2013.02.23

病児保育を社会インフラに ―― 認定病児保育スペシャリスト資格

フローレンス代表理事・駒崎弘樹氏インタビュー

社会 #フローレンス#日本病児保育協会#認定病児保育スペシャリスト#病児保育

今年1月、(財)日本病児保育協会より、仕事と育児の両立のためには欠かせない病児保育を当たり前の社会インフラとして広めるべく、「認定病児保育スペシャリスト」資格を創設したと発表された(認定病児保育スペシャリスト資格および資格取得web講座の受付開始は2013年3月25日。一般財団法人 日本病児保育協会の公式サイトの専用フォームにて受付)。いま病児保育にはどのような問題があるのか。そして認定病児保育スペシャリスト資格とはなにか。本資格を創設した(財)日本病児保育協会の理事長であり、認定NPO法人フローレンス代表として病児保育に携わっている駒崎弘樹氏にお話をうかがった。(聞き手・構成/金子昂)

―― 認定病児保育スペシャリスト資格を創設した理由をお聞かせください。

保育所で熱をだして体調の悪いお子さんが預かってもらえないケースが多々あります。病気にかかっているお子さんを預かってくれるその他の施設やご親戚がいない場合、仕事を何度も休まざるをえなくなり、仕事と育児の両立を諦めてしまう方も多くいらっしゃいます。

働きながら育児をされている親御さんに行われた「仕事と育児の両立で最も悩むことはなにか」という調査によって、7割もの方が「子どもの病気で遅刻や欠席をすることがあり周囲に迷惑をかけてしまう」と悩まれていることがわかりました。

病気のお子さんを保育所で預かってもらえない方の代わりに、お子さんを預かってケアすることを「病児保育」といいます。この「病児保育」を行う施設は、全国に845施設ほど、保育所全体のたった約3.6%しかありません。また、病児保育の利用可能者枠は約3400人で、認可保育所の総入所児童数約212万人に対して、わずか0.16%しかないんです。病児保育には非常に高いニーズがあることをうかがえるかと思います。

そのニーズに応えるためにも、もっと病児保育の施設やサービスが増えなくてはいけません。そのためには病児保育の担い手を増やす必要があるでしょう。そこで、この認定病児保育スペシャリスト資格を創設しました。

病児保育スペシャリスト http://www.sickchild-care.jp/

―― なぜ「資格」なのでしょうか。

じつはこれまで病児保育を担う人たちに求められているノウハウは体系化されてきませんでした。体系化されていないので、ノウハウを学ぶことのできる環境もありません。ノウハウもないのに人のお子さんの命を預かることになったら、非常に心もとないですし危険です。

また、先ほどもお話したように、もともと病児保育のサービスは全国的に足りていません。さらに、たとえば東京には、わたしが代表を務める認定NPO法人フローレンスが病児保育を行っていますが、札幌のように病児を預かれるベビーシッターがほとんどいない地域もあるんですね。

そこで認定病児保育スペシャリスト資格では、病児保育のノウハウを体系化し、誰もがどこでも学べるようにeラーニングで講義を受講できるようにしました。

―― eラーニングであれば、全国どこにいても講座を受講できるわけですね。

そうです。認定病児保育スペシャリストの資格を創設した(財)日本病児保育協会は、病児保育を当たり前の社会インフラとすることを使命と考えています。

東京で座学の研修を開いても、事実上、北海道の方は受講できませんよね。しかしeラーニングを使ったウェブ講座であれば、全国どこでも、いつでも、誰もが自分のペースで学習することができます。加えて、TOEICでも使用されているシステムを活用し、1次試験もウェブで受験できるようにしました。

資格を取得するまでの流れですが、まずは、いまお話したウェブ講座を受講いただき1次試験に合格する必要があります。加えて、各地域にあるNPO団体や病児保育団体の施設で24時間ほど病児保育を実践的に学んでいただきます。1次試験に合格し実習を終了すると、2次試験の口頭試問が行われ、無事合格された方が認定病児保育スペシャリストとして登録されるようになっています。

―― どんな方にこの資格を習得していただきたいですか。

ベビーシッターの会社で働いている人や病児保育施設に勤める保育士さん、またあるいは普通の保育所に勤務する保育士さんたちに取得していただきたいですね。

この資格を習得していただければベビーシッターが見てあげることもできるようになりますし、資格習得者がいる保育園でお子さんを預かることも可能になるでしょう。病児保育がまったく足りていない現在の状況を改善できると考えています。

―― 病児保育が充実することは、社会にどんな影響を与えるのでしょうか。

繰り返し述べますが、いま病児保育のサービスはまったく足りていません。一人親家庭の場合、子どもが熱をだしたら自分が休んで看病するしかなく、頻繁に仕事を休むことになれば、職を失うことにも繋がるでしょう。病児保育が受けられれば、厳しい経済状況におかれているご家庭にとってプラスになると思います。

いみじくも日本は、2050年に超高齢社会に突入するといわれています。全人口のうち3分の2程度しか働き手がいない状況に陥るともいわれています。いかに働き手を増やすか、これは日本がいま抱えている非常に大きな問題なんですね。

そんななか、いま日本にある唯一の希望は、女性が働くことです。日本は、先進国のなかでもっとも女性が働いていない国です。そして彼女たちは働かないのではなく、働けない状況にある。というのもいまの日本では、育児と仕事の両立がとても難しいんです。子どもが生まれたら仕事を辞めなくてはいけない。であれば、彼女たちが育児と仕事を両立できるように保育のインフラを整備しなくてはいけません。

病児保育の担い手を増やし、安心してお子さんを預けていただく環境をつくる。それによって育児と仕事の両立が可能になると思います。病児保育は保育所と並ぶ非常に重要な保育インフラです。超高齢化社会を迎え撃つためにも、保育インフラを当たり前の社会インフラにしたい。

これは認定NPO法人フローレンスの活動を通して、骨身にしみて感じてきたことでもありますが、いち早く社会インフラとして整備するためには、病児保育の担い手が増えなくてはいけません。人材を育成するための資格として、この認定病児保育スペシャリスト資格を活用していただきたい。そして全国どこでも当たり前の病児育児が行われるようになってほしいと思っています。

認定NPO法人フローレンス http://www.florence.or.jp/

―― 活動主体の日本病児保育協会とはどんな団体なのでしょうか。

一般財団法人日本病児保育協会は、病児保育に携わるNPO法人や団体が立ち上げた協会です。

子ども・子育て関連3法では、消費増税にともなう増収分のうち、毎年約7000億円を保育サービスの充実のために使用することが決まりました。この3法の成立により、保育業界は新しい局面に迎えようとしています。いまこそ病児保育のあり方を見直し、新たな一歩を踏み出さねばなりません。

病児保育は社会的にまだまだ認知度が低い。そこで当協会は、病児保育が当たり前の社会インフラとすることを使命と考え、そのために病児保育の認知度や質の向上をめざし、また担い手通しが繋がる場を生み出したいと考えています。その具体的な活動として、この認定病児保育スペシャリスト資格を創設したわけです。

―― プレスリリース後、どのような反応がありましたか。

「受講したい!」という声は、SNSで多数みられました。

まだ講座は始まっていませんが、ホームページでは保育スキルアップ・オープンセミナーのご案内などを行っていますので、ぜひチェックいただきたいと思っています。

―― 最後にメッセージをお願いいたします。

この認定病児保育スペシャリスト資格は社会的な事業ですので、売り上げ目標などはありません。ひとりでも多くの方が病児保育のノウハウを身につけてくださることに重きをおいて活動しています。

ですから、より多くの保育者の方にこの認定病児保育スペシャリストの資格を受けていただき、病児保育を行える保育者になっていただきたいと思います。そして病児保育に携わり、ひとりでも多くのご家庭を助けてください。

いまフローレンスを中心に、さまざまな病児保育のサービスが生まれつつあります。認定病児保育スペシャリスト資格が、いまの流れがどんどんと広がっていく流れをつくりだすきっかけになることを願っています。

(2013年1月25日 電話インタビューにて)

プロフィール

駒崎弘樹NPO法人フローレンス代表理事

NPO法人フローレンス代表理事。1979年東京都江東区生まれ。慶応大学総合政策学部卒業。「子どもが熱のときに預かってくれる場所がほとんどないという『病児保育問題』を解決し、子育てと仕事の両立が当然の社会を創ろう」と、05年4月に全国初の非施設型・共済型病児保育サービスを開始。2007年ニューズウィーク「世界を変える社会起業家100人」に選出。10年からは待機児童問題解決のための小規模保育サービス「おうち保育園」を開始。2011年内閣官房「社会保障改革に関する集中検討会議(座長:菅首相)」委員に就任。プライベートでは10年9月に1児(娘)の父に。経営者でありつつも2か月の育休を取得。著書に『「社会を変える」を仕事にする』『働き方革命』『社会を変えるお金の使い方―投票としての寄付・投資としての寄付』など。

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