データに騙されないための3つの方法――「社会実情データ図録」管理人に聞く

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見たいものを見てしまう

 

飯田 長期にわたって人気の記事ってありますか?

 

本川 「ロシア人の平均寿命の推移グラフ」は長いことアクセスされて、よく引用されますね。

 

 

 

 

これは、チェルノブイリ原子力発電所事故の影響で、平均寿命が短くなっていると誤解とともに引用されることが多い。そうじゃないという解説をちゃんとグラフの下に書いているんですけどね。そもそも社会経済的なデータで、放射能の影響を簡単に示すことができるはずないんだけど、なんでかなあ。

 

飯田 そもそもどれだけロシアが広大だと思っているでしょうね。

 

本川 そうなんだよね。原発事故が原因ならロシアよりベラルーシのほうが影響があるはずなのにそうはみられないとか書いているんですけどね。

 

別に間違ったデータを載せているつもりはないので、誤解されるから撤回するというわけにもいきませんし、まあちゃんと読んでくれる人もいるので、このページがなかったらもっと酷いことになっていたのかもしれないと思って自分を慰めていますよ。

 

飯田 解説があるにもかかわらず、どうして誤解されてしまうんでしょう。

 

本川 やっぱり「みたいものをみる」という人間の性が出ちゃうんでしょうね。

 

飯田 ある程度訓練された研究者ですら、自信のある仮説を胸に秘めている場合、それっぽいデータを見つけると飛びついちゃうことがありますからね。シノドスでは『もう騙されないための「科学」講義』(光文社)という新書を出していますが、その中に「テレビの普及率」と「平均寿命(女性)」が綺麗に相関している図が載せられています。もちろんここまで馬鹿馬鹿しい関係ならば普通はその無意味さに気づくでしょう。しかし、それでもなお「テレビの電磁波か何かが寿命を延ばしている!?」と解釈する人はいるみたいなんです。

 

本川 簡単な分析をするだけでも、その相関が信用に値するかどうかは調べられるものなんですけどねえ。

 

 

photo

 

 

データはデータ、解釈はそれぞれ

 

飯田 専門家か趣味でデータをいじっている方でもない限り、いちいち分析をするというのも難しいですよね。ちなみに、意図とは違う捉えられ方をしてしまうグラフに共通点ってありますか?

 

本川 世間の常識と反するようなものは批判がきますねえ。

 

「日本人は働きすぎだからストレスが溜まって過労死している」という単純な理屈が通用していますが、OECDのデータを見てみると、日本人は、ストレスを強く感じている人と、あまり感じていない人の両方が多くて、平均的にみると大してストレスを感じていないんですね。これは途上国全般で見られる傾向でした。

 

 

「仕事のストレスの国際比較」

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3274.html

 

「日本は仕事のストレスの多い国か」

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3276.html

 

 

でもそういう風に書いたら「日本人がストレスを感じていないなんて嘘だ! これは道徳的に承認できないデータであり、撤回すべきだ。過労死で死んだ人の時系列変化をグラフに差し替えなさい」というメールが届きました。確かに日本が長時間労働であることはデータからはっきり見てとれますが、だからといってそれが「ストレスが多い」というわけではありませんよね。

 

飯田 提示されたデータには、政治的な意図が含まれていて当然だと考える人は結構いるみたいですね。遺伝を研究している方が「人間の能力のうち、遺伝が支配している部分が○割です」と書いたら、やはり批判されてしまったそうです。でも、「遺伝がすべてを決める」なんて書いていませんし、そもそも遺伝要素がまったくないなんて思ってる人ってほとんどいないでしょう。データはデータ、解釈は人それぞれということはなかなかわかってもらえていない。

 

 

日本のジャーナリズムは民間療法的?

 

本川 それこそ「日本は貧困国である」なんて到底考えられないようなものを信じている人がいますよね。数ある貧困度に関する指標の中で、海外に比べて高く出ているのは相対的貧困率くらいのものですよ。相対的貧困率自体、いろいろと複雑な計算をしていて、中には説得力のないものもある。もちろんそれなりの整合性があるんですけど、どうしても癖がでてしまいますからね。

 

飯田 しかも高齢化要因がでかいですよね。

 

本川 そうそう。ぼくは高齢化要因と年功序列型要因が効いているんだと思っています。

 

それこそ一昔前にメディアがこぞって取り上げていた「一億総中流化」なんてすっかり忘れ去られていますよね。あの話は、内閣府の世論調査がもとになっています。ざっくばらんにいえば、生活の程度を上中下で聞いているわけですけど、「下」と答えている人が増えているわけではありません。でもそういう話は取り上げられませんよね。もちろん貧困問題は取り組まないといけないものだと思いますよ。だからといってデータに反した取り上げ方はよろしくない。

 

飯田 ご著書にもお書きになられていましたが、社会改良運動をされている方は、自分が取り組んでいる問題を特殊に大切なものだという思いを強くしすぎてしまっているのかもしれませんね。貧困問題は昔も今も変わらずあるもので、そして変わらず改善の必要がある――というよりも悪化しているから対策しなければいけないという方が通りが良い。

 

本川 日本のジャーナリズムをみていると、どうも近代医学的というよりは、漢方医学的、あるいは民間療法的なんじゃないかと思うようになっています。真実を見極めることよりも、結果がよくなることが重要だと思っている節がある。国民が道徳心を堅持していれば、結果として社会が良くなる、みたいな……。

 

飯田 民間療法を通り越して占いや呪術の領域ですね(笑)。

 

ぼくが経済学出身だから感じるのかもしれませんが、メディアでの社会問題議論においてもデータやモデルはあまり参照されません。そして論理的な理屈よりも、ふんわりした感覚みたいなもののほうが受けがいいように見えてしまいます。

 

本川 仮説と実証という考え方が薄いですよね。これは儒教の影響なのではないかと考えています。もちろん、台湾や韓国といった国をちゃんと調べないといけませんが、大きなくくりで話をすることから逸脱できていない節があるように感じる。

 

韓国ドラマをみてると、官僚が王様に「ペーハー!(陛下)」って頭を下げているんですけど、「ああ、道徳的な感覚で政策を決定しているんだなあ」って思っちゃうんですよね。とはいえ、韓国を笑えるわけじゃなくて、日本もいまだにそんな気がしてきて心配になる(笑)。

 

飯田 悪い政治家が打ち出した政策は悪い結果が、良い政治家が行った政策は良い結果がでるみたいな信仰があるのも問題です。論理がいつの間にか道徳の問題にすり替わってしまっている。ここなんかが本川さんの儒教仮説にも近いかな。めっちゃくちゃ悪い人間が、悪意を持ってやった政策が、結果として国民を豊かにすることもあるとぼくは思うんです(笑)。少なくとも悪い結果をもたらした政策には、悪い意図があるんだと考えるのは違うでしょう。

 

本川 ええ、道徳的な観点を否定するつもりはありませんが、それとは別にしっかりデータをみるというのは重要なことです。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.264 

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