2012.09.11
性的マイノリティの自殺・いじめを防ぐ 「ハートをつなごう学校」開設
LGBTと呼ばれる性的マイノリティの自殺といじめ防止のためのWebサイト「ハートをつなごう学校」が10日、「世界自殺予防デー」(10~16日:内閣府「自殺予防週間」)にあわせてオープンした。
政府は8月28日の閣議で「自殺総合対策大綱」を決定し、初めて性的マイノリティに関する取り組みを記載した。広く一般市民にも周知することにより、LGBTについての無理解・偏見をなくそうとする動きが加速している。そんな中、同サイトはどのような役割を果たしていくことになるのだろう。参議院会館にて行われた記者会見を受け、プロジェクトの共同代表を務める石川大我さんと杉山文野さんに荻上チキがインタビューした。(構成/宮崎直子)
石川 このプロジェクト「ハートをつなごう学校」は、LGBTと呼ばれる性的マイノリティ、その中でも特に孤立する若者、若年層を対象に自殺防止といじめ防止を図るため、著名人や一般の方からメッセージ(動画、画像、テキスト)を募り、それを公開するというものです。
これによって、孤立するLGBT当事者の若年層を勇気付け、希望を届けたいと思っています。ウェブページはメッセージ以外にもLGBTに関する正確な情報を提供するページや、実際に孤立している当事者のサポートに繋がるようなリンクも作っています。
このウェブサイトを広く一般の方にも見てもらうことによって、社会の中にある無理解や偏見をなくし、LGBTへの理解が促進されればいいなと思っています。
8月28日に閣議決定をした「自殺総合対策大綱」の中で、自殺念慮率が高いといわれる性的マイノリティについて初めて言及されました。サイトオープン日の9月10日は世界自殺予防デー。多くの人々にこのメッセージを見ていただき、その中から「生きる希望」を受け取ってほしい。
僕はゲイですが、25歳になるまでは自分以外のLGBT当事者に出会うことなく暮らしてきました。パソコンでホームページを見るようになって、ようやく多くの人とつながることができ、こうして活動するきっかけができました。ぜひ全国のみなさんにメッセージを投稿していただき、苦しんでいる人たちへ「生きる希望」を届けるきっかけとなってほしい。
このサイトの最大の特徴は、誰でもメッセージを投稿できることです。パソコンや携帯電話についているカメラなどを使って、自分でメッセージを撮りアップします。世界中どこからでもLGBTへ応援メッセージが届けられます。
サイトを立ち上げるにあたっては、アメリカのLGBT応援サイト「it get better project」からも多くのヒントを得ました。
集められたメッセージを全国、世界中のみんなで共有することによって、新たな試みを展開していきます。
―― 「動画」での応援メッセージをネットで発信していく、こういうコンテンツを作ろうと思ったきっかけは?
杉山 「目に見える形にしたい」と思ったのがはじまりです。著名人からもたくさんメッセージをいただきましたが、あえて人前で「LGBTフレンドリーなんです」ということを公表する機会もないですし、当事者としても、周りの人たちには打ち明けていても、公の場で「はじめまして、ぼくゲイです」なんて自己紹介はなかなかしません。
それぞれの「セクシュアリティ」は言葉に出さないと目には見えないものです。だから「目に見える形にしたい」というのが一番の目的です。
―― 二人とも当事者ということですが、やはり若いころの悩みというのは大きかったですか?
杉山 大きいですね。僕は今男性として生きていますが、高校生の頃はセーラー服を着て、ルーズソックスはいて学校に通っていました。友達にも親にも悩みを言えず孤立していました。「おとこおんな」といわれていじめられた経験もあります。
もっとオープンにすることができたら、どれだけ学校生活が楽しかっただろう、そう思います。修学旅行にしても体育の時間にしても、やっぱり嫌なことがたくさんありました。
先日、ちょうど大阪の教育委員会の方たちに講演させていただく機会があり、中学校、高校、養護教諭の方約60名を相手に、「生徒にカミングアウトをされたことがあるか」と質問したんです。すると3分の2以上の手があがりました。
情報が出はじめてきて、あまり躊躇することなくカミングアウトする生徒が増えてきています。逆に、大人のほうがそれに対応できなくて困っているという現状です。状況は昔と比べてどんどん変わってきているんですね。どうしたらいいかわからないという教師をはじめ、生徒の皆さんに、学校でみんなで一緒に見てもらいたいです。
―― まずは動画共有から出発した「ハートをつなごう学校」ですが、今後、新たに増やしていきたいコンテンツ、取り組みたい試みなどはありますか?
杉山 いずれはLGBT文化祭、体育祭、芸術祭、音楽祭などをやっていきたいと思っています。「LGBTウィーク」を設けて、みんなでわいわい集まれるようなイベントからまじめな勉強会まで、ソフトな形で広めていけたらいいなと思っています。
―― 杉山さんは『ダブルハッピネス』(講談社)を出版され、読者から多くの感想が届いたと思いますが、その中にはやはり、自殺を考えている当事者のメッセージも含まれていたのでしょうか?
杉山 すごく多かったです。「死にたい」「悩みすぎてうつ病を併発してしまった」「どこに希望を持ったらいいかわからない」等々。でも、本を出した6、7年前から比べたら、最近はネガティブなメッセージは減っているなと感じます。
「まだみんなには言えないけど、親しい友達に言って受け入れてもらえたので、僕も頑張ります」と、そういうメッセージの方が増えているのが現実。それでもまだ「死にたい」「誰にも言えません」「親に否定されています」みたいなメッセージが届き続けているというのも事実です。
―― 現状は決して悲観的でなく、社会は前向きに進んでいると考えていると?
杉山 そうですね、この6、7年の体感としたらどんどん前向きに進んでいると思いますが、まだまだ不十分だなと感じるところ、課題もたくさんあります。このサイトが広まっていくことで、少しずつそれらが解決していければいいなと思います。
「LGBT」といっても、LはL、GはG、BはBというように結構バラバラだったのが、今回ゲイである石川さんと、トランスジェンダーである僕が一緒に活動するということで、新しい広がりが出ました。そういう意味では、横のつながりができたので、他の団体とも協力していきたいです。
―― 動画メッセージの最後には、「きっときみは大丈夫」という共通のセリフがありますね。これが意味することは?
杉山 誰かに「大丈夫だよ」といってもらえる、自分にも言い聞かせることって凄く大事なことだと思うんです。言霊みたいなものですね。「大丈夫、大丈夫」といっていると、それが実現するというような。
―― 言葉でハグしあうような仕方で、色んな人が力を合わせてこうした場所を作っていこうという象徴ですね。
杉山 そうですね。色んな人がひとつになって、輪が広がっていくことを願っています。
教室は社会の縮図みたいなことでいうと、世の中が変われば、少なくとも「オカマ!」っていわれていじめられることは少なくなると思います。特に男性から女性へ移行した性同一性障害者とか男性の同性愛者は、オカマといじめられた経験をもつ人が圧倒的に多い傾向があります。逆に僕みたいに女子から男子へ移行したほうだと、「ボーイッシュな女の子」としてネガティブに捉えられたり、いじめられることは少なかった。
それぞれ状況は違いますが、社会が寛容になってくれば、そういうことが問題にならなくなってくれば、教室のいじめなんかも必然的になくなるかなと思っています。
(本インタビューは、「NEWS23X」との共同インタビューです。)
プロフィール
石川大我
1974年東京都豊島区生まれ。明治学院大学法学部卒。NPO法人ピアフレンズ理事。豊島区議会議員。25歳のとき、インターネットを通じ、初めて自分以外のゲイに出会う。自らの経験を記した『ボクの彼氏はどこにいる?』を講談社から出版。全国の孤立するLGBTから多くのメール、手紙をもらい、「孤立するLGBT当事者をつなぐ」ことの大切さを痛感。NPOを立ち上げるなど活動を行う。2011年、ゲイであることをオープンにした日本初の議員(同じくゲイをオープンにした中野区の石坂区議と同時)になる。近著に『ゲイのボクから伝えたい「好き」の?がわかる本』(太郎次郎社エディタス)。出演:NHK教育テレビ「Our Voices」ほか。
杉山文野
1981年東京都新宿区生まれ。フェンシング元女子日本代表。早稲田大学大学院にて「セクシュアル・マイノリティと教育」を中心に研究した後、その研究内容と性同一性障害である自身の体験を織り交ぜた『ダブルハッピネス』を講談社より出版。重たいテーマをストレートかつポップに語り大ヒット。さらに韓国語翻訳やコミック化されるなど話題を呼んだ。卒業後、2年間のバックパッカー生活で世界50カ国+南極を巡り、現地で様々な社会問題と向き合う。帰国後、一般企業に3年ほど勤め、現在は自ら飲食店を経営するかたわら、各地で講演やNHKの番組でMCなども務める。