「ジョブチェンジ」し続けるための自分への先行投資法

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先行投資における6つのポイント

 

先行投資というときに、何を学んだらいいのかという具体的な質問をよくされます。しかし、私が今日お話ししたいのは、具体的に何を学んだらいいのかという話そのものとは違うものです。というのは、長期の予想は無理ですし、学んだことが陳腐化する可能性は常にありますので、みなさんが年をとるまでに何を勉強したら一番いいのかは、私にも分かりません。ただ今からお伝えする6つの考え方が大事だと思います。それは社会科学、みなさんがいる学部で学ぶ考え方も多くて、それがジョブチェンジのための先行投資において有効だと思います。

 

第1に、この「政治学入門」でも勉強していると思いますが、「後ろ向き推論」ですね。これには良いところが2つあって、未来から逆算して「いま、ここ」でどうするかを考えるということと、相手の視点や行動を織り込んで自分の行動を選択するということです。このアプローチは非常に有効です。経営活動、ビジネスは後ろ向き推論に基づいて営まれていることがほとんどです。

 

第2に、「ベンチマークは世界中に」です。みなさんは昔に比べて圧倒的に有利な環境にいます。グーグルで調べれば世界の情報が一瞬で手に入ります。私が大学に入る前までの頃は、良くて広辞苑、親に訊く、図書館に行く、せいぜいそのくらいでした。ところが、今は良い例も悪い例も世界中に転がっているので、情報は望めばいくらでも手に入ります。

 

第3に、「機会費用を含めたコスト」です。事前課題で、みなさんが新潟県立大学で使えるいろんなものを利用するのに費用がどれくらいかかるかを調べてもらいました。答えはマチマチでしたが、みなさんがいま大学の中で享受しているサービスが、大学の外だとどれだけのコストがかかっているのかを分析したことで、コストについて意識してもらうキッカケにはなったと思います。それと、ファイナンシャル・コストに加えて、機会費用、たとえば学外の語学学校に通う場合に通学だけで時間がどのくらいかかるかといったこともコストとして挙げている人がいましたが、これも非常に重要なことです。学内のサービスだといつでもすぐ使えて、在学中は、費用も時間も追加でかからないですよね。

 

課題への回答で、みなさん、様々な前提を置いていました。それ自体はいいことです。問題はあえて曖昧にしておきました。ただ、前提条件を第三者に分かるように説明しないで、いきなり「いくら」と書いた人もいましたが、残念ながらそれでは相手に伝わりません。時間あたりの単価や積算の根拠など、どういう前提で計算したのかをレポートに明示する必要があります。

 

第4に、「市場と顧客」です。今はもう世界中が市場です。市場でのプレーヤーにはAIなども含まれるかもしれません。どこで働くのか、どういうジョブをするのかで市場が変わっていきます。市場そのものを自ら定義していくのです。顧客というのは、社内であれ社外であれ、相手を意識していくということです。

 

みなさんは大学に学費を払っているので、大学側からするとみなさんが顧客です。一方、授業という点でいうと、レポートを提出する先の先生がみなさんの顧客になります。同時に先生からすれば、ちゃんとした授業をしないといけないので、みなさんが顧客になります。誰を顧客として定義するのかというのは、相対的な関係性の中でそのつど決まるんですね。いずれにしても、何かを他者に届けるときには、顧客の目線を意識してあらかじめ徹底的に精査することが大事です。

 

事前課題で、(1)新潟県立大学の協定校の中でどこに留学したいのか、(2)協定校に留学したいところがない場合はどこに留学したいのか、という2択で選んで回答してもらいました。ほとんどの人は(1)で、新潟県立大学の今の留学制度の中から選んでいました。一方、数は少なかったのですが、現在協定を結んでいない大学に行きたいと書いてくれた人もいました。その中でも特に素晴らしいと思ったのは、「そこでしかこんなことはできない、だから私はそこに行きたいんだ、そのためには新潟県立大学や相手の機関に対してこういうメリットがあると働きかける」ということまで書いてくれた人がいました。すでに顧客目線を意識しているということですね。「自分が行きたいんです!」と言うだけでは、相手の大学は受け入れてくれないでしょう。ところが、相手の大学にとってどんなメリットがあるのか、あるいは自分が行くことが新潟県立大学にとってどんなメリットがあるのか、という顧客目線に立てている人がこの教室にもすでにいるわけです。同級生の中でも差がついていることに気づくのがまずは大事ですね。

 

第5に、「汎用性と特殊性」です。これは結構難しくて、汎用性というのはある程度長期的にどこでも使えるスキルのことである一方で、特殊性というのは特定の産業ないしは業界、会社でのみ使えるスキルだったり、短期であまり役に立たなくなってしまうスキルのことです。

 

みなさんが身につけていくスキルのうち、何がどちらになるのかは正直分かりません。語学や地域研究は比較的変わりにくいものなので、そういう教養は汎用性が高いのではないかと個人的には思いますが、そうとも限りません。ではみなさんはどうしたらいいのかというと、いま自分が学んでいることのうち、汎用性がありそうなのはどれで、特殊性がありそうなのはどれなのか、あるいは何かを学ぶときに、学ぼうとしていることがどちらなのか、常に考える習慣をつけることが大事です。あまりにも自分が特殊性の側に振れていることをしているのだとしたら、本当に大丈夫なのかと見直してください。逆に、汎用性の高いことばかりしていたら、それで本当に競合たる他の人と差別化できるのか、顧客に対して役に立っているのかを折に触れ自問自答することが大事です。

 

たとえば英語の例を挙げます。みなさん、英語を勉強したいと思っていますよね。確かに、短期的に見ると英語は非常に汎用性の高いスキルだと思います。一方、それは誰もがみんな英語を勉強しているということですから、それだけではとても差別化が図れません。そうすると、英語の中でも特定の分野に関する語彙を増やすなり、英語に加えて、ある地域の文化や政治も深く学ぶとか、そういうことも付け加えていかなければならないわけです。そういう組み合わせで、差を生み出せるかもしれません。

 

第6に、「リスクと投資対効果(ROI: Return on Investment)」です。リスクは怖いものではありません。適切に評価して、それをどう回避するか、最小化するのかという対応をとれば、リスク自体は別に怖いものではないんです。もう一つ、投資対効果(ROI)も大切です。時間であれお金であれ、投資したときに何年後に、お金であれ何であれ、どのくらいのリターンをもたらすのか。そういったことを意識してみてください。

 

 

リスクへの向き合い方

 

講義の最後に、今日のまとめとしてみなさんへのメッセージを贈りたいと思います。

 

第1に、自分の時間のうち何割か、5パーセントでも10パーセントでも20パーセントでも、「後ろ向き推論」を使って、将来何をしたいのか、分かっていること、分かっていないことは何なのか、そのためにいま何ができるのかを考えてみてください。自分で出した答えが合っているかどうかは分かりませんが、考える習慣をつけることが大事です。

 

第2に、今は情報へのアクセスが世界レベルで可能ですから、ベンチマーク、お手本になることを教室の中の同級生だけでなく、先輩や先生、アルバイト先の店長だけではなく、世界中で見つけてください。たとえば政治学も、日本だけでなく世界中でスタンダードなかたちで授業が行われています。他の大学でどう教えられていて、先生がどういう経歴なのかが簡単に分かります。しかも、いろんな授業がオンライン上で無料で公開されています。そういうものにアクセスしようとするかで差がついていきます。

 

第3に、大学のリソースを最大限に使ってほしいということです。学外でしようとするとコストがどのくらいかかるのか。特に対面で受けられるサービスが高いことに気づいた人が多いと思います。そうしたコストを自分で払えるかというと、払えない、あるいは払わないという人も少なくないでしょう。大学に通っている間は、みなさん、追加の負担なく利用できるわけですから、利用しない手はないですよね。機会費用も含めたコストの考え方を使って、いま何かをすることで何ができなくなるのかも考えてみましょう。

 

 

 

 

第4に、「社会に出たら市場と顧客の中での相対的関係で自分の優位性が変わる」ということを意識してください。具体的な説明をすると、授業のレポートや先生とのやりとりは、身近なところで、市場や顧客目線で物事を考えるよい練習になると思います。先生が自分の顧客だと思ったときに、どのようにレポートに取り組むのか。あるいはこの教室全体が市場だと思ったときに、誰と交渉して、どのようにフィードバックを得るのか、一人ひとり、様々でしょうが、自分を「売り手」「作り手」として捉えて、広い世界に臨んでみてはいかがでしょうか。

 

第5に、先ほどの話の繰り返しになりますが、いま学んでいることで汎用性が高いものは何か、特殊性が高いものは何かを考えてください。

 

第6に、大学1年生は、社会人より圧倒的にリスクがとりやすいです。オフラインであれば、失敗しても取り返しが容易につきます。その中で、投資対効果をどうすれば最大化できるかを考えてみることが、あとあと効いてくると思います。

 

第7に、今日の講義を聞いて、何かやろうと思い立つかもしれません。大変いいことです。そうしたら小さなことでもいいので、一週間以内に実行してみてください。経営コンサルタントとか経営チームで仕事をしていると、一週間以内に実行できないことは実行できない可能性が高いものです。ただ思っただけではダメです。変化のためには行動に移すことが絶対に欠かせません。

 

最後に、リスクへの向き合い方、不安の解消方法について、一言だけお伝えしておきます。不安は誰にでもあるものです。一番いいのは、不安を克服した経験をするということです。自分の今の実力より少し背伸びしたものにチャンレンジするのは、当然不安があると思います。うまくいけば、それを克服した経験ができます。そのことが自信になるでしょう。うまくいかなかったら、失敗してしまったらどうなるか、と不安になるかもしれません。でも、みなさんは学生です。失敗しても、失うものは少ない。逆に社会人になるまで不安に挑戦する経験をしないと、あとあと大変な思いをします。ですから、今はできるだけ不安に挑戦して克服する経験をするのがいいと思います。

 

もう一つオススメなのは、失敗や悪いことが起きたときに、最悪の事態は何かを想定して冷静に考えてみてください。もしかしたら、最悪の事態だと思っていたことが意外とたいしたことではないと気づくかもしれません。たいしたことだと思っても、友達に相談してみるといいでしょう。起こりうる最悪の事態がどのくらいかを認識することで、リスクを正しく評価できますし、それが客観的に、相対的に見て、たいしたことではないと思ったのならば、ほとんど不安を克服しているのと同じことです。

 

以上で私の講義を終わりにし、浅羽先生とのクロストークの中で、さらに掘り下げていきたいと思います。ありがとうございました。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.267 

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