2023.07.24

日本国憲法における「同性婚導入」と「パートナーシップ導入」―近時の裁判例とその先の議論―

村山美樹

社会 #法と社会と自分ごとをつなぐパブ

1.憲法の婚姻条項と「同性婚導入」・「パートナーシップ導入」

近年欧米諸国を中心に、同性婚を導入する傾向がみられます。我が国においても、各地方自治体において、種々のパートナーシップ制度が認められるなど、これにあわせる動きが認められます。ただ現在(2023年6月)においても法律レベルにおいて、①同性婚の導入(現行の婚姻を同性同士でも締結可能とすること)も、②婚姻類似のパートナーシップの設立も、なお達成されていません。 

では、この①または②を可能とする法律が可決された場合、これは日本国憲法の観点から、どのように評価されるでしょうか(以下、法律によって同性婚制度が導入されることを「同性婚導入」、婚姻類似のパートナーシップ制度が法律によって導入されることを「パートナーシップ導入」とします)。

条文を確認しますと、いわゆる家族・婚姻条項といわれる日本国憲法24条1項(以下、日本国憲法は憲法とします)は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」としています。この条文に含まれる「両性の」「夫婦」という文言から、少なくとも「同性婚導入」は想定されていないと読むこともできます。

それを裏付けるように、2015年2月18日、参議院本会議にて、当時の内閣総理大臣、安倍晋三氏は次のように述べていました。「同性カップルの保護と憲法二十四条との関係についてのお尋ねがありました。憲法二十四条は、婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立すると定めており、現行憲法の下では、同性カップルに婚姻の成立を認めることは想定されておりません。同性婚を認めるために憲法改正を検討すべきか否かは、我が国の家族の在り方の根幹に関わる問題であり、極めて慎重な検討を要するものと考えております」。

以上の経緯があったことからも、この条文は「婚姻制度を男性と女性に限る趣旨なのではないか」と考えることは、自然であるともいえるでしょう。しかしながら、「パートナーシップ導入」も不可能なのでしょうか。これについては、それが少なくとも名称の上では「婚姻」という言葉を用いていないために、この条項の文言のみでは判断が難しいでしょう。

2.「同性婚導入」・「パートナーシップ導入」についての裁判所の評価

このような問題について、近時、地方裁判所が判断を下しています。まず、「同性婚導入」について扱います。憲法24条1項は同性婚導入を禁止する趣旨をもつという読み方につき、2022年6月20日における大阪地裁の裁判例(大阪地判令和4・6・20・裁判所ウェブサイト)では、その読み方は必ずしも正しい解釈によるものではないとされています。

同裁判所は、次のように述べました。「……『両性』という文言がある以上、憲法24条1項が異性間の婚姻を対象にしているということは否定できないとしても、このことをもって直ちに、同項が同性間の婚姻を積極的に禁止する意味を含むものであると解すべきとまではいえない。かえって、婚姻の本質は、永続的な精神的及び肉体的結合を目的として公的承認を得て共同生活を営むことにあり、誰と婚姻をするかの選択は正に個人の自己実現そのものであることからすると、同性愛と異性愛が単なる性的指向の違いに過ぎないことが医学的にも明らかになっている現在……、同性愛者にも異性愛者と同様の婚姻又はこれに準ずる制度を認めることは、憲法の普遍的価値である個人の尊厳や多様な人々の共生の理念に沿うものでこそあれ、これに抵触するものでないということができる。しかも、近年の各種調査結果からは、我が国でも、同性愛に対する理解が進み、同性カップルに何らかの法的保護を与えるべきとの見解を有する国民が相当程度の数まで増加していることがうかがわれる…。以上によれば、憲法24条1項が異性間の婚姻のみを定めているからといって同性間の婚姻又はこれに準ずる制度を構築することを禁止する趣旨であるとまで解するべきではない。」

すなわち、憲法24条1項の「婚姻」は確かに、異性間の婚姻を対象とはしているものの、「同性婚導入」を禁止する趣旨の規範までは含まないとするのが、大阪地裁の解釈です。

他方で、大阪地裁は、次のようにも述べています。「憲法24条が異性間の婚姻のみを対象として婚姻に係る法制度の構築を法律に委ねていることからすると、本件区別取扱いは、憲法が予定し許容しているもので、憲法14条1項に違反しない。……また、本件諸規定は性的指向によって婚姻制度の利用の可否を定めているものではない中立的な規定であるから、同性愛者と異性愛者との間で婚姻について生ずる差異は本件諸規定から生ずる事実上の結果ないし間接的な効果にすぎないこと、婚姻及び家族に関する事項の憲法14条1項適合性については憲法24条2項の解釈と整合的に判断する必要があること、同性間の婚姻による権利利益は憲法上保障されたものとはいえないこと等からすると、同性間の婚姻を認めるかどうかは立法府による広範な裁量が認められる事柄であるといえる」。

上述の通り、「同性婚導入」は禁止されてはいないとするものの、国会は同性婚を導入する義務を負っているか、という点について、大阪地裁は否定しています。「同性婚導入」について、憲法上の禁止はないものの、これがなすことが憲法上義務付けられる程までではないというのが大阪地裁の帰結です。

「パートナーシップ導入」についてはどのように考えるべきでしょうか。大阪地裁は先ほどの引用部において「同性愛者にも異性愛者と同様の婚姻又はこれに準ずる制度を認めることは、憲法の普遍的価値である個人の尊厳や多様な人々の共生の理念に沿うもの」、「同性間の婚姻又はこれに準ずる制度を構築することを禁止する趣旨であるとまで解するべきではない」としており、「パートナーシップ導入」についても、決して憲法上禁止されてはいないと解釈していると言ってもよいでしょう。

一方「パートナーシップ導入」について、これを推し進めなければ平等原則に照らして違憲となると解釈したと読めるのが、札幌地裁の2021年3月17日の裁判例(札幌地判令和3・3・17・裁判所ウェブサイト)です。同裁判所は婚姻制度を定める民法及び戸籍法の諸規定が全体として同性婚についての規定を置かないこと(以下、これについては以下の引用文中で「本件規定」とされています)について、これを「人の意思によって選択・変更できない事柄である性的指向に基づく区別取扱い」とし、「婚姻によって生じる法的効果を享受することは法的利益であって、同性愛者であっても異性愛者であっても、等しく享受し得る利益と解すべきであり、本件区別取扱いは、そのような性質の利益についての区別取扱いである。」としました。

同裁判所は「婚姻によって生じる法的効果」を享受する「法的利益」は、「憲法24条がその実現のための婚姻を制度として保障していることからすると、異性愛者にとって重要な法的利益であるということができる」とし、「本件規定を同性間にも適用するには至らないのであれば、そのことが直ちに合理的根拠を欠くものと解することはできない」としながらも、「本件規定が、異性愛者に対しては婚姻という制度を利用する機会を提供しているにもかかわらず、同性愛者に対しては、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは、立法府が広範な立法裁量を有することを前提としても、その裁量権の範囲を超えたものであるといわざるを得ず、本件区別取扱いは、その限度で合理的根拠を欠く差別取扱いに当たると解さざるを得ない。」(強調は引用者によるもの)として、憲法14条1項に照らして、なんらかの立法措置がとられないことは違憲であると判断しました。

この「婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段」というものが、「同性婚導入」を指すかという点については、判断の分かれるところですが、札幌地裁は、「同性婚導入」については大阪地裁とは異なり、消極的な言明をなすにとどまります。札幌地裁はまず、「憲法24条1項は『両性の合意』、『夫婦』という文言を、また、同条2項は『両性の本質的平等』という文言を用いているから、その文理解釈によれば、同条1項及び2項は、異性婚について規定しているものと解することができる」としています。

また同条項の趣旨に照らし、十分尊重するに値するとされる「婚姻をするについての自由」が同性間にも及ぶかという問題については「同条の制定経緯に加え、同条が『両性』、『夫婦』という異性同士である男女を想起させる文言を用いていることにも照らせば、同条は、異性婚について定めたものであり、同性婚について定めるものではないと解するのが相当である。そうすると、同条1項の『婚姻』とは異性婚のことをいい、婚姻をするについての自由も、異性婚について及ぶものと解するのが相当であるから、本件規定が同性婚を認めていないことが、同項及び同条2項に違反すると解することはできない。」とし、日本国憲法24条が文言上も、制定史上も、同性カップルを想定していない点を強調していました。

さらに、同裁判所は「婚姻の本質」について「両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにある」とし、あえて「両性」という言葉をここに含めています。これらの点を考慮するのであれば、ここで導入しなければ違憲と考えられている制度は同性婚ではなく、婚姻によって生じる法的効果の一部でも同性間に提供可能なかたちで設計のされている「パートナーシップ導入」であると推測することもできます。

3.「パートナーシップ導入」は合憲という共通点とドイツの経験

以上を踏まえると、現在、「同性婚導入」については24条1項を理由として導入を違憲であるとすることは、大阪地裁の解釈からすれば、否定されるものの、婚姻の異性性を強調する札幌地裁の解釈からすれば、肯定可能とも言えるのではないでしょうか。他方、「パートナーシップ導入」について、札幌地裁は、立法によって、婚姻と類似する規律(婚姻によって生じる法的効果の一部を同性間に享受させることが可能な法的手段)のないことが平等原則に照らし違憲であるとしていました。大阪地裁は「同性婚導入」が憲法上許容されるものと判断するなかで「パートナーシップ導入」についても肯定的な見解を述べています。つまり、「パートナーシップ導入」については、両裁判所ともに、憲法上禁止されているとは考えていません。二つの裁判所は「婚姻類似の法律上の制度を同性間に開くことは憲法上可能である」という点では一致していました。

では、仮に今後の裁判例もこの立場を踏襲し、これを受けて「パートナーシップ導入」が成し遂げられた際、その段階ではどのような憲法上の議論が生じ得るでしょうか。これについて、ドイツで生じた現象を参照してみましょう。

ドイツはその憲法(基本法)のなかに、日本と同様に家族・婚姻条項を置いています。「婚姻及び家族は、 国家秩序の特別の保護を受ける」(基本法6条1項)とするこの条項には、憲法24条1項とは異なり、婚姻締結における当事者の性別について、文言上特に規定はありません。しかし、連邦憲法裁判所が、この条文における「婚姻」を定義しています。ドイツには日本とは異なり、憲法に関する問題を専門的に扱うこの連邦憲法裁判所という機関が存在し、この機関が憲法解釈について大きな役割を担ってきました。

さて、同裁判所は、「婚姻」を「法律上予定されている形式において結ばれ、 原則的に解消することのできない、 長期間にわたる男女の生活共同体」と定義しています。1993年の時点で、ドイツにおいては「同性婚導入」をめぐる訴訟がありましたが、この定義に基づき連邦憲法裁判所は、同性婚を導入しないことは違憲ではないと判示しています。すなわち、基本法6条1項による婚姻は、 生活共同体としての男性と女性の結びつきであり、ゆえにこの条項からは同性カップルの婚姻の権利は導きだされないとされました。

いわば、ドイツの家族・婚姻条項は、婚姻の性別要件に関する文言は含まないにせよ、憲法解釈につき権限ある機関によって、婚姻の性別要件に関する憲法規範を含むとされてきたと言えます。ここから「同性婚導入」について、憲法上消極的な判断が下された過去がありました。また、同条項の「特別の保護」という文言から、「婚姻」は他の生活共同体よりも優遇されるべきであるという憲法規範を読み取ることもできるでしょう。その点からすれば、婚姻類似の制度設立を目指す「パートナーシップ導入」についても憲法上否定的な評価を下すことも可能なように読めます。

しかし、結果としてドイツでは、①2002年に「パートナーシップ導入」は合憲であると連邦憲法裁判所により判断され、②2017年に「同性婚導入」がなされました。本稿における関心事(「パートナーシップ導入」後生じ得る憲法上の議論はどのようなものか)という点に沿ったうえで注目に値するのは、①と②の間に生じた現象です。この間に生じた現象とは、「パートナーシップ」と「婚姻」の間になお残る差異が平等条項の適用にて平準化されていくというものでした。連邦憲法裁判所は、 2009年以降、平等原則(基本法3条1項)適用により、なお残存していた生活パートナーシップと婚姻との間の税法および社会保障法上の差異、さらには養子法に関する差異を違憲と判断してきました。その判断の中では基本法における「特別の保護」は、差異に対する合理的根拠とはみなされ得ませんでした。

さらに、 婚姻を特権的に扱うことの正当性は、「当事者間で継続的に引き受け、 法的にも拘束する責任」にあるとし、 この点において生活パートナーシップ(ドイツにおける「パートナーシップ」)と婚姻とは異なることがないとされました。つまり、憲法上、「婚姻」には「特別の保護」が付されるべきと文言上明確であったとしても、それは「パートナーシップ」の法律上の効果を「婚姻」により近づけていくことの妨げにはもはやならず、両者は責任ある共同体としては異ならないと、裁判所により述べられたのです。以上のような裁判所の判断が重なるなかで、2017年の「同性婚導入」に至りました。

つまり、「同性婚導入」と「パートナーシップ導入」について、憲法上の評価が違う状況があるとしても、一度「パートナーシップ導入」が達成された場合には、法律上の制度である「婚姻」と、同じく法律上の制度である「パートナーシップ」に、どのような法的扱いの違いが存在し得るのかという点が、平等原則に沿って、逐一判断されるような状況になり得ます。そのような現象が生じた場合、もはやそこにある差異を肯定し得るような合理的根拠を見つけることは難しくなるかもしれません。

なぜなら、「婚姻」と「パートナーシップ」の違いはパートナーの性別、およびその結果としての生殖可能性ですが、婚姻に対する立法上の優遇は、個々の婚姻における生殖可能性に左右されません。それは婚姻締結が生殖可能性を要件としているわけではないこと、さらに、現実に子のない夫婦も当然に存在することからも明らかです。よって、その他の違いを「婚姻」と「パートナーシップ」に見出す必要がありますが、そもそも「パートナーシップ」は婚姻と同様の制度を形成することを目的としている以上、両者の区別についての合理的根拠は想定しがたく、むしろその同質性が注目されます。

両制度における種々の差異につき、平等原則違反を裁判所が宣言することが連続し、裁判所が積極的に同性婚の制定を後押しするようなメッセージを述べるようになるかもしれません。少なくとも、ドイツにおける「同性婚導入」については、「パートナーシップ導入」後における一連の連邦憲法裁判所の判断が、「婚姻」と「パートナーシップ」の差異を縮小するに至ったなどと述べられることがあります。 

4.今後の見通し

今後のドイツの同性婚制度の先行きは不透明です。しかし、ドイツの経験した現象・議論には次のような示唆があります。それは、たとえ「パートナーシップ導入」と「同性婚導入」について、それぞれ憲法上違う評価がなされているとしても、前者は、後者へ向かうための一つの過程にすぎず、前者が憲法上合憲であるとされ、達成された場合には、平等原則をてこに、いずれ後者も達成されることになるかもしれないということです。

また、婚姻と他の法的共同体にはどのような差異があり、どのような根拠がそれを支えるのかという点が裁判所に問われる過程で、従来、疑問なく受け入れられてきた婚姻という制度にまつわる特別性について、改めて多くの法律家たちが考察を加えていくようになるかもしれません。このような事態が生じ得るとすれば、「同性婚導入」・「パートナーシップ導入」はもはや同性カップル当事者たちの問題にとどまらず、我が国の婚姻に基づく家族の在り方が、社会一般において問い直される重要な機会となるかもしれません。ここでの見通しは、すべては仮定のうえのものですが、「同性婚導入」・「パートナーシップ導入」の問題がどのような側面をもち得るのかという点について、その可能性を呈示できたとすれば幸いです。

後記・2022年11月の東京地裁判決を受けて

本文では、2022年11月30日の東京地裁判決、2023年5月30日の名古屋地裁判決、同年6月8日の福岡地裁判決について触れることはかないませんでした。またこのうち、東京地裁判決における民法上の婚姻に関する諸規定の14条1項適合性判断は、次のかたちで本文の展望に明確に沿わない内容となっています。すなわち、東京地裁は、同性愛者は異性愛者と異なり、婚姻による様々な法的効果をうけることができないという不利益があるとしても、憲法24条によってその別異取扱いには合理的根拠が提供されているとしています。これについてここで深く追究することはかないませんが、婚姻・家族について規定しているとされている24条は、いかなる規範として考えられるべきかという点は、なお不確かであり、東京地裁の考え方も一つの説にすぎません。今後の研究発展が望まれている分野と言えるでしょう。

プロフィール

村山美樹

青森中央学院大学経営法学部講師。中央大学大学院法学研究科博士課程後期課程単位取得退学。主な業績(論稿)として「同性婚をめぐる憲法上の議論―ドイツとの比較を通じて―」(2017年)、「ドイツにおけるポリガミーの現状」(2019年)がある。

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