2021.06.01

子どものゲームやスマホの使い方に迷ったときに

井出草平 社会学

社会

『ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち 子どもが社会から孤立しないために』(吉川徹)は、現在のところ、ゲーム障害やネット依存症についての最良の本である。多くのゲーム障害やネット依存症の本は人々の不安を煽り立てるが、具体的な解決策については記載の乏しいものが多い。しかし本書にはそういった心配はない。バランスよく研究を紹介した上で、実際にどのように対応すればよいかということを教えてくれる。

わが子がゲーム障害かも?ネット依存症かも?と思っている親や保護者にとっても有益な情報が多いが、子育てをしているほとんど親や保護者にとっても参考になる情報が多い。「子どもがゲーム機を欲しがっているのだが買ってよいものか」「ゲームはどのくらい遊ばせてよいもののだろうか」「子どもがスマホを欲しいと言ったが、買い与えていいものか」「スマホ使用のルールを作りたいが、どうしたらいいのだろうか」。こういった悩みは子育てをしている保護者であれば必ずと言っていいほど持っているだろう。こういった悩みに対して、本書が具体的な指南をしてくれる。

1.ゲームやスマホも教育機会にする

子育てをしている親や保護者にとって関心事の一つは子どもにいつからスマホを持たせるかであろう。ゲームやスマホは子どもに悪影響があるからなるべく遠ざけようと考える人も多いかもしれない。しかし、著者はゲームやスマホの使い方を家庭で勉強するのは良い教育機会であると説く。

よくある失敗例をあげよう。高校生になった子どもにスマホを買い与え、使い方のルールを決めた。しかし、高校生は反抗期真っただ中である。親の言うことなど聞かず、ずっとスマホを使い続けた結果、はじめに決めたルールはどこかに行ってしまった。

この例の何が失敗なのかというと、ルールを守る習慣がそもそもないということだ。筆者は、保育園や小学生の頃からルールを作ることを提案している。高校生に比べれば、親の言うことを素直に聞くだろう。ルールをきめれば、そのルールも守るだろう。小さい頃からルールを守ることを習慣づけることで、高校生になってからもルールを守るということだ。

これはおそらくゲームやスマホだけに限ったことではない。約束やルールを守らせることを小さい頃からやっていれば、ゲームやスマホで大騒ぎする必要もない。中学生や高校生になっていきなり、付け焼刃のルールを作ろうとするから失敗するのである。

2.サイバー空間の理解

ルールというのはただ作ればよいわけではない。親や保護者は、子どもたちがゲーム機やスマホを使って「何をしているのか」を理解することが重要である。

あるテレビ番組で、女優でありゲーマーでもある本田翼さんが「ずっとゲームをしているお子さんを見ると、『ゲームは、あと何分よ』って区切りたくなる方多いと思うんですよ。『あと、じゃあ30分ね』『あと10分だけよ』って言う方多いんですけど、やめてあげてほしい」「もう、最近のゲームは時間じゃないんです。試合で区切るんです。だから、親御さんに言いたいのは、『あと1試合だけよ』と言ってほしい」と言っていた。

昔も格闘ゲームやぷよぷよなど試合で区切るものもあったのでは?という疑問を持たれる方もおられるだろう。しかし、現在のゲームは一人ではなく複数人でネットワークを介したプレイをするものが多いという違いがある。一人でゲームをしているように見えても、ネットワークの先に知人や友人やコミュニティがあるのである。試合途中で親にプレイを止められると、仲間からは試合を投げ出したように思われるし、それが続けば、一緒に組んで遊んでくれる人もいなくなり、コミュニティから出入り禁止になる可能性もある。もし、それがクラスの友達であれば、友人関係にひびが入るだろうし、いじめの発端になる危険すらある。

こういった近年のゲームの特性を理解できていない保護者は少なくないだろう。確かに今、子育てをしている世代が子どものころにはゲームはあった。しかし、ゲームの在り方は変わっているし、スマホやSNSはなかった。まずは、子どもたちの世界を知ることが必要なのだ。

本書の第1章は現在のゲームについての解説、第2章はSNSの解説、第3章は課金の仕組みについて書かれていて、保護者が子どものゲームやスマホの使用のコントロールができるペアレンタルコントロールについても記載がある。この種のことに疎い方にも、わかりやすく理解ができる構成になっている。

本書を読むだけではなく、子どもとよく話をしてみることも重要である。ゲームやネットは時間を奪われるコンテンツばかりだと思われがちだが、人生に役立つものも多く存在している。ゲーミフィケーションと呼ばれる、ゲームの仕組みを利用し、学習を効率よく行う仕組みを取り入れたアプリが多く存在している。例えば、英単語アプリや社会科のアプリなど本で学習するよりも効率的に学習ができるようになっている。また、スタディサプリというスマホは受験勉強には欠かせないツールにもなっている。紙だけで勉強する時代は既に過去のものになった。

一方で、様々な誘惑や危険なものの入り口もネットには存在しており、子どもに手放しでスマホを使わせて良い、という状況でもない。

ゲームやスマホといったデジタル機器の良いところは積極的に利用し、悪いところはなるべく回避すること。今の時代に保護者であることとは、そういった判別をつけていくことが求められるのである。少し前の時代の保護者には、こういった知識も判断も不要であった。しかし、時代は変わったのだ。デジタル機器の使い方を子どもと一緒に考えることも子育ての一つになったのである。

3.吉川家のルール

筆者である吉川家のルールが本書に記載されている。下記のようなルールだそうだ。

・テレビ、デジタル機器の利用は、1時間やったら1時間休む。

・タイマーを自分でセットする。

タイマーをかけずにゲームをやっているのを見つけたら即中止。

次回の権利を失う。

開始時間をメモに書いて冷蔵庫に貼る(メモはボールペンで書く)。

利用可能時間は7時~20時まで。休日は5回まで。

・食事や家族での行動は常に優先される。

・高校生になったら自室へのデジタル機器の持ち込み許可。

それぞれのルールには理由がちゃんとあり、考え抜かれた作りになっている。詳細は本書を読んでいただくとして、ルールを作るにはしっかりとした理由があって、そのことを親(保護者)と子どもが納得していることが重要である。また、ルールが守れなかった時にどうするか、ということも双方で合意しておくことも重要なことである。

4.デジタル化する社会の中でどのように生きればよいか

世の中はデジタル化が進んできている。一昔前はそろばんで計算していたが、現在ではそろばんは使われていない。代わりに、Excelなどのコンピューター・ソフトウェアで計算をする。そろばんのスキルがあっても役には立たず、デジタル機器を巧みに利用していくスキルが要求されている。

子どもがゲームにのめり込みすぎることは問題であろうが、デジタル機器が使いこなせないことも、また問題である。デジタル機器を子どもから遠ざければよい、というわけではないことが、この問題の難しいところである。

単純に就職に有利、不利という問題ではない。買い物をするときの決済は電子決済になっていき、遠からず現金は使われなくなるだろう。また、銀行の支店や出張所が閉鎖し始めていることにお気づきの方も多いのではないだろうか。今後、銀行はインターネット・バンキングが中心となる。デジタル機器が満足に使えなければ、生活もままならない時代が遠くない将来に到来する。デジタル機器と上手に共存し、使いこなしていくことがこれからの時代に必要であり、そのための教育が今必要とされている。

依存症にさせないために、子どもにデジタル機器を使わせないという教育は、子どもたちからこれからの時代を生き抜く能力を奪うことになるだろう。デジタル機器に依存せず、デジタル機器を上手く飼い馴らしていくにはどうすればよいのか。

もう少し大きな視点で、デジタル化していく社会の中で私たちがどのように生きていけばよいのか、子どもにはどのように生きていって欲しいかを考えてみて欲しい。

プロフィール

井出草平社会学

1980 年大阪生まれ。社会学。日本学術振興会特別研究員。大阪大学非常勤講師。大阪大学人間科学研究科課程単位取得退学。博士(人間科学)。大阪府子ども若者自立支援事業専門委員。著書に『ひきこもりの 社会学』(世界思想社)、共著に 『日本の難題をかたづけよう 経済、政治、教育、社会保障、エネルギー』(光文社)。2010年度より大阪府のひきこもり支援事業に関わる。

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