西欧社会民主主義はなぜ衰退しているのか?

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社民政党の組織的変化:空洞化

 

さらに、90年代に進んだ社民政党の組織的な変化は、これらをますます脆弱な立場に追いやることになった。

 

例えば、先にみた90年代のイギリス労働党の改革では、労組によるブロック票を廃止し、1人1票(OMOV)制度の導入といった改革がなされた。しかし、20世紀来の欧州社民の戦略は、特定の社会階層(労働者層)をサブカルチュア(部分社会)を通じて統合し、党綱領と密接な政策を掲げて選挙を戦い、与党となった場合に党員との政治コミュニケーションを通じた応答責任を果たすことを王道としていたことを考えれば、組織的な開放は逆機能する可能性もある。

 

実際、イタリア民主党やフランス社会党も党員減少に歯止めがかからなかったことから、2000年代から党員以外も党首選出や政策形成に関与できるような制度を整えていったが、その結果、政策的な一貫性や一時的な人気集めに引きずられる局面もみられた。

 

1950年代に「大衆政党」という類型でもって法学者のデュヴェルジェが定式化しようとしたのは、19世紀から20世紀初頭に民主化と工業化が進み、普通選挙が実現して新たな支持構造と動員戦略を完成させた社民政党(および共産党)だった。戦後デモクラシーが花開く中、特定の社会階層に根ざしつつ、その利益の実現を訴えて、選挙を通じてこれを実現していくという、今日でも共有されている素朴な政党政治のイメージは、1960年代に完成されたものだ。

 

もっとも戦前までは、例外を除き、デュヴェルジェのいう議員らによる政党(会派)たる「幹部政党」こそ、政党としては支配的な地位にあった。その限りにおいて、戦後の政党政治が勝ち得た新たな民主的な正当性は、政党組織が党員や支持者を包摂する組織を生成・維持していることを前提としていたのである。

 

数字でみれば、1960年代の西欧各国では、政党の種類を問わず、国民の約15%が何らかの党員だった。組織政党たる社民政党、共産党、キリスト教民主主義政党は、党員の納める党費やその献身的な政治活動によって、その政策的な実効性や応答性を担保していた。さらに重要なのは、このような党員や支持者の忠誠心を当てにして安定的な支持構造が中期的に期待できたことで、その結果として長期的な政策の構想や実現が可能になり、逆説的に政党間競争を穏健なものとし、民主制の安定に寄与したことだ。

 

もっとも、こうした構図は80年代から少しずつ崩れはじめ、2000年代になって崩壊の度合いを強めていく。1980年に党員/有権者の比率は10%を下回るようになり、2000年代後半は5%にまで低下する。図3は、1980年代から2000年代にかけての欧州各国における党員/有権者比率を示したものだが、スペインとギリシャという南欧諸国を除いて、どの国でも党員数は大きく減っていっている。90年代の支持基盤拡大の模索と、こうした組織的後とは決して無関係ではない。

 

 

図 3 各国政党の党員数の推移(有権者比、年)

(出典)Ingrid van Biezen and Thomas Poguntke (2014)” The decline of membership-based politics,” in Party Politics, 20(2).

 

 

具体的には60年代から進んだ社会の個人化と、これと比例した非政治的態度の定着や政治参加様式の変化、産業構造のサービス業への転換によって、動員のための組織を維持することが難しくなったことなどを原因としていよう。

 

たしかに、党員の減少は政党そのものの衰退を意味しない。政治学者スカロウは各国の政党組織比較から、草の根レベルでの政治活動はむしろ活発化しており、自発的で自律的な政党内組織が90年代以降に生まれ、「党員なき政党」が新たなモデルになりうることを提案している(Beyond Party Members,2014)。これは、日本でも自民党がネット党員、民主党/民進党がサポーター、立憲民主党がパートナーズといった準党員的なステータスを設けていることとも関係している。

 

またイギリス政治を専門とする近藤康史は、組織的な拘束が弱まり、執行部の自律性が高められることで機動的な路線転換が可能となり、これが選挙での優位につながる可能性があると強調する(『社会民主主義は生き残れるか』2016年)。

 

もっとも、安定的な支持構造を失った社民政党は、党費ではなく国庫補助金に頼り、党員集会や党大会に代わってマーケティング手法を用いた、機動的で応答的ではあるものの、短期的で場当たり的な政策に依存する「上からの動員」を余儀なくされる。

 

これが政治学者パーネビアンコのいう「選挙プロフェッショナル政党」の姿となる(『政党』1988=2005年)。党指導部では組合出身者の割合が低下し、市民運動家や官僚出身者が政策形成を担うことになる。もともと幹部政党や議員政党と異なる支持構造や組織的基盤を持った社民政党が、同じような戦略を採用すれば、それまでの社民政党の安定を相対的にもたらしていた組織的特性も失われることになる。

 

 

社民政党の環境条件:労働と政治の分離

 

各国ごとに様々なパターンがあるものの、そもそも20世紀の社民政党は労働組合、もっといって労働世界と切り離せない存在だった。組合が政党をつくったイギリス、政党が労組を組織化したスウェーデン、組合と政党が協働したドイツ、互いが反目したフランスやイタリアなど、労働を政治を切り結ぶかたちは色々であっても、両者が同じ陣営に位置するのは当然であり、これが20世紀後半に花開くの社民政治の基盤となった。

 

いいかえれば、社民政治は、工業社会が発展する中、労働者階級の政治参加に道を開き、資本主義と議会制民主主義とを和解させなければならないという歴史的要請から生まれた。

 

しかし、現代ではこうした環境的条件を提供する前提が足元から崩壊しつつある。労働社会学者ロベール・カステルの見立てによれば、先進国で19世紀から発展してきたのは、無産階級である労働者の賃労働を制度的に認め、これを社会権とセットとすることで社会統合を進めるという様式だった(『社会喪失の時代』2009=2015年)。つまり、労働と社会的保護を不可分なものとし、その上に社会保障や福祉制度を作り上げることで、社会は不平等を避け、安定を実現したのである。その担い手となったのが、社民政治でもあった。

 

カステルはもっとも、現代において20世紀までの社会統合の様式は維持し得ず、社会的な保護を必要としない「超過する個人」と、社会的保護すら受けられない「欠乏する個人」との両極に引き裂かれてしまっている、という。言い換えれば、先進国はゲーテッドコミュニティに住む人間と、住む場所すらもたないホームレスとで構成され、両者をつなぎ得た「労働」そのものの意味合いが双方にとって異なったものになってしまっている。これは所得や資産の多寡や格差以上の不平等社会の到来を意味する。

 

実際、イギリスでは雇用主から依頼がある時だけ就労する「ゼロ時間契約」が全労働人口の1%から5%を占めるといわれている。OECD(経済協力開発機構)は過去25年間、正規雇用の倍以上の速度で非正規雇用が拡大しているとしている。その一方で、フィンランドやオランダなどの自治体では市民に対して無条件に所得を保証する「ベーシック・インカム(最低所得保証)」が試験的に導入されており、社民政党を含む、すでに少なくない政党の公約に掲げられることもある。

 

しかし、こうしたベーシック・インカムの発想は、労働と所得を分離させることにある。固定的で安定的だった労働のあり方は、流動的で非連続的な働き方にとって代わられ、先進国製造業もデジタル経済やグローバルなサプライチェーンに置き換えられつつある。そして、それは社民政治が土台から揺らいでいることを意味するのだ。

 

労働を通じた社会的参加と社会的包摂が求められたことが、社民政治の存在理由だった。しかし、技術革新と生活様式の多元化、それを許容する社会の個人化は、20世紀に完成した社民政治の足元を構造的に切り崩していっているといえる。

 

と冒頭に示した西欧社民の歴史的衰退とこうした構造的変化は直接的な因果関係は持たないかもしれない。しかし、社民政党や社民政治の存在理由を考るとき、こうした環境的な変化を考慮に入れないわけにはいかないだろう。

 

 

社民政治の歴史的課題と日本への示唆

 

これまでの議論をまとめよう。

 

まず、不可避的になっているかにみえる西欧社民の歴史的な衰退は、社民の存在根拠だった労働者層に対する経済的保護が撤回され、さらに政党組織を通じた包摂が行き詰まったこと、両者が補完的になることで可能となっていた社会統合、すなわち労働と社会的保護の結びつきが行き詰まりをみせていることの表れだという仮説を提示した。しかも、これは、社民政党の政治的な生存を目指した合理的な戦略がもたらした意図せざる結果であるということは、問題の根はより一層深いものしている。

 

ところで、こうした西欧社民の経験は日本にとってどのような意味を持つのか。

 

経済に占める製造業の割合と製造業雇用者数が相対的に低下しており、他方で非正規雇用・短期雇用の労働者が増加していっているという点では、欧米と日本は同じトレンドにある。また、政治にあっては、左派政党の側の社会的・文化的リベラルの度合いが強まっていっているいう点でも同じ傾向を有している。

 

問題は、こうした社会状況と政治との結びつきだ。近年実施された社会調査では、非大卒男性を中心に、社会的・政治的疎外感を覚えて排外主義的傾向を持ち、他方では経済的平等を求める傾向が認められるという(橋本健二『新・日本の階級社会』、吉川徹『日本の分断』)。こうした意識を政治の側が利用しようとするのではなく、それを緩和するような政策や措置を取らない限り、日本でもポピュリズム政治の台頭と社民政治の衰退は避けられないかもしれない。

 

実際、鉄鋼、造船重機、非鉄、建設などの産業別労組である基幹労連の組合員への2017年春のアンケートでは、自民党支持率が民進党を上回るようになっている。社民と労働者層の歴史的邂逅は日本でも解けつつあるのではないか。

 

「あらゆるファシズムの勃興は、革命が失敗に終わった証である」とはドイツの思想家ベンヤミンの言葉だが、社会のもっとも脆弱な層に政治が十分な庇護を提供することができなければ、それは日本におけるポピュリズム政治の涵養につながることは間違いない。

 

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