2023.03.17

「結婚の自由をすべての人に」訴訟(いわゆる同性婚訴訟)の現状と今後

寺原真希子 弁護士(日本・NY州)

社会 #法と社会と自分ごとをつなぐパブ

法律上の性別が同性同士であるカップルの婚姻を認めていない現在の法律が憲法違反であることを問う日本初の訴訟(「結婚の自由をすべての人に」訴訟)は、2019年に札幌・東京・名古屋・大阪・福岡地裁にて提起され、全国5か所で進行中である。私は、東京訴訟弁護団の共同代表を務めている。

これまでに3つの判決が出ており、1つ目は2021年3月の札幌地裁による違憲判決(性的指向に基づく差別として憲法14条1項違反)、2つ目は2022年6月の大阪地裁による合憲判決、3つ目は同年11月の東京地裁による違憲判決(同性愛者がパートナーと家族になるための法制度がないのは憲法24条2項違反)である。

本稿では、これらの訴訟で原告らが何を主張しているのか、婚姻の平等(いわゆる同性婚)がなぜ必要なのか、国はどう反論しているのか、そして裁判所はどのように判断したのかについて説明した上で、今後の訴訟の流れについても触れる。

なお、主な訴訟資料はCALL4|社会課題の解決を目指す“公共訴訟”プラットフォームにて公開している。

1.原告らの主張

この訴訟において原告らは、同性間の婚姻を認めていない現在の法律について、以下のとおり主張している(但し、③の主張の有無は地域により異なる)。

① 婚姻の自由を保障する憲法24条1項(及び憲法13条)に違反する。

② 平等原則を定める憲法14条1項に違反する。

③ 個人の尊厳に立脚して婚姻・家族に関する法律を制定することを要請する憲法24条2項に違反する。

憲法14条1項
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

憲法24条
1.婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2.配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

ここで誤解のないように念のため補足すると、原告らが主張しているのは、「同性間の婚姻を認めないことは憲法違反である」ということであって、「同性間の婚姻を認めることが憲法違反にあたるか」(つまり、憲法を改正しなければ同性間の婚姻を認めることはできないのか)は問題となっていない。

「同性間の婚姻を認めることが憲法違反にあたる」という見解(いわゆる同性婚禁止説)は、政府による国会答弁でも示されておらず、憲法は同性間の婚姻を禁止していないというのが憲法学者の通説である。実際、本訴訟においても、国は、「憲法に違反するから認められない」との主張は一切していない。

なお、本訴訟は国家賠償請求訴訟の形をとっているが、これは、日本においては、ある法律が憲法違反か否かを抽象的に問うという訴訟形式(抽象的違憲審査制)は採用されておらず、具体的な権利侵害を主張することが必要であるためである(付随的違憲審査制)。原告らは金銭を目的として提訴したわけではなく、原告らが求めているのは「同性間の婚姻を認めていない現在の法律は憲法違反である」という司法判断である。

2.婚姻の平等(いわゆる同性婚)がなぜ必要なのか

そもそも、原告ら(法律上の性別が同性同士であるカップル等)は、なぜ、同性間の婚姻を求めているのか。2つの側面から説明しておきたい。

1つは、婚姻(法律婚)には様々な法的効果(権利・義務)が付随しているところ、原告らは、それらを享受できないことで具体的な不利益を被っているからである(法律婚夫婦と同性カップルの権利状況の比較はこちら→どうして同性婚 | 結婚の自由をすべての人に – Marriage for All Japan –)。同性カップルは、日常的に、また人生の重要な局面において、そのような具体的な不利益を被っている。

もう1つは、そのように国(法制度)が同性カップルを異性カップルと同等に扱わないこと自体が、同性カップル(性的マイノリティ)に対する差別だからである。もしあなたが、国から、「あなたの隣人は結婚するかどうかを選択できるけど、あなたにはそもそも結婚という選択肢自体がありません」と言われたとしたら、どう感じるだろうか。「自分と隣人は人として等しく尊重されるべき存在であるはずなのに」と、自分の尊厳が傷つけられた気持ちになるのではないだろうか。

実際、性的マイノリティの中には、同性間の婚姻が認められていないことで自分の将来の家族像を思い描くことができず、自分の存在が認められていないと自分を否定し、自殺を考えるまでに生き悩んだという経験を持つ人が少なくない。今、この瞬間も、そのように日々を生き悩んでいる子ども達や若者が日本各地に存在する。

同性間の婚姻が認められていないことだけが要因ではないが、政府の自殺総合対策大綱でも性的マイノリティの自殺念慮リスクの高さが指摘されており、自殺未遂経験の割合は、シスジェンダーの異性愛者と比べて、同性愛者や両性愛者で6倍、トランスジェンダーで10倍との調査結果がある。〔注1〕

3.被告(国)の主張

以上に対し、被告である国は、「同性間の婚姻が認められないことには合理性がある」と反論している。その根拠として国が挙げるのは、主に以下の3点である。

① 婚姻制度の目的は、夫婦がその間の子を産み育てる関係性を保護すること(つまり自然生殖関係保護)にある。

② 同性愛者でも、異性と婚姻することはできるから、婚姻できないわけではない。

③ 婚姻できなくても、二人で共同生活を営むことは可能である。

まず、①については、自然生殖の意思や能力を婚姻要件としていない現行法の建付けや社会の認識と合致しておらず、異性カップルについては子の有無にかかわらず婚姻が認められていることを説明できない。また、異性カップルと同様に生殖補助医療を利用する等して子を産み育てている同性カップルが相当数存在する実情も踏まえていない。

②については、あえて説明するまでもないが、同性愛者が異性と婚姻したとしても、それは婚姻の本質を伴うものとは言えない。

さらに、原告らは、「共同生活ができないこと」を問題としているのではなく、「婚姻できないこと」を問題としているのであって、③は的外れとしか言いようがない。

4.裁判所の判断

(1)2021年3月17日札幌地裁違憲判決:憲法14条1項違反

以上を受けて、最初に出た札幌地裁判決は、現在の法律が「異性愛者に対しては婚姻という制度を利用する機会を提供しているにもかかわらず、同性愛者に対しては、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていること」は、「合理的根拠を欠く差別取扱いに当たる」から、「憲法14条1項に違反する」と判断した。

その前提として、同判決は、「子の有無、子をつくる意思・能力の有無にかかわらず、夫婦の共同生活自体の保護も…重要な目的である」として、国の反論①を排斥し、また、「同性愛者が、性的指向と合致しない異性との間で婚姻することができるとしても、そのような婚姻が、当該同性愛者にとって婚姻の本質を伴ったものにはならない」として、国の反論②も排斥している。

(2)2022年6月20日大阪地裁合憲判決

これに対して、2つ目となった大阪地裁判決は、国の反論①及び③を受け入れる形で、同性間の婚姻が認められていないことには合理性があるとして、憲法違反を認めなかった。

但し、国の反論②については、「同性愛者にとっては、異性との婚姻制度を形式的には利用することができたとしても、それはもはや婚姻の本質を伴ったものではない」として排斥している。

また、「同性愛者にも異性愛者と同様の婚姻又はこれに準ずる制度を認めることは、憲法の普遍的価値である個人の尊厳や多様な人々の共生の理念に沿うものでこそあれ、これに抵触するものでない」として、いわゆる同性婚禁止説も明示的に否定した。

(3)2022年11月30日東京地裁違憲判決:憲法24条2項違反

そして、3つ目となった東京地裁判決は、「現行法上、同性愛者についてパートナーと 家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、個人の尊厳に照らして合理的な理由があるとはいえず、憲法24条2項に違反する状態にある」と判断した。

「人格的生存に対する重大な脅威、障害」という踏み込んだ表現を使用し、「個人の尊厳」に照らして判断したことは、原告ら・弁護団が、この問題を「個人の尊厳の問題」「命の問題」であると訴えてきたことを捉えたものと評価できる。

また、同判決は、同性パートナーと家族になるための法制度を構築することは、「同性間の人的結合関係を強め、その中で養育される子も含めた共同生活の安定に資するものであり、これは、社会的基盤を強化させ、異性愛者も含めた社会全体の安定につながる」とも指摘した。2023年2月1日、岸田首相は「同性婚を認めると社会が変わってしまう」と答弁したが、同性カップルの関係性を法的に保護することは、むしろ、「社会的基盤を強化」させ、「社会全体の安定につながる」のである。

なお、同判決は、国の反論③についても、「同性カップルでも共同生活を営むこと自体は自由であって、本件諸規定はそれ自体を制約するものではない。しかしながら、我が国において、法律婚を重視する考え方が依然として根強く存在することは前記のとおりであり、婚姻することによって社会内で家族として認知、承認され、それによって安定した社会生活を営むことができるという実態があることが認められるところ、同性間の人的結合関係については、法律上、このような社会的公証を受ける手段がないため、社会内で生活する中で家族として扱われないという不利益を受けている。」として、明確に排斥している。

5.今後の訴訟の流れ

2023年5月30には名古屋地裁判決が、同年6月8日に福岡地裁判決が予定されている。また、札幌訴訟、東京訴訟及び大阪訴訟については、それぞれ高裁へと審理の場が移っており、今後、高裁判決が出ることになる。最終的には最高裁にて判断が下されることとなり、その時期は2024年か2025年と予想される。

6.最後に

婚姻が絶対の価値観でないことは当然であるが、婚姻には多数の法的効果が伴う上、婚姻による社会的承認という効果を無視することはできない。同性間の婚姻を認めていない現状は、国が、「同性カップルは異性カップルと同等の法的保護を与えるに値しない存在である」という負のメッセージを発信し続けているのと同義であり、性的マイノリティの個人の尊厳は日々傷つけられている。

歴代の首相は、同性間の婚姻について、「極めて慎重な検討が必要」だという答弁を繰り返すだけで、検討を開始することすらしていない。前述の岸田首相による「同性婚を認めると社会が変わってしまう」という答弁を受けて、2023年2月3日には、荒井勝喜首相秘書官(当時)が、「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」との趣旨の発言を行ったと報道された。検討が開始すらされない背景には、このような差別意識があったのであろうか。

性的マイノリティの人権を確保するための法制度が整備されていない中で、性的マイノリティである子ども達を含む多くの人々が今を生き悩んでおり、また、本訴訟の原告の中には、法改正をみることなく亡くなった人もいる。その原告は、脳出血で倒れて病院へ運ばれたが、長年連れ添ったパートナーの男性は、「家族でない」という理由で医師から病状説明を受けることも叶わなかった。

同性カップルが婚姻できないのは、過去の私自身のように、性的マジョリティがこの問題に無関心で、結果として差別を放置・温存してきてしまったことによる。性的マジョリティこそがこの問題の「当事者」なのであり、行動しないこと(静かなる賛成)は現状の追認であり、差別への加担であるということが認識されなければならない。

国会には、最高裁を待たずに法改正することが強く求められている。 

〔注1〕釜野さおり・石田仁・岩本健良・小山泰代・千年よしみ・平森大規・藤井ひろみ・布施香奈・山内昌和・吉仲崇 2019. 『大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート報告書(単純集計結果)』 JSPS 科研費 16H03709「性的指向と性自認の人口学―日本における研究基盤の構築」・「働き方と暮らしの多 様性と共生」研究チーム(代表 釜野さおり)編 国立社会保障・人口問題研究所 内

プロフィール

寺原真希子弁護士(日本・NY州)

長島・大野・常松法律事務所等の都内事務所勤務、NY大学ロースクール留学、旧メリルリンチ日本証券(株)でのインハウスロイヤーを経て、2010年より弁護士法人東京表参道法律会計事務所共同代表。2011年より選択的夫婦別姓訴訟弁護団(2022年より弁護団長)。2019年より「結婚の自由をすべての人に」訴訟東京弁護団共同代表及び公益社団法人Marriage For All Japan代表理事。著書として、「夫婦同姓・別姓を選べる社会へ~わかりやすいQ&Aから訴訟の裏側まで~」(恒春閣、2022年)、「ケーススタディ 職場のLGBT」(ぎょうせい、2018年)等。

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