2013.04.26

広域避難者の生活実態と支援ニーズ ―― 茨城県避難者アンケート調査結果報告

原口弥生 環境社会学

社会 #震災復興#広域避難者#環境社会学#茨城県避難者#支援ニーズ#緊急時避難準備区域#借上げ制度#原発損害賠償#ADR

東日本大震災は、東北三県のみならず、広い地域に被害をもたらした。茨城大学の原口弥生准教授は本発表において、被災地でもあり避難地でもある茨城県で避難生活を送っている方々へアンケート調査を行い、避難者の出身地やニーズなどを検証している。当事者はいったいどんな支援策を必要としているのか。アンケート調査から浮かび上がる避難地の実態とは。(構成/金子昂)

被災地であり避難地でもある茨城県

茨城大学の原口です。本日は、東日本大震災の地震の被害を受け、茨城県に県外から避難されている方へのアンケート調査結果の報告を行いたいと思います。調査は、茨城大学地域総合研究所が実施主体となり、今年(2012年)9月に行いました。

本研究の目的は二点あります。ひとつ目は、茨城県内で避難生活を送る方々がおかれた現状や抱えていらっしゃる課題を把握し、それを社会に発信するとともに、県内各地で展開されている避難者支援・交流事業をより実効性のあるものとするための基礎データを提供すること。ふたつ目は、乳幼児や未就学児を含む子ども世帯特有のニーズについて把握するとともに、避難者支援の枠組みについて実態に即した政策提言を行うこと、となります。

アンケート票の配布については、茨城県の災害対策本部、ならびに県内の各市町村にご協力していただき、調査票を配布して頂きました。市町村がもつ個人情報は、一切提供していただいていません。県内に避難されている1710世帯に配布し、あて先不明で39票が返送されてきましたので、1671世帯が調査対象となります。この数は参考にはなりますが、実際の県内の広域避難世帯数からは、多少のズレがあると考えています。

というのも、各市町村には電話にてアンケート送付の依頼を行いましたが、民間住宅の借上げ制度など各部署に関する避難世帯数のみの把握であって、全庁的な把握がなされていない市町村もありました。この点は、今後の課題だろうと思います。有効回答数587票で、回収率は35.1%となります。

まず、受け入れ側の茨城県が震災後どのような状況であったかお話したいと思います。茨城県は東北三県に比べれば被害は少ないのですが、福島県に隣接している北茨城市は8.2メートル、千葉と隣接している神栖市は5.7メートルの津波に襲われています。とはいえ津波の規模の割には、被害が少なかったともいわれています。

今回の震災による茨城県の経済被害は、中越沖地震よりも規模が大きく2兆5000億円と報告されています。中越沖地震の経済被害額は1兆5000億円なのですが、茨城県の2兆5000億円という金額には放射能関連の被害・風評被害等は含まれていませんので、さらに被害額は大きくなることは間違いありません。

とくに製造業への被害が大きいといわれ、これは東北3県を上回っています。放射能汚染も広範囲におよんでいて、県内全44市町村中、19市町村が除染対象の地域となっています。茨城県自身が被災地であるなか、避難者を受け入れてきたという状況でした。

県内で一番多く避難者の方がいらっしゃるのは日立市です。日立市は県北部に位置していて、福島に近く行き来しやすく、また日立製作所の企業城下町ですので、福島県内の日立関連の企業が工場ごと移転している例もあります。県南のつくば市や土浦市にも、多くの避難者が生活されています。

つくば市は、初期に大規模な避難者受け入れを行っていたため、そのまま留まっているかたも多く、双葉町の自治会ができたこともあり徐々に人数が増えています。それぞれの出身地を見ますと、茨城県には福島県南相馬市と浪江町からこられている方が比較的多いですね。

図1.福島県から県外への避難者数_全国合計(右軸)と関東(左軸)
図1.福島県から県外への避難者数_全国合計(右軸)と関東(左軸)

 

避難者の出身県や世帯状況などについて

アンケートの内容に入っていきます。東北三県の出身者を対象とする調査を行いましたが、福島県の解答者が97.6%を占めており、宮城県、岩手県は2.5%程度となります。

茨城県の特徴は、警戒区域からの避難者が64%と多いという点です。緊急時避難準備区域など、なんらかの避難等指示あり地域出身の方は、福島出身の方の約87%を占めます。一方、自主避難の方は比較的少なく、1割程度です。他県と比べると、茨城県には警戒区域を中心として浜通り出身の方が多いということが分かります。

回答者の年齢は、60歳以上が38%を占めていますが、20代、30代の方も回答しています。女性の回答者には若い層が多く、男性の回答者は年配者が多いという特徴があります。男性と女性の回答者はほぼ50%ずつです。

震災前と現在のご家族の状況を回答してもらいました。その結果、母子家庭が震災前に比べて4%増と、予想程の増加はみられませんでした。警戒区域内からの避難者が多かったため、家族そろって避難される方が多かったことが要因かもしれません。

図2.震災時と現在(2012.09)のご家族の状況の変化
図2.震災時と現在(2012.09)のご家族の状況の変化

65歳以上の高齢者のみで生活というのも、これもそれほどの増加はなく、2%強の増加です。要介護者・妊産婦・障害者がいる割合も変わりませんでした。しかし「離れて生活している家族がいる」という回答は14.8%から51.4%と大幅に増えていて、多くの世帯での家族離散の状況が見てとれます。「ペットを飼っている」という回答では、逆に26.6%から15%に減少しています。

現在の住居をお聞きした質問では、応急仮設では、民間借上げ住宅にお住まいの方が52%でもっとも多くなっています。民間賃貸住宅の借上げ制度が県内の全市町村に広がったのが2012年1月ですので、茨城では住宅支援制度が整うのに震災から約10カ月かかったことになります。次に、つくば市の国家公務員住宅を含む「その他」で9%、「雇用促進住宅」の8%、となります。応急仮設住宅以外では、民間賃貸住宅12%、親族・知人宅7%、社宅4%と続きます。仮設住宅に住む人には赤十字から家電製品6点セットが提供されるのですが、社宅は仮設住宅とみなされないため、家電製品の提供がないという問題もありました。

また「県外に避難した理由はなんですか」という問いにも複数回答で答えてもらいました。「強制避難だったから」というのが63%と一番多く、「放射能による健康影響への不安」というのが50%を占めました。思ったより多かったのが、「原発事故悪化への不安」で、これもちょうど50%です。放射能による健康影響への不安と同程度に、原発事故の状況が悪化するのではないかという悲観的観測のなか、みなさん避難を決意されたことが分かりました。

避難先として茨城を選んだ理由を聞いた「なぜ茨城に来たのですか」という質問では、「家族・親族がいるから」が38%と一番多く、次に「会社・勤務先などの関係」との答えが27%を占めました。20代~50代に限ると「勤務先との関係(転勤)」と答えた方がもっとも多く、就労世代においては仕事があるから茨城に来たというご家族が多いことが分かりました。高齢者になると「家族親戚がいるから」と血縁を頼って来る方の割合が増えるようです。

現在居住している市町村への住民票の異動については、「家族全員、異動なし」が81%でした。他県の調査では秋田県で61%、東京都では66%の方が「家族全員、異動なし」と回答しています。他県と比較しても、茨城県の避難者の方は住民票を移動しない方が非常に多い。その理由については、確定的なことはまだいえません。おそらく警戒区域等、避難指示あり地域からの避難者が多いからだと思います。

住民票がないと、銀行口座ひとつ開くのにも印鑑証明が必要になるわけで、何時間もかけて取りに行かなければ行けないなど、生活に困難をきたすことがあります。そこで住民票を異動していない影響の有無について聞いてみましたが、「住民票が無くても影響がない」と回答した方が47%あり、住民票が避難先にないことで不便を感じる人とそうでない人とで半々という状況です。

しかし、特に未就学児がいる世帯の場合は、住民票がないことで困っている方の割合は、医療・健康や育児・児童福祉の分野で多く見られます。(住民票について、総務省は避難先に住んでいることを示す特別な「公的証明書」の発行を発表(2012.12.19)。ただし、原発避難者特例法の適用対象となっている福島県の13市町村のみ)

就労状況・生活費の変化

世帯主の就労状況の変化をみると、震災前と現在では、農林漁業、建設業、サービス業への従事者の割合が5%以上減少しています。また、無職の方が震災前は17%だったのが、現在では46%に増加している状況です。世帯主の失業率が全世帯の5割近いというのは、高齢者世帯のみならず30~50代を含めて失業率が高まっている状況を示していて、早急な対応が必要と考えます。

図3.世帯主の就労状況_震災時・現在
図3.世帯主の就労状況_震災時・現在

 

茨城県内での就労希望の有無としては、「希望あり」の世帯が約3割です。ご家族を含めて聞きましたが、20代~50代が多いですね。また、男性の方が多いのではないかと予想していましたが、男性が36%で、女性が64%と、全体の数でいうと女性の方に就労希望者が多いことがわかります。「就労希望あり」のうち2割が、世帯内で二名以上の就労を希望しています。この結果から、女性の就労支援の充実も必要なことがわかりました。

生活費の変化としましては、生活費の支出増というのがかなり増えています。10 万円以上の支出増と答えた家庭もあり、震災後に世帯が別れたことも一因と考えられます。また、支出が変わらないと回答した方も多かったのですが、自由記述を見ると、「かなり切りつめて生活しています」とのことでした。生活費の支出額が変化しない、つまり数値上に変化がないからといって、必ずしも「問題ない」といえるわけではないことには注意が必要です。

避難元との行き来について触れます。一か月に1、2回という方が28%で多いのですが、一方で、「まったく行き来はない」と回答した方も23%いらっしゃいます。1週間に1回から、3か月に1回程度、避難元と行き来をされる方が約6割、まったく・ほとんど行き来されない方が約4割という状況です。

精神面での不調や体調悪化についても質問しました。「よく眠れない」「気分が落ち込む」「喫煙飲酒が増えた」などの答えが多くありました。また、精神面の不調が非常に多いという印象を受けました。体重がここ半年で10kg以上増えたという方もいますので、精神的な不安定が慢性化しているといえます。家族の中で体調を崩している方はいますかという質問では、77%の方が「いる」と回答されています。

「一番困っていること」については、多くのコメントを頂きました。たとえば、障害者児を抱えている家庭に、そこに家族離散というのが加わって、親子間・夫婦間の関係が難しくなっている。避難生活をしながら介護をするのが限界で、福島に帰ろうと思っていますという声もありました。やはり要支援者、要介護者がいらっしゃるご家族では、そもそものご家族への負担に加えて、新しい環境でのさまざまな負担が追加され、避難先での生活がますます困難になっている様子が複数のご家族からあげられていました。

最後に、原発損害賠償の請求です。東京電力に損害賠償請求を行った方に、現在の請求方法を聞くと、90%の方が東京電力への直接請求で行われているとのことでした。8%の方がADR(原子力損害賠償紛争解決センター)への申し立てを行っています。「今後どうしていきますか」という問いには、ADRへの申し立てや訴訟を提起する、という方が増えています。これは、2012年に入っての東京電力の住民への対応が影響しているのかもしれません。

2011年中は、申請された方の話を聞き、その主張に沿う対応が多かったのが、今年は避難者の方と東京電力の方針が合わない場合、双方で交渉をするのではなく、すぐにADRへの申し立てを勧められると聞いています。ADRや訴訟の提起は問題の長期化を意味しますので、避難者にとって負担の増加なのですが、それでもADR申立てや訴訟の提起に踏み切らざるを得ない方が増えている、という状況です。

避難者はどのような支援策を必要としているか

「どういう支援が必要か」という質問に、一番多く回答を集めたのは「高速道路の無料化など、避難元と避難先を行き来する交通費の助成」でした。これは家族離散の状態もひとつの要因にあげられると思います。宇都宮大学と群馬大学でも同じ項目の調査を実施しましたが、同様に「交通費の助成」がトップにきていました。

図4.避難世帯に必要とされる支援策(n=587)
図4.避難世帯に必要とされる支援策(n=587)

 

次に多いのは、「現在住んでいる仮設住宅の延長長期化」です。仮設住宅への入居年数は、1年延期され、今では3年間住むことができます。3年以内に生活再建に目途がつく方も多くいらっしゃると思いますが、賠償の行方も不透明であり、生活基盤である住居の支援は必須だと思います。しかし、新規の申し込みについては、2012年12月28日に打ち切る方針が発表されました。

未就学児を持つ家庭に限定しますと、このアンケートの結果が変わってきます。交通費の助成がもっとも必要とされている支援策であるのは変わらないのですが、内部被ばく検査や甲状腺検査など、放射線の健康影響に関する検査の実施を求める意見が二番目に多くあがりました。先ほどいいましたが、茨城県内には自主避難者の割合は少ないのですが、「自主避難者への支援」も比較的多くの方が「必要」と答えられ、全体として「自主避難者への支援」の必要性が共有されていることが分かりました。

各地で交流会などが行われていますが、「参加した人」と「参加しない人」では、「参加しない人」の方が多くいらっしゃいます。交流会に参加したい理由としては、「他の避難者と交流したいから」「外に出る機会になるから」といった肯定的な意見が聞かれました。

一方で、参加したくない理由としては、「参加する必要がない」「出身自治体・状況が違う人との交流が不安」といった回答が多く寄せられました。たとえば、自分が自主避難者で、他の人が警戒区域の人だと、どういう話が出てくるのか分からずに不安に感じる、という声が多かったです。すでに多くの場合、配慮はされていると思いますが、交流会を開くときは、出身自治体やさまざまな方がいらっしゃることにも注意を向けるべきだと思います。

2、3年後の生活拠点ですけれども、避難元に帰るつもりでいる方が16%、定住を考えている方が15%、決まっていないという方が約3割です。若い層ではとくに「決まっていない」と回答する方が多くいらっしゃいます。警戒区域であるとか、戻れる家があるのか、という避難元地域の状態も重要ですが、年齢も回答に影響していることが示唆されました。つまり、それぞれのご家族がライフコースのどの段階にあるのかという点が、どこに生活拠点をもとめるのか、という点に強く影響しているのではないかと思います。

避難元、自治体への要望というのを自由回答の形式で設けました。「元の場所に戻ることを前提にし過ぎている」だとか、「借り上げ住宅の継続拡張」という声が聞かれました。福島県内では仮設の移転は認められています。同じ制度が県外では認められていないと、「自分たちが誤った選択をしたので、そのサービスが受けられないのでは」と感じてしまうとの意見もありました。どこに住んでいるのかによって受ける支援が違うというのは、避難者の方に取って不公平感を募らせることになります。

印象に残ったのは、数は少ないのですが、「いままで何度もアンケートに答えたが、研究のためのアンケートはやめて欲しい」という声です。このアンケートは支援の一環と位置づけて、アンケートの結果は公表いたしますし、各自治体から「活用したい」という声も出てきています。調査結果については積極的に行政やマスコミを含め、社会に発信していくことで、施策実施に活かすための基礎データとなればと願っています。

今週、復興庁職員の方ともお会いする予定ですが、ここで出てきた調査結果には、未就学児世帯が必要とする支援策などのデータも含まれています。現在、復興庁が中心となり「原発事故子ども被災者支援法」の基本方針の策定を行っていますので、当事者の声を「支援法」に活かすためにも、積極的に発信していきたいと思っています。

(2012年12月2日 東京都市大学にて)

プロフィール

原口弥生環境社会学

茨城大学人文学部・准教授(環境社会学)。福島乳幼児妊産婦ニーズ対応プロジェクト茨城拠点・拠点長。茨城県への避難者・支援者ネットワーク「ふうあいねっと」副代表。

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