2021.11.19

シングルマザーの貧困を労働から考える

中囿桐代 社会保障論、ジェンダー論

社会

シングルマザーの貧困はなぜ解消されないのか 「働いても貧困」の現実と支援の課題

中囿桐代

はじめに

コロナ禍において女性、シングルマザーの貧困が深刻化している。内閣府男女共同参画局コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会は「報告書」の中で、「ひとり親世帯にはコロナの影響が厳しい形で表れていることから、特に、迅速にかつ手厚い支援を行なっていく必要」を指摘した。

しかし、コロナ以前から、多くのシングルマザーは「働いても貧困」の状態におかれている。厚労省「平成28年度 全国ひとり親家庭等調査結果報告」(以下、「調査結果」と表記)によれば81.8%が就労しており、これはOECDの平均65.7%よりも高い。しかし、厚労省「2019年 国民生活基礎調査の概況」によれば、大人が一人の子どものいる現役世帯(ひとり親家庭のことであるが、その約9割はシングルマザー)の貧困率は48.3%であるのに対し、大人が二人の世帯(二人親家庭)は11.2%である。圧倒的にシングルマザーの経済状況は厳しい。

筆者は先日、『シングルマザーの貧困はなぜ解消されないのか』(勁草書房)を上梓したが、そこでは、ほとんど注目されてこなかったシングルマザーの労働という観点から、彼女らの「働いても貧困」の実態とその要因について明らかにしようとした。本稿ではそのエッセンスを紹介したい。

シングルマザーの経済状況、労働の実態

ここで簡単に、母子世帯の状況を確認しておく。母子世帯とは、父のいない児童(満20歳未満の子どもであって未婚のもの)がその母に養育されている世帯である。「調査結果」によれば、母子世帯は全国で123.2万世帯、離婚で母子世帯となった者が約8割、8割以上は就業しており、平均年間就労収入は200万円、児童手当や児童扶養手当を含めた平均世帯収入243万円である。単純に12ヶ月で割れば月20万円ほどの収入になり、大雑把に言えば、シングルマザーは大卒の新人と同じ程度の収入で子どもを育てている。

児童扶養手当とは、ひとり親家庭の児童の福祉を増進するための社会手当てである。子どもが満18歳の年度末まで受給できる。シングルマザーの収入が増加すれば、手当て額は下げられる。子ども一人の場合、年収160万円以下で、満額の43,160円/月の手当てが支給される。母親の収入がそれ以上になれば十円単位で減額が行われ、年収360万円を超えれば支給は0である。最近、共同親権とセットで話題となっている元夫からの養育費も、控除はあるがシングルマザーの収入と認定されるので、児童扶養手当の受給額は下がる。2人目の子どもは満額で10,190円/月、3人目は6,100円/月である。2人目以降の手当額は非常に低い。

私が調査を行ったシングルマザーの当事者団体である公益社団法人札幌市母子寡婦福祉連合会(以下、札母連と表記)の母子の会員(末子が20歳未満)では、84.6%が就業しており、未就業は15.4%である。就業している者の就業形態は、正社員40.0%、非正規55.7%、自営等4.3%である。一月あたりの就労収入(手取り額)は正社員が18.3万円、非正規が12.4万円である。児童扶養手当等を含めた収入は正社員が22.4万円、非正規が19.4万円である。2021年の札幌市における母子3人(小学生、未就学児)の夏季の生活保護の最低生活費は23.4万円である。多くのシングルマザーは最低生活費以下で生活しており、経済状況は本当に厳しい。

シングルマザーは育児を優先するために、非正規に就くため収入が少ないと言われる。札母連の調査でも、週40時間未満で働く者の割合は、非正規が65.4%に対し正社員は45.7%である。しかし、週50時間以上就労する者の割合は、非正規11.8%と正社員10.8%であり、大きな差はない。副業をしている者は非正規に多い。単純に「子育て負担→非正規→シングルマザーの収入の低さ」と考えることはできない。

シングルマザーの貧困=日本のメンバーシップ型雇用における女性の厳しさ

シングルマザーの「働いても貧困」という問題を考えるには、日本のメンバーシップ型雇用における女性、特に子どものいる女性の位置を考えなければならない。濱口桂一郎著『働く女子の運命』(2015 文春新書)によれば、日本的雇用システムは、ある職務(ジョブ)ができる技能(スキル)を持つ人を採用する「ジョブ型社会」ではなく、新卒採用から定年までの長期間、企業が求める職務を無理をしてでもこなす「能力」と、どんな長時間労働も遠方の転勤でも受け入れられる「態度」を有する労働者が認められる「メンバーシップ型社会」である。育児に時間を取られるからシングルマザーが非正規になるのではなく、日本の労働社会の側にシングルマザーを含む女性、あるいは家事や育児を担当する労働者を、正社員から排除しようとする論理が働いているのである。

常時「能力」と「態度」を顕在化させることのできない多くの女性は、男女雇用機会均等法でマタニティハラスメントの防止義務が企業に課せられたとしても、育児休業制度があったとしても、自発的に第1子出産、あるいは妊娠や結婚とともに正社員の職を去ることとなる。

近年、女性の就業継続率は高まっているはずだという反論が有るだろう。厚労省の「令和元年度雇用均等基本調査」(2020)によれば、女性の育児休業取得率は83.0%、男性は7.48%であり、これを見れば働いている女性の大部分は育児休業を利用し、出産を経ても仕事を続けているように思える。しかしながら、内閣府男女共同参画局「第1子出産前後の女性の継続就業率および出産・育児と女性の就業状況について」(2018)を見れば、2010〜2014年に第一子出産後就業継続した女性は38.3%(育休なし10%、育休あり28.3%)しかいない。第一子出産後企業に残れた女性の8割は育休を取得していても、その前に出産した女性の全体の約6割は働くことを諦めているのである。確かにこれは以前に比べれば「まし」になった状態である。それでも、女性の労働力率は相変わらずのM字型カーブを描いている。近年、子育てしながら働く女性がマミートラックに陥っているという論説を見るが、多くの女性はマミートラックにも残れないのである。  

では、なぜ女性が子育てと仕事の両立を諦めるかといえば、その理由でもっとも多いのは、「子育てしながら仕事を続けるのが大変だったから」(前出、内閣府男女共同参画局「第 1子出産前後の・・・」)である。これは女性に「やる気がない」という問題ではない。長時間の残業、サービス残業、転勤や担当する職務の変更がデフォルト設定となっている現在の日本の正社員の現状からすれば、労働時間を限定したい(=保育所のお迎えまでに帰りたい)、働く場所を限定したい(=子どもの保育所や学校を変わりたくない)、担当する職務を限定したい(=今の職務で専門性を高めたい)という女性やワーキングマザーの願いは、メンバーシップ型雇用の正社員の椅子に座り続けることと矛盾してしまうのである。かくして子どもを持つ女性は正社員の椅子から降りる決断をせざるをえない。

日本の育児休業制度は充実しており、諸外国を見てももっとも進んだ制度と言われる。労働基準法で定められた産前産後休業、雇用機会均等法で保障されている母性健康管理措置、育児介護休業法に定められた休業や小学校入学までの時短勤務、残業の制限の規定など、事細かに定められている。ところが、育児(あるいは介護)中でない男女正社員労働者は、無限定正社員として仕事をしているのであるから、一部の育児や介護を担う正社員が無限定に仕事をしない(できない)状況は職場でのコンフリクトを生じさせてしまう。いくら厚労省が企業に男性労働者への育休の説明や意向調査を義務付けても、実効性があるか疑問である。繰り返しになるが、日本に強固に残るメンバーシップ型雇用が、女性の正社員継続に大きな悪影響を与えていることを忘れてはならない。

そして、一度正社員の椅子から降りた者が(あるいは新卒時に正社員になれなかった者が)、正社員に戻りづらい(なりにくい)のが日本のメンバーシップ雇用である。企業は新規学卒者を正社員として一括採用し、そこから様々な職務を担当させつつ人材育成を行っていくからである。一度退職した女性の多くは、パートを典型とする非正規に就かざるをえない。

先に述べた札母連の調査でも、シングルマザーの多くは新卒時正社員で就職したが、第1子出産時に仕事を辞めている。そして離婚前に非正規で再就職する者が多いが、シングルマザーになってからの正社員への転換は簡単ではない。

厚生労働省の支援:職業訓練の重視

一方、厚労省のシングルマザーの自立へ向けての支援の中で重要視されているのが職業訓練である。前出のコロナ下の女性への影響と課題に関する研究会「報告書」でも、職業訓練の重要性は指摘されており、高等職業訓練促進給付金の利用を広げようとしている。高等職業訓練促進給付金とは、シングルマザーが1年以上専門学校等に通い(上限4年)、看護師や保育士などの国家資格等の取得を目指す場合、職業訓練中に月10万円の生活費を支給するものである。2021年のみ半年以上の訓練に対象が拡大され、デジタル関係の資格を目指す場合も利用できるようになった。

2019年度の総支給件数は7,348人、資格取得者は2,855人、就職者が2,121人である。就職者のうち常勤(フルタイム労働者のことで必ずしも正社員ではない)が1,835人で87%を占める。もっとも資格取得者が多いのは看護師1,212(資格取得者の42.4%)、次いで准看護師1,016人(35.6%)である。看護師の就職者は1,035人、常勤率は95.3%である。准看護師は就職者603人、常勤率は87.6%である。もしかしたら、准看護師の就業率が低いと思われる方がいるかもしれないが、准看護師の資格取得後、看護師養成の専門学校に進学する場合もある。

このように高等職業訓練促進給付金は、シングルマザーを看護師に〈転職〉させること成功している。それは、看護師が長年人材不足の職業であること、女性の職業としては比較的高賃金であることが要因である。「平成27年 賃金構造基本調査」を見れば、一般労働者(短時間労働者以外)の女性看護師の現金給与額は32万8600円、准看護師は25万7300円である。女性の一般労働者の平均の24万2000円よりも看護師、准看護師は給与が高い。

職業能力開発によってシングルマザーの自立を促すという理念を誰も否定できないだろう。現実に制度を利用して常勤(すべてが正社員とはいえないが)で就職しているシングルマザーも多い。しかし、課題も多い。第一の課題は、対象がかなり限られていることである。この数年は厚労省の施策の影響もあり利用は増えている。だが、シングルマザー123万人のうち、高等職業訓練促進給付金を利用できるのは年間7000人程度である。専門学校の修学期間が2〜3年であることを考えると、「1学年」あたりの利用者は多く見積もっても2000人程度であろう。

また、専門学校等の入学資格に満たない中卒者等はこの事業の対象にならない。入学試験に無事パスし、修学期間の子どものケアや生活保障がなされている場合利用が可能となる。厚労省としては生活保障として母子父子寡婦福祉貸付を用意しているが、子どもの大学等への進学の時期が近いと子どもの奨学金と二重の借り入れになるので、利用を決断できないシングルマザーは少なくない。

第2の課題は、資格の取得はシングルマザーの転職、文字通り職業を変えることを進める施策であり、それがつねに正社員化と同義ではないことである。資格を取得して新たに就く職種の賃金レベルが、彼女らの賃金を引き上げることが期待されている。政策のイメージは事務や販売で働いたシングルマザーに資格を取得させ、看護師等で再就職させるというものであろう。正社員化が資格取得による職業の変更に読み替えられており、シングルマザーがすでに経験のある事務や販売の仕事を続けて正社員になるというキャリアアップの方法はここでは想定されていない。

資格を取得して就職しても、雇用形態が必ずしも正社員でない場合もあり、また正社員であっても自立が果たせる賃金に届かない場合も存在する。看護師、准看護師の比較的高い給与は、あくまで正社員雇用で交代勤務を果たした場合であり、看護師であってもパートであればこの賃金には遠く及ばない。

末子が20歳以上のシングルマザーも「働いても貧困」という現実

すでに述べたように母子世帯の定義は子どもが20歳未満であった。では、子どもが20歳を過ぎたらシングルマザーはどうなってしまうのだろうか? 多くのシングルマザーは子どもを大学等に通わせながら働いている。しかし、子どもが20歳をすぎたシングルマザーは統計上も、社会支援からもインビジブルなものへ移行してしまう。そこで、筆者は子どもが成人したシングルマザーを「寡婦」とし、札母連の寡婦のアンケートを分析し、その労働と生活の実態を明らかにした。

アンケートを行って驚いたのは、年金を繰り上げて受給している寡婦の多さである。アンケートを行う前は高齢者となる65歳を区分に考えていたが、アンケートを行ってみると、寡婦の60歳から年金の繰り上げ受給が多いことが分かった。65歳未満で繰り上げ受給すれば年金額は下がり、2020年現在の減額率は60歳から繰り上げの場合30%である。60歳未満の就業する寡婦は自分の賃金で生計を成り立たせ、60歳以上の就業者は年金+賃金で、60歳以上の未就業は年金等で生計を成り立たせていることが分かったのである。

60歳未満寡婦(平均年齢52歳)の就業率は84.9%であり、同じく札母連の母子のアンケートの就業率は84.6%とほぼ変わらない。60歳未満寡婦の就業形態は、正社員42.2%、非正規53.3%、自営4.4%である。母子の就業形態は、正社員40%、非正規55.7%、自営4.3%であり、母子と60歳未満の寡婦ではほぼ割合は変わらない。シングルマザーは子育て負担が軽くなっても、年齢が上がり仕事の経験年数が上がっても、正社員に移行できない厳しい現実を示している。

母子と60歳未満の寡婦の正社員の月当たりの賃金比べれば、18.3万円と24.3万円と、寡婦が6万円程多い。しかし、寡婦になると児童扶養手当や児童手当等が受けられなくなので、総収入は22.4万円と24.3万円と、増加は2万円程度となる。60歳未満寡婦の非正規の賃金をみると14.2万円であり、母子の非正規12.4万円より1.8万円多い。ただし、寡婦になり児童扶養手当や児童手当等が受けられなくなので、総収入は19.4万円、14.9万円と4.5万円低くなる。非正規の寡婦の経済状況は非常に厳しい。

非正規の寡婦では、週40時間未満で就労している者の割合は、60歳未満寡婦の正社員では42.1%(母子45.7%)、非正規で39.1%(65.4%)とであり、非正規の減少幅が大きい。週50時間以上働いている者の割合をみると、60歳未満の寡婦で正社員が10.5%(10.8%)に対し、非正規は26.0%(11.8%)となる。子育てに手がかからなくなり、特に非正規で労働時間を伸ばしている者が多い。非正規では賃金が最低賃金と同程度の者が多いため、労働時間を伸ばして収入を確保しようとしている。子どもが成人してもシングルマザーの「働いても貧困」は続いている。

高齢でも就業するシングルマザー:非正規で働き年金を繰り上げ受給

60歳以上寡婦の平均年齢は67.2歳であるが、就業率は47.4%であり、約半数のシングルマザーは高齢者となっても働いている。就業者のうち非正規が84.8%を占める。60才以上寡婦の非正規の賃金は8.9万円(60歳未満寡婦非正規では14.2万円、母子非正規12.4万円)であり、労働時間は短くなり、週40時間未満が78.4%を占める。

そして、60歳以上の非正規の寡婦は7割以上が年金を受給しながら働いている。賃金は8.9万円であるが、厚生・共済年金7.7万円や国民年金5.1万円を受給し、平均の月当たりの収入は14.9万円である。寡婦に限らず女性の賃金が全体として低いため、また、繰り上げ受給の減額もあり年金額も決して多くはない。低賃金と低年金を合わせて何とか生活ができている。 

あまりにも低い高齢シングルマザーの年金額

60歳以上の未就業者の平均年齢は71.4歳である。年金が収入の大きな柱となっている。しかし、年金だけでは生活できないため、子どもからの援助を受ける等して生活を成り立たせている。平均の月収は11.2万円であるが、もっとも少ない者は国民年金5万円だけであった。札幌市の単身者の夏季の生活保護の最低生活費は11.1万円であり、未就業者の収入の平均はこれとほぼ同じである。

長年一人で子どもを育て、働いてきたシングルマザーの老後の収入は生活保護基準とほぼ同額であり、あまりにも厳しい経済状態である。

シングルマザーの貧困問題を考えるために

これまで述べてきたようにシングルマザーの貧困は、日本のメンバーシップ型雇用から女性が排除されていることが大きな原因である。そして、子どもが未成年の時だけではなく、子どもが成人し、さらにシングルマザーが高齢者となっても、「働いても貧困」の状態は続き、老後の頼みの綱である年金の受給額も低いのである。

コロナ禍において政府は児童扶養手当を受給しているシングルマザーを中心に、臨時給付金を2021年春までに3回支給した。すでに述べたように、ポストコロナを見越して厚労省は職業訓練に力を入れている。しかし、これらは日本のメンバーシップ型雇用に起因する問題に対しては何も意味をなしていない。そして、子どもが成人したシングルマザーへの支援は何も届いていないのである。

シングルマザーの「働いても貧困」という問題を解決するには、日本の労働のあり方と女性の労働に対する評価を抜本的に変容させる必要がある。シングルマザーが「働いて自立」することが可能になれば、他の労働者の労働と生活もディーセントなものとなるであろう。シングルマザーの抱える課題を社会全体から考え、改善するための一助に本稿がなれば幸いである。

プロフィール

中囿桐代社会保障論、ジェンダー論

1954年茨城県生まれ。1955年北海道大学大学院教育学研究科後期博士課程単位取得満期退学、2001年北海道大学博士号取得(教育学)。釧路公立大学経済学部教授を経て、2012年より現職。現在北海学園大学経済学部教授。「シングルマザーのキャリア継続と正社員雇用」(『季刊北海学園大学経済論集』66巻2号、2018年)、「『女性活躍社会』の下での母子家庭の母の労働と生活 ~強制される就労と貧困~」(『日本労働社会学会年報』第27号、2016年)、「認可保育所を利用する親の労働・子育ての実態 ―釧路市を事例に―」(『労働社会学研究』15号、2014年)。

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