2015.10.16

まちおこしがビジネスだって忘れてない!?

木下斉×飯田泰之『稼ぐまちが地方を変える』刊行記念トークイベント

社会 #稼ぐまちが地方を変える#まちおこし

地域活性化業界の風雲児・木下斉氏による『稼ぐまちが地方を変える』(NHK出版)が上梓された。「地方再生」というけれど、本当に稼ぐようにはどうしたらいいの!? 著者の木下氏と経済学者飯田泰之と語り合った。2015年6月11日、八重洲ブックセンターにておこなわれた「「経営」と「経済」から考える利益を生み出す地域ビジネスの極意とは?」より抄録。(構成/山本菜々子)

役所は役所の仕事、民間は民間の仕事

飯田 木下さんの新著大好評のようで何よりです。産業再生、または地域再生という中で、「稼がなければダメだ」と、みんな薄々は感づいているかもしれませんね。

木下 そうなんですよね。この本に特段、画期的な話を書いているわけではありません。あくまで当たり前の話、しかし、あえてみんなが触れてこなかったところを書きました。

飯田 ぼくは、東日本大震災をきっかけにして地方経済に関心をもつようになったのですが、復興のためのビジネスコンテストなどがあると、なぜか大学教員が名義貸しのような形で呼ばれるんです。そういったコンテストだと儲からなそうなものほど他の審査員の受けが良かったりするんですよね。

木下 ああ、「良い話」ってやつですね(笑)。

飯田 そうそう。震災後は、とにかくストーリー重視で、儲かるかどうかはどうでもいい。被災地の名産品を紹介するホームページ事業に100万とかつぎ込んだりする。でも、それって誰が見るんだろうとずっと不思議でした。

木下 支援する側の被災地像や、復興の美しいストーリーを押し付ける部分があったでしょうね。私のまわりの被災者の知人でも、「変なことに予算がついてしまう」という声は聞かれましたが、被災地だけでなく、全国的な空気でかき消されてしまった印象があります。

飯田 より根本的な問題としては県や市の担当者があまりカネの話が好きじゃない。商売人の基本は「お金が好き」ってところだと思うんです。お金が嫌いな人に商売させたら、上手くいかないにきまってるでしょう。

木下 よくわかります。そもそも「お金が好き」というモチベーションで役所に働いている人は少ないでしょう。むしろ、少し苦手だから役所で働いている可能性もあります。

興味があっても、日常で付加価値を生み出し、稼ぎをつくることをしていないため、やはり実際に人件や原材料費みたいなコストを上回る付加価値をつくるという一般的な金銭原則が養われる環境にありません。

そういった方たちに「地域振興」を任せ、無理やり稼ぐことを強要すると、実際には、地域がプラスになることがなく、つかう予算と出てくる効果のプラスマイナスを計算すると、結局マイナスになってしまう。だから衰退しているわけです。

通常、行政は予算を清く正しく美しくつかい、再分配を運用するための組織です。だからむしろ、地域活性化や経済活性化などを担わせること自体が酷な話なのです。

だから、役所は役所の仕事、民間は民間の仕事をするのが大事だと、この本では強調しています。当たり前の話ですが、地方はなんでもかんでも役所がやることになってしまいがちです。これはなんでもかんでも行政にやらせようとする民間も悪い。

なにをやるにしても、役所にお願いをして、設備投資してもらって、事業に失敗しても尻拭いを第三セクターでやってもらうという話が地方ではどんどん進んでいます。冗談で「地方のソ連化」と話していたんですが(笑)。

この本を読んだ地方の方からよく連絡をいただきます。多くの方も内心、オカシイなと思っているんだけれど、現実と向きあおうという話をすれば、「お前だけ、金儲け主義か」と批判されるのでいえない。ま、そういう「お金ではない」論で批判をする人が、実は一番補助金などでお金をもらって儲けていたりするんですよね。けっこう闇が深いんです。

なぜ箱ものを!?

飯田 先日、木下さんと四国のある商店街に行ったじゃないですか。そこに、市が借り上げて、地元の大学が管理する学生のコミュニティスペースがありました。そこのオーナーさんは家賃収入が発生しているんですよ。

木下 そうですね。もともと空き店舗だったところを、市場ではなく、役所がお金をだして借り手がつくわけですから、オーナーにとってはとんだ儲け話ですね。

飯田 でも、そこでは何らの経済活動も行われていないわけじゃないですか。あれが許されちゃっているというのがすごい。

木下 そうなんですよね。あの場所では何の経済活動も行われず、何かを喚起しているわけでもなく、単に予算が投下されているだけ。つまり、財政負担が増えるだけで、「地域の活性化」には全く役立っていないんです。

そもそも、商店街にある不動産の家賃が、相場より高いことも障壁になっています。空き店舗になっているというのは、需要側だけでなく供給する不動産オーナーの問題も少なくないんですよね。

この物件で、月150万もとるの? みたいな、借りたい人がどう考えても儲からない条件を出している。それなのに「テナント募集」とシャッターに書いてあったりして。

ああいうのをベタベタと貼れば貼るほど、その街はダメだということを、みんなに宣言し続けているのと同じなんですよね。

飯田 新規参入しようにも、オーナーさんが「150万でしか貸さない」と言い張っているから困り果てている。「自分が安く貸してしまったら、周りの相場も下がってしまう」と決まり文句でいうらしいのですが、そんなに価値があると思っているのはオーナーだけでしょう。だれも借りないということは、ゼロ円の価値しかないことを全然認識していない。

木下 拡大経済の時の残像があるんでしょうね。金額うんぬん以前として、供給サイドが偉いといまだ勘違いしている。

昔みたいに、土下座をしてでも、大家さんのルールでその物件に入りたい人が来た時代を忘れられないまま、かつ自身もお金があるのでそういう態度を貫いている。何より自分たちの生活に余裕があるので、頭をさげてまで人に貸さなくても良いんですよね。

しかし、今は需要サイド、つまり不動産でいえば「テナント」の方が当然優位ですから、不動産オーナーがそんな高慢な交渉を持ち込めば、そもそも郊外や倉庫など、中心部ではない不動産を選択します。家賃は安いし、オーナーはうるさくないですから。中にはネットで十分と思って自宅などで作業して、そのまま発送するという無店舗型の商売をする人もいます。そのうち、誰も中心部に店出したいなんて人もいなくなっていく。

つまりシャッター店舗、シャッター商店街は金持ちオーナーたちの象徴でもあります。

飯田 さらには、まさに商店会長とかだと、行政とのつながりが非常に強いので、市が借り上げてくれたりするんですよね。しかも、かなり言い値に近い。または、一般の相場より、下手したら高く、学生向けのコミュニティスペースとかに借り上げてくれるわけです。

木下 地方はどうしても厳しい立地でどうにもならないと、大前提のようにいわれたりしますが、最近では変わってきている面が大きくあります。

先のように補助金依存で空き店舗対策とかやってきているところは未だ多いですが、やる気のない不動産オーナーの物件を税金で借り上げても、税金が切れたらまたもとの空き店舗になってしまいます。

しかしながら、地方でも、新たなビジネスのやり方で、しっかり市場の中で競争し、しっかり業績をあげていっている方がいます。ただ自分から「うちは儲かってる」といっても何の得もないですから、声はあげない。静かに地方で結果を出す経営者の方も確実にいます。

農業なんかでも農協経由ではなく、取引先を独自に開拓している人などは、従来とは全く違う効率的な方法を確立し、しっかり業績をあげていらっしゃいますしね。

飯田 農業で先進的な取り組みをされている方は多くいますよね。自分でブランディングし、販売ルートを確保している。農業は「良質な農作物」がコアですから、自分がやる気になれば出来る。ネットとの親和性も高いですしね。一方で、「場所の力」が重要な商店街は一軒だけだとどうにもならない。このような違いもあるのかもしれませんね。

木下 それが、商店街でもUターンして一人二人頑張っている方が出てきて、その一角だけ変わってしまうということもあるんですよね。東京でお店をやっている段階からネットでバリバリ営業をして、売上の半分近くをネットで売っている人が、地方にUターンするケースがあります。

これをぼくは「ハイブリッド経営」と読んでいますが、地元商圏に成長力が縛られないのが面白い。東京にいるときから、東京商圏だけでなく国内外にものをネットで売っているから、地方にいっても、地元商圏に縛られない。物理的な範囲だけではない商売チャネルを形成しているわけです。

地方にいくと、圧倒的に不動産コストが安いし、人件費も相対的に安い。となると、地元向けの店舗売上は落ちたとしても、ネットでの売上は変わらないと、コスト構造的に有利になるんですよね。

さらに、業績があがって、ブランド力を高めていこうと地方から東京に支店を出される方もいます。昔は、東京商圏から出てしまうと、ビジネスの成長力が下がったり、小さくならざるを得なくなりましたが、今は地方でもチャンスがあって伸びているお店もあるんです。

飯田 交通とネットの便が良くなったおかげで、そういったハイブリット型のモデルが可能になったのですね。

「一見さんビジネス」からの脱却

飯田 一方、交通とネットが便利になったことによって、かえって苦境に立たされている街も多いですね。奈良と小樽はその典型でしょう。まさに小樽は、札幌から一番速い電車にのると三〇分で着いてしまいます。なので、誰も泊まらなくなってしまいました。

木下 そうですね。昼間に行って、北一硝子や運河をみたりして写真とって、「びっくりドンキーがこんなところにあるのか!」とびっくりして、それで夕方には札幌に戻ってしまって、札幌で寿司を食べながら一杯、となる。

飯田 そういうビジネスモデルになっているので、小樽の有名な寿司屋通りにも人がなかなか来ない。「むしろ札幌にいいネタが集まっていることも多い」と商工会の方がおっしゃっていました。

木下 大学の時、初めて小樽に仕事でいったとき、私も言われました。地元の方に、寿司は札幌の店にいったほうがよい、と。

飯田 あと、私は奈良の公益社団法人の理事でもあるんですが、奈良もなかなか大変です。修学旅行ビジネスなんですが、今時の、高校の修学旅行は沖縄、北海道、九州が主流になってきていますし。そもそも修学旅行生が主流だから夜のまちも無理ですよね。

木下 奈良の講演会で質疑応答の時間にいわれたのですが、奈良には「大仏商法」というのがあるそうです。昔から、大仏を目指して多くの人が訪れるので、その道すがら立ち寄る客を相手に適当に商売をやればどうにか生活していけると。だから、競争力のある商売をやる気にならないと。

聞いてびっくりしましたが、実はこれは奈良だけでなく、善光寺がある長野でも似たような話を聞きました。有名な伝統観光拠点を保有する観光地では、よくあることなんですよね。

飯田 まさにその大仏ビジネスでなんとかなっていると。でも、奈良の大仏は大きくて有名ですが、ご利益としてはいわれがあるわけではないので、リピーターは少ないと聞きます。

一方で、同じような成り立ちの伊勢はちゃんと自立しています。伊勢神宮前にあるおかげ横丁は、まち自体を赤福餅で有名な赤福が運営して、一年間で650万人もの集客があると聞きました。奈良も三輪山、大神神社をもっているのに。参道の入り口に素麺屋がちょろっとあるだけです。

木下 ぼくも三輪山は3年ほどの前に行きましたが、何もないですね。本当にないです。

飯田 観光資源として、大神様を開発する方法もあったとおもいますが、それをやらずになんとかなってきてしまった。あまり詳しいわけではありませんが、伊勢神宮に次ぐほどの格式高い場所だと聞きました。なのに、何もしていない。

大仏だけではなく、奈良には古墳だって沢山あります。一度、みに行ったときも、古墳の周りにはなにもありませんでした。案内板も荒っぽいので、たどり着くのにも一苦労でした。せっかく、いい資源があるのに、もったいない。

木下 やはり、一見さんビジネスは地元がもつ成長力を阻害しますね。危ういです。名だたる観光地でも、一見さんしか相手にしないという前提の経営をされていると、宿も食事もすごく雑なサービスをしがちです。正直、二度と来なくていいと考えているんですから。

これも、石川県の有名な温泉がある旅館組合の方と意見交換をした際にいわれたのは、参加者の一人が「一度だけ来る人を対象にして、大手の旅行代理店さんにお金をがっぽり払って、送客してもらっているからそれでいいんだ」ということでした。

飯田 まさにそれって地域ブランドを食って生きているんですね。自分の一番の競争力を消滅させながら生き延びている。タコが自分の足を食っているのと同じで、一番体力を削いでいるのに、その日はお腹がいっぱいになるという。

木下 持続的に事業として改善し、よりよくして稼いでいこうという気がないのにはびっくりしました。割り切りなのでしょう(笑)。 もちろん頑張っている人もいるでしょうが、ひとつの宿でもそういうやり方をしていれば、その地域ブランドはきた人の数だけ毀損していき、結果、通用しなくなってさびれていく。それでダメになった温泉街は全国に山ほどありますよね。でも、自分達で価値を殺してきたことに地元の人達は気が付いていない。

飯田 ブランドマネジメントをまじめに考えていないのは致命的ですよね。たとえば、コンビニでは、直営店にするか、FC店にするのかを場所で決めています。一見客が多いエリアは直営店だけしか出店しません。

なぜなら、FC店にすると、ブランド価値にただ乗りをして、ひどい店の運営をやってしまう可能性がある。お店としては、チェーンのブランド力のご威光で商売を成り立たせることができますが、一見客ばかりの場所でひどい対応をされてしまうと、コンビニ自体のブランドはどんどん下がっていきます。

なので、FC店は基本的に地域密着型にならざるを得ない場所におく。つまりリーピーターばかりのところはFCまかせにする。同じ客が何度も来るならば、FCオーナーも変な扱いはできません。

一方で、観光地や、街道沿いの一見中心のところは、できる限り直営で、社員が運営していたりする。ブランドイメージを傷つけて、ただ乗りするインセンティブがないわけです

木下 有名な観光地ほど、みんな先人たちが作り上げてきた歴史資産やブランド力にフリーライドしてしまうのかもしれません。

ワークショップ、好きですよね

飯田 また、まちおこしの主役が見えづらい問題もあると思います。地域でやっている老舗の方が、その地方への愛着をうしなっているというケースも少なくない。地場産業の社長でも、二代目三代目になるにつれ、高校から他県に行ったりしますよね。

木下 地元の名士が、東京とか都市部に集中してきてしまう。私の周りにも一定規模の地方企業経営者の方は、週の半分は東京で過ごされている方は多いですね。地方の現状は憂いていますが、地元に戻ってやるのはなかなかね、とみなさん思われている。

飯田 地元の名士のような人がまとめ役になって、地域のブランドを守るような方向にいけばよいのですが。

木下 私たちのアライアンスパートナーのひとつに、兵庫県の城崎温泉があります。そこは名士が自らまとめ役になられて、一気に動き出した地域ですね。西村さんという町長を歴代されている方が若い人を中心にして任せ、「湯のまち城崎」という会社をつくりました。

初発の事業をつくるときにも、賛否両論になりがちなのですが、西村屋さんが賛成し、まわりにも働きかけをしてくださったことで「それでは私たちも」とみんなが賛成して動き出されました。

次の一手を打つための意思決定を、名士の人がある程度旗を振ってしっかり地元の方を巻き込んでやるというのは、地方の場合には実はけっこう大切なポイントです。誰が決めるかもよくわからないままダラダラとワークショップをやるよりは、よほど物事が動き、事業が形になります

飯田 ワークショップ好きですよね、みんな(笑)。

木下 ワークしないワークショップというのは、何のワークをしているのかわからないんですよね。「みんなでがんばろう」といって、誰が何をするかとか迫ると、そういう話でもなかったり。単にポストイットを消耗するというワークをみんなでやるのも・・・・・・。

この間もあったんです。とある市の方が、ものすごく立派な、20人ぐらいの参加者の似顔絵を描いた冊子をもって来られて。私は一年でこう変わりました、ああなりましたという冊子。一年間、20人の市民を集めてやったので、報告書をトータルでやって、1500万かかったと。

飯田 いやあ。

木下 これで、何が変わるんですか?と聞いたら、行政の方も苦笑いで、「みんなやる気になりました」とのことでした。しかも、100人の村ではなく、何十万人も人がいる立派な市です。何十万人分の20人がやる気になるために1500万円つかう。しかも、冊子ができただけです。

飯田 企業だと、利益やコストがシビアに評価されます。しかし、行政の場合は「いかにみんな頑張ったか」が目的になる可能性があります。

木下 「頑張り」が目的に置き換わってしまうんですよね。それ以外にも、そもそもの目的が置き換わることがあります。

たとえば「自分の街を活性化したい」と考えたとします。そこで、住んでいる人を増やそうと考え、補助金を出してマンションを建てた。住む人が増えても活性化しないと意味はありません。でも、「住む人をいかに増やすか」が目標に置き換わる。

私が「活性化していないのであれば、住人を増やしても意味はないのでは」と聞くと、メールのやり取りをしている人から連絡がこなくなることもありますね(笑)。あと、よく相談を受けるのですが、資料が有料だとわかると、急に返信が返ってこなくなる。

飯田 「カネ取るのかよ」と思われている(笑)。

木下 みんな、自分たちでリスクを負って、幾度となく失敗しながら、ようやく形にしている事業ばかりです。それを自分だけは、そういう苦労なしに物事のおいしいところだけをつまみ食いしたい。しかもタダで。ってそれはあまりに都合のよい姿勢です。そんなこといっているから成果が出ない。

アリバイ作りのワークショップなどは採算度外視で1000万くらい平気でつかうのに、本当に事業に必要な現場の人たちがつくった資料があっても、1000円、2000円をケチってそのような情報を手に入れない。

飯田 そして何といっても、それで今までなんとかなってしまっていたというのは、ある意味日本経済のすごい底力です。

木下 これはすごいです。本当にびっくりしますね。先人たちの作られた堅牢なる日本システムに感心します。

飯田 いやあ、よくもったなと思うんですよね。

ピンホールマーケティングが、地方を強くする

飯田 本では岩手県紫波町の「オガールプロジェクト」(http://ogal-info.com/index.php/project/dream/home)について触れられていましたね。民間テナントと、町が運営する情報交流館を上手くミックスした事業です。

「ピンホールマーケティング」つまり、対象を絞り込むことで1位になれるという指摘はとても面白いと思いました。全国1位になれば、全国からどんどん人材が集まる。これからのビジネスとして注目されるでしょう。

木下 みなさんあまり理解されていないのですが、通常、公共施設整備を税金でやると、過疎のエリアに行けば行くほど失敗します。なぜなら、行政の財源でやる場合、万人うけして、多くの方が利用するものにしなければいけません。そうなると、多目的体育館のような施設になる。全国のどこにでもあるようなものを田舎につくっても、地元の人さえたいしてつかわなかったりする。

しかし、紫波町はまったく違うんです。町有地の一部を民間に貸し出した。民間は、当然銀行融資でやったので、使用用途を絞り込んだ施設開発、ピンホールマーケティングが可能になっています。単に多目的体育館をつくるのではなく、バレーボールに特化。さらに、全国各地にもあまりない「練習専用体育館」になった。野球でもサッカーでもなく、さらに観客を集めた試合をするものでもなく、バレーボール練習専用体育館という分野に特化したのです。まさにピンホール。

特化したため、躯体などはできるだけコストをかけないようにしつつも、国際試合でつかわれる専用の床をつかうなど本格的な設備を設けています。これも開発者が専門家であるから可能になることです。さらに、併設するビジネスホテルまであるので、バレーボールの合宿にうってつけの場所になりました。中学生選抜の強化合宿や、プロバレーボールチームの合宿にもつかわれています。

誰もつかわない多目的よりも、全国から集まる特化型のほうが、これからの地方に向いていると思うところです。しかも、それを民間でできるだけ簡素にやる。重要なのは機能・環境であって、無意味に立派な施設ではないのです。

飯田 普通は野球場やサッカー場をつくりますよね。

木下 そうなんです。やはり野球好きな世代はまだまだいますし、サッカーも当然ですよね。しかしながら、バレーボールに絞り込んだのが素晴らしい。しかも、これを運営している「オガールベース株式会社」の岡崎代表は、自身がチームをもつほどのバレーボール通です。プロチームにも、全国の学校にも顔が利く営業先をもっています。つくって終わりではなく、施設経営はつくってからが勝負ですからね。

でも、このような背景を知らずに「うちでもバレーボール練習専用体育館をつくろう」となると確実に失敗します。施設が大切ではなく、得意な領域に絞り込んで営業できる施設をつくるというのが、大切なのです。

飯田 同じものをつくってもしょうがない。地方自治体ではビジネスモデルそのものよりも「他の県もやっていますよ」という一言が一番効いたりする。他がやっていたらもう意味がないのですが……。武雄市のTSUTAYAは話題になりましたが、他の街があのミニチュア版をつくったところで仕方がないのと一緒です。

木下 ほんと、あれは完全なるショーケースづくりでしたね。ただ全国の導入検討している自治体の方にいうのは、私はオガールのように自治体、地元資本、地元企業で同じことができないのか、ちゃんと地元として特化型施設を考えなくてはならないと思います。

指定管理料を支払い、地域外の有名な企業に丸投げすればいいんだ、という考え方は、極めて前時代的な発想です。むしろ、農業が強ければ農業系ビジネス支援図書館としての機能を作り出すなどすれば、図書館は単なる貸本ではなく、地元経済を強化する機能をもてます。これは、林業でも、水産業でも同様です。

テナント収入などは、地域文化に貢献する、例えば子どもたち向けに輪読を積極的に進めるなどの企画を行う財源創出のために効果的に活かされるべきです。オガールにある図書館ではそのような取り組みを進めています。

うちも微々たる部分での協力ですが、オガールプロジェクトの広報宣伝や視察受け入れ事業を共に行っています。その利益の一部は図書館の図書購入費としてオガール紫波というまち会社から拠出されるようなモデルにしています。丸投げではできない、地元の知恵の出しどころ。それを放棄して、「あそこで流行ってるからうちでも」なんて考え方は、極めて昭和ですね。

補助金産業が一番の産業

飯田 少し、経済学者っぽい話をしておきたいと思います(笑)。もともと古典的な都市経済学の定理に、都市の「過剰集積定理」というのがあります。簡単に説明すると、必ず中心地――日本でいえば東京――の集積は過剰になります。

過剰になるのを防ぐために、地方にお金をつけて、地方・東京間格差を埋める。そうすると東京への過剰集積が止むし、地方の雇用はあがる。というのが、教科書的な説明です。「都市経済学1」でやるような基本的な説です。

でも、この定理は実際には全然成り立っていないことが90年代のアメリカの研究などで実証されています。公共事業や補助金のような地域間分配をやると、分配を受けた方のまちで一番儲かるのは「補助金をいかに受けるか」というビジネスになるんです。

木下 補助金を出す財政施策自体が産業になっちゃうわけですね。

飯田 そうすると、その地方で一番能力がある人が、補助金産業に行ってしまう。アメリカだと軍事のような産業もそうですね。軍備関連産業が儲かる地域にいると、クリエイティブな才能が全部そっちに行ってしまう。そうすると、そのまちが稼ぐ力がどんどん落ちていき、補助金の額を積み増してもらわない限り、存立できなくなる。

で、積み増したら、今度はそれによってもっと一番儲かるのは、そのまちに稼ぎをもたらす人ではなく、上手に補助金を取ってくる人になっていく。ウィリアム・ボーモルの研究が有名です。

木下 そうですね。ぼくの実感とも合致します。地方だと、やはり自治体に勤めるのが一番安全かつ条件がいい。だって「地域の一番の大企業は役所です」と、ほとんどの地域でみなさんが言われるわけです。ただ、役所は企業ではないので付加価値を生み出すことはない。予算をつかうことが仕事です。そういう地域では結局、産業は細りますよね。

飯田 一番立派な建物は公共施設ですからね。

木下 何十階建ての市役所みたいな。よく打ち壊しみたいのが起きませんね(笑)。みんな親族の誰かしらが働いているから、そういうことは起きないのかもしれません。逆に、役所より従業員数の多い企業がある地域は、そういう企業が役所に頼まずバリバリ自分でやっていくので、未来の明るさを感じます。

教育を受けた優秀な人材が稼ぎ側ではなく、つかう側にいってしまう。もう少し地方において行政と民間との関係が変化していく、稼ぐことと向き合う公民連携は極めて大切だなと思っています。役所ばかり立派になって、役所が経営危機に陥ったら話にならないですからね。

飯田 都内だと、区役所の多くはまちではボロイ建物でしたからね。建て替えましたが、前豊島区役所とか、いつ崩壊するんだろうと思って見ていましたもん。

(売上)-(コスト)で考えよう

飯田 稼ぐまちをつくるには、まちが生み出した付加価値販売から、そのまちが購入したコストを引いたものを増やしていく必要があります。

そのためには、まず売上を増加させ、コストをカットする必要がある。その二つを地域ベースでやっていくにはどのような取り組みが必要なのでしょうか。

木下 本では10の鉄則をあげました。その中でも、「利益率にとことんこだわれ」は口をすっぱくしていいたいです。リノベーションをやって新しいお店に入ってもらうとき、従来の商店街にあったような物販店に入ってもらっても仕方ありません。

「商品にバーコードがついていない」と私たちは言っているんですが、市場流通されていないものを自らつくっている人たちに、テナントにどんどん入ってもらう。製造小売業は粗利率も高く、少人数で小さな店でも経営が成立します。

飯田 全然違いますよね。バーコードがついている、またはアマゾンで売っているものから利益はもう取れない。まぁ、今日は本屋さんのイベントですが(笑)。

木下 でも、だからこそ、本屋さんでは、このようなイベントを開催するなど工夫されていますよね。本好きには、本屋さんで一ヶ月10万とか買う人もいますから。どこで買っても本は一緒ですが、企画を沢山するお店にいったついでに買おう、となりますからね。

飯田 本屋が選書機能をもっている場合もありますしね。単にものを売るのではなく、モノ以外の付加価値を売っていると。

木下 はい。だから本をフックにして、イベントやカフェ・バーを組み合わせた本屋が地方に増えていますね。もちろんオペレーションは大変ですが、飲食があると利益率が変わる。そういう工夫をこらす必要がありますよね。私は、福岡のキューブリック、大阪のスタンダードブックストアさんでもイベントをさせて頂いたりしていますが、本当に面白い店づくりをされています。

飯田 本来ならば、本屋だけではなく、図書館だって、利益やコストを考えた方がいい。理念は素晴らしいけれど、街のど真ん中の稼ぎ頭の場所に建てたり。

木下 そうですね、社会性だけを切り出して「全部税金でやろう」というのは、今後は本当に難しくなります。経営的視点が欠落していますよね。それは誰かの金儲けのためとか、社会性を犠牲にして、とかではなく、むしろ、自治体財政だけに依存せず、公共を守ろうという意識だと思っています。

立派な図書館を建てたら、予算がなかなか確保できずに施設費・人件費は削れないから図書購入予算は削られてしまうみたいなことが既に起きています。さらに、そもそも予算がなくて通常の図書館はそもそも建てられない自治体なども沢山あります。それは図書館にかぎらず、様々な公共サービスで既に起きています。

だから、もし自治体がもつ良い場所であるならば、民間の資金調達でできるだけ施設は安価に建てられる可能性をしっかり探る。民間に一部を貸し出した収入で施設開発費も返済させながらも、民間が生み出す固定資産税収入や土地の使用料を自治体は獲得して、それで公共サービス機能を充実させる。こういう工夫が求められています。これは金儲けや社会性を犠牲にするのではなく、より強い公共を目指そうということです。

飯田 公共施設をどうつかうか、町中に残されている遊休不動産をどうするのか、これから問われていくでしょうね。

利益は(売上)-(コスト)です。これ、当たり前なんですが、みな忘れがちです。なぜか「公共」という言葉が入った瞬間に+(補助金)-○○とか、変数を入れてしまう。でも、利益は(売上)-(コスト)であって、その他のモノではないという割り切りが、これから稼ぐまちというのをつくる上で大切なのかな。

木下 おっしゃる通りですね。(売上)-(コスト)= 利益(地元の自由資金とかんがえる)、 に則れば、難しい話ではないんです。でも、いまは、補助金や交付金などの変数をいっぱい加えて、経費を膨らませてしまう。結局、利益は地元に残らず、自由資金がないからまた予算をもらいにいってしまう。どこまでやっても地域は豊かにならない。

僕らは、地域で事業を開発する際に、先の式をより組み替えて、(売上)-(利益)= (コスト)として計画を立てます。つまり、先に営業して売上の見込みをつけ、そこから自分たちがその事業を通じて地元に残す金額を決める。そうすると、つかっていい予算=コストが自然と割り出されます。そのコストの金額を超えないようにプロジェクトを管理する。それがぼくの仕事だったりします。

厳しい環境下では、数字という結果がはっきりするものから逃げられません。数字を軽視し、感情的に共感されるような話にばかり傾倒しても、決して地域は豊かになりません。「みんなのまちづくり」とかいっても、話し合い、ワークショップが盛り上がっても、結局誰も自分が先頭たってやるとは思っていない。先立つものを誰が負担し、誰が何をやって成果を出すのか。そこには厳しい問題があります。

それらの厳しい問題から目を背けていては解決できません。私もこの本で数々の失敗を繰り返している例を紹介しています。けど、まだまだ紹介しきれないほど失敗をしています。今もしています(笑)

だからこそ、逆に、数字を大切にし、厳しい問題に向き合い、誰が何をいつまでにやるのか決めていくことが大切だと痛感しています。なので、この本は、まちづくり、地域活性化を取り扱っていますが、じつは様々な事業においても共通していえること、さらに一人の人間が生活していくときのサバイバルを意識して書きました。

だからこそ、この本では「稼ぐ」ことと向き合おうということが軸になっています。きちんと「稼ぐ」まちのしくみをつくるために、個々人が稼ぐことから逃げなければ、地方はまだまだ成長できる可能性をもっています。しかし行動しなければ可能性は可能性のまま終わります。まだ可能性があるいまこそ、転換すべきタイミングに来ているのだと強く思うのです。

プロフィール

木下斉一般社団法人公民連携事業機構理事

1982年7月14日東京都生まれ。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、内閣官房 地域活性化伝道師。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、経営学修士。専門は経営を軸に置いた中心市街地活性化、社会起業等。著書に『まちづくり:デッドライン』(日経BP、共著)『まちづくりの経営力養成講座』(学陽書房)『稼ぐまちが地方を変える―誰も言わなかった10の鉄則』 (NHK出版新書)など。公式サイト http://www.areaia.jp/ ( twitter : @shoutengai )

この執筆者の記事

飯田泰之マクロ経済学、経済政策

1975年東京生まれ。エコノミスト、明治大学准教授。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。

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