経済成長も、再分配も――消費税増税延期が及ぼす影響とは?

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経済成長で財源を確保する

 

荻上 一般的には、消費税率をあげたら、その分は社会保障に使いますよという約束だと理解されていますが、財務省的には、社会保障を拡充するためには消費税を主な財源とするという考えです。これは、「社会保障を拡充したければ消費税をあげなくてはならない」と読むこともできる。いずれは紐づけを外すように働きかける政治が必要になってくるかもしれませんが、駒崎さんの懸念は分かる。

 

そこで、消費税以外で別の方法で1兆円近い予算をまかなうことはできるのかという問いが出てきました。飯田さん、どうですか?

 

飯田 政治的な力学を置いておくと、税収自体が増えて、その中から1兆円の予算がつけば問題がないということだと思います。

 

戦後日本の財政の歴史は、基本的に経済成長によって財源が確保されてきました。税収が伸びていれば、新たに予算を足すことは簡単ですが、限られたパイの中で新しく予算を確保するのは極めて厳しい。だからこそ経済成長が必要だと思うんですね。

 

いま先進国の名目成長率は平均して3%後半、実質では2%前半程度です。ここに労働人口減少分の下押しが0.5~0.7%ほど効いてくる。労働人口減少がピークになると、おそらく1%ほどの下押しがある。つまり一番悪いときの実質成長率は1%強ということです。ここに2%前後のインフレを加えて、名目3%成長が現実的に可能で、最低限クリアしないといけないラインだろうというのがぼくの考えです。

 

名目で3%となると、地方と国であわせて2兆円くらいの税収がでてきます。しかもこの2兆は毎年どんどん積み重なっていく。ですから単年度で1兆円の予算を確保するのは難しくても、数年経てば出せないことはないだろうな、と思います。

 

荻上 逆に言えば、失われた○年を再来させないためにこそ、ブレーキをかけないことをまずは意識したほうがいいと。

 

飯田 そう。経済って不思議なもので、脱線するとなかなか戻れないんですけど、一度走り始めると、そこそこうまく走り続けられるものなんです。いまはその節目にある時期だから増税しないほうがいい。ぼく自身は、1年半ではなく2年半は延期したほうがいいと考えています。その間に景気を回復させつつ、低所得者対策など喫緊の問題に対して国債発行するなどして財源をおぎない、準備万端制度が整ったところで消費税を10%に上げるのが理想だと思っています。

 

あと経済的には別の理屈になりますが、景気が過熱したり人手不足が今以上に深刻になったときに、インフレにブレーキをかけるために2%増税をとっておいた方がいいんじゃないかな、と。

 

駒崎 ちなみに消費税増税をして、税収が落ちたら意味がないという言説があります。でも過去の例では、法人税率の引き下げなども一緒にやっていますよね。

 

飯田 そもそも89年にいたっては減税ですね。今回は見合いの減税措置はほとんど考慮していませんが増税で12.5兆増えても、所得税と住民税が下がってしまって12.5兆円使えないかな、という話です。

 

駒崎 でも、かえってマイナスになるって話ではないですよね。

 

飯田 1年目や2年目にはありえますが、税率の純増で長期的に減収になるということはないと思います。ただちゃんと成長していたら、もっと得られていたであろう税収を失ってしまうのではないか、という話なんだと思います。

 

 

photo2

 

 

いまは民力休養のとき

 

飯田 経済学ではお馴染みの議論ですけど、例えば20万円の賃金を18万円に減らすとなると、かなり抵抗されることになるんですね。名目の額を減らすのってものすごく難しいんです。それに対して、税収が伸びていると、あまり役に立たなかった予算は伸ばさず、新しいことに予算を付けるのはそこまで難しくない。

 

荻上 相対的、実質的に減らしていくと。

 

飯田 そう、インフレの中で相対的に減っていく予算を作らないと、予算の分捕り合戦で劣位に置かれている育児・保育分野は非常に厳しいことになると思います。

 

実際、75年には人口の維持に必要とされる合計特殊出生率2.08%を切っていたので、少子化が進むのはわかっていたわけです。それなのに十分な対策を取られなかったのは、バブルによって問題がなんとなくカバーされてしまっていたことと、90年代からは伸び悩む予算の奪い合いに勝つことができなかったのが原因ではないか。その状況下で少子化対策に予算がついたことは本当にすごいことだと思います。

 

ただ、景気回復がもう少し巡航ペースになってくると、もっと新しいことができるようになるんじゃないかな、と思うんです。いま民力休養、湯浅誠さん風にいうと、この20年で失われてしまったタメを蓄える時期でしょう。

 

荻上 ゲームで言えば、この間でライフは少し回復しました、でも残機が1しかないよ、という状態だと思うんです。間違えると、すぐにゲームオーバーになっちゃう社会になっている。

 

駒崎 民力休養の必要性はよくわかります。ぼく自身経営者ですから消費税増税の影響はかなりキツかったので。一方で、話を元に戻してしまって申し訳ありませんが、少子化をソフトランニングさせていくインフラ整備への投資をするには、いまこのタイミングでは、政治的には消費税しかないのかなとも思うんです。

 

繰り返しになりますが、消費税じゃなくても予算を確保しますよというコミットメントは破られ続けたからです。20年間、「経済成長したら、十分予算をあてるね」なんてことは起きなかったのです。それ以外の方法がもしあるならば、有村大臣がぼそっと発言するだけではなく、新しい国会で、なんらかの法案にきちんと文言をいれて欲しい。そうじゃないと安心できない。

 

荻上 待機児童をゼロにするといった数値目標をどんな手段を使っても達成させますよ、とか。

 

駒崎 ええ、そうですね。確約してほしい。

 

 

いかに高齢者を説得するか

 

飯田 モメンタムが動いたのだとしたら、消費税とは違った、一定額予算が確保されるような制度も同時に走らせていく必要があると思うんですよね。

 

消費税で紐づけされているという前提に立って考えてみます。消費税を増税したら何らかの形で低所得者対策が必要になる。12.5兆円まるまるは使えず、どこかで切り崩さなくてはいけなくなるでしょう。すると少子化対策にあてられるはずだった7,000億は恒久的に確保されない可能性は低くない。子育て分野が他の分野に比べて力が弱いならなおさらです。

 

その上、いままで支給されてきた6,000億円以上の保育関連予算が「消費税から予算がついたからいいよね」とカットされてしまうかもしれない心配もあります。本来は歳入と歳出は切り離して議論すべきだという財政学の基本はこういう事態を避けるためのものでもあるのです。

 

荻上 政権も担当大臣も変わるかもしれない。増税もどうなるかわからない。たとえベストアンサーがでなくても、状況に対応しなくちゃいけないわけですね。

 

だからこそ、増税が見送られたとしても、どの政治家に対しても「わかってるよね!」とプレッシャーをかけ続ける必要がある。そのためには、単に条文化だけでなく、社会理念として政治家たちにマインドづけしていくのが不可欠だと思うんですね。ぼくは、保育・育児分野のマインドは昔と比べて変わりつつあると思っていますが、それにしてもピンチはたびたび訪れてくるでしょう。これからも言論を続けていかなくちゃいけない。

 

駒崎 言論を続けていく必要性についてはまったく賛成です。ただ、高齢化が進みよりいっそうシルバー民主主義化したとき、政治的な配慮もますますシルバー層に流れていくでしょう。おそらく言論戦は、今よりも、より厳しくなっていくと思います。

 

荻上 ないものをつけるという政治と、あるものを奪うという政治は社会的な影響が違いますね。あるものを削った大臣は批判を受け、ないものをつけた大臣は英雄扱いされやすいといった非対称性がある。様々な歳出維持の政治が続いていく中で、ようやく育児に予算が付き始めた。

 

ぼくはここで、フェーズは移っているとも思います。いかに「シルバー民主主義」であろうと、一度つけた子育て予算を減らそうとする大臣が出てきたら、メディアは必ず大きく報道する。増税を延期しても、中期的には予算を維持しようとする力学が働くように思っています。というより、働かせなくてはいけない。

 

飯田 子育て支援に限らず、低所得者層への手当なり就労支援なり、若い世代に予算をまわしてもらえるよう高齢者層を説得するには、なにかしら錦の御旗が必要です。そのとき駒崎さんはやはり非常に重要なプレイヤーになる。子育てってお年寄りに訴えかけるところがあると思うんですよ。

 

荻上 孫の力を。

 

飯田 プレカリアート運動は、労働運動色が強くて高齢者になかなか高齢者のマス層を説得することが出来なかった。高齢者層から次世代のために気持ちよくお金をだしてもらう重要なキーは保育だと思う。そこから教育に繋げられたらベスト。高齢者層に訴えかけられるようなアイディアってありますか?

 

駒崎 うーん、そうですね。安倍政権が女性活用を掲げていて、それはひとつの手なのかなと考えたこともありますが、実は「私たちの世代は苦労してきたのに」と考える高齢者層もいて、なかなか難しいですね。いまはまだ思いつかないです。

 

ただ、ぼくは「厚労省イクメンプロジェクト」の座長などをして、イクメンやイクボス、イクジイといった言葉をメディアに流通させ、徐々に男性の家事育児参加を当たり前のものにさせていこうとゲリラ戦をやっています。

 

必ずしも高齢者の動員戦略ではありませんが、高齢者も含めて、社会一般で言説を流通させていくことで、認識が変わっていくことを促していきたいな、と思っています。【次ページへ続く】

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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