三世代同居促進政策は有効か――データから見えてくること

何よりも、三世代同居と出生率をともに減少させてきた第三の要因群が考慮されていない。地域を単位にしたパネルデータ分析では、これらの要因が多すぎて、入手できる観察データから因果関係を導くのは至難の業である。もし共通の要因が同居率と出生率を下げてきたのならば、同居率を上げてもそれほど効果はない、ということになる。

 

そもそも、「特定の地域でのみ同居率が下がっておらず、そこでは出生率も下がっていない」のならまだしも、日本のすべての都道府県において同居率も出生率も一律に下がっているのだから、これらの2つの数値の動きはともにより大きな社会経済的変動を反映したものだ、と考えたくなる。だとすれば、(全都道府県に顕著に現れているような)この流れを変えるのは相当に難しい、と言わざるをえない(※)。

 

※個人レベルのマイクロデータを使った分析もあるが、やはりセルフ・セレクションの問題があり、厳密な分析はこれからの課題である。

 

 

少子化対策の優先ターゲットは、出生数の多い大都市圏

 

以上の点は、政策に対してその効果を明確に否定するものというよりは、因果効果を調査観察データで検証することの難しさについての問題である。他方で、実施的効果に目を向けると、三世代同居推進政策の有効性についてさらに疑問が生じてくる。

 

まずは「数」の問題である。出生率を上げることは、出生数を上げることのひとつの手段である。図5をみてほしい。横軸に出生数、縦軸に出生率をとっている(いずれも2013年のデータ)。全体的な傾向として、出生数が多い地域では、出生率が低い。これは大都市圏のパターンで、典型的なケースが東京だ。

 

 

図5 出生数と合計特殊出生率(2013)

 

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出生数が少ない地域の出生率はさまざまだが、このなかには出生率が比較的高い地域もあり、そのなかには三世代同居推進政策がモデルにしている福井県も入っている。ここで、なぜ図2にあるように三世代世帯比率が低く、また出生率も高い鹿児島など南九州の県が「モデル」としてあまり注目されないのかは一考に値するかもしれない。職住近接など他の要因が効果を持っている可能性があるが、ここでは追求しない。

 

いずれにしろ、もし大都市圏への人口流入の傾向をストップし、それを逆転して相対的に出生率の高い地方に人口を還流させることができないのならば、やはり「人口は多いが出生率が低い」大都市圏の出生率を上げることを優先的政策目標にしたほうがよい。

 

 

地方への人口誘導の可能性

 

さらに、人口(特に若年女性)の大都市圏への流入をストップさせるのはなかなか難しいといわざるをえない。増田の『地方消滅』でも触れられているが、現在非大都市圏で若年女性の雇用を提供している医療・福祉業がこれから衰退し、遅れて高齢化する大都市圏で旺盛な医療・福祉職の需要が生じてくるからである。

 

図6は、都道府県別に医療・福祉就業者の割合と高齢化率をみたものだ。高齢化率と医療・福祉就業者比率は明確に連動している。高齢化の中心が地方から都市圏に移行するにつれて、大量の高齢者の介護・医療需要にひきつけられて、女性が地方から大都市圏に移っていく可能性がある。

 

 

図6 医療・福祉就業者の割合(2010)と高齢化率(2013

 

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これはついでだが、図6をみると、三世代同居率が低い九州(佐賀を除く)や四国の一部では医療・福祉職の就業者率が高いことが分かる。多少単純化すると、高齢化に対して家族ではなく外部サービスに依拠する九州と、その逆の北陸、という対比が可能かもしれない。

 

話を戻そう。以上から見ても、やはり少子化対策は大都市圏を優先ターゲットにすべきだ、ということが、ここで主張したいことである。

 

 

三世代同居推進政策は地方をターゲットにしている

 

「福井県モデル」という言葉があるように、子育てにおいて祖父母の力を活用しよう、という考え方が想定しているのは非大都市圏(地方)のライフスタイルである。

 

福井県は、三世帯同居率も高いが、全国でもトップクラスに一戸建住宅比率も高い(ついでに、1住宅当たりの敷地面積も上位である)。図7は都道府県ごとに三世帯世帯率と一戸建住宅比率の関係を示したグラフである。南九州や四国地域の一部は外れているが、全体としてはプラスの関係にあることが分かる。

 

 

図7 三世帯世帯率(2000)と一戸建住宅比率(2003

 

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少なくとも現状の三世代同居推進政策は、一軒家の改築を想定したものである。しかし改築可能なほど間取りに余裕のある家は大都市圏では珍しいだろう。現に、福井県の一戸建住宅比率が77.5%であるのに対して、傑出した出生数(と極端に低い出生率)の東京都では3割に満たない。しかも平均の1住宅当たりの敷地面積は、福井県の半分以下である(福井が341平方メートルで、東京は145平方メートル)。

 

要するに、三世代同居推進政策は大都市圏の中所得以下の層を念頭に置いているとは言いがたく、したがって出生率を増加させる効果もかなり限定的である可能性が高い。

 

また、そもそも地方において祖父母世代と同居する背景には、介護の問題がある。すでに触れたように高齢化は大都市圏よりも地方から先に進行している。介護ニーズも地方のほうが深刻である。三世代同居を促せば、当然介護を家族化することに繋がるため、女性の就業という面ではマイナスの効果があることが予測できる。

 

 

子育ても介護も「社会化」を模索すべき

 

以上、少し細かいデータを見てきたが、ここでの暫定的な判断としては、三世代同居推進政策に少子化対策としての有効性はあまりないのではないか、というものである。観察データから効果を導くことは難しいし、実質的な効果としても疑問点が多い。さらに、同居が、住む人にとっての幸福を下げる可能性もある(参照)。

 

筆者自身の立場は、子育ても介護も、もっと「社会化」すべき、というものだ。別の記事の文章を引用しておく。

 

保守的な家族規範の強調は、カップル形成や子育てへの制度的支援の欠如≒福祉の家族依存を伴いつつ、結果的に家族にとって破壊的に働く。このことは、少子化問題に直面する日本社会が認識すべき教訓のはずである。家族を大事にすることと、家族を「重視」すること(≒家族に頼り負荷を追わせること)は基本的に矛盾することだ、という認識をここで再確認しておきたい。

 

家族に負担を追わせると、若い人はますます家族から逃げるだろう。家族本来のよさ(それは必ずしも従来型の家族からしか得られないものではない)を引き立て、そこに人々が向かうような政策とは、家族の負担を分散する方向性での政策にほかならない。

 

 

■データ出典一覧

 

図1:1965年(昭和40年)から2010年(平成22年)までの国勢調査の集計結果を用いて筆者作成。

 

図2:1995年(平成7年)から2010年(平成22年)までの国勢調査の集計結果を用いて筆者作成。65歳以上人口に占める「子と同居」の割合については、国勢調査の「3世代世帯」の数に加えて、「夫婦と子供から成る世帯」「男親と子供から成る世帯」「女親と子供から成る世帯」「夫婦と両親から成る世帯」「夫婦とひとり親から成る世帯」「夫婦,親と他の親族(子供を含まない)から成る世帯」の数を加えて算出した。(この算出方法にはあまり自信がないので、より妥当な算出にご協力いただける方は、筆者までご連絡いただければ幸いです。)

 

図3:0-4歳の子どもの3世代世帯率は2010年(平成22年)国勢調査のデータから筆者作成。出生率については図5に同じ。(出生率も2010年度を用いるのが望ましいが、全体的な傾向はあまり変わらないため、図5と同じデータを用いた。)

 

図4:0-4歳の3世代世帯率は、国勢調査(1995~2005年)。合計特殊出生率は人口動態統計。

 

図5:出生数、合計特殊出生率ともに、H25年人口動態統計(確定数)のデータ(統計表、第3表-1、第3表-2)より作成。

 

図6:医療・福祉就業者の割合は、総務省統計局の「日本の統計」第16章労働・賃金の表16-5から作成。高齢化率は、H26高齢化白書のもの。

 

図7:三世代同居割合はH14国土交通白書より入手。一戸建住宅比率は「社会生活統計指標」より入手。

 

サムネイル「また来年」M60E4

 

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