選挙よ、これからどこへ行く――ネット選挙から公職選挙法まで語りつくす

選挙は短い!?

 

荻上 松田さんは選挙プランナーとしてどのような取り組みをされているのでしょうか。

 

松田 基本的にはクライアントが選挙で当選できるように政治活動などのお手伝いをしているのですが、一言で「選挙」と言っても、国政選挙や首長、地方議員選挙と様々な種別があり、期間なども異なりますので、仕事内容は違いますね。

 

 

図1 政治活動と選挙活動のまとめ

図1 政治活動と選挙活動のまとめ

図2 選挙期間・公示日・選挙日

図2 選挙期間・公示日・選挙日

 

荻上 町村議会議員選挙は、たった5日しか選挙期間が無いんですね。

 

松田 火曜日に始まって日曜日に終りますからね。勝っている時には逃げ切れて楽ですが、負けている時に流れを変えるのが難しい。知事選や参議院選は17日間あるので、事前の準備期間の短い新人でも勢いをつけることができれば逆転の可能性はあります。よく「あと一週間あれば勝てた」と落選した陣営で話がでるのですが、その通りで、時間をかければ選挙結果を変えることは十分可能です。

 

荻上 日本の選挙期間って短いですよね。政治について考えさせないでおこうとしているようにしか思えない(笑)。「お前たちはよく分からないだろうから、関わらなくていいよ」という形で、一部の人だけで「民主主義」をしようとしている。

 

選挙期間がもう少し長ければ、キャンペーンサイトにもう少し力を入れようといった意識も出てくるかもしれない。やはり、既存の選挙制度がある限り、多くの人が欲望していた、ネット選挙の理念というのは、実現困難なのではないか。

 

松田 本来は考えさせるのが民主主義ですけどね。日本だけだと思いますよ、期間を明確に区切っていて、さらに期間そのものが短いのは。韓国では半年以上前から候補者としての活動が認められていますし、アメリカの大統領選なんか実質2年間かけてやっていますよね。政治報道や選挙の特集番組も盛んに放送されますし、市民も高い関心をもっています。

 

ですが、日本の選挙では、あまりにも期間が短いので、充分な量の記事をつくるのは困難です。「候補者の横顔」みたいな特集がくまれたとしても、公平性を期すために、みんな同じ分量で、みんな良い人なんです(笑)。

 

荻上 ぼくは今回の選挙で、3度目の選挙特番の司会をしました。ラジオなので自由度が高くて楽ですが、それでも縛りを強く感じています。もし、選挙期間が半年あったら、報道でもトータルで平等なキャンペーンができますよね。一週間集中して一人の候補者を深堀りして、次は別の人のキャンペーンをすることも可能です。

 

でも今の報道では、政策について議論しようと思ったら党首の発言を比べるような特集が組まれがちです。しかし、公平性を重視するあまり、みんなに順番に政策を聞いていかなければいけません。誰かが途中で意見を言いたくでも、順番や時間を守らなければいけない。積極的なディスカッションにはなりにくいんです。

 

基本的に横並びで競争させないというルールになっていると、その上で比べて下さいとなってもなかなか難しいですよね。そうなると、マスメディアにその候補者がどれだけ出ているのか、マスメディアがどういう論調を作ったのかに流されやすい土壌がつくられてしまっている。どう考えても、クレバーな有権者をみんなで育てていこうというシステムにはなっていないですよね。

 

今回、某党の議員が、「某局の選挙番組には出ないぞ」と匂わせた一件が有りましたよね。もしそうなると、局はそもそも、他の党も一律に呼ばない、という対応をしてしまうでしょう。出たくないところがあってもいいのではないかと思うが、それは今ではメディアにとってのリスクとなってしまう。腫れ物に触るような形になってしまっている。

 

特定候補者のユニークな発言や失言も、不平等だからと取り上げにくい。となると、政治家個人の演説力を鍛える機会数にも影響するでしょう。

 

松田 選挙を通して鍛えられる部分がありますよね。私のクライアントでも、選挙前と選挙後では別人のように変化される方がいらっしゃいます。

 

アメリカ大統領選では、テレビ討論で勝敗が決まると言われて、各候補者陣営が入念な準備とトレーニングをすることで有名ですが、日本の場合は、まずテレビ討論がほとんどない。公開討論会は開催されることが多いのですが、チキさんがおっしゃった報道と同じで、横並びにしないといけないので議論の時間がほとんどない。私がお手伝いする場合は想定問答も作りこんで最低でも2回はリハーサルをしますが、準備不足でろくに発言できない新人や、議会答弁そのままに面倒くさそうに話す現職もいて、とても討論会と呼べるレベルになっていないことが多いです。本来ならば、選挙の過程で候補者が鍛えられて、有権者も考えられるのが理想の選挙ですよね。

 

ネットの可能性は、そこにあるんじゃないかなと思います。ただ、今すぐというのはなかなか難しい。Facebookは実名だから炎上しにくいと言われていましたが、選挙期間中も酷い書きこみはいっぱいありました。誰かの尻馬に乗って相手をボロクソに言う人がいるんです。もちろん、冷静な書きこみもありますが、議論をそもそもする気が無い人が目立ってしまうんですよね。

 

荻上 mixiでもTwitterでも最初、「2ちゃんやブログと違って炎上しない」と言っている人がいましたが、それはまやかしですね。しかも、それを真に受けてしまう人もいます。政治家の発言に対するフィードバック装置としてネットの存在は使えると思うんです。しかし、現状はそう上手くいっていません。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.272 

・荒木啓史「遺伝か環境か?――ゲノム科学と社会科学の融合(Sociogenomics)が教育界にもたらすイノベーション」
・神代健彦「道徳を「教える」とはどのようなことか――「押しつけ」と「育つにまかせる」の狭間を往く教育学」
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