選挙よ、これからどこへ行く――ネット選挙から公職選挙法まで語りつくす

ネットの使い方

 

荻上 今回の選挙で、巧みにネットを利用していたのは安倍晋三ですよね。特にFacebookの使い方が上手い。コミュニティを作り、支持団体に対しアプローチし、拍手喝さいを受けるのが自民党の戦い方でした。それがFacebookというアーキテクチャとマッチしている。安倍さんは応援する候補者の写真や地元のものを食べている様子をアップしていましたよね。さらに、タブレットを持っていたり、マンガ雑誌を読んだりする様子も見せ、身近な感じもアピールする。あれは上手だなと思いました。

 

松田 上手ですよね。

 

荻上 もう一つ例として比べるべきなのは、維新の会の橋下徹の使い方。彼のTwitterは100万を超えるフォロワーがいます。メディアとして力がある。彼は常にメディアを使って、どう浮動層にアピールするのかを考えていますので、自分より汚くて、自分より弱いヤツを適切に叩くというケンカをしているわけです。今、彼が行っているのはマスメディア批判ですよね。戦っている自分を自己演出する。カメラ目線でファイティングポーズをとっているともいえます。

 

しかし、選挙期間中でも、彼のツイッターは他の候補者をほとんど紹介しません。他の候補者も橋下徹になついている感じがしない。団体としてはまとまりが無いのが浮き彫りになるような戦い方です。個人のファイターとしては強いかもしれませんが、党首として面倒見がいいわけではない。

 

松田 橋下さん個人の発信力はすごいんですが、今回は維新の会という政党としてのまとまりは見えませんでしたね。

 

荻上 もう一人は日本共産党の吉良佳子のような戦い方です。原発とブラック企業という、メインのテーマと客層を明確にしていましたね。毎週金曜日には官邸前でデモをしている様子の写真を上げたり、ブラック企業についてのツイートをTogertterでまとめたり。現政権への不満を、特定の論点においては確実に伝えてくれるだろうという、「確かな野党の戦い方」です。

 

このように、様々な戦略を練る動きもありましたが、多くの議員については、防戦一方なところがあったと感じています。

 

松田 確かに「ネット選挙が解禁されたから最低限のことはやっておこう」という陣営が多かったです。

 

私が今回のネット選挙解禁で、非常に印象に残ったのは緑の党から出馬した三宅洋平さんです。参議院の全国比例という、個人名を書いてもらうのが非常に難しい選挙で、政党の支援もなく、ほとんど無名に近かった三宅さんが176,970万票も集めました。動画配信サイトとTwitterを効果的に活用し、選挙関連ツイートを1000件近く投稿。リツイートされた件数約34,000回は全候補者、党首の中で最多だったといいます。もしネット選挙が解禁されていなかったら3分の1も取れていなかったと思いますよ。ある意味、三宅さんは日本で最もオバマ大統領の選挙に近いことが出来た候補者かもしれません。インターネットを中心に支持を広げ、あれだけの得票を得たというのはすごい。

 

 

ネット票のゆくえ

 

松田 三宅さんが17万票とって落選しましたが、もっと低い得票で当選する人が沢山いました。選挙制度で決まっていることなんですが、こんなに票を取ったのに落選するのはおかしい、という話は出てきしたよね。

 

荻上 選挙制度に目が向きましたよね。仮に、完全に得票数だけで当選を決めると、ネット右翼票で人を通すことも可能になると思うんです。でもぼくは、それでもいいと感じています。というか、特定の思想の人のみを通すフィルターとして制度設計するのは難しい。そのことも含めて慎重に考えなければいけない問題ですよね。

 

とはいえ、日本はアメリカのように代表を直接選ぶ形ではないので、ネット票が送れる議員はせいぜい一人か二人だろうなと思います。トリックスターを送れたとしても、政策に反映されるのは難しい。かといって、政党を底上げするほどの規模が、今のネット票にあるとは思えないですね。

 

松田 政党の力がなければなかなか変えて行くのは難しいですよね。一人や二人ではどうにもならない部分はあるのかもしれません。私が可能性を感じているのは、地方の首長です。都知事選は日本で一番大統領選挙に近い選挙ですし、ネットとの親和性も高いと思います。

 

荻上 都知事選ですか……。でも、結局は「有名力」につきてしまうのではないでしょうか。基本的にミーハーで有名人を選ぶ傾向は変わらないですからね(笑)。

 

松田 なるほど(笑)。でも、そこに風穴をあけられたら面白いですよね。都知事選は報道も活発ですし、規模も大きいので可能性は感じています。

 

荻上 願わくば、有名な人が政治に目覚めたのではなくて、政治に目覚めた人が有名性を確保するという地道な戦いをした上で出馬する。都知事選の戦い方としてはそれがいいのかもしれませんね。

 

……つづきは「α-synodos vol.134」で!

 

 

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α-synodos vol.134 「建前」と「偽善」のあいだに

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.272 

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