再エネが入らないのは誰のせい?――接続保留問題の重層的構造(その2)

「FITは必ず儲かる」という誤解

 

ところで、今回の接続保留問題を受けてメディアやネットでよく聞く俗説に、「FIT(固定価格買取制度)は必ず儲かる」「確実に金が稼げるビジネスだ」という誤解があります。FITに対する風当たりが強いことも、もしかしたらこのような大きな誤解が遠因かも知れません。後述するように、FITスキームによる発電事業は、実は必ずしも確実に儲かる美味しい商売ではありません。もしこのような流言に近い誤解を一般市民だけでなく、発電事業者や出資者がまともに信用してしまったとしたら・・・事態はより深刻です。なぜならば、本来発電ビジネスを継続させるためにはさまざまなリスクに備えるための技術や知識が必要で、現時点でそれを十分持ち合わせていない新規参入者ほど、事業失敗のリスクが高くなるからです。例えば、メンテナンスに関する技術や意識の乏しい事業者は、事故発生リスクや事故後の長期運転停止リスクを増大させることになります。法務や市場動向に明るくない事業者は今回のような政策変更リスクに対処できないことになります(もちろん、突然の政策変更やその不透明性は本来あってはならず、その点は厳しく追求するべきですが、それとこれとはまた別問題)。

 

FIT制度は本来、まだ十分成熟していない発電方式を市場参入させるための政策スキームであり、そもそも魅力的に見える買取価格は、もともと高い事業リスクや不確実性を緩和するためのものなのです[*3]。FITは従来のように初期投資に支払われる補助金ではなく、世に言われているように発電所を建設した途端に濡れ手に粟で儲かる仕組みでは決してありません。実はFITは、kWhという事業成果に基づいて少しずつ報酬が支払われる「パフォーマンス型」の政策支援スキームなのです(したがって、仮に事業失敗を起こしても国民負担にはならない優れた方式であるとも言えます)。例えて言うなら、FITは「意欲のある方は頑張って冷たい水に飛び込んで下さい」「無事向こう岸にたどり着いた人には最終的にご褒美が貰えます」というシステムであり、決して飛び込む水は快適ではなく、十分なご褒美が貰える前に溺れてしまう可能性もかなりの確率であるのです。どうして「FITは必ず儲かる」という俗説がこれほどまでに巷に流布してしまっているのかは筆者にはわかりませんが、甘い言葉でそれを喧伝するブローカーや評論家、メディアがいたとしたら、彼らの負うべき責任は大きいでしょう。

 

[*3] FITのそもそもの設計思想は例えば以下の書籍(未邦訳)に見ることができます。

M. Mendonça and D. Jacobs: “Powering the Green Economy: The Feed-in Tariff Handbook”, Earthscan, 2007

P. Komor: “Renewable energy Policy”, iUniverse, 2004

 

 

太陽光発電業界がなすべきこと

 

とはいえ、FITは新規参入者にも魅力的なインセンティブが与えられているのは事実であり、新規参入者が多いということは、十分な技術・法務知識やモラルを必ずしも持ち合わせていない事業者もある一定の確率で存在するということを意味します。このような事業者に情報収集を促したり教育啓発をする体制が十分でない場合、たとえ優良な事業者が頑張っていたとしても、一握りの逸脱した事業者のおかげで業界全体のイメージが大きくダウンすることもあります。この「逸脱」とは必ずしも違法行為だけでなく、現段階では適法だが世間からはあまり支持されないであろう行為も含まれます。

 

例えば最近の例では、ケータイゲームの未成年者への課金に対して業界内での調整が取れず問題が放置され、マスコミに取り上げられ大きな社会問題に発展したケースがありました。このようなケースは一義的には国の規制が遅れたことが原因ですが、だからと言って業界内の自主対策が十分でなかったことに理解を示してくれる一般市民は多くありません。業界全体のイメージに傷がつくと、消費者からも投資家からも見放される可能性もあります。ケータイゲームと太陽光発電は全く別ものですが、むしろより厳しい目で国民から見られていることに留意しなければなりません。なぜなら、太陽光発電を含む全ての発電事業は公益性が極めて高い事業だからです。また、現在のFITの政策スキーム下では、国民から賦課金という形で支援を受ける立場だからです。もちろんビジネスである以上、利益を得ることは悪いことではありませんが、お金を儲ける前に考えなければならないことがあります。

 

例えば、江戸時代の大坂商人の教訓に「損して得取れ」という言葉があります。必ずしもがつがつと目先の儲けにこだわるのではなく、世間から信頼され事業を永続することが大事という教えです(実は江戸時代からサステナビリティの概念があったわけです)。同じく近江商人には「売り手よし、買い手よし、世間よし」の教訓があります。翻って、現在の太陽光業界は「売り手よし」の状態のようですが、「世間よし」の発想を持つ事業者は果たしてどれほど存在するでしょうか?

 

系統増強費の請求に関しても、今回の「接続保留」問題でも、発電事業者があまり自己の利益ばかりを主張して声高に叫んでも、多くの国民から支持を得ることは難しいかもしれません。電力会社や国に対して注文を付けるにしても、「売り手よし」ではなく「世間よし」の観点から建設的な解決策を考えない限り、今度は国民から厳しく糾弾される立場に転落しまう可能性もあります。これは個々の事業者の良心やモラルに委ねる問題ではなく、業界全体で協調し自助努力する必要があります。例えば、今回取り上げた接続料金問題、すなわち系統増強費の請求は、そもそも他に空いている場所があるにも関わらず混んでいるところに更に集中するために発生する現象ですが、混んでいる場所に集中しないようにするための方策は電力会社や国に任せていればよい問題でしょうか。また本稿では詳しく取り上げませんが、FIT認定を受けながらなかなか着工を進めない事業者が多い問題は(意図的か不可抗力かはさておき)業界内で実態把握調査や調整を行うことはできないでしょうか。電気主任技術者の配置が不要な「分譲型」太陽光は法規制をすり抜けるという点では見事な方法ですが、国民のためにほんとうにメリットがあるかどうか誰が精査するのでしょうか。解決すべき問題は山積です。もちろん、最終的には国の規制や法整備が必要となる場合もありますが、それを待っているだけでは済まされない状況であるということは十分認識しなければなりません。それは将来確実に伸長してくる風力発電の分野でも同様です。

 

 

国民全体も情報収集と議論が必要

 

同時に、国民全体もさまざまに流布している神話や誤解、俗説に惑わされず、公平公正に情報収集し、健全な議論を深めることが重要です。「再エネといえば太陽光」「風力や太陽光は不安定だから蓄電池」という安易なイメージはそろそろ卒業してもよい頃かもしれません。特に、太陽光は再エネ電源の中でも最も買取価格が高いもののうちの一つであり、風力や地熱など他に安い再エネ電源が存在するにも関わらず、高いものから大量に導入されていくことが本当に国民全体に取ってよいことなのかどうかを再確認する必要があります。FITの賦課金による国民コスト負担が増えているという報道や評論もありますが、再エネのコストは無駄な捨て金ではなく、将来への投資です。投資をするからには、自分たちの子供や孫の世代へどのような便益(投資によるリターン)があるかを精査し、かつ効果的な投資の仕方(同じkWhを稼ぐのに他の安い再エネ電源はないか?など)をきちんと議論する必要があります。国民全体で再生可能エネルギーの興味や意識がもっと増え、政府や市場に対する監視が高まれば、それが政策決定者を動かすことになり、市場の健全化も進むことでしょう。

 

次回は、国民の興味や意識にも関係する「透明性の問題」について分析します。

 

本稿は、「環境ビジネスオンライン」2014年10月6日号10月13日号10月20日号11月3日号に掲載されたコラム『「接続拒否」という新たな誤解と神話』を加筆修正し構成に変更を加えたものです。原稿転載をご快諾頂いた環境ビジネスオンライン編集部に篤く御礼申し上げます。

 

 

参考文献

 

[1] 田頭, 岡田: 欧州での再生可能エネルギー発電設備の系統接続等に伴う費用負担の動向, 電力中央研究所報告 Y081019, 2009

[2] T. アッカーマン: 風力発電導入のための電力系統工学, オーム社, 2013, 第22章「電力系統における風力発電の経済的側面」

[3] 経済産業省 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会: 第7回配布資料,資料3「送変電設備増強時の費用負担方法について」, 2014年12月2日
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/pdf/007_03_00.pdf

 

オリジナル掲載:Energy Democracy, 再エネが入らないのは誰のせい?:接続保留問題の重層的構造(その2)(2014年12月6日掲載)

 

サムネイル「Coberta/Cubierta solar fotovoltaica Riudarenes (Girona)」Som Energia Cooperativa

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vol.272 

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