ダイエットという蟻地獄――最新の医学データが示すダイエットの真実(2)

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蟻地獄――ダイエッティングサイクルと脱抑制

 

前回は、周囲の賞賛を求めて過激な目標設定に向かってダイエットをするのと、生活全体を健康的にして、健全なライフスタイルを地道に営み、その結果として健康的な体重になるのが、まったく別なことであると説明してきました。

 

頑張ってダイエットする、つまり意識的に摂取量を大幅に下げると、饑餓状態に陥り空腹感が強くなります。早晩、その強烈な空腹感、飢餓感に抗しきれず食べ過ぎに陥り、ダイエットに失敗したと意気消沈し、ふたたび厳しいダイエットに励みます。Neumark-Sztainer博士(Neumark-Sztainer & Loth, 2017)が指摘したように、この負のサイクル、ダイエッティングサイクルによって、不健康なダイエットが体重増加につながる可能性があります。

 

さらなる可能性として、生理的なもの(空腹と満腹の内部サイン)ではなく意志によって摂取量をコントロールしようとすると、禁止している食物を少し摂取しただけで食べ過ぎに至るなど、ダイエットによって脱抑制のリスクが増すとされています。これはPolivyとHerman(Polivy & Herman, 1985; Polivy & Herman, 1995)が1985年に提唱して以来、いくつもの研究がされてきました。

 

ダイエットのために、身体的・生理的な空腹と満腹の内部サインをずっと無視し続けると、正常な摂取制御を失ってしまいます。長期ダイエッターでは、自分が太ると思っている食物を少しでも摂ると、もう抑制が効かなくなり、食べ過ぎてしまいます。痩せすぎを目指し、限り無く低い摂食量を計画するのですが、実情は間欠的摂取量制限になってしまっています。ずっと食べ物のことばかり考えてしまい、食べ物中毒に陥ってしまっています(Polivy & Herman, 1995)。

 

現代社会は食べ物への誘惑に満ちあふれています。TVドラマには食事シーンがありますし、旅行番組では各地の名物料理が登場します。何よりテレビコマーシャルは、食べ物ばかりです。テレビを見ているだけで、思わず抑制が取れて食べ過ぎてしまいます(Polivy & Herman, 1995)。仕事・学業にも影響が出ます。ダイエットにより集中力が減り、何か気をそらせるものがあると、すぐに仕事・勉強から気持ちがそれてしまいます。感情的で気持ちが安定せず、両極端に振れやすく、不機嫌となりやすく自分を抑制できなくなり、そんな自分のことが嫌いになってしまします。

 

迫り来る飢餓感、強い空腹感に耐え抜くことは、人間が生物である限り不可能です。健康的なライフスタイルを旨として、地道に平穏な日々送り続けることで、健康的な体重に到達することが可能です (Wing & Phelan, 2005)。

 

 

もっとも恐ろしい結末、太り易い体質

 

もっとも恐ろしいことは、ダイエットとリバウンドを繰り返すことで、たんに体重が戻るだけではなく、太り易い体質も獲得してしまうことです(Blomain, Dirhan, Valentino, Kim & Waldman, 2013; Maclean, Bergouignan, Cornier & Jackman, 2011; MacLean, Higgins, Giles, Sherk & Jackman, 2015)。もう30年も昔から危険性が指摘されており、ヨーヨーダイエットと呼ばれています(Brownell, Greenwood, Stellar & Shrager, 1986)。動物実験でダイエットを繰り返すと、食物を身体に貯める能力が向上し、少しの食物で体重が上がってしまうことが証明されています(Brownell, Greenwood, Stellar & Shrager, 1986)。これは身体の仕組みから考えれば当然です。飢饉を経験するほど、飢餓に強くなるからです。

 

人間の身体にはホメオスターシスといって、色々な外的危険から身体を護り、身体の状態を一定にしようとするメカニズムが備わっています。身体にとっては寒冷とともに、飢餓状態は生命最大の危機ですから、それに対抗しようとするのは当然で、ダイエットとは、その飢餓状態に意識的に陥れようとしているのですから、身体が抵抗して当然です。

 

 

 

 

ここで、身体のエネルギーの基礎について少し説明します(表1)。

 

1日の総エネルギー消費量は(1)基礎代謝量、(2)運動による熱産生効果、(3)非運動性活動熱発生、(4)食事による熱産生効果の4つの合計です。この総エネルギー消費量より多いカロリーを食事により摂取すると、余ったエネルギーを筋肉や脂肪として貯蔵し、体重は増加しますし(アナボリック)、摂取カロリーが少ないと、それらをつぶして使用して、体重は低下します(カタボリック)。そして体重低下の時には、(1)基礎代謝量、(2)運動による熱産生効果、(3)非運動性活動熱発生、(4)食事による熱産生効果の4つとも低下しますが、それを適応熱産生(adaptive thermogenesis)と呼びます。

 

基礎代謝量は、肺(呼吸)、心臓・血管(循環)、脳・神経(認知)などの生理機能や熱産生(体温の維持)、排泄を営むために必要な最小限のエネルギー量です。普通の日常生活では、総エネルギー消費量の約60%が基礎代謝量です(田中喜代次、中田由夫, 2017)。基礎代謝量は、(1)約12時間以上の絶食、(2)安静仰臥位で筋の緊張を最小限にした状態、(3)快適な室温で心身ともにストレスの少ない覚醒状態で測定されます(田中喜代次、中田由夫, 2017)。したがって、絶食状態で測られた基礎代謝量に、食事による熱産生効果を足した数字が、安静時エネルギー消費量(resting energy expenditure , REE)とされています。

 

安静時エネルギー消費量のうち、各臓器・組織別のエネルギー消費量をみてみますと骨格筋が2割です(表2)。運動選手では骨格筋が25~40%と、最大部分を占め、運動選手は骨格筋の量が大きく、その結果、基礎代謝も高くなります。一方で、除脂肪量が同じでも(脂肪の量が増えていなくとも)、高齢になるにつれて基礎代謝は低下します。

 

 

 

 

体重低下とともに代謝も下がってしまいます。そこで、代謝を下げずに、太り易い体質にならずに減量をしたいと考えてしまいます。田中喜代次先生によると、それは非常に困難です(田中喜代次、中田由夫, 2017)。そのためには、筋タンパクの分解よりも合成が上回るように、(1)おおよそ体重1 kgあたり1.5~2 gのタンパク質の摂取、(2)筋肉の限界の80%程度の力を入れて短時間に繰り返して行う高強度レジスタンストレーニングを行うようにしながら、一方、脂肪の蓄積よりも分解が上回るように、(3)長時間の有酸素性運動と(4)糖質制限を行うことです。

 

ボディビルダー選手たちは、毎日「1日に卵を5~6個も食べ、間食にチーズのかたまりを摂り、牛乳を2~3リットルも飲み」ながら、「毎日、何時間ものトレーニングに励む」ことになります(田中喜代次、中田由夫, 2017)。このようなハードなトレーニングは、オーバートレーニングとなる可能性があります。

 

事実、「脊椎、関節、腱、筋肉などの損傷」(場合によっては後遺症が残る)、「倦怠感、著しい疲労感、労働意欲の減退、睡眠の質の低下、心臓の拡張、心臓の肥大、不整脈、女性での生理不順や無月経、貧血(sports anemia、スポーツ貧血)、二次性多血症」の可能性があり「健康的な行為とは言い難い」のです(田中喜代次、中田由夫, 2017)。

 

また、体重を下げながら代謝を上げることは、日常生活を普通に続けながら行うことはできません。仕事・学業を棚上げにして、極端な食生活と非常に過酷なトレーニングだけで毎日が終わることになります。まさに非現実的な目標なのです。

 

 

ダイエットによって脂肪細胞数が増える

 

さらには、ダイエットして体重減少して、リバウンドして体重が元に戻るたびに、脂肪細胞の数が増えてしまう可能性が指摘されています(Maclean, Bergouignan, Cornier & Jackman, 2011; MacLean, Higgins, Giles, Sherk & Jackman, 2015; 黒田雅士, 中川香澄, 阪上浩, 2016)。

 

脂肪組織は余剰のエネルギーを中性脂肪のかたちで細胞内部に蓄積します。そして、必要に応じて貯蔵している中性脂肪を分解、遊離脂肪酸として細胞外に放出することで、他の臓器にエネルギー供給を行います。そのため、ダイエットなどによって摂取カロリーが、身体が必要とするカロリーを下回り体重減少が始まると、脂肪組織は中性脂肪を放出して、細胞の大きさが小さくなっていきます。しかし、小さくなるだけで、細胞数は減らないため、身体が貯蔵できる最大中性脂肪量は変わらないままなのです。

 

そして生理的に生ずる(正常な身体の反応として湧いてくる)飢餓感に抗しきれず、ふたたび通常に摂取するようになると、脂肪組織が中性脂肪を貯蔵し、1つ1つの細胞が大きくなるだけではなく、新規脂肪組織が形成・増殖し(脂肪細胞の総数が増える)、結果として、貯蔵できる最大中性脂肪量が増加してしまう可能性が指摘されています(Maclean, Bergouignan, Cornier & Jackman, 2011; MacLean, Higgins, Giles, Sherk & Jackman, 2015)。【次ページにつづく】

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.268 

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