持続化給付金(個人だと100万円!)がもらえるのだ。

ただし、そのためには、昨年度しっかり確定申告しており、今年の収入が前年同月比で半減している場合、という条件が課される。そのため、未申告者は給付対象からはずされる。これが二つめのハードルとなるのだが、ここにも裏技が用意されている。「今年になって開業したため、昨年の確定申告をしていない」場合は、例外的に給付対象となるのだ。

この場合、コロナ前の本年1・2月よりも、直近5・6月の実入りが大きくダウンしていることを示せば、ドーンと100万円が手に入る。売れっ子ホスト・ホステスでも、衣装代などの経費を引いて月に100万円を手にするのはなかなか難しいだろう。つまり、持続化給付金100万円と引き換えに、1ヵ月休んでくださいと言えば、納得する人たちも多いはずだ。

訳知りに「欧米では休業の強制とセットで補償がなされる」と語る人も多いが、現実は異なる。多くの国ではスタッフ人件費の補填にとどまり、それ以上払う国でも、休業補償ではなく、減収対策助成金すなわち日本でいうところの持続化給付金が関の山であり、その額も日本ほどではない国が多い。このあたりは第6稿にて詳細な各国比較をしている。上記のような支援・給付を行えば世界最高レベルであり、1~2か月食いつなぐには十分すぎるだろう。

都と国のプアさ、大阪の知恵

都は、ここまでのことをパッケージにして、店および就労者にしっかりコンサルすればよかった。ただ、新宿・池袋だけでも千店を楽に超える夜の街産業の個店に、どうやってそれを行うのか、という問題が最後のハードルとなる。説明会形式をとって、数十名単位でそれを実施しても、途方もない手間がかかるだろう。そこでここはアウトソースを考えたい。お願いするのは、主に税理士の先生になる。

今、持続化給付金は税理士を通して申請する企業が増えている。雇用調整助成金のように七面倒くさい手続きは不要のため、税理士の多くも5%程度の成功報酬でこれを請け負っている。彼らを束ねて、説明会の運営を任せれば、見込顧客の大量獲得になるから、喜んで引き受けてくれるはずだ。苦も無く顧客を集められることで、成功報酬の料率も下がるだろうし、家賃支援給付金などは額も張るから、1~2%で請け負う税理士も出てくるに違いない。

これらを6月の中旬までに実施していれば、COVID19の再流行は防げた。なぜ、それができなかったのか。それは、行政の企画力不足が原因ではないか?正面から「うん」と言わせられない相手には、ありったけの知恵を絞って、奥の手で言うことを聞かせるしかない。実際、大阪府はそれをやって来たから国民の評価が高まったのだろう。

対して、東京や国はその部分が弱い。企画力・クリエイティビティ、そして相手側の「痛しかゆし」ポイントを探る情報収集力に欠けているのだ。東京アラートなど「大阪モデル」の猿マネ。一方国は、アベノマスクや和牛券、GOTOキャンペーンなどという陳腐な施策を連発する。ともに企画力不足の賜物だ。

義務を果たさず、権利だけ主張するという問題

持続化給付金や雇用調整助成金については、税理士法人や社会保険労務士を取材していると、聞き捨てならないケースをよく耳にした。

それは、事業者側の怠慢だ。

たとえば、確定申告を長い間おこたっていたという事業者。これはとりわけ個人に多い。にもかかわらず、給付金の制度を知って、どうにかならないか、という相談を受けるという。

こうした「怠慢」事業者にも、期限後申告(青色申告控除の特典がなくなる)をして、通常の法人税・法人住民税に加えて、延滞税や無申告加算税を支払い、こうしたペナルティーを受けたうえでも、持続化給付金をもらったほうが得かどうかをコンサルしている税理士もいたりする。

が、怠慢事業者には本来、給付はされなくても当然だろう。

その他にも、小売店やサービス業、夜の街系ではそもそもの売り上げや利益を低く申告していたケースも多い。俗に、トー・ゴー・サン(サラリーマンの所得は10割捕捉されるが、自営業は5割、農業は3割という意味)などと言われてきた。

こうしたところは、昨年の売り上げ自体が過少申告のため、今年半減とならず、給付がされない。それも自業自得だろう。この点については第7稿に詳細がある。

夜の街で自粛鬱に、同情できないこれだけの理由

「『本当に苦しい』月収200万円→15万円、食事はカップ麺1食…コロナに苦しむ風俗嬢の今」(スポーツ報知、5月12日)など、夜の街の苦境を伝え、営業継続に同情的な論調もまま見られるが、この点についても考え物だ。

新聞記事通り月収200万円も稼いでいたのならば、個人事業主としてしっかり確定申告し、従来から所得税・住民税をきちんと払っておくべきだ。そうすれば、確実に「持続化給付金」が支払われたはずだ。中小企業庁は答弁で、「性風俗業を営む事業者を支給対象外としている。ただ働いている人は従業員として雇用されるのでなく、店から業務委託を受けて個人事業主として働くケースもあり、こうした人は対象になり得る」(参院財政金融委員会5月12日)と説明している。

個人事業者だったとしても100万円の持続化給付金と10万円の特定定額給付金が支払われる。プラスして15万円の月収があるのならば、数か月の間は並みのサラリーマンよりも贅沢な生活ができただろう。

プロフィール

海老原嗣生株式会社ニッチモ代表取締役、『HRmics』編集長

株式会社ニッチモ代表取締役、『HRmics』編集長。リクルート人材センター(現・リクルートエージェント)にて新規事業企画や人事制度設計等に関わった 後、リクルートワークス研究所へ出向、『Works』編集長に就任。2008年リクルートを退 職後、㈱ ニッ チモを設立。企業のHRコンサルティングに携わるとともに、㈱リクルートキャリア発行の人事・経営誌『HRmics』の編集長を務め る。 経済産業研究所プロジェクトメンバー、中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。

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