学校よりシフトが大事だ!――蔓延する「ブラックバイト」の実態

新生活がはじまり、新しくアルバイトをはじめる学生も多い。しかし、ここ数年、厳しいノルマを課される、シフトを強制的に入れられるなど、学問に支障をきたすような「ブラックバイト」が問題になっている。不当に過酷な労働を強いる「ブラックバイト」その実態と対策をさぐる。2015年3月30日放送TBSラジオ荻上チキ・Session-22「ブラックバイト。その実態と対策」より抄録。(構成/八柳翔太)

 

■ 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

「ブラック企業」と「ブラックバイト」

 

荻上 今回のゲストは、ブラック企業被害対策弁護団代表の弁護士・佐々木亮さんと、ブラックバイトユニオン相談員・坂倉昇平さんです。宜しくお願いします。

 

佐々木・坂倉 宜しくお願いします。

 

荻上 今日のテーマは「ブラックバイト」です。この言葉は、どのようなイメージで捉えればいいでしょうか?

 

坂倉 重要なのは、大学や高校、専門学校といった学業との関係ですね。学生アルバイトであるにもかかわらず、学業に支障をきたすような、過重な責任や業務を負わせて働かせてしまう。そんな仕事を「ブラックバイト」と呼んでいます。

 

荻上 いわゆる「ブラック企業」と、この「ブラックバイト」。両者の関係性については、どのようにお考えですか?

 

坂倉 ブラック企業とは、正社員の若者の「使い潰し」の問題です。ブラック企業は就職したばかりの若者を、過労死やうつになるまで働かせることで、利益を上げてきました。こうした働かせかたが学生アルバイトにも及んだのが、ブラックバイトだと思います。

 

ブラックバイトでは、企業がこれから社会を担うはずの学生を、単位を落としたり留年するまで働かせて、利益を追求しているわけです。いわば、学生アルバイトの「使い潰し」です。こうした分析は、このあと登場される大内裕和先生と今野晴貴の共著『ブラックバイト』で整理されています。

 

荻上 どちらも、「ブラック」と言われていますよね。どちらも「違法」ということなのでしょうか。

 

坂倉 いえ、違法だといえるケースは多いと思いますが、「ブラック=違法」の意味ではないと考えています。「ブラック」と呼ばれることの本質は、社会の担い手である若者を使い潰してしまう働かせかたにあります。

 

ブラック企業についていうと、かつては正社員であれば、長時間働かせてもパワハラをしても、定年まで雇用を保障するという「常識」があると思われてきました。いまはそれが崩れてブラック企業が大量発生し、正社員の若者だろうと、健康や生命の危険を無視して働かせているわけですね。

 

荻上 以前は、正社員としてサービス残業に従事する場合でも、将来の出世などの「見返り」を期待する事ができたわけですよね。今は終身雇用制度が崩壊し、そうした「見返り」を得る事が望み薄になってしまったのに、昔のような「イケイケ」な働き方だけが押し付けられるという構造が出来上がってしまっていますね。

 

佐々木 見返りのない滅私奉公ですね。

 

荻上 アルバイトのほうでも、同様の事態が生じているという事でしょうか。

 

坂倉 そうですね。ただ正社員と異なり、もともと学生アルバイトは、一生懸命働くものじゃなかったわけですよ。もはや廃れてしまった「バイト感覚」という言葉があったように。企業の側にも、学生であれば授業やテストなどがあるわけだから、そこは考慮して働かせすぎないという「常識」があったと思います。

 

いまやそれすら崩れてしまい、学生アルバイトが正社員のような責任を負わされて働かされることが珍しくなくなりました。「学校よりシフトが大事だ」などと言われ、学生の将来や、彼らが担っていく社会のことなんて、店の売上げの前には一顧だにされません。そんな状態を指して「ブラックバイト」という言葉が広まるようになったのだと考えています。

 

 

「ブラックバイト」蔓延の背景

 

荻上 ここからは、より「ブラックバイト」の定義に迫っていきましょう。「ブラックバイト」を提唱された中京大学教授の大内裕和さんとお電話がつながっていますので、お話を伺います。大内さん、よろしくお願いします。

 

大内 よろしくお願いします。

 

荻上 この「ブラックバイト」という新しい言葉を提唱されたきっかけについて、教えて下さい。

 

大内 私は18年間、大学で教員を務めていますが、その間学生のアルバイトというもののありかたが随分変わってきたように思います。

 

かつては、例えばゼミ合宿の場合などに、多くの学生はシフトの融通が利きました。学業・アルバイトの兼ね合いがうまくいかないということはほとんどありませんでした。

 

それが2010年前後から、どんなことを言っても、どんな理由があってもアルバイトを休めないという学生が増えてきた。酷いケースだと大学の試験や、就職面接の当日にさえ休みをもらえなかった、という話も聞いたことがあります。

 

このままではまずい、と考えて、2013年の6月頃に、アルバイトをする学生たちにアンケートを取ってみたんです。

 

すると、賃金未払いだとか、サービス残業だとか、自爆営業(※売り上げノルマを達成する為、自店舗商品の買い取りを強要される事)、本人の希望を無視したシフトの設定、パワハラ、セクハラ……酷い事例が相次ぎました。まさに「ブラック」です。

 

なので、定義としては「学生であることを尊重しないアルバイト」ということですね。そういう意味で、「ブラックバイト」と名付けました。

 

荻上 その学生さんたちは、特殊なアルバイトをしていたわけではなく、通常のサービス業に従事されていたのですか?

 

大内 ええ。飲食店、塾、家庭教師、アパレル、コンビニなど、業種は多岐に渡っています。

 

荻上 2010年頃を境に「ブラックバイト」の蔓延をお感じになったというお話を、先ほど伺いました。背景にはどういった理由があるとお考えですか?

 

大内 2つ考えられると思います。ひとつには、学生の経済状況が厳しくなっていることです。保護者の所得減によって、たとえば学生への仕送り額が減少傾向にあります。

 

全国大学生活協同組合連合会の調査によれば、月の仕送り額が10万円以上の割合は、1995年の62.4%から2014年には29.3%に減少しています。また、月の仕送り額が5万円未満の割合が、1995年の7.3%から2014年には23.9%に上昇しています。

 

これでは多くの学生は、アルバイトをしなければ学生生活を続けられません。趣味や娯楽のために使うお金を稼ぐのなら、嫌なアルバイトに見切りをつけることもできるでしょうが、生活するためならば不当な扱いにも耐えるしかないですよね。雇う側もそれを見越しています。だから理不尽な要求もする。

 

もうひとつ、労働市場の変化です。正規雇用が減って、非正規雇用が増えています。2014年11月の総務省の労働力調査によれば、非正規労働者数は2012万人に達しています。かつての職場には、基幹労働を担う正規の人がいた。その時点では、非正規(アルバイト)の役割はあくまで「補助」労働でした。責任もそれほど重くなかった。なので、休みが取りやすかったんです。

 

しかし、正規がこれほど減り、非正規の労働者が増えるとなると、かつて正規の人がこなしていた基幹労働を非正規が担わなければ、そもそも職場がまわらなくなってしまいます。

 

これによってバイトの役割や責任は重くなり、ブラックバイトが登場する要因をつくっています。

 

荻上 奨学金制度の未熟さも関わっているのでしょうか。

 

大内 日本学生支援機構の奨学金は返還が必要な「貸与」制で、さらに、その「貸与」の中でも1990年代の後半から、無利子ではなく「有利子」の奨学金が増えてきました。有利子の借金ですね。奨学金制度が貧困で学生への経済支援が不十分であることも、「ブラックバイト」蔓延の一因であると思います。

 

 

「ブラックバイト」、その実態

 

荻上 坂倉さんのところに、「ブラックバイト」に関する具体的な相談はきていますか?

 

坂倉 はい。去年の8月に「ブラックバイトユニオン」という労働組合を発足させたのですが、それから目に見えて増えていますね。

 

私はもともと2006年にNPO法人POSSEという団体を立ち上げ、若者の労働相談を受け付けていましたが、学生のアルバイトの相談は、それほど多くありませんでした。

 

それが、去年の終わりぐらいから月50件ほどのペースで相談がきています。現時点で、計200〜300件ほどの相談に対応していますね。

 

荻上 ここで、メールを二通、ご紹介します。

 

「高校2年生の娘が、某コンビニで昨日まで1年間アルバイトをしていました。クリスマスに、ケーキ7個のノルマを課されました。金額にするとおよそ14000円分です。バイトを辞める場合、1ヶ月前に申告しなければ最後1ヶ月分のアルバイト代は払われないと言われたそうです。1ヶ月前に申告したところ、代わりがいないので辞めさせられないとのこと。ユニフォームは、各自でクリーニングさせられました。どこからが「ブラック」なのか、判断しかねますが、時給は地域で最低ランクでした。」

 

「ブラックバイト、それは何を基準に、どう不当だとなるのでしょう?10代から30前までガソリンスタンドで働いていましたが、下積みのバイト時代は同じ失敗をしたら蹴り飛ばされましたし、少しでも笑顔を怠ったら反省文を書かされました。労働時間もオープン‐ラストは当たり前で、月に300時間はザラでした。もちろん不満もありましたが、先輩も同じように耐えてきたし、上司の若い頃はもっと厳しかったので頑張って乗り越えました。最近の人たちは、「守られて当たり前」になりすぎていませんか? もっと歯を食いしばって、努力と気合と根性で前を向けませんか?」

 

佐々木さん、こちらのメールについてはいかがですか?

 

佐々木 まさに「ブラックバイト」の典型のような事例がいくつか含まれていますね。まず、「ノルマ」。アルバイトにノルマを課すというのは、かつての学生アルバイト像とはかけ離れています。そして、一カ月前に申告しなければ、最後の給料が不払いだという点。これは単なる法律違反で、犯罪行為ですから正当化する事はできません。

 

「代りがいないので辞めさせられない」というのは、「退職妨害」ですね。「ブラック企業」だとか「ブラックバイト」の典型的なやり口です。ふたつめのメールについては、「あなたはそうだったかも知れないけれども、他の人はどうかな」と思います。あなたができるからと言って、みんなが同じようにできるわけではない。

 

「俺は頑張ったんだからお前も頑張れ」式に、何でも正当化してしまう社会は、やはり不健全だと思います。

 

荻上 坂倉さんは、いかがですか?

 

坂倉 じつは相談のなかで一番多くされる質問は、「私はこの会社を辞めていいんでしょうか?」というものです。バイト先にしばりつけられて、なかなか辞めることができなくなってしまうんです。

 

辞めさせないための手法として、「責任感を負わせる」というパターンがあります。ブラックバイトでは人手不足のなか、学生一人一人に過重な業務が押し付けられるので、責任感を内面化させやすい。

 

その責任感を利用して、「代わりがいない」「店がまわらない」「自分勝手だな」「無責任なやつだ」「社会人失格だぞ」などと、罪悪感を煽ったりレッテル貼りをしたりする手法があります。アルバイトは社会経験になるものだという価値観も、こうした責任感に拍車をかけています。

 

それでも辞めようとする学生には、恫喝パターンが待っています。「辞めたらただじゃ済まないぞ」「損害賠償を請求するぞ」と脅しをかけられる場合もあります。実際は、まず損害賠償なんて請求してこないですし、法的にも無効ですが、委縮して従属させることを狙っているわけです。酷い場合には、実際に損害賠償請求をしてくる企業もありますね。家庭教師はとくに要注意です。

 

二つ目のメールについては、学生の親が、子供にまさにこうした発言をしてブラックバイトを正当化してしまうケースがあるんですよね。【次のページに続く】

 

 

 

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