再エネが入らないのは誰のせい?――接続保留問題の重層的構造(その2)

前回に引き続き、接続保留問題について分析します。前回示した論点、(1) 接続可能量問題、 (2) 接続料金問題、 (3) 透明性の問題のうち、今回は2番目の接続料金問題について詳しく見ていきたいと思います。

 

前回取り上げた (1) の接続可能量問題は、電力会社管内全体でこれ以上再エネが入るかどうかの問題でした。一方、(2) の接続料金問題は、新規電源を電力系統に接続する際に、変電所やその付近の系統増強費を誰が直接的に負担するかというローカルな問題です。この接続料金問題、実は、9月24日の九州電力の発表に端を発した接続保留問題の前から、すでに散発的に発生していました。

 

 

系統増強費の請求は接続拒否?

 

ある再エネ(太陽光発電の場合が多い)事業者が電力系統に接続するために電力会社に問い合わせた際、簡易検討では何も言われなかったにも関わらず、その数ヶ月後の正式アクセス検討の段階で突然、高額の系統増強費を請求されたり、長期の工事期間が必要であることが判明したケースがあります。このようなケースは今回の「接続保留」が大ニュースになる前から話題になっており、系統増強費の請求や長期工事を以て「接続拒否をされた!」「事実上の接続拒否である」という表現が(特にメディアの記事で)散見されていました。

 

事業規模によっては数億円の系統増強費を請求されると事業を断念せざるを得ないケースもあり、事業者の憤りも理解できないわけではありませんが、厳密に言うと、多くの場合それは電力会社の接続拒否ではありません。実際に系統増強費は発生しますし、それは誰かが払わなければならないからです。そしてこの系統増強費の請求は、そもそもFIT法(正式名称:電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法)第五条で定められている接続拒否とは別ものです。電力会社も法令を犯してまで接続拒否をするリスクはさすがに取らないでしょうし、同時に法令に書いていないことまでボランティアで接続を受け入れることはしません。もちろん、前回述べたように電力会社が改善すべきことも山ほどありますが、系統増強費に関しては、電力会社は現在の法令や制度の範囲内で粛々と進めているだけと見るべきでしょう。

 

このような状況で「接続拒否をされた」というインパクトのある表現をすると、状況の本質を捉えにくくなるばかりか、一般の人々にあらぬ誤解を発生させやすく、問題の解決から却って遠ざかってしまわないかと筆者は危惧しています。この問題は単に「拒否をされた」「されない」の問題ではなく、電力系統全体の最適設計問題や社会コストの分配問題に本質がある、ということを押さえておく必要があります。

 

 

接続料金問題を知らずして問題は語れない

 

接続料金問題とは、再生可能エネルギーなどの新規電源をある地点(具体的にはある変電所)に接続する際に、必要となる系統増強費を誰が支払うか?という問題です。すなわち、ある特定の地点や回線、送配電地域のローカルな問題になります。

 

接続料金体系には大きく分類して、「ディープ」と「シャロー」があります。実はこの議論は、欧州や北米では10年以上前から長く議論されていますが、日本語では文献「欧州での再生可能エネルギー発電設備の系統接続等に伴う費用負担の動向, 電力中央研究所報告 Y081019, 2009」や『風力発電導入のための電力系統工学』などで詳しく論じられているものの、それらの例外を除き文献は非常に少ないのが現状です。省庁の審議会資料などでも散発的に登場するのみで、一般に(再エネ事業者の中でもさえも)あまり広く認識されていないようです。

 

ディープ方式は系統増強費を発電事業者が負担し、シャロー方式は電力系統の運用者(欧州では系統運用者(TSO)、日本では電力会社)が負担します(その中間で、一定のルールに従って案分する「セミシャロー」という方式もあります)。ここで、どの事業者が一時的にそのコストを負担するにしても、最終的にはそれは電力料金やFIT賦課金という形で最終消費者(≒国民)に転嫁される、ということが重要です。つまりコストを直接的に支払うのは誰かではなく、社会コストをどれだけ増やさずに再エネを導入するか、が問題の本質となります。

接続料金体系のメリット・デメリットをまとめたものを表1に示します。ディープ方式は公平性の観点から問題点が多く、シャロー方式の方が再エネ導入を促進する上で有効であることも欧州の経験から明らかになっています(文献[2]を参照のこと)。このため、欧州のほとんどの国はシャロー方式(一部はセミシャロー)に移行しています。日本は、このような世界情勢にも関わらず、ディープ方式を採用しています[*1]。

 

 

表1 新規電源の接続料金体系 文献[1],[2]を参考に筆者まとめ

表1 新規電源の接続料金体系
文献[1],[2]を参考に筆者まとめ

 

[*1] FIT法施行規則(経産省省令・電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法施行規則)第五条に「接続に必要な費用」が定められています。

 

ただしシャロー方式も万能ではなく、問題点が指摘されています。それは新規電源を系統に接続する際に発電事業者は系統増強費を支払う必要がなく、系統運用者も最終消費者に転嫁できるため、系統増強費を抑制するインセンティブが少なくなることです。その結果、空き容量があり系統増強費をかけなくても容易に導入できる地域に再エネがなかなか入らなかったり、他回線に空き容量があるにも関わらずある地域に再エネ電源が集中して系統増強費が無駄に発生してしまう可能性があります。

 

 

日本が採用するディープ方式の利点と欠点

 

一方、ディープ方式の場合、系統に十分な空き容量がある場合は系統増強費は請求されませんが、先着順のため、これ以上接続すると系統増強費がかかることが判明すると、それ以降申し込んだ事業者に系統増強費が請求されます。簡易検討では何も言われなかったのに、正式アクセス検討を申し込んで3ヶ月待たされた挙げ句、突然高額な接続コストを請求された!という状況になるのはこのためです。

 

ディープ方式は、コスト負担の不透明性や不公平感を本質的に伴います。例えば、従来型電源が系統増強費を明示的に支払っていないにも関わらず、新規再エネ電源には転嫁されやすいことも欠点として挙げられます(このことは見かけの再エネ発電コストを押し上げることになります)。また、系統増強費を支払わなければならない事業者は実際に増強されるもの以上の系統増強費を支払っている可能性があり、あとから接続する電源が無料で系統を利用する可能性も出てきます(すなわちフリーライダー問題)。将来行わなければならない系統増強が、どの新規電源に直接的に関連するのかを正確に決定して正確に案分することは困難だからです[*2]。

 

[*2] ちなみに現在、経済産業省の新エネルギー小委員会で議論されている「入札募集方式」は、この不公平性を若干緩和する手段ではありますが、ディープ方式を採用し続ける限り、本質的に不公平性や不透明性を払拭することはできません。

 

このように、ディープ方式には本質的に「ババ抜き」のような不確実性が内在し、投資上のリスクが存在するという欠点があります(そのことは、FIT買取価格を押し上げる要因にもなります)。日本がディープ方式を採用する限り、発電事業者間に不公平感が発生するのは避けて通れません。しかし、ディープ方式のほとんど唯一と言ってもよい取り柄は、発電事業者に系統増強費が請求されるという「価格シグナル」が明示的に発生するという点です。この「価格シグナル」は実は「接続拒否」ではありません。このシグナルの意味するところは、「ここにつなぐと国民負担が増えますよ」「よその空いてるところでやった方がお安いですよ」というメッセージです。このメッセージの意味を取り損なうと、「接続拒否だ!」と一方的に電力会社のせいにする構造となり、新たな誤解と神話が発生することになります。

 

このような「価格シグナル」が発生した場合のベストソリューションとしては、単純に系統増強費がかからない他の場所を探すことです。もちろん、系統増強をしてでもその場所で発電を行う意義があるケースも存在し(風況の良い地域での風力発電や掘削場所が限定される地熱発電など)、その場合は系統増強費を上回る便益が国民にもたらされます。しかし、年間発電電力量の場所依存性が少ない太陽光発電では、系統増強費を発生させてまで敢えてその場所で発電しなければならない理由を国民に合理的に説得することは少々難しそうです。

 

 

太陽光の地域偏在はもはや異常事態

 

以上分析してきたように、高額な系統増強費の請求を以て「いわゆる接続拒否だ!」と言われる問題は、とかく電力会社がやり玉に挙げられる傾向にありますが、現状の法制度がディープ方式となっている以上、必然的に発生する問題だということが明らかになりました。何も電力会社の肩を持つ訳ではありませんが、先に「電力会社は法令の範囲内で粛々と進めているだけ」と述べたのはそのためです。

 

では、国の制度を変え、シャロー方式を採用すれば、万事うまく解決するのでしょうか? ・・・答は、少なくとも現在の日本では、残念ながら「No」です。

 

日本が目下直面している問題は、決して再エネの入り過ぎではなく、再エネの中でも太陽光のみに偏重していること、九州など一部にのみ偏って導入されるなどが問題です(前回図1参照)。このバランスの悪い無秩序な再エネ導入の状況は、もはや「異常事態」だと言えます。筆者は元々日本でも再エネ導入を促進するシャロー方式に変更すべきだという考えを持っていますが、既に一部地域で特に太陽光の異常な偏在が顕在化している日本の現状において、無制限にシャロー方式を進めてしまうことには危惧を抱いています。

 

仮に今の日本ですぐさまシャロー方式を採用した場合、系統増強費は発電事業者に請求されないため「いわゆる接続拒否」は劇的に解消されるでしょう。しかし、その場合「価格シグナル」が明示的に発生しないため、ますます再エネ電源の地域偏在性が無秩序に加速される可能性があります。つまり、同じkWhの再エネを日本に導入するにしても無駄に系統増強費が発生して国民負担を増やしてしまう可能性が非常に高くなってしまうのです。

 

このように、ディープ方式を採用しているにも関わらず特定の地域に再エネが異様に偏って導入されてしまうという世界的に奇異な現象は、一義的には現行の法制度に原因があり、それを早急に是正する必要があります。しかし、法制度に改善すべき問題があるからと言って、市場はその隙をついて野放図になんでもやってよいという訳には行きません。筆者は、今回のような「いわゆる接続拒否」や「接続保留」の問題が発生した根底には、太陽光発電業界の調整力や情報共有の不足にも一因がある、ということをここではっきりと指摘したいと思います。

 

このような主張をすると、多くの方、とりわけ再エネを推進する立場の方から厳しいご批判を受けてしまうであろうことは当然予想されます。テレビや新聞、ネットなどでは事業に不安を抱える太陽光発電事業者の声が多く報道されており、「我々は被害者だ」と主張する事業者もいることは事実です。しかし、このように報道でクローズアップされやすい構図は一面的であり、業界全体の対応は必ずしも一枚板ではないように見受けられます。例えば、大手事業者の中にはこのような事態をある程度予測し、できるだけリスクヘッジを行って導入地域を分散しているところもあり、今回の接続保留問題を問題視しながらも冷静に受け止めているようです。一方、中小の事業者ほど唐突感や裏切られ感が強いようですが、それに対してはビジネス上当然考えなければならない政策変更リスクに十分対処していたか、という初歩的なリスクマネジメント上の疑問点が残ります。これは取りも直さず、中小事業者や新規参入者に対して業界全体でフォローしてきたか、という問題に帰結します。具体的には、情報収集や情報共有、新規参入者への教育啓発などです。【次ページにつづく】

 

 

 

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