がんと就労――病気になっても働ける環境をめざして

就労継続への影響要因は何か?

 

私たちは2006年から毎年、がん患者の診断後の就労状況について調査を行っています。調査に協力してくれた患者の男女比や年代によって多少の差はありますが、おおむね、がん患者の3~4人に1人が、「働きたい」という意欲を持ちながらも、診断後に離職しています。ではなぜ辞めてしまうのでしょうか?

 

 

(1)体力低下とメンタル低下が原因

 

2015年に、がん罹患時に就労していた300人を対象に、「がん患者白書2016・がん罹患と就労(当事者編)」というwebアンケートを行いました。この結果、就労継続に影響を及ぼした背景要因の第1位は「体力低下」、次いで「価値観の変化」、「薬物療法に伴う副作用」、「迷惑をかけると思った」、「通院時間の確保が困難」が上位5位となりました。

 

就労問題の背景には、「企業側に理解がないからでは?」という理由があると思われがちです。でも、じつは、手術後の後遺症や薬物療法の副作用からくる「医学的要因」と「メンタル低下」が相互に重なりあった混乱状態に、患者は陥っていることがわかります。そして、こうした「心身の低下に応じた柔軟な働き方」が現状の社会にはないのです。

 

また、離職した時期には2つのピークがあることも分かっています。一つ目は診断から1カ月以内の早期離職が約26%、診断から1年以上経過してからの離職が35%もあるのです。私は、前者を「びっくり退社」、後者を迷惑をかけるからという「切腹退社」と呼んでいます。

 

辞めるのは簡単、辞表を提出すれば済みますから。でも、サラリーマンの方なら本来利用できていたはずの公的な社会保障制度もその瞬間に失ってしまいます。ですから、「即断即決はしない」ことが大切です。

 

また、企業の側も、「働くか、働かないか」の二択ではなく、その中間の働き方を提供していくことが大切です。たとえば、時短勤務制度や在宅勤務制度、リハビリ出勤などもあるでしょう。また、傷病手当金なども分割して取得できるようになったら、企業の大きさに関わらず、みんなが利用できる休暇制度になることでしょう。

 

 

図3 就労継続に影響を及ぼした事項

 

 

私たちはどのように対応すれば良いのでしょうか?

 

本人はめいっぱい、冷静に見えていても混乱状態です。ですから、どうか、周囲にいる皆さんが少しだけ患者さんの心に寄り添ってもらえればと思います。

 

3月末に書籍をだしました。本のタイトルは『あのひとががんになったら』(中央公論社)。なぜこんな本を出したかというと、じつは、一番多いのが「職場の同僚が、家族が、友人が、がんになったのだけど、どのように接したら良いのかわからない」という相談なのです。

 

患者さんの周囲には、必ず「何かできることがあればしたい」という気持ちを持っている方がいます。そんなときにどうして欲しいと思っているのかを患者目線でまとめてみたのがこの本になります。別名、「患者さんの取り扱い説明書」とも呼んでいます。

 

必要なのは「頼る勇気」と「頼られる準備」です。がんと就労についても「チームを作る」こと、つまり「社会モデル」を作ることがこれから目指すべき方向性です。がんを考えることをきっかけに、他の病気など様々な生きづらさを抱える人をも包み込むような社会になってもらいたいと心から願っています。

 

あのひとががんになったら - 「通院治療」時代のつながり方 (単行本)

あのひとががんになったら - 「通院治療」時代のつながり方 (単行本)書籍

作者桜井 なおみ

発行中央公論新社

発売日2018年3月20日

カテゴリー単行本

ページ数240

ISBN4120050572

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少子高齢化を迎える我が国においては、働き盛りを生きる時間はこれまで以上に長くなり、病気治療だけではなく、子育てや介護など、様々なライフイベントに私たちは遭遇することになるでしょう。予防や検診だけではなく、病気になっても働ける環境を創ることで、人と経済の好循環を生み出そうという「健康経営」という考え方も拡がっています。

 

「お互い様だから」という社会モデルを創っていくことこそ、超高齢社会に必要ではないでしょうか。

 

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