再エネが入らないのは誰のせい?――接続保留問題の重層的構造

変動する電源をマネジメントする「柔軟性」という概念

 

それでは、「接続可能量」なしに変動する再生可能エネルギー電源を大量に受け入れるための技術的解決方法とはどのようなものでしょうか? そのキイワードは「柔軟性 flexibility」です。電力系統の柔軟性とは変動電源の変動成分をコントロールするための系統構成要素であり、国際エネルギー機関 (IEA) によると、

 

(1)制御可能な発電所(水力発電や火力発電)

(2)エネルギー貯蔵装置(主に揚水発電)

(3)連系線(隣の国や会社との電力融通)

(4)デマンドレスポンス(需要側のインテリジェントな制御)

 

の4つに分類されます。ここで重要なのは、太陽光や風力などの変動する電源をバックアップするのは必ずしも火力発電だけではない、ということです。我が国では「風力や太陽光が増えるとその調整のために火力が増え、却ってCO2が増える」という誤解も根強いですが、変動する再エネ電源を調整するためには水力発電や揚水発電、連系線の利用など、本来さまざまなメニューが用意されているのです。そもそも、電力の安定供給を維持しながら再エネの大量導入を実現させるための方法として、このようなさまざまな選択肢があること自体、日本ではまだ十分認識されていないのかもしれません。

 

例えばポルトガルでは豊富な水資源を利用して水力および揚水発電を積極的に使っています。デンマークでは国際連系線を積極活用しているだけでなく、分散型のコジェネも調整用電源として参加しています。スペインでは再エネの出力予測技術が発達し、系統運用に直接組み込まれています。再エネの予測は短いスパンであるほど精度が上がるので、実供給3〜4時間前でも再エネ事業者が入札できる短時間市場も欧州では整備されつつあります。本来、再エネの導入には適切な電力市場設計が必要なのですが、この議論は現在の日本ではほとんど聞こえてきません。

 

以上のように、再エネの変動をマネジメントするための手段にはかなりのメニューが揃っており、その国や地域の特性にあった方法でみなそれぞれそれなりにうまくやっている、というのが世界の現状です。このような柔軟性の研究は、欧州と北米を中心に盛んに議論されていますが、日本はまだまだこれからのようです(このあたりの詳細に興味のある方は拙著「日本の知らない風力発電の実力」(オーム社)をお読み下さい)。

 

 

大事なことは、コストが安いものから使っていくこと

 

上記のように、さまざまな手段で電力系統の柔軟性を増やしていけばもっともっと再エネを導入することが可能ですが、ここで忘れてはならないのは、取り得る手段の中で「コストが安いものから使っていく」という発想です。

 

日本では再エネ電源の変動抑制のためにすぐ「蓄電池」と言う意見も多いようですが、これは本当に合理的なことでしょうか? 蓄電池は確かに便利なものですが、大容量のものは依然としてコストが高いということは十分留意すべきです。低コスト化のための技術開発に研究予算を投じるのであれば理解できますが、コストが高いまま補助金などで大量に市場に投入すると、見かけ上の再エネの発電コストを押し上げることになり、国民負担を無駄に増大させることになりかねません。

 

欧州や北米など海外では、再エネ電源のための専用蓄電池は「経済的合理性がない」と一蹴されています。電池が高いというだけでなく、個別の発電所の変動を抑制するための特別な装置はそもそも不要と考えられているからです。電力系統に悪影響を及ぼす数秒〜数分のタイムスケールの変動は広範囲に分散した再エネ電源の出力を「集合化」することにより十分問題ないレベルまで平滑化されることが欧米の経験から既に明らかになっています[*4]。

 

[*4] この点に関しては、下記の入門書および専門書を参照下さい。

・安田:「日本の知らない風力発電の実力」, オーム社, 2013

・T. アッカーマン:「風力発電導入のための電力系統工学」, オーム社, 2013

 

もちろん、海外でも電力用蓄電池ビジネスは萌芽的ながらも隆興しています。それは、電力市場が整備された国や地域でスポット価格が安い時間帯に蓄電して高い時間帯に売電する裁定取引をしたり、アンシラリー市場やリアルタイム市場で瞬間的に必要な電力を高値で売ったりするビジネスモデルです。しかしこれらの市場は現在の日本では十分発達していません。そのような世界情勢を全く無視して、狭い島国だけでしか通用しない技術や方式を高コストなまま市場投入して、国民に何のメリットがあるでしょうか? この点も国民レベルでよくよく議論する必要があります。

 

同様に、連系線の建設も長期計画として今から考えるべきですが、コストをかけて「新しいモノを作る」前にやらなければならないのは、まず手持ちの材料で「しくみを変える」ことです。長期的将来構想と短期的対処療法は分けて考えなければいけません。

 

 

再エネ大量導入のためにすぐできること

 

では、現在直面している接続保留問題の短期的対処方法には何があるでしょうか? 筆者は (1) 再エネの出力抑制、(2) 既存連系線の活用、(3) 既存揚水発電の活用、を挙げたいと思います。経産省系統WGでもこのうちいくつかの方策が検討されているようです。

 

例えば、既存の連系線の利用を高めることは有効です。現在、日本の電力会社間の連系線は原則として前日までに30分ごとに決まった値に整形した電力を送ることを通告しなければならず、通告値から大きくずれるとペナルティ(変更賦課金)を払わなければならないというルールがあります。また、「先着優先」であるため一週間前から利用計画が提出できる従来型電源ほど有利で、これらのルールは変動する再エネの電力を他の地域に送るには極めて不利になっています。欧州では、国際連系線の利用枠は市場メカニズムによって決まるシステムに変わりつつあり、再エネの大量導入に適した設計にとなっています。これらの問題は電力系統の広域運用に直結することもあり、早急に改善しなければならない問題の一つです。

 

既存の揚水発電もより積極的に利用すべきです。揚水発電は余剰電力のエネルギー貯蔵という側面だけでなく、即応性が高い優秀な調整力という機能も持ちます。揚水の利用拡大にあたっての課題は、この2つの機能の両立をどう最適化するかです。従来は夜間の余剰電力で水を汲み上げ昼のピーク時に発電していましたが、これからは昼間の余った太陽光発電で揚水するパターンもあり、より複雑な運用方法を編み出す必要があります。なによりも揚水発電の損失は30%以上あり、よほどうまく使わないと却って無駄になってしまう可能性もあることも留意すべきです。このためには社会コストも考えた最適運用も検討しなければならず、電力系統の運用コンセプト全体を根本的に変更する必要がありそうです。

 

最後に、今回の状況に対して最も即効性があり、他の手段に比べ(おそらく)最もコスト効率よく実現できるのは太陽光発電の「出力抑制」です。つまり単純に、太陽が照り過ぎて需要を超えるほどの発電が行われそうになった場合、出力を抑えて本来発電できるエネルギーを少し捨てることです。これには技術的に解決不能な障壁は全くありません。現に、九州電力の説明資料によると、無補償の出力抑制などの条件を満たす場合は保留期間中でも個別協議に応ずる、とあります。しかし、今回の件ではこの対応に関しても苦情や苦言が多いようです。コスト効率よく技術的に実現容易で即効性がある方法なのになぜでしょうか? その疑問を解く鍵は、「透明性」の問題にありそうです。この透明性の問題は、次々回で詳しく議論することにします。

 

次回は、2番目の要因である「接続料金問題」について詳しく紹介します。今回の接続可能量問題では電力会社側に耳の痛いことを申し上げましたが、次回の接続料金問題では太陽光発電事業者側にも苦言を呈することになります。

 

オリジナル掲載:Energy Democracy, 再エネが入らないのは誰のせい?:接続保留問題の重層的構造(2014年11月28日掲載)

 

サムネイル「Moon Rise behind the San Gorgonio Pass Wind Farm」Chuck Coker

https://flic.kr/p/5RxPq8

 

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