「働く上での障害」をなくしインクルーシブな職場づくりを

「合理的配慮」と聞くと、配慮を「してもらう」「してあげる」という関係性を想起しがちだが、原語は“reasonable accommodation”であり、「合理的な調整」や「合理的な工夫」ともいえる。その人の働く上での障害を明らかにし、それをなくしたり減らしたりするためにどのような工夫ができるか、共に話し合い決定していく。障害者雇用においてはその合意形成のプロセスが欠かせない。合理的配慮の手順としては、以下のステップをおすすめする。

 

(1)働く上での困難さを明らかにする(例:通勤時、移動時、会議時、コミュニケーションの取り方、休憩の仕方、集中しやすい環境など)。

(2)困難さを減らすための工夫をなるべくたくさん考える。 

(3)その中でお互いにとって無理のない工夫を選択する。 

(4)実際に工夫を実施してみる。 

(5)工夫をした結果どうだったかを定期に見直す。

 

同じ医学的な診断があってもその人の状態像や抱えている困りごとは一人ひとり違い、さらに職種や職場の環境によって働く上での障害がどのくらいあるかは大きく左右される。そのため、障害名で一括りにせず、ご本人と共に話し合いを通して決めていくプロセスを大切にしたい。

 

筆者が働いている株式会社LITALICOの就労移行支援事業「LITALICOワークス」では、まず就労移行支援事業所に通所している間に利用者自身が働く際に感じるであろう困難さをご本人と確認をする。就職の際は、人事担当の方のみでなく、必ず直属の上司も同席いただき、ご本人が想定している「働く上での障害」をお伝えし、それに対してその職場でできそうな工夫をともに検討することを基本としている。

 

 

発達障害のあるAさんの働く上での障害とそれを減らす合理的な工夫

 

例えば、発達障害のある方の場合はどうだろうか。発達障害と一言で言っても、その状態や抱える困難さは一人ひとり違う。私が就労支援に関わったAさんは自閉症スペクトラムの診断があった。独学で学んだプログラミングが得意でミスがとても少ないため、エンジニアの職種を探していた。

 

Aさんは聴覚に過敏さがあり、ガヤガヤした周りの音やエアコンなどの機器の音が聞こえすぎてしまい、そのような音が聞こえる環境だと集中することが難しい。また、急に音が聞こえると驚きパニックになる。例えば急な放送やいつ鳴るかわからない電話の音にも過敏に反応する。また、自分の疲れ具合を自ら把握し自ら休憩を取ることが難しく、食事をとることを忘れてしまうくらい、集中しすぎてしまう。そのように集中しているときに他者に急に話しかけられるとパニックになることもあった。

 

Aさんがエンジニアとして仕事をする場合、働く上での障害は何になるだろうか。また、どのような職場でどのような工夫があったら働く上での障害を最小限にすることができるだろうか。

 

まず、物理的な職場の環境としては、周りの人の声や電話が聞こえづらい場所がよいであろう。そのような個室や一角が用意できる職場があれば良いが、もしない場合はノイズキャンセリングのヘッドホンを活用するのも良いかもしれない。集中しすぎてしまうことについては、毎日作業内容を確認し、休憩をとるタイミングを事前に決めておくのもよいかもしれない。

 

もしくは、音はびっくりしてしまうためタイマーなどは使わず、PCのカレンダーに休憩時間を登録し、休憩時間になったらカレンダーがリマインドをしてくれる設定にできるとよいかもしれない。急に話しかけるとびっくりすることは事前に職場のメンバーに伝えておき、チャットなどのツールで話しかけるようにするのも一つだろう。

 

そして、職場の文化としては、ヘッドホンをすることや、Aさんの特性に応じて話しかけ方を工夫することができる、などを受け入れることのできる文化が必要であろう。

 

これらの工夫を、勝手に雇用主やAさんそれぞれが決めるのではなく、上記のステップの通り、共に話し合いを通して決めていく。

 

 

誰もが働きやすいインクルーシブな職場づくりとセットで推進する

 

障害者雇用は単独で進めるのではなく、インクルーシブな職場づくりとセットで計画し推進する必要がある。なぜなら、働く上での障害があるのは、医学的な障害のある方のみではない。読者ももしかしたら現在働いている職場にて「障害」を感じているかもしれない。「じつは自分は朝より夜のほうが集中できる」という人は、フレックス制度のある職場だったら障害を感じないが、シフトが決まっていてその時間通りに出勤をしなければならない職場だったら障害を感じるだろう。

 

育児中の方であったらリモートで働けたら働く上での障害を感じないかもしれない。多様な人が働くことを前提とした職場づくりがなされていると、障害のある方が働くことになっても、とくに働く上での障害を感じず、その職場では合理的な配慮はとくに必要なかったりすることもある。仮にAさんの職場がチャットやカレンダーが当然のように活用されていて、ほかの人もヘッドホンをしていることが当たり前の職場だったら、Aさんも安心して働けるであろう。

 

インクルーシブな職場づくりのためには、フレックスやリモートで働ける制度、パートナーシップに関する制度などの整備ももちろん重要であるが、どの社員であっても困難さを感じたときに相談がしやすかったり、お互いの得意不得意を自己開示しあい苦手を補い合ったりする仕組みづくりや文化づくりがかかせない。直属の上司には相談しづらいこともあるため、多様な相談先を仕組みとして用意しておくことと、誰もが気軽に困ったことを相談し合えることが当たり前であると、障害のある人も相談がしやすいし、助けも求めやすい。

 

そして、「完璧な仕事をすること」をお互いに求め合う職場文化では、なかなか多様な人は働きづらい。お互いの得意不得意、強み弱みを知り合い、苦手を補い合うチームづくりをしていく。「できないこと」よりも「できること」に着目し、どうしてもやらなければならない「できないこと」に対しては、できるための工夫を考える。障害の有無にかかわらず、お互いにこのような働きかけをすることがインクルーシブな文化をつくることにつながる。

 

 

さいごに

 

どんなに障害者雇用を推進したとしても、インクルーシブな職場づくりが根幹にないと、なかなかその職場で働き続けることは難しい。今回の問題を機に、民間企業も官公庁も障害者雇用を進めるのみでなく、誰もが働きやすいインクルーシブな職場づくりを社会全体で目指したい。

 

また、現状は、仮に働いている多様な人たちの働く上での障害が限りなく少ないインクルーシブな企業や組織があったとしてもなかなかそれが外からは見えづらいため、評価もされづらく、よい実践や仕組みが共有されづらい。個々についているラベルの多さのみでその組織の「インクルーシブ度」を測るのではなく、その組織がどれだけ多様な人の働く上での障害をなくしているか?によって「インクルーシブ度」を測れるような仕組みを考えていきたい。

 

参考

合理的配慮指針事例集https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000093954.pdf#search=’%E5%90%88%E7%90%86%E7%9A%84%E9%85%8D%E6%85%AE%E6%8C%87%E9%87%9D

 

発達障害の子どもたち、「みんなと同じ」にならなくていい。 (SB新書)

発達障害の子どもたち、「みんなと同じ」にならなくていい。 (SB新書)書籍

作者長谷川 敦弥

クリエーター野口 晃菜

発行SBクリエイティブ

発売日2016年12月6日

カテゴリー新書

ページ数160

ISBN4797389753

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