交差する人生、行き交う物語

立場ってあるでしょう

 

岸 「わかるわかる」も、うざい。でも「違うねん」も排除です。で、その間の、ディテールみたいなのをフックにしたらいいよね、っていうのが今日の話ですけど。

 

マジョリティとして日本で生きていると、口当たりのいい話いっぱいあるんですよ。「国境なんか関係ないよ」とかね。「平和を願って歌おう!」みたいな(笑)子どものときから一緒に歌ったり体操するの大っ嫌いで。

 

ヤン うんうん。

 

岸 だから、ヤンさんにそういう作品を作って欲しいのですが、ぼくの側からそれは言えないじゃないですか。

 

ヤン あー、それ大事。仲良くなれたねー。

 

岸 (笑)

 

ヤン 立場ですよ、同じセリフも、言う人の立場によって。「やっぱお金ってあったほうがいいよね」って貧乏人の私が言うのとね、豪邸や別荘見せびらかしているエステサロンの社長が言うのとね、違うじゃないですか。

 

岸 なぜエステ…(笑) 「在日も日本人も関係ないよね」っていうのってどっちの側からも言えないですよね。

 

ヤン ぼくは気にしないよ、みたいなね。逆に言われたら、「あたしあんたが日本人だからって気にしないよ」って言われたらあんた、どない思うっていう。そういうのありますよね。

 

岸 そうなんですよ。ぼくはあえてマジョリティを言うようにしてるんです。意識しようとしている。

 

ぼくは、ヤンさんってたぶんね、しゃべってて、あんまりマジョリティとかマイノリティとか言われるとうざいなって思うタイプなのかなって感じました。

 

ヤン はい、ウザいっす。それは言われ過ぎたからでしょうね。あと学校教育とか家庭教育で、「祖国のため」「同胞社会のため」「マイノリティだから」「差別社会だから」って、とにかくそればっかり言われてきたんで。

 

とことんそれにこだわって考えて勉強もして議論もしていっぱい知ったうえで個々人として楽しんだりケンカしたり、個々人として確立しながら生きてければいいなあ、と。その自由さもほしいし、かといって、何も知らん自由はね、責任果たせないからね、自由になれないですね本当は。

 

岸 やっぱりトラップというかワナ多いですよ。それだけ見てよう、と思ったら本も映画もたくさんあるんで。あえて逆に自分として自分に押し付けるというか。なかなかうまくいかないですけど。マジョリティとしての引き受け方もいろいろあるんですよね、罪悪感を持ってしまって、なんとかしなきゃ、なんとかさせてください、みたいな(笑)。

 

ヤン たまに日本の大学なんかでしゃべったりすると、真面目な生徒さんで、「韓国の博物館に行って戦時中に日本がやっていたことが申し訳なくて」ってどんどん萎縮してしまう若い子がいるんです。その時、「韓国に対して申し訳なく思うのではなく、ちゃんと教えてくれなかった、日本の文科省とか教育制度とかに対して、韓国人といっしょに怒りなさい」と言っています。

 

ちっちゃくなる必要はぜんぜんない、あんたなんにも悪いことしてないんだから、堂々としてなさい、って。

 

岸 その塩梅は難しいですよね。社会的不正義に怒るあまりに、沖縄の人をディスってしまう本土の活動家みたいなパターンもあります。

 

本土の人間として沖縄の基地の問題にめざめて、なんとかしなきゃと現地に飛んで活動するんだけど、半分は基地を誘致しているわけで、辺野古にも賛成している人もいる。そういうのを罵ってしまう。

 

ヤン しっかりしてないからだー、とか?

 

岸 もっとひどかったです。「わずかなお金でこの美ら海を売り飛ばしてしまう沖縄の人たちは反省するべきです!」と言う。

 

ヤン あー、それ沖縄の人が言うのと、東京から来た人が言うのとは違うってことですよね。

 

岸 そうなんですよ。ぼくぶち切れてもう、途中で遮って「もう帰れ」って言って。あとから電話して謝ったんですけど。オチは情けないですけど(笑) だからね、「かぞくのくに」っていう映画にしてもね。

 

ヤン あーそれはすごくあります。私だから文句言えるっていうね。「あなたもあの国も大っ嫌い」ってね。それを日本の監督がつくった映画で、日本人のキャラクターに言わせるのと、ぜんぜん違いますよね。

 

岸 日本人があのシーンだけ見て、「やっぱり在日も北朝鮮のこと嫌いなんだ」みたいな、そういう解釈も可能といえば可能じゃないですか。

 

ヤン ホントに……、まあ、解釈はお客さんの自由なんですけどね。

 

岸 下手したら反北朝鮮映画だと捉えられてしまう。

 

 

聞く側も見る側も試されている

 

岸 在日の人と飲んだりすると、自虐のネタが多いでしょう。障害者の方もそうですが、楽しそうに盛り上がっているから、うっかり乗ってしまいそうになる。ワナですね(笑)。

 

ヤン まあ、言える相手と思うから言っているんでしょうね。私も言ったことありますよ。梅田の歩道橋のうえで、これでサインしたらビデオ見に連れて行かれるのかなっていう勧誘の人に職業聞かれた時、「北朝鮮のスパイです」って(笑)。

 

岸 うっかり乗っちゃうんですけど、さすがに不謹慎なので、あんまりよくないなと思ってはいるんですが。難しいんですよ、マジョリティとして出てくる言葉がどんどん減っちゃうんですよ。深刻ぶった言葉も嘘くさいし、かといって当事者の方々のように、自由に不謹慎なギャグとかも言えない。

 

前作の『街の人生』という本で、ある編集さんにすごく褒めてもらったポイントがあります。シングルマザーの風俗嬢という人にぼくが話を聞いていて、シャブの話になって、「シャブやったことあるんですか」「あ、やったことありますよ」「へえー(笑)」とぼくが答えたという、あれが素晴らしい、という。

 

でもそういうときって一緒に笑うしかないでしょ。「え、シャブやってるんですか。だめですよ」もおかしいし「へえー、いいなあいいなあ」も変。そうすると、「へえー(笑)」ぐらいしかないでしょ。だからいろんなトラップがあって。

 

ヤン そういう意味ではインタビューは聞く側も試される。映画も見る側が試されるってことですよね。

 

岸 「かぞくのくに」はとくに見る側が試されると思いましたね。素晴らしい作品と思いますけど。

 

ヤン あれはどのインタビューだったかな、日本の植民地支配の責任とか、そういうのを追及する映画は作らないんですか?って。ずーっといいインタビューだったのに、最後におっしゃって。「それは日本人の方がやったら、いいかもしれないですね」と言いました。

 

岸 おっしゃる通りです(笑)

 

ヤン 「拉致問題の映画を作ってください」とか、いっぱいツイートとか頂くんですよ。

 

たとえば、アウシュビッツの映画が始まる時、説明っていらないじゃないですか。ぽーんとはじまっても世界中の人がついて来れる。なぜか。作品が沢山あるからです。

 

でも、私が作った一作目の「ディア・ピョンヤン」では解説タイムが4分ほどあります。かっこ悪いんですが、あれはどうしても切れなくて。最低限これぐらいわかってもらわないと、話には入ってこれないだろうと。

 

ナチス関連の映画はドイツが悪い、ヒトラーが悪いという話の次の段階に行っています。こういう将校がいた。恋愛があった、フランス人も協力してたとか。早くその段階に行きたいですよね。そこまで行くには解決すべきベーシックな問題が沢山ある。

 

岸 本の中でも書いたんですけど、女装をしているおじいちゃんがやっているブログがあります。何がすごいかって、一切説明抜きなんですよ。すごくええなと思って。

 

自分が看護師に女装している写真を載せて、「アベノミクスはなかなか庶民にまでとどかない」とか書いてある。おねえ言葉でもないんですよね。ふつうに書き言葉で書いているというのが、ユートピアを実現しているんだなと思いましたね。

 

ヤン うわー、それはすごくいいですね。

 

岸 今日の話をまとめると、「わかるわかる」も嫌やし、排除も嫌。これって解決不可能なんですよね。そうすると理解っていうのはディテールとか、なにかフックみたいなものをいかに作っていくか。

 

『断片的なものの社会学』は、耳に挟んだ面白い話を散りばめています。小さいストーリーが大好きだというのもあるんですけど、だれもが持っている「持ちネタ」って人間関係のフックになるじゃないですか。バッと打ち解けたりもするし、雰囲気ががらっと変わったりするし。たとえば「しゃらんしゃらん」でもそうだし。そういうのを重ねてコミュニケーションしていくしかないのかもしれません。

 

6日21日(日)リブロ池袋本店(西武池袋本店別館8階 池袋コミュニティ・カレッジ)

 

 

●お知らせ

岸政彦『断片的なものの社会学』×星野智幸『呪文』刊行記念トークイベント

物語を生み出す / 物語が生み出す
http://www.aoyamabc.jp/event/kishi-hoshino/
2015年9月27日 (日) 18:00~19:30

 

 

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