「児童養護施設における性的マイノリティ(LGBT)児童の対応に関する調査」への反響と今後の展開

一般社団法人レインボーフォスターケア(以下、「RFC」)は、2016年11~12月にかけて「児童養護施設における性的マイノリティ(LGBT)児童の対応に関する調査」を実施した(岩本健良・金沢大学人文学類准教授、白井千晶・静岡大学人文社会科学部教授、渡辺大輔・埼玉大学基盤教育研究センター准教授と共同調査)。全国の児童養護施設に対して、性的マイノリティ児童についてアンケートを実施するのは全国初の試みであり、その調査結果は大きな注目を集めた。

 

調査結果の報告書は、昨年5月27日に開催した調査報告会当日にHP上にアップ(※)しており、本論考は、その内容の詳細よりも調査前後に届いた声や状況の変化を交えて記していきたい。

 

(※)児童養護施設におけるLGBT児童調査報告書(詳細版Ver.2)

https://rainbowfostercare.jimdo.com/児童養護施設におけるlgbt児童調査/

 

 

1.調査結果へ届いた「多すぎる」の声

 

昨年5月の報告会の後、多くのメディアがその内容を報じた。以下が調査結果に関する記事である。

 

・「『LGBTの子経験』45% 児童養護施設調査」

(2017年05月29日東京新聞)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201705/CK2017052902000113.html

 

・「LGBT 児童養護施設の4割に 『入浴』『からかい』悩む 個室なく配慮困難、職員知識不足」

(2017年05月30日毎日新聞)

https://mainichi.jp/articles/20170528/ddm/041/040/120000c

 

・「養護施設の半数がLGBTの子供受け入れ経験 さいたまの社団法人調査」

(2017年06月12日産経ニュース)

http://www.sankei.com/smp/life/news/170611/lif1706110034-s1.html

 

本調査においては、全国の児童養護施設に、「性的マイノリティの児童の有無」(過去も含む)について尋ねている。しかし、子どもの頃の性のあり方はその後変化することもあり、また、そもそも他者が本人の性的指向や性自認を決めつけることができないことから、調査の目的に合わせて、次のような尋ね方をしている。 

 

子ども時代に性的マイノリティの傾向があっても成長とともに性的マジョリティと自覚する場合や、その逆のケースもある。本調査においては、児童が現在感じている生活上の不都合や悩みなどについての対応に焦点を当てることを目的とし、「現時点で、性的マジョリティと異なる傾向が見受けられる児童」について質問し、「性自認・性的指向が“一般的”“典型的”な形とは違う『性的マイノリティの児童(もしくはそうだと推察される児童)』はいましたか」という表現を用いて質問した。 

 

このような質問による調査であるため、施設職員が当該児童を性的マイノリティであると推察した場合でも、本人は異なるアイデンティティを感じている場合がある。また逆に、施設職員が性的マイノリティであると捉えなかったが、児童本人はマイノリティ性を自覚している場合もある。よって、本調査はあくまでも施設職員の認識に基づいた調査である。

 

さて、そのような方法で「性的マイノリティの児童の有無」を尋ねたところ、以下の結果となった。 

 

【性的マイノリティと思われる児童の有無について】

 

「現在いる」(過去にいたとは回答していない施設)が10.5%、「現在いて過去にもいた」が5.9%で、合わせて16.4%の施設に現在いる。「過去にいた」が28.6%、「これまで一人もいなかった」は、55.0%であった。職員が把握しているだけでも、半数近い施設で現在いるか過去にいたと職員が把握している。また、ひとつの施設に2名以上いる(いた)施設もあり、在籍のべ人数は144名(現在40名、過去104名)となっている。

 

 

フジ01

%は回答した220施設に占める割合を示す。

 

 

この「『いる』『いた』を合わせると45%」の部分がクローズアップされ、先に挙げた記事では「45%」「4割」「半数」が見出しになっている。

 

ところが、調査結果の報道後、予想しなかった意見や批判が届いた。

 

この「45%」について「多すぎるのではないか」「そんなにいるはずがない」、との声だ(一部、全国の児童養護施設に在籍する児童の「45%」と勘違いした人もいたが、多くの人が「回答施設の45%」と正確に認識したうえでの意見だった)。

 

なかにはRFCが「同性カップルの里親」推進の活動もしていることから、「児童養護施設の性的マイノリティ児童を意図的に多く見積もり、同性カップル里親が必要だという意見につなげたいのでは」との穿った見方まであった(ちなみに、RFCは「児童養護施設のLGBT児童にはLGBTの里親が必要」とは主張していない。LGBT児童に必要なのは「LGBT児童に理解のある里親」という主張である)。

 

この反応に私たちはかなり戸惑った。国内における性的マイノリティの割合は各調査によると人口の約5~8%などと言われている。現在、児童養護施設で暮らす児童は27,288名(※)であり、そのうち5%が性的マイノリティだと仮定すれば、1,364名ということになる。これに対して、本調査では、「現在いる」との回答数は40名に過ぎないのであり、単純に計算すれば、予想される性的マイノリティ児童数のおよそ3%しか認識されていないともいえるのである。

 

(※)厚生労働省HP

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/syakaiteki_yougo/01.html

 

この数値は、まだ自己のセクシュアリティを自覚していない児童を差し引いたとしてもかなり低いのではないだろうか。むしろ、この調査結果から推察されるのは、施設で暮らしている性的マイノリティ児童の大半が、そのセクシュアリティやそれに伴う困難について施設職員から見過ごされている可能性があるということなのだ。

 

昨年、ある交流イベントで来日したアメリカのフォスターユースたち(社会的養護当事者の10~20代の若者)に、本調査の「『いる』『いた』を合わせると45%」の数値について説明したところ、彼らから「嘘だろう?」「きちんと調査したのか?」など、驚いた反応が返ってきた。彼らの驚きの理由は、日本でのそれとは違い、「(LGBT児童が)こんなに少ないはずがない」「全部(100%)の施設にいるはずだ」といったものだった。なかには「施設職員が彼らの存在に気づかないのは、知識がないからではないか」といった意見もあった。

 

私たちはこの反応の違いに、日米における性的マイノリティへの理解の差を感じた。アメリカにおいても性的マイノリティへの差別は存在するが、多くの人たちが「性的マイノリティはどこにでもいる」と感じている。他方、日本では、まだまだ性的マイノリティの存在が見えていない。本調査に対する「そんなにいるはずがない」という声には「いや、それ以上の数がいるはずです」と答えたい(ちなみに、本調査での1施設あたりの在籍児童数の平均は43.1名である。性的マイノリティの割合が5%と仮定すれば、平均的な在籍児童数がいる施設には約2名の該当児童がいることになる)。

 

そもそも、本調査に関わらず、性的マイノリティに関わるさまざまな調査や記事に対して「そんなにいるはずがない」と言い出す人は「この街にはいないだろう」「家族や友人にはいないだろう」という自分の「肌感覚」を根拠にしているのではないか。本当は「いない」のではなく、当事者が「言い出せない」「言い出しにくい」という現状が、彼らの存在を見えにくくしているのだ。

 

繰り返し強調したいのだが、性的マイノリティ当事者はどこにでもいる。学校や会社にもいれば、同じ屋根の下にいる可能性だってある。もちろん、児童養護施設にだっている。子どもと関わる大人は、性的マイノリティ児童が「どこにでもいる」ことを前提に子どもたちを見守らなければ、その子自身の内面の苦悩に気がつくことはできないだろう。この調査結果を受けて、施設職員の方々には「うちの施設にもいるかもしれない」と意識しながら子どもたちと向き合ってほしい。

 

 

富士02

2017年5月の調査報告会の様子

 

 

2.調査に至った理由

 

少し話を戻して、なぜそもそもこのような調査を実施したのか、について記したい。

 

RFCの当初の活動の目的は「同性カップルなどLGBT当事者が里親として社会的養護の担い手になること」であった。しかし、これをテーマに活動していたところ、「社会的養護と性的マイノリティ」に関わる悩みや課題がさまざまな関係者から届けられるようになった。「どこにでもいる」と書いたように、性的マイノリティは社会的養護の世界のどのセクションにもおり、固有の悩みを抱えている場合がある。

 

トランスジェンダーであることを職場でカミングアウトすべきか迷っている施設職員。60代の母親とともに里親をしているが、将来同性パートナーと里親を続けたいと願う30代のバイセクシュアル女性。望んでいない性交渉後に出産した赤ちゃんを乳児院に預け、同性パートナーとともに赤ちゃんとの面会にやって来るレズビアン。ゲイの職員からカミングアウトを受けた施設長。

 

そんな彼らの固有の悩みを聞くなかで、もっとも多かったのが施設職員の「うちの施設に性的マイノリティと思われる子どもがいるけれど…」という悩みだった。

 

児童養護施設は、さまざまな事情により家庭で暮らすことのできない子どもが集団生活をする場所である。近年、施設の「小規模化」が進められ、少人数のユニットなど家庭に近い環境づくりが進みつつあるが、いまだに複数の児童が過ごす寝室があったり、集団入浴の運用を続けている施設もある(財政的な制約もありすぐにはハード面を変えられない事情などが背景にある)。

 

施設職員は、そのような集団生活において性的マイノリティ児童と向き合い、「『自分は男の子だ』と言っている女の子がいるのだけど、この子を『男の子フロア』で暮らせるようにしたほうがいいのか」「ゲイだとカミングアウトしてきた高校生がいるのだが、どう受け止めたらよかったのか」等の悩みを自分たちで抱えてしまっていた。

 

このような悩みを聞きながら、私たちは性的マイノリティの子どもたちのことを思った。集団生活のなかで自己のセクシュアリティゆえに苦悩を抱えて生活を続ける状況は、その児童にとって「毎日が『修学旅行』」のようなものではないだろうか、と。

 

性的マイノリティに関するさまざまな関連記事や手記にあるように、「修学旅行がしんどかった」という意見は多い。とりわけ、トランスジェンダーにとっては、自身が認識している性別と異なる性別の集団のなかで裸になって風呂に入り、一緒に眠るという行事は苦痛そのものになることが多い。修学旅行は年に一度の行事であるが、児童養護施設は毎日の生活の場であり、そのような困難を回避することができない。具体的にどのような困難が存在するのか、また、その困難に気づいた施設職員はどのような対応をしているのか。このような現状を明らかにし現場に返していきたい…、それが調査を始めるきっかけだった。【次ページにつづく】

 

 

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