スピリチュアリズムの危険性――『反オカルト論』

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スピリチュアリズムの危険性

 

助手 おかげさまで、母も元気になりました。今朝は久しぶりにスッキリした笑顔で、来月は友人と一緒に海外旅行に出掛けるとかで、準備で大騒ぎしていて、これまでずっと心配していた私がバカみたいでした。

 

教授 それはよかったじゃないか。「霊魂」や「来世」のような話ばかりに囚われていると、何よりも現実世界の健康に良くないからね。

 

助手 霊魂が存在するとしても、医学的に受精卵のどの段階から物理的な人間の中に入り込むのか不明なことや、「霊感商法」の危険性など、先生から伺ったことを母と話し合ってみたんです。

 

教授 ほほう。それで、どうなったのかな?

 

助手 ハッキリと結論らしい結論に至ったわけではないのですが、少なくとも「霊魂や来世が存在すると絶対的に言い切る」のが怪しいという点だけは、納得できました。

 

そもそも近代スピリチュアリズムがフォックス姉妹のイタズラから始まったこと、あの理性的な名探偵シャーロック・ホームズを生んだ作家コナン・ドイルや、ウィリアム・クルックスとシャルル・リシェのような一流の科学者でさえ、霊媒師やトリック写真に騙された顛末から、悪徳スピリチュアリズムに騙される危険性についても、十分認識できたと思います。

 

教授 矢作直樹氏の著作から影響を受けているという話は、どうなったの?

 

助手 決め手になったのは、「スペシャル対談・矢作直樹東大病院救急部・集中治療部部長×江原啓之 『死後の世界』は絶対に存在する」(『週刊現代』二〇一四年九月二十日号)という記事でした。

 

これを母に読ませたら、まるで目が覚めたみたいに、あっさりと父の霊の話をしなくなりました。

 

教授 なんだって? 「『死後の世界』は絶対に存在する」という記事を読んだら、「死後の世界」を信じなくなったということ?

 

助手 うふふふ、そうなんですよ。この記事の中で矢作氏は、次のように発言しています。「霊媒の力がある友人を通して、私は母の霊魂と会話をしました。……私が気になっていた、なぜ死ぬ前に結婚指輪を外していたかという理由も、話してくれました。結婚指輪のことは、私以外誰も知らないことです。一般常識では信じられないでしょうが、私は自分が死んだ母と会話をしているという確信を持つにいたりました」

 

この発言だけを読むと、まるで霊媒師が「私以外誰も知らない」結婚指輪のことを指摘したみたいですよね。

 

ところが、その三年前の二〇一一年に矢作氏が著した『人は死なない』では、「霊媒の力がある友人」に矢作氏から質問しているんです。「もう一つ疑問に思っていたことを訊ねてみました。『亡くなったときに結婚指輪を外していたけれど、いつ外したの?』」

 

つまり矢作氏は、自分から結婚指輪の情報を霊媒師に与えているわけですから、これでは本当の「霊媒の力」も疑問だし、交霊そのものさえ怪しくなってしまいます。このことに気付いた瞬間、私の母は、矢作氏に対する信頼感が一挙に吹き飛んだそうです。

 

教授 自分で疑問点を発見し、推論し、結論を導いたとは、すばらしい!

 

助手 ついでに私が気になったのは、矢作氏が、対談で「私は江原さんに感謝しているんです。江原さんがテレビなどで根気強く説いてくださったおかげで、一定数の日本人には霊的な存在を受け入れる『土台』ができた」と述べている点です。

 

「霊的な存在を受け入れる『土台』」には、カルト宗教や霊感商法の蔓延を助長する大きな危険性もあるのではないでしょうか?

 

教授 地下鉄サリン事件から二十年、オウム関連の事件でさえ風化し始めている。スピリチュアリズムが社会に何をもたらすのか、改めて我々一人ひとり、よく考えてみる必要があるだろうね。

 

 

「胎内記憶」と未来医療研究会

 

助手 先生、私の親友が流産したことは、お話ししましたよね。新婚なのにガッカリしていたって……。昨日、その彼女と同窓会で会ったら、「私は赤ちゃんに選ばれなかった」などと変なことを言い出したんですよ。

 

教授 選ばれなかった?

 

助手 『かみさまとのやくそく──胎内記憶を語る子どもたち』という映画を観たらしいんですが、そのテーマが「赤ちゃんはママを選ぶ」だったそうです。

 

教授 「生まれ変わり」は、スピリチュアリズムが発生して以来、手を替え品を替えて登場するオカルトだが、最近は、そんな映画まで制作されていたのか……。

 

助手 二〇〇八年に『胎内記憶』という本を発行し、その映画に登場するのが、池川クリニック院長の池川明氏。彼は、自分のホームページで次のように述べています。

 

「雲の上では、子ども同士で『あのお母さんがかわいい』『あのお母さんがきれいだ』などと話しながら、自分たちのお母さんを世界中の国から選んでいるらしいのです。中でも一番多い決定基準が『やさしそうだから』というのです」

 

教授 「かわいい・きれい・やさしそう」というのは、「子ども」というよりも、日本の大人の男性が求める典型的な「女性的役割」だろう。アメリカやヨーロッパでは、知的でバイタリティに溢れて効率的に仕事をこなす女性の方が「お母さん」のイメージだと思うよ。

 

しかも「世界中の国」と簡単に言うが、アジアやアフリカを含めて何十億人の女性を想定しているのかな? その発言だけで、どれほど怪しい話か想像がつく。

 

助手 池川氏は、幼稚園や保育園の幼児に対するアンケート調査から、「三人に一人の子ども」に「胎内記憶」があることが「明らかになった」と述べていますが、統計的に有意な科学的調査を行った形跡はありません。

 

女性に対するジェンダー・バイアスもさることながら、産婦人科の医師でありながら、池川氏が「過去生記憶」(過去に別の人物として生きていた記憶)や「中間生記憶」(前世の終了時から受精までの記憶)を当然の前提として話を進めているのには驚きました。

 

教授 子どもは、大人に気に入られるように話を作るものだからね。「かわいい・きれい・やさしそう」なママの話をして、池川氏を喜ばせたんじゃないかな。

 

助手 あははは。大の大人が、幼稚園や保育園の幼児に遊ばれているわけですか。

 

それにしても、驚くのは池川氏が「流産していく赤ちゃんや中絶される赤ちゃんたちが喜んで旅立つイメージ」と言い放っていること。さらに「『もう2度と流産するお母さんを選ばなくてもいいよ。次はまた別の役目を果たすためにがんばってね』というプレゼントができる」とも述べています。この種の言葉が、どれだけ流産した女性を傷付けるかと思うと……。

 

教授 池川氏の話を聞いていると、肉体は滅びても魂は生き続けるから「人は死なない」と主張する矢作直樹氏を思い出すね。

 

助手 言い忘れていましたが、『かみさまとのやくそく』の上映会は、矢作氏が顧問を務める未来医療研究会の主催でした。そこで池川氏と矢作氏は、一緒に登壇して挨拶したそうです。

 

教授 類は友を呼ぶわけか。

 

矢作氏は二〇一六年三月で東大を定年退官ということで、「東大の救急医療の来し方」という最終講義を行ったようだ。さすがに「死後の世界」や「ヒーリング」の話にまでは踏み込まなかったようだが。結果的に、東大医学部教授会は、社会的説明責任を果たさずに終わったね。

 

助手 でも、未来医療研究会の主宰者は、今でも東大医学部付属病院循環器内科助教ですから、医学部教授会がどのように認識しているのか、伺いたいものです。

 

教授 世の中は奇妙な主張や霊感商法で溢れているが、東大教員の研究会主宰となると、お墨付きの誤解を与えかねない。社会的影響を十分配慮してほしいものだ。

 

 

解説──プロジェクト・アルファ

 

本章のエピソードで中心になる主題は、矢作直樹氏や池川明氏のような「医師」がスピリチュアリズムを擁護している現状に対する問題提起である。現在でも、東京大学医学部助教が主宰する未来医療研究会は実在し、相応の社会的影響力を持っている。そこにオカルト関係者が参加している状況を、どのように認識すればよいのだろうか。

 

ここでは、過去に大学の研究機関が「超能力」を扱った実例を考えてみよう。

 

一九七九年、マクドネル・ダグラス航空株式会社の会長ジェイムズ・マクドネルは、ミズーリ州セントルイスのワシントン大学に「マクドネル超心理学研究所」を設立するため、当時としては破格の五十万ドルを寄付した。彼は、科学技術者である一方で、超常現象に深く関心を持っていたため、この寄付によって「超心理学」を発展させようと考えたのである。

 

研究所の所長に就任したのは、ワシントン大学物理学科のピーター・フィリップス教授だった。彼は記者会見を開いて、とくに子どもの超能力を重点的に研究すると発表した。これに対して、全米から三百人近い応募者が殺到し、審査の結果、ペンシルベニア州の病院職員スティーブ・ショウとアイオワ州の学生マイケル・エドワーズが被験者として選ばれた。二人は、当時十七歳と十八歳だった。

 

その後三年以上にわたって、二人の少年は、研究所内外で実施された多種多様な実験において、凄まじい「超能力」を次々と発揮した。彼らは、「念力」によって、スプーンやフォークはもちろん、アクリル板に埋め込まれた金属片も自由自在に折り曲げ、密封ビン内部のヒューズをショートさせ、静電気防止材でカバーされたガラス・ドーム内部のアルミニウム回転翼を外から回してみせた。

 

研究所は、被験者のトリックを未然に防ぐため、手品師ウィリアム・コックスをコンサルタントに任命していた。コックスは、ボルトと南京錠で頑丈なテーブルに水槽を据え付けて「絶対にトリックでは破れない」密封容器を作製し、その唯一の鍵はフィリップス所長が首にぶら下げていた。

 

しかし、その翌日、二人の少年は、その容器内部の対象物を「超能力」で奇妙な形に折り曲げてみせた。スティーブは、コックスの設計した他の小型密封ビン内部のパイプ・クリーナーを、部屋の反対側から「念視」するだけで、人間の形に曲げてみせることもできた。これらは、すべて超常現象として記録された。

 

ところが、驚くべきことに、研究所の厳重な審査を経て選ばれた二人の少年が、実は奇術師ジェームズ・ランディの弟子だったのである。もちろん、二人の「超能力」も、すべてトリックだった。ランディは、この潜入作戦を「プロジェクト・アルファ」と呼んだ。

 

二人の少年は、研究員から「トリックではないか」と尋ねられた場合は、即座にその事実を認め、「ランディによって送り込まれた」と正直に答え、いっさいの責任はランディが取る約束になっていた。ところが、研究所の研究員は、最後まで二人の「超能力」を微塵も疑おうとせず、一度も問い質すことがなかったのである。

 

プロジェクト・アルファの開始直後、ランディは、フィリップス所長に、超能力実験に関する十一項目の注意事項を送った。これには、実験途中で被験者に最初の計画を変更させてはならない、逃げ口上の余地を与えることになるため被験者の気まぐれな要求に応じてはならない、実験の周囲の状況は厳密にコントロールされなければならない、などの項目が含まれていた。

 

しかし、最初の実験から、研究員らはランディの提案した注意事項を無視したため、被験者が実験を思い通りにリードすることができた。被験者は、実験条件が気に入らなければ、怒ったりかんしゃくを起こしたりもした。二人の少年は、自称超能力者ユリ・ゲラーがスタンフォード研究所の実験で取った行動に多くのヒントを得ていたのである。

 

若いが有能な手品師のスティーブとマイケルにとって、「超能力」を発揮することは、いとも簡単だった。透視実験の一種では、絵の入った封筒が被験者に渡される。被験者は、封筒とともに一人で残され、その後、封筒を実験者に戻し、開封の痕跡がないとの確認を受け、封筒に入っていた絵を当てる。二人の少年は、この実験で、かなりの成功を収めた。一〇〇パーセントでなかった理由は、少年たちが、成功率が高すぎると逆に怪しまれると考えて、故意に成功率を下げたからである。

 

手順は簡単だった。封筒は、数個のホッチキス針で留められていたので、それらを外して中身をのぞいてから、もとのホッチキス針の跡に、うまくホッチキス針を留め直したのである。マイケルは、実験中にホッチキス針を失ったことがあったが、それをごまかすために、実験者に対面した際、腹を立てて自ら封筒を破ってみせた。この種の実験内容の変更も、そのまま受け入れられてしまった。

 

研究所を訪れたミネソタ大学教授の物理学者オットー・シュミットは、二人に小型デジタル時計を渡して、超能力で変化させるように指示した。最初から完全に密封されている製品である。マイケルは、昼休みに、この時計を研究所から隠して持ち出し、セルフ・サービス式のレストランで昼食を取ったとき、それをサンドイッチに挟み、電子レンジにかけた。デジタル時計は完全に狂って、意味不明の液晶表示を始めた。シュミット教授は、これこそが「超能力のすばらしい威力」だと言って、マスコミに驚嘆してみせた。

 

ニュージャージー州のリハビリテーション・エンジニアリング国立研究所では、精神科医バーソルド・シュワルツが、スティーブを被験者とする実験を行い、膨大な報告書を作成した。彼は、スティーブにビデオカメラを渡して、周囲を撮影するように指示した。そのビデオテープを現像すると、いくつかのコマの中ほどに、奇妙にぼやけた渦巻が写っていた。シュワルツは、それらの「渦巻」の中に、「動いている顔、キリストの顔、UFO、女性の胸像、乳首、胸、太腿、生まれてくる子ども」を発見して、詳細な精神分析を行った。その場にいた研究員らは、フィルムにそのようなものが現れた原因を「超常現象」以外とは思えなかった。ところが、実際には、その渦巻は、スティーブがレンズの上に吐いた唾だったのである。

 

後にランディは、次のように述べている。「プロジェクト・アルファが成功を続けたのは、研究員たちが、マイケルとスティーブを本当の超能力者だと信じていたからである。仮に二人が手品師として同様のトリックを使っていたら、これほどうまくやってみせることはできなかっただろう」

 

マクドネル超心理学研究所の研究員らは、「サイコキネート」なる新語まで創り上げるほどに、二人の少年の「超能力」を信じて疑わなかった。実験は、実験者と被験者が互いにリラックスした雰囲気の中で行われ、単純なトリックが「超能力」と認められて報告されるにつれて、さらに被験者が操作しやすい環境に変わっていった。

 

スティーブとマイケルは、電気関係の装置が、「超常的に悪いものを発散している」と主張した。これは、実験に一連の神秘的な雰囲気を盛り上げると同時に、ビデオ監視の可能性を最小限にするためでもあった。彼らは、二人とも、子どもの頃にある種の電気的なショックを経験して以来、自分たちの超能力に気付くようになったと話すことによって、電気装置を嫌がる理由まで注意深く解説した。研究員たちは、これらの主張を好意的に受け入れ、さらに「信念の泥沼」に深く入り込んでいったのである。

 

二人の「超能力」が『ナショナル・エンクワイアラー』紙で報道されると、少年たちは全米から「何トンもの手紙」を受け取った。マイケルは、次のように述べている。「人々は、ラッキー・ナンバーから行方不明の子どもについてまで尋ねてきた。根本的に、どのように生きていけばいいのかまでも、僕らに尋ねてきた。超能力の威力というのは、本当に狂気じみている。人々の人生まで、簡単に手中に握ってしまえるんだからね」

 

一九八三年、ランディはプロジェクト・アルファの全容を公表した。二人の少年は、すべてがトリックだったと公表された後にも、「自分では気付かずに、本当は超能力を使っていたのではないか」と聞かれたという。彼らは、超心理学者ばかりではなく、一般大衆が、どれほど超常現象を信じたがっているのかを知って、驚愕したと証言している。

 

 

第六章──課題

 

1.いわゆる「因習」に拘る習慣はあるだろうか。あれば、その習慣を思い出して、なぜ自分がその因習に拘るのかを分析しなさい。[ヒント──「死後の世界」や「先祖供養」などに関わる因習を考える。]

 

2.ランディは一九八八年、オーストラリアのテレビ局に協力して、いかにメディアと大衆がオカルトに騙されやすいかを検証するため、霊と交信するチャネラー「ホセ・カルロス」という人物を創作した。演じたのは彼の友人の芸術家で、腋にボールを挟んで瞬間的に脈を止める奇術を使って「死から蘇る」演技を行った。彼らはシドニーのオペラハウスを「信者」で満杯にした後、すべてが「ヤラセ」だったことを暴露した。この「カルロス事件」から、メディアと大衆の騙されやすさを検証しなさい。[ヒント──ランディ「カルロス事件」のサイトなどを参照。]

 

3.学者や医師、法律家やジャーナリストのように、社会的には「学」に携わりながら、オカルトを擁護している人々がいる。彼らの論法を分析して、どこに問題があるのかを論証しなさい。[ヒント──「Japan Skeptics」や「と学会」のサイトを参照。]

 

 

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