データに騙されないための3つの方法――「社会実情データ図録」管理人に聞く

シンプルでわかりやすいことは大事

 

本川 このデータだけで学問的な議論はできないと思いますが、ただ見ているだけでも、いろいろとイメージはわいてくる。こうした調査は今後も繰り返し行われていきますから、何回もグラフにして眺めていけば、次第に真実のようなものは見えてくるんじゃないかとぼくは思っています。

 

飯田 ええ、アカデミックな論文だと、パーフェクトなデータで、サンプル数は多ければ多いほど良くて、有意であることが好ましいと思われがちですけど、似通った調査を眺めるだけでも、だいたいの傾向を掴めるし、その繰り返しによって徐々に傾向性をつかんでいく方が有用なことは多々あると思います。

 

本川 決めうちで大規模な調査をして真実を明らかにするなんて大それたことを考えないで、ちょっとずつ積み重ねて真実に近づいていけばいいんですよ。

 

あとはね、いろいろなデータを集めてひとつの総合指数になっているものがあるじゃないですか、あれは判別しにくいですよね。10個も20個もデータを使っていると、なにを言っているのかよくわからないんですよ。せめて3個くらいにしてほしい。ぼくのサイトではなるべく取り上げないようにしています。

 

飯田 最近、factor augmentedといって、マクロの時系列データを200個使った指数を作って、景気の代理変数にすることが流行っているんですよ。要は主成分分析です。しかし、ここまで加工してしまうと確かに何を言ってるのかわからなくなっていく(笑)。なんかすごいことやっているっぽいんですけど。普段からデータに触れていない人にとっても、シンプルでわかりやすいことって大事だと思います。

 

 

コンドームを使う日本は優れている?

 

本川 10年間サイトを運営してきてときどき空疎な気持ちにもなるんだよね。真実を求めているつもりなんだけど、揚げ足取りをしているだけの気もしてくる。みんな社会を良くしようと頑張っているわけで、批判して喜ぶだけなのはよくないじゃないですか。もちろんおかしい部分があったら言わないといけないけど、前向きな批判を持続的にやっていくにはどうすればいいんだろうと考えることが増えました。

 

飯田 揚げ足どりが趣味みたいな人たちのことはさておき、間違いを指摘されるとありがたいことって結構ありますよ。それこそツイッターで指摘されたときは「あーテレビでいわなくてよかった、雑誌で書かなくて良かった……」と思います(笑)。ちょこちょこ間違いを指摘してもらって、訂正していると「あぁ飯田はこういうのに耳を貸すタチなんだな」という認識が広がって、皆さん優しく指摘してくれるようになります。

 

本川 そうですねえ。「この解説はおかしいんじゃない?」ってメールはときどき来ますが、やっぱり助かるんですよ。前に、世界の避妊法を図録したときがまさにそれでした。

 

 

 

 

ご覧いただけばわかるように、各国でぜんぜん違うんですけど、ドイツはピルが圧倒的に多いですね。日本だとコンドームです。ということで、コンドームは避妊だけでなく感染症予防にもなるので、ピルよりも優れていて、日本は素晴らしいみたいなことを書いたら、ドイツに住む日本人女性の方から「ドイツはコンドームを感染症防止のために使っているんですよ」とメールをいただきまして。

 

飯田 ああ、なるほど! コンドームの位置づけが違うわけですね。

 

本川 避妊法について聞かれたからピルと答えているだけで、感染症予防としてはコンドームをしっかり使っているらしいんですね。これは指摘されて助かりましたよ。

 

飯田 元のデータを見てもわからないことですよね。意味ある指摘の例だと思います。

 

本川 勝手に日本の方が優れているなんて言っちゃ駄目なんだね(笑)。

 

 

データに騙されないために(上級編)「調査票を見よ」

 

飯田 データって、ただ数字を眺めているだけで面白い人と、意味が見いだせないと面白くない人がいるんだと思います。ぼくはデータをなんとなく眺めているのが好きなタイプなので、もっとデータの面白さをみんなに知って欲しいと思うんですね。

 

ネットのおかげでデータを調べることは簡単になりました。それこそ口癖のように「ソースは?」と言うようにもなってきている(笑)。それにどれだけの意味があるのかはさておき、恣意的なグラフが載せられている記事や出典がよくわからないデータを調べるきっかけにはなる。

 

ただ、そもそもデータやグラフの見方がよくわからないという方は少なくないと思いますし、データを見るという発想のない人もいると思います。データに敏感になるためにはどうすればいいのか、そして怪しい記事やデータに騙されないためにどうすればいいのか。「ソースは?」と聞かれたときに、引用されることの多いであろうサイトを運営されている本川さんのお考えをお聞かせいただきたいです。

 

本川 まず信頼できるデータということであれば、やっぱり省庁が収集しているものはそれなりに信頼できると思います。すべてのデータを比較的ニュートラルに発表しているという意味で、省庁のデータは民間調査期間より優れている。ただ、収集したものをメディアに発表する際の資料が都合よく作られている傾向があるので、無条件に信じるのではなくて、元のデータには当たったほうがいい。最近だと新聞記者も各省庁の発表をそのまま載せてしまうので……。あとは調査票を見るといいですよね。

 

飯田 僕が院生の時にアルバイトしていた省庁で、記者レクチャー資料のタイポ(元データからの転載ミス)がそのまま新聞に載ってしまったことがあります。それもほぼ全紙。ほとんど元データみてないんだなあと。

 

本川 一方で,昔と比べてデータに直にアクセスできるようになったぶん、調査票を見る人が減りましたよね。昔だったらわざわざ図書館にいって、統計書を調べなくちゃいけなかった。冊子でデータを見ると冒頭に調査方法とか重要なことがきちんと書いてあって、最後には調査票が付けられていたので、調査票をみる習慣がついたんですよ。ネットにも調査票はアップされていますけど、いろんなところをクリックしてようやく見つかるので……。

 

飯田 わかりにくいですよねえ(笑)。

 

本川 調査票に始まり調査票に終わるくらいのところがあります。調査票自体は1、2枚程度ですから、別にむずかしいものじゃない。集計されたデータを見る前に、調査票を見ておけば、どこにどんなデータがあるかもわかります。それを活用する手はないでしょう。

 

飯田 新聞記者や、特に関心の強い社会問題のある人は、関係のある調査については調査票を読むと見通しがよくなるかもしれない。まあでもこれは上級者向けですね、難易度が高いような気がします(笑)。

 

 

データに騙されないために(中級・初級編)「まずは調べよ」

 

飯田 中級・初級編として、ネットやメディアで流布している怪しい話を解毒するためにデータを活用するとしたらどうすればいいでしょう?

 

本川 まともなメディアなら、ちゃんとデータの出所が明らかになっているので、まずはそれを検索するといいよね。

 

余談だけど、ちょっと前にNHKのクローズアップ現代で男女の幸福度について特集を組んでいたので見ていたら、ひたすら男性の幸福度が低いって話をしているんですよね。女性の幸福度が高いだけなのかもしれないのに、それをおくびにも出さないで、悲惨な男たちを強調していてさ、まいっちゃったよ(笑)。

 

飯田 疲れて帰ってきたお父さんたちが見ているからかもしれませんね(笑)。

 

本川 過去の経緯でいえば、男だって幸福度はあがっているんですよ。ただ女性の方が伸びがいいってだけなんです。

 

 

「図録幸福度の男女差(推移と国際比較)」

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2472.html

 

 

クローズアップ現代がデータを使っているのか気になって調べてみたら、「平成26年度版男女共同参画白書」だった。これいろいろみていると結構面白いんだよね。そういう意味でも、出所が記載されていたら調べてみるといい。

 

ジャーナリズムは、いろいろと解釈をして、それぞれ癖のある見せ方をするから、正しいとは限りません。だって、ローラさんみたいに「おっけー!」とか言っている幸せそうな女性だけ集めてもなかなか番組として成り立たないよね(笑)。

 

飯田 生のデータでなくても、グラフになってまとめられていれば、横軸と縦軸の単位が違っているとか、番組では棒グラフだったものが線グラフになっているとか、印象がぜんぜん違う場合だってありますよね。

 

データを見たことがない人は見る癖をつけてもらう。ただ見ているだけの人は、出典にあたり、グラフを見比べてみる。そして上級者は、さらに踏み込んで調査票を見てみるといい、ということですね。

 

本川 そうですね。データを見るのはそんな難しいことじゃないと思うんですよ。ちょっとしたコツが身につけば、感覚的にわかるようになる。あとはまあ、私の本を読んで欲しいですね(笑)。

 

 

データサイト募集中

 

飯田 10年間、データを使ったサイトを運営されてきて、後進のためにもいま本川さんがお思いになっていることをお聞かせください。

 

本川 「社会実情データ図録」のようなサイトはもっとたくさんあってもいいんじゃないですかね。同じデータを使っているのに解釈の違うサイトが複数あれば、見比べることもできるじゃないですか。ぼくも刺激になって楽しいですし。

 

飯田 パッと思い浮かぶのは、「ガベージニュース」というサイトです。このサイトはもう少しニュースサイトよりですが、見ていて結構楽しいです。

 

データを扱うサイトが複数あれば、「ああ、どのサイトも同じような解釈をしているから信じていいのかもしれない」とか、「どのサイトも別々のことを書いているし、確たることは言えないんだろうな」とか、比較することができるからいいですね。

 

本川 それこそNHKのようなでかいところが、データを使ったサイトを運営してくれたらいいんだけど、まあそれはそれで、どのデータをどうやって使うかを決めるためにいちいち会議を開いて、うだうだやることになるのは目に見えていますからね(笑)。

 

ぼくはとりあえず個人サイトですし、これからも自分のペースで面白そうなデータをグラフにしていこうと思っていますよ。

 

飯田 いち愛読者としてこれからも拝見させていただきます。今日はありがとうございました。

 

 

 

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vol.2019.4.15 

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