「シルバー・デモクラシー」からの脱却  

制度的要因による「喪失」

 

年金や社会保障制度の改革が困難なのは、有権者がこれらの現状維持に固執して「粘着性」をもつからだとされるが、圧力団体や官僚機構だけでなく、人口に占めるマジョリティもまた政策を規定するという、政治学において見過ごされてきた側面があることも忘れてはならないだろう。

 

ハーバード大学のマリー・ブリントンは、日本の若年層を取り巻く社会経済環境を分析した近著「ロスト・イン・トランジション(移行過程の喪失)」で、多くの問題が、新卒一括採用や企業慣行、高等教育行政、リクルートメント仲介などといった、それぞれ自律的な複数かつ多層な制度が、相互にハレーションを起こしていることによって生じていることを綿密に分析している。

 

それでもたとえば新卒一括採用という、世界でも珍しい慣行が今の今まで温存されているのは、これによって現状の均衡が保たれるからである。こうした制度的誤謬を設計しなおし、経済危機のバードン・シェアリング(過重分配)を可能にするためには、(多様な形での)若年層の一層の政治と社会への参画しかない。

 

 

「持続可能」な社会制度の設計へ

 

ただし、こうした状況を挽回するためには、シルバー世代の既得権益の一方的な批判は余り意味がない。それは無益な非難合戦を生み、負担の押し付け合いになるだけだ。まず、改革圧力によって、シルバー世代の既得権益の削減に、政治もいよいよ乗り出さざるをえなくなっている。その余剰が若年層に配分されるとはかぎらない。

 

次に、労働市場の中での相対的弱者は高卒や大卒だけではない。日本の貧困世帯の半分が「シングルマザー」であり、「現役世代」にあっても、リストラにあったサラリーマンの失業の長期化と貧困化が問題になりつつある。財政だけでなく、雇用にあてがわれるパイも限定されるようになった。この状況は、おそらく長期に渡るだろう。

 

かかる状況を是正するには、大きくいってふたつの方向がある。ひとつは、労働市場の流動化をさらに積極的に進め、就労や雇用のチャンスを平等化するネオ・リベ的政策である。もうひとつは、若年層や相対的弱者をエンパワーメントする対象であることを認め、積極的な再配分と人的投資を進めていく社民的政策だ。財政状況に鑑みれば、むしろ前者への誘引が働きやすいが、何れにしてもいまのところ、政治の責任回避のため現状維持がつづいている。

 

そうであるならば、むしろ彼らと共有できる争点をみつけて、連帯する方が戦術的には有効であるように思われる。少なくとも政治の場において、主権者は1人1票を死ぬまでもつ。デモクラシーが内在的に持つ「平等性」と、経済的論理から来る「負担」をどのように組みあせて行くかが問われている。

 

限られたパイの競争が持続可能ではないことが、すでに若年層の雇用悪化を通して明らかになっている。パイの再配分と拡大を為政者に求めていくこと―この当たり前のことができてはじめて、戦後世代が作ってきた「戦後」を葬り、持続可能となる次世代の社会像がみえてくるに違いない。そのあり方について、少なくとも他の先進国は真剣に考えはじめている。

 

 

推薦図書

 

 

人口動態等の視角には欠けるが、政治学者による「年齢」と「政治」の関係を考えた数少ない著作。1930年生まれの内田満は、政治参加の問題について多くの研究を残した政治学者だが、その志向もまた、この世代がなぜ「ラウド」なのかについての示唆であるように思える。

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.276 

・橋本努「新型コロナウイルスとナッジ政策」
・三谷はるよ「市民活動をめぐる“3つの事実”――「ボランティア」とは誰なのか?」
・五十嵐泰正「『上野新論』――「都市の時代」が危機を迎えたなかで」
・倉橋耕平「メディア論の問いを磨く――言論を読み解く視座として」
・山田剛士「搾取される研究者たち」
・平井和也「コロナ情勢下における香港と台湾に対する中国の圧力」