2014.04.22

「危険な会社」の見極め方――ブラック企業に使い潰されないために

川村遼平 POSSE事務局長

社会 #過労死#synodos#シノドス#ブラック企業#NOと言えない若者がブラック企業に負けず働く方法

4月。新しく会社に入った人にとっても、新しい部署に配属された人にとっても、さまざまな期待と不安が入り混じる季節になりました。

この先、実際に働いてみて、「もしかしたら自分の会社はブラック企業なのではないか」と心配になることもあるでしょう。自分ではそう思っていない人も、友人に「あなたの会社はブラック企業なんじゃないの?」と言われることがあるかもしれません。

でも、そのときになって今さら入る会社を選び直すことはできません。それにもし実際に「ブラック企業」だとしても、そこで働く人全員が倒れるわけではありません。「怪しいかも」と思いながら、その日も明くる日も職場へ向かうのが、多くの若者が実際に選択する行動ではないでしょうか。

確かに、「怪しい」というだけで、会社から撤退するのはあまり現実的な対処法ではありません。しかし、「それだけ」では、いざというときに身を守ることができないのも事実です。

そこで、どんな会社が「危ない」会社かを知り、どんな場合にどう動くかというある程度の行動指針をあらかじめもっておくことが必要です。NPO法人POSSEで労働相談を受けた経験から、これだけは知っておいてほしいというポイントを整理しました。これからの職業生活に役立ててくだされば幸いです。

危ない会社の見分け方、現場での対処法、知っておくべき法律知識、交渉する際のポイントなど、具体的な処方箋をまとめた実践的マニュアル
危ない会社の見分け方、現場での対処法、知っておくべき法律知識、交渉する際のポイントなど、具体的な処方箋をまとめた実践的マニュアル

「我慢して働き続ける」ことができない会社があることを知っておこう

はじめに、「我慢」が通用しない職場があるということを知っておきましょう。

「違法行為は横行しているけど自分が我慢さえすれば働き続けることができる職場」というのは現に存在します。そして、ほとんどの企業が「サービス残業」などの違法行為を行っている日本では、これに該当する職場は相対的にかなりマシな職場と言えます。

最近話題になっている「ブラック企業」は、ただ会社が法律違反を繰り返しているだけにとどまりません。そこで働く若者が、過労やパワハラのために精神疾患にかかったり、命を落としたりしています。その点が、これだけ大きな批判を浴びている根拠でもあります。

よく知られるワタミフードサービスについても、単に法律違反を繰り返しているというよりも、そこで若い労働者が命を落とした事実が、多くの人に同社を「ブラック企業」だと感じさせる要因になっているのではないでしょうか。

再就職先がすぐに見つかるわけでもないから「とりあえず」ここで働いておこう、と考えることは致し方ないのですが、その「とりあえず」の間に健康や、ときには命を失うこともあるのだということを、よく知っておいてください。

どんな会社が「危ない」のか?

では、どんな職場に注意すればよいのか、という話に移りましょう。

法律上の権利からすれば非常に水準の低い話ですが、ここでは「命を預けては危ない職場」について考えてみましょう。多少の法律違反に目をつむることはできても、限度を超えて我慢してしまっては、取り返しがつきません。

こういう会社を見極めるポイントは、

「もし自分が本当にしんどくなったとき、休むことができるか?」

 

です。

上司が絶対休ませてくれない、納期に追われてとても休むことができない、「休む」なんて言える雰囲気ではない……など、いろいろな原因があると思いますが、とにかく自分の判断で「危ない」と思っても休めないような職場には、命を預けない。これが鉄則です。

もし自分の勤め先がそういう職場だと感じたら、「つらい」と上司に訴えても状況は好転しない可能性があります。そのことを前提に、今のうちにしんどくなったときの対応を考えておく必要があります。

いつ、「我慢して働き続ける」以外の選択肢を考慮するべきか?

ところが、この「しんどくなったとき」を見極めるというのが、なかなか厄介な問題です。

「働きすぎ」が当たり前の日本では、「ブラック企業」ではなくてもしんどい働き方はあふれています。こういう社会では、「しんどいのかもしれないけど頑張ろう」という発想はごく自然に生まれてきます。むしろ、実際にはしんどいときほどそう考えがちで、「しんどい」と意識しないことで何とか日々を耐えている人もいます。そういうときに「しんどいかどうか」という問いは、あまり役に立たないのです。

そういう方にすすめているのは、「あと1年同じ働き方ができるかどうか?」と自問することです。これで大丈夫だと思えなければ、今は何とか歯をくいしばって耐えることができても、持続可能な働き方ではありません。来たる1年後の「いざ」というときにそなえて、今から対応を考えておくのが賢明です。

もうひとつ、「過労死ライン」が客観的な指標として有効です。詳しい説明は省きますが、月に80時間以上残業している人は、生理的に必要な睡眠時間が確保できなくなるとされています。稀に睡眠時間が短くても元気に活動できる個体はありますが、それは個人の努力や気合いではいかんともしがたいものです。

ですので、もし過労死ラインを超えて働いているときに体調の異変を感じることがあれば、「あと1年もたないかもしれない」と考慮するようにしてください。ついがんばってしまう人ほど、この「過労死ライン」は頭に留め置くようにしてください。

倒れてから「やっぱり無理だった」と思うのでは、取り返しのつかないこともでてきます。反対に、たとえば1年の猶予が、選択肢を増やすことにつながります。

相談のしかた

「あと1年ももたない働き方」をしているのであれば、できるだけ早期に専門家に相談してみましょう。今すぐ「辞めるかどうか」、「会社とたたかうかどうか」と考える必要はありません。むしろ、証拠もなく判断材料も乏しい状況で自分にとって最善と思える結論を導き出すのは得策ではありません。そこで、最初に専門家に相談しようというわけです。

「ブラック企業」に関する弁護団が無料で電話相談を受け付けていますし、わたしたちNPO法人POSSEは夜間でもメール・電話で相談を受け付けています(※末尾を参照)。複数の窓口で意見を聞いてみるのもよいと思います。弁護士など、相談を受ける人には守秘義務がありますから、会社に個人情報が漏れることはありません。

なお、最近はインターネットでたくさん広告記事を打つ法律事務所も増えていますが、広告費に多大なお金をかけるようなところはそれでも利益が出ると踏んでいるところですので、最終的には高くつくことがありますから注意が必要です。

「弁護士に相談する」と聞くと、会社と事を構える覚悟がないといけないのかと躊躇する人もいるようですが、そんな風に限定する必要はありません。まずは自分の状況を知って、行動指針を立てる判断材料にしよう。そんなときに積極的に相談先を活用してください。

相談するときは、(1)いま自分がどんなことに困っているか、(2)それについてどんな証拠・記録があるか、(3)自分はどうしたいか(辞めたい、会社に責任をとらせたい、穏便に済ませて仕事を続けたい、など)を整理して、率直に伝えてみましょう。追加で必要な情報があれば相談を受ける側から聞きますので、「完璧に整理してから相談しよう」とか「法律的に相談していい状況だろうか」などと考える必要はありません。

早めに相談するメリット

早めに相談しておくことで、まず、自分の働き方が「おかしい」のかどうか、専門家の評価がわかります。初めての会社で当たり前のように横行している事柄は、まるで社会のルールであるかのように見えます。しかし、違法なことを公然とやっている会社も少なくありません。そういうことに気づくには、外部の人の意見をうまく取り入れるのが得策です。

次に、自分にどんな選択肢があるかがわかります。法律や制度を使うとすればどんな解決の仕方があるのか、会社に知られずに問題を解決するにはどんな選択があるのか、など、選択肢を知ることで、どう動くかを決める材料は確実に増えます。

同時に、どんなリスクがあるのかも知ることができます。たとえば、「会社と争うつもりはなく、再就職先を早く見つけて辞められればいい」と言われた場合、ケースにもよりますが、わたしなら退職を妨害されるリスクを説明します。本人が穏便に済ませるつもりでも、それを許してくれない会社もあるからです。「退職」が会社にとっての「離反」だと評価される職場は、珍しくありません。再就職の日取りが決まったのに離職手続きをとってもらえず、再就職のための手続きを進めることができない。そんなケースもあるのです。

最後に、今の自分の働き方について、どんな記録・証拠を残しておくべきかを知ることができます。「つらい」と感じた時点で早めに相談してほしいのは、「もうどうしようもない」と思ったときや「会社を徹底追及したい」と思ったときに相談に来られても、適切な記録や証拠が無いと、そうでない場合に比べて多くの労力を当事者にかけてしまうからです。

反対に、早めに記録や証拠の残し方に関する指針を立てることができれば、たとえば1年間じっくり証拠を準備してから計画的に退職することも可能になります。こうした猶予の有無で有給休暇の消化や雇用保険の受給にも影響が出ることがあります。

早めに相談するメリットは、一般に考えられているよりもずっと大きいのです。

おわりに

相談して専門家の意見を聞いてみて、実際に会社と争うのか、それはせずに辞めるのか、我慢して働き続けるのかは、各人の判断次第です。ただ、どんな選択をするにせよ、選択肢を知った上で行動を決定するのかどうかで、納得できる度合いも変わってくるだろうと思います。

この記事には盛り込めなかった論点もありますが、これを読んだ方が気軽に、そしてできるだけ早期に相談できるようになることを願っています。

●相談受付

ブラック企業被害対策弁護団

TEL:03-3379-6770

URL:http://www.black-taisaku-bengodan.jp

NPO法人POSSE(ポッセ)

TEL:03-6699-9359

メール:soudan@npoposse.jp

URL:http://www.npoposse.jp

(事務的なお問い合わせは、03-6699-9375  info@npoposse.jp まで。)

●シノドス編集部より

危ない会社の見分け方、現場での対処法、知っておくべき法律知識、交渉する際のポイントなど、具体的な処方箋をまとめた実践的マニュアル『NOと言えない若者がブラック企業に負けずに働く方法』をぜひお手にとってください。

プロフィール

川村遼平POSSE事務局長

1986年千葉県生まれ。NPO法人POSSE事務局長。東京大学大学院総合文化研究科博士課程。著作に『ブラック企業に負けない』など。

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