痩せると病気になって早く死ぬという自然の摂理――最新の医学データが示すダイエットの真実(3)

【シノドスに参加しよう!】

▶メールマガジン「αシノドス」

 https://synodos.jp/a-synodos

▶セミナー「シノドス・サークル」

 https://synodos.jp/article/20937

▶ファンクラブ「シノドス・ソーシャル」

 https://camp-fire.jp/projects/view/14015

アカゲザルが示してくれた、若年からのカロリー制限の危険性

 

カロリー制限(食べたいだけ食べさせないことです。ダイエットは減量しようとする努力で、実際に減量できたかどうか無関係です。実験的に、強制的に実験動物に与える食餌を制限してしまったことです)は、年齢上昇とともに生ずる種々の障害を遅らせる効果、アンチエイジング効果があるとされていました。現実に、ハエ、ミジンコ、魚、マウスといった寿命の短い生物では、カロリー制限の結果、寿命が長くなるという研究結果が一致していました(Ingram, et al, 1990)。

 

一方、寿命がずっと長い人類ではどうなのか、疑問が残っていました。そこで、カロリー制限のアンチエイジング効果を証明しようと、寿命という観点から、人類とげっ歯類の中間に位置する霊長類のアカゲザルを対象に実験が行われました。アカゲザルの寿命の中央値は26年です。日本人の寿命の中央値は80歳を超えていますので、正確には中間ではないかもしれません。この研究は米国の2つの研究機関が独立して実施しました(これは科学的研究でよく使われる言い回しで、それぞれが協議せずに実験を行うことで、だれがやっても同じ結果になるかどうかという視点で科学的に重要なのです)。

 

1987年から米国の国立加齢研究所(National Institute on Aging)、1989年からウィスコンシン大学(University of Wisconsin)で、アカゲザルに好きなだけ食べさせる群と、低栄養にならないように十分に注意しつつ、それよりもカロリーを3割減らした餌を与える群(カロリー制限群)に分け、種々の生活習慣病が発症するかどうか、最終的には生存率を比較しました。その結果、ウィスコンシン大学ではカロリー制限群の生存率が高く、長寿であったのに、国立加齢研究所ではカロリー制限の効果が認められませんでした。

 

長寿、アンチエイジングを研究する研究者の間で議論となっていました。じつはカロリー制限開始年齢が大きなポイントだったのです。図8には雌群だけを示しましたが、両研究を付き合わせて検討すると、カロリー制限開始の年齢に違いがあり、ウィスコンシン大学ではカロリー制限開始年齢が7~15歳(猿の大人の年齢)なのに対し、国立加齢研究所は1~23歳と幅広かったのです。

 

そこで、2015年までの国立加齢研究所のデータ(開始後28年程度)を、実験開始時年齢によって若年開始群(1~14歳)と中高年開始群(16~23歳)に分けて解析すると、中高年で始めた場合は長寿効果がみられ、研究期間のどの時点でも対照群の死亡率はカロリー制限中高年開始群の約2倍で、中高年からのカロリー制限は長寿効果がありました(図8の一番下のグラフです)。

 

一方で、国立加齢研究所のカロリー制限若年開始群では、寿命が延びる効果が認められなかっただけではなく、80%の死病率には、対照群よりカロリー制限若年開始群の方が早く到達し、統計学的有意に達していないものの、雌群ではより明確でした(図8は雌群のみ)(Mattison, et al, 2017)。若年から栄養失調にならない程度のカロリー制限を続けると寿命が短くなるという、アンチエイジングと正反対の結果となってしまったのです。

 

アカゲザルの寿命は長く、寿命の中央値が26年で、希に40歳に達することがあると言います。ですので、この30年に及ぶ研究でも、若年開始群の38%がまだ生存しており、結論には達していません。アカゲザルは寿命という観点でマウスと人類の中間に位置し、より寿命の長い人類でも、中高年で食べられるだけ食べるのが良くないのは当然ですが、若年からカロリー制限(食べたいだけ食べるのから3割減)を始めることは、寿命を縮める影響がアカゲザルより大きい可能性があります(Mattison et al, 2017)。よく考えれば当然のことです。

 

それでも見た目重視で、あなたは不健康なダイエット、無理な減量をするのでしょうか。次回以降、不健康なダイエットの広がりを紹介します。

 

図8. ウィスコンシン大学と米国の国立加齢研究所アカゲザルカロリー制限実験の長寿に対する効果(雌群のみを紹介)(Mattison JA et al. 2017を改編)

 

 

文献

 

・Afzal, S., Tybjaerg-Hansen, A., Jensen, G. B. & Nordestgaard, B. G. (2016) Change in Body Mass Index Associated With Lowest Mortality in Denmark, 1976-2013. JAMA, 315, 1989-1996.

・Barker, D. J. & Osmond, C. (1986) Infant mortality, childhood nutrition, and ischaemic heart disease in England and Wales. Lancet, 1, 1077-1081.

・Barker, D. J., Winter, P. D., Osmond, C., Margetts, B. & Simmonds, S. J. (1989) Weight in infancy and death from ischaemic heart disease. Lancet, 2, 577-580.

・Canadian Paediatric Society (2004) Dieting in adolescence. Paediatr Child Health, 9, 487-503.

・Eriksson, J. (2001) Commentary: Early ‘catch-up’ growth is good for later health. International Journal of Epidemiology, 30, 1330-1331.

・Flegal, K. M., Graubard, B. I., Williamson, D. F. & Gail, M. H. (2005) Excess deaths associated with underweight, overweight, and obesity. JAMA, 293, 1861-1867.

・Gluckman, P. D. & Hanson, M. A. (2004) Living with the past: evolution, development, and patterns of disease. Science, 305, 1733-1736.

・Gu, D., He, J., Duan, X., Reynolds, K., Wu, X., Chen, J., et al (2006) Body weight and mortality among men and women in China. JAMA, 295, 776-783.

・Han, Z., Mulla, S., Beyene, J., Liao, G., McDonald, S. D. & Knowledge Synthesis, G. (2011) Maternal underweight and the risk of preterm birth and low birth weight: a systematic review and meta-analyses. International Journal of Epidemiology, 40, 65-101.

・Harrison, G. G. (1985) Height-weight tables. Annals of Internal Medicine, 103, 989-994.

・Iketani, T., Kiriike, N., Stein, M. B., Nagao, K., Nagata, T., Minamikawa, N., et al (2003) Effect of menatetrenone (vitamin K2) treatment on bone loss in patients with anorexia nervosa. Psychiatry Research, 117, 259-269.

・Ingram, D. K., Cutler, R. G., Weindruch, R., Renquist, D. M., Knapka, J. J., April, M., et al (1990) Dietary restriction and aging: the initiation of a primate study. Journal of Gerontology, 45, B148-163.

・伊東宏 (2015) 子宮内膜環境と将来のメタボリック症候群 DOHaDの観点から 妊婦のエネルギー摂取不足と児が将来脂肪肝を発症するリスクの関わりについて. 日本内分泌学会雑誌, 91, 176.

・河原田洋次郎, 永田利彦, 切池信夫, 池谷俊哉, 田中秀樹 & 山上榮 (2000) 神経性食思不振症経過中に骨折を起こした3症例. 精神医学, 42, 847-850.

・健康局健康課栄養指導室栄養調査係 (2016) 平成27年国民健康・栄養調査: 厚生労働省,.

・Keys, A., Fidanza, F., Karvonen, M. J., Kimura, N. & Taylor, H. L. (1972) Indices of relative weight and obesity. Journal of Chronic Diseases, 25, 329-343.

・Kubota, K., Itoh, H., Tasaka, M., Naito, H., Fukuoka, Y., Muramatsu Kato, K., et al (2013) Changes of maternal dietary intake, bodyweight and fetal growth throughout pregnancy in pregnant Japanese women. Journal of Obstetrics and Gynaecology Research, 39, 1383-1390.

・丸山史, 内海厚, 吉沢正彦 & 本郷道夫 (2000) 摂食障害患者と無月経 BMIを指標とした予後調査より. 思春期学, 18, 177-181.

・Mattison, J. A., Colman, R. J., Beasley, T. M., Allison, D. B., Kemnitz, J. W., Roth, G. S., et al (2017) Caloric restriction improves health and survival of rhesus monkeys. Nature Communications, 8, 14063.

・Nagata, T., Saito, M., Kawarada, Y. & Kiriike, N. (2003) A case of childhood onset anorexia nervosa developing femoral neck fracture and osteoporosis. Jpn J Child Adolesc Psychiatr, 44 (Supplement), 94-100.

・永田利彦 & 切池信夫 (1998) 米国における摂食障害患者の治療の現況:COPE病棟(ピッツバーグ大学摂食障害専門病棟)での重症患者の治療経験から. 精神医学, 40, 781-785.

・永田利彦, 山下達久, 山田恒, 水原祐起, 水田一郎, 野間俊一, 田中聡, 崔炯仁, 和田良久, 岡本百合, 鈴木眞理 & 宮岡等 (2018) 無視されてきたダイエットと痩せすぎの危険性 -痩せすぎモデル禁止法に向けて-. 精神神経学雑誌, 120, 741-751.

・Sasazuki, S., Inoue, M., Tsuji, I., Sugawara, Y., Tamakoshi, A., Matsuo, K., et al (2011) Body Mass Index and Mortality From All Causes and Major Causes in Japanese: Results of a Pooled Analysis of 7 Large-Scale Cohort Studies. Journal of Epidemiology, 21, 417-430.

・瀧本秀美, 吉池信男 & 加藤則子 (2010) 【胎生期環境と生活習慣病】 わが国における低出生体重児の増加とその要因 母子保健統計を用いた検討. 医学のあゆみ, 235, 817-821.

・Wardle, J., Haase, A. M. & Steptoe, A. (2006) Body image and weight control in young adults: international comparisons in university students from 22 countries. International Journal of Obesity, 30, 644-651.

・Weaver, C. M., Gordon, C. M., Janz, K. F., Kalkwarf, H. J., Lappe, J. M., Lewis, R., et al (2016) The National Osteoporosis Foundation’s position statement on peak bone mass development and lifestyle factors: a systematic review and implementation recommendations. Osteoporosis International, 27, 1281-1386.

・World Health Organization (1995) Physical status: the use and interpretation of anthropometry.  Report of a WHO Expert Committee (Technical Report Series No. 854). Geneva: World Health Organization,.

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.265 

・大賀祐樹「こんな「リベラル」が日本にいてくれたらいいのに」
・結城康博「こうすれば介護人材不足は解決する」
・松浦直毅「アフリカ」
・山岸倫子「困窮者を支援するという仕事」
・出井康博「「留学生ビジネス」の実態――“オールジャパン”で密かに進む「人身売買」」
・穂鷹知美「ヨーロッパのシェアリングエコノミー――モビリティと地域社会に浸透するシェアリング」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(9)――「シンクタンク2005年・日本」第一安倍政権崩壊後」