縮小都市、あるいは集積の分散 ―― 政治制度からみた現代の都市問題

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縮小都市のポリティクス

 

ここまで、「市」という政治行政の単位における、都心部と郊外部の対立関係を中心に、「縮小都市」の問題を素描してきた。この両者の関係は日本の地方自治体を制約する政治制度を通じて、「市」によってさまざまなかたちで具体的な政治過程に表出してくると考えられる。

 

まず考えなくてはいけないのは、意思決定のユニットである「市」内部のポリティクスである。中でも、日本の地方自治体において、二元代表の一翼を担う市議会にどのような代表が送り込まれるかは重要な論点である。

 

日本の「市」のうち、もっとも規模の大きい政令指定都市は、いわゆる中選挙区制で議員が選出される。市域を複数の選挙区に分けて、そこから少ない選挙区で2名、多い場合では10名以上の議員が選ばれる。選挙区で選ばれる議員は、当然ながらそれぞれの選挙区の利益を代表する性格を付与されるから、市域の中でも郊外部に当たる選挙区から選ばれた議員は、都心部よりも自分を選出した郊外部の利益を強調しても不思議ではない。

 

人口に応じて議席が配分されることを考えると、政令指定都市のような大都市でも、都心部よりも郊外部の方が多くの人口を抱えるため、都心部の利益は強調されにくくなる。

 

政令指定都市ではない市では、大選挙区制で議員が選ばれる。市の規模にもよるが、全市一区の選挙区から、40人を超える議員について、個人投票で議員が選出されるのである。当選のためには、地縁や組織・団体といった結合を利用して固定票を集めることが重要となる。固定票が重要であるために、人口では郊外部に劣る都心部も、伝統的な中心市街地としての結合を利用することができれば、人口に比べて多くの代表を議会に送り込むことができるかもしれない。

 

ただし、厳格な票割りをしていない限り、都心部の利益を代表しようとする候補者の最大のライバルは、同様に都心部の利益を代表しようとする他の候補者となる。仮に都心部が議会において相対的に多くの代表を占めていたとしても、その連合は「政党」のように強固な連合とは言いづらいところがある。やはり、都心部の利益を代表する議員たちが安定して議会の多数を占めるのは容易ではないのである。

 

さらに、二元代表制のもう一翼である市長は、つねに都心部に好意的であるとは限らない。もちろん、都心部を中心とした市議会議員や団体などの支持を受けて選挙に勝利すれば、都心部の意向を無視することはできないだろう。しかし、全市一区の小選挙区制である市長選挙では、単純に都心部に限らず多くの住民の支持を受ける候補者が当選することもある。結果として、都心部に重点を置いた中心市街地の再開発よりも、より普遍的な教育サービスや交通ネットワークの整備が優先されることは少なくないと考えられる。

 

さらに、都市のマネジメントを行う「市」という自治体の上に、府県という広域自治体が存在していることは、複雑なポリティクスを生み出す。すでに述べたように、もともと「市」は非常に限定された地域であり、その多くは県庁所在地でもあった。県庁が存在するということは、その都市の中に管轄の異なるふたつの権力が存在していることを意味する。

 

もちろん両者が協力することはあり得るだろうが、狭い都市圏を重視する「市」と、より広い府県域を考えなくてはいけない府県では、似たような都市開発の事業を行ったとしてもその目的が異なることも珍しくはない。より直接的には、従来の「市」の中心市街地に対する強力な競争相手を、広域を所管する(したがって、より郊外部の住民の意向を受ける)府県が創りだしてしまうという事態も起こりうるのである。しかも皮肉なことに、事業を行う府県にとってのもっとも主要な財源は府県域の法人税であり、これは府県の中心たる県庁所在地の「市」での経済活動が生み出した税なのである。

 

このように、とりわけ府県の権力が実体的に存在する県庁所在市では、都心部と郊外部の対立関係が入れ子状態になりやすい。つまり、「市」内部での都心部と郊外部の対立軸に加えて、「市」と(「市」の外に広がる郊外部に支えられる)「府県」という対立軸が併存するのである。いずれにしても、「市」の中で都心部に優先的に資源が配分されるという状況にはなりにくい。

 

地方議会の選挙制度や府県-市町村といった二層制の地方制度は、都心部・郊外部の利益をそれぞれ細分化し、相互に競合的なものとするからである。言い換えれば、郊外の住民にとって、自分たちの福祉を向上させるために都心部をさらに発展させていく、というような補完的な関係が作りにくいということだ。これは、「縮小都市」という問題設定のもとで、従来の中心市街地を再活性化しようという営みを大きく制約することになると考えられる。

 

 

おわりに

 

本稿では、政治制度に注目しながら現代の都市が抱える課題-「縮小都市」という問題-について概観してきた。はじめに見たように、都市が特殊な地域として拡大していく局面であれば、膨張する郊外の成長を取り込むかたちで意思決定のユニットである自治体を広げることは、それほど難しい対応ではなかったと考えられる(*5)。しかし、現在のように自治体の領域が拡大するとともに、伝統的な中心市街地以外にも集積が分散してくると、それを単一の「市」という単位で議論することに非常な困難が生じる。

 

(*5)しかし大阪のような国にとっての重要性が高く、無制限の膨張が認められないような地域では、当然その拡大に歯止めがかけられることになった。この点についても、前掲拙著『大阪』で論じている。

 

そのような中で、中心市街地の再活性化というかたちで「縮小都市」に対応するのは簡単なことではない。とくに郊外の住民から見れば、不便でコストの高い中心市街地という従来の集積に固執することに正当性が付与できるかは疑わしい。しばしば行われているような「アートによる再活性化」のような営みも、結局のところ市において大きな位置を占める郊外を置き去りにしながら、以前の都心へのノスタルジーを表出しているに過ぎないところがあるのではないだろうか。

 

政治制度という観点から都市の問題を眺めると、都市の縮小という問題に対して、いくつかの対応が考えられる。その中でも、無理に都心部と郊外部を包み込んだ大きな「市」というレベルでの一体性を追求せずに、それぞれの利益が異なる地域ごとに再度自治体の枠組みを作り変えるというのはもっとも単純な対応だろう。

 

仮に中心市街地を再び活性化しようとするならば、「市」という政治行政のユニットとして、都心/中心市街地という特別な集積を中心に意思決定を行うことの重要性が浮かび上がる。そのためには、都心部を利用する郊外の住民を包摂した合意を形成しやすい政治制度を整える必要があるだろう。

 

とくに、現在のように、都心と郊外が競合的な存在となるような選挙制度・地方制度は望ましくない。都心と郊外をともに巻き込みながら都市(圏)全体としての方向性を議論できるような組織-都市圏レベルの問題意識で結合する政党-の存在を認めるとともに、それが強靭な組織となるように育むことができる政治制度の整備が、「縮小都市」のような現代的な都市問題へのひとつの対応になると考えられる。

 

(本稿はα-Synodos vol.119(2013/03/01)からの転載です)

 

サムネイル「도톤보리, Dotonbori, 道頓堀」Mirye.j

http://www.flickr.com/photos/mirye/7829634218/

 

 

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